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カテゴリ:掌編小説(新作)( 245 )

眠り姫 (2枚)

イラストAC
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眠り姫はその名のとおり、眠ったままで生まれてきました。
産声を上げるかわりに小さな寝息をたてていたのです。
そしてそのまま眠り続けました。
そして当たり前のように「眠り姫」と名付けられました。

その話を聞いた人々は何とふびんな姫なのだろうとうわさをしました。
でも、彼女の両親も、おじい様おばあ様までが彼女の幸せそうな寝顔を見ると心が癒されました。
見ているものをみんな幸せな気持ちにしてしまう素晴らしい寝顔だったのです。

そうなのです。
眠り姫はその眠りの中で毎日、幸せな日々を夢に見ていたのです。

眠りの中で幸せな何不自由ない幼年期を送りました。
学校に行き、友達も出来、少女時代もまた幸せに送りました。
そして特にお金持ちではないけれど優しい人に巡り合い、特に不満もなく幸せな結婚生活を送っています。
もちろんそれも夢の中。

眠り姫の笑顔は本当に幸せそうでしたけれどそれを見守る家族にはどんな夢を見ているのかはわかりません。
でももし眠り姫がちゃんと目覚めて生まれて来たならもっと豪華な生活を送れたことでしょう。
なにしろ父親は一国の王様でした。
巨大なお城を構え、平和に国を治めていました。
それに見合った贅沢な暮らしをすることが出来たのです。

でもまあ、眠り姫にしてみればどちらにしても幸せだったに違いはないでしょうけどね。




おわり



かなり調子を取り戻してきました。
昨日今日で、ツイッター小説を15本ぐらい書いたかな?
それもみんなちゃんと小説としてまとまっているものですね。
このまま調子が上がって行けばいいのですが、

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by marinegumi | 2015-09-21 17:05 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

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時々、ぼくの家の庭に図書館がやってくる。
真夜中に何かの気配を感じて目を覚ますと真っ暗な部屋のカーテンの向こうが何となく明るいのだ。
カーテンを開け、窓越しに庭を見下ろす。
紅葉した庭の木々の間にレンガ造りの大きな建物が、息をひそめているかの様に静かに重く佇んでいる。
それは図書館だった。
いくつもある小さな窓には明かりが点いている。
その灯りで真っ暗なはずの真夜中の庭が照らされていたのだ。
窓の中には大きなたくさんの書架に並んだ無数の本が見えた。
その本の前を静かに行き来する司書の姿も時々見えた。
ぼくは魅入られたようにそれを見続ける。
見続けるうちにいつの間にか眠ってしまい、不思議なことにちゃんとベッドで目が覚めた。
カーテンを開けてさらに窓を開く。
でもそこにはもう図書館はない。
庭の木々の向こうにはうっそうと茂った森の中に一本の細い道が続いているだけだ。

朝ごはんの時に、そのことをお母さんに話しても信じてくれない。
「素敵な夢を見たのね」と笑うだけだ。
ぼくは今、文字を覚えている。
どんな難しい文章でも読めるように勉強をしている。
またいつかあの図書館がやってきたら、必ず訪ねるために。
そしてそのまま図書館と一緒に旅をするんだ。

永遠にね。



おわり



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by marinegumi | 2015-09-20 11:45 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

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雨の日だった。
一人遊びにも飽きて窓から外を見ていた。
庭の木々やいろんな花、低いレンガの塀まで、みんな雨に煙っている。
その雨の中を青いものが近づいてくるのが見えた。
ぼんやりした青いものはだんだん傘の形になって、その下に男の子の顔が見えた。
男の子は傘をたたみ、わたしの部屋の窓に顔を近づけるとにっこりとほほ笑んでガラスをコンコンとたたいた。
そして大きな口をぱくぱく動かす。
なにかを言おうとしているんだ。
でも雨の音でちっとも聞こえやしない。

その口の動きを見ながら考えた。
「す・い・か…」だって?
「スイカがどうしたの?」
と、わたしも大きく口を開いた。
声は出さずに言葉の形に口を動かしたんだ。
男の子は困った顔をした。
そして青い傘を開くと、手を振って庭の向こうに消えて行った。

  ○
  ○
   ○  
○  ○  
   ○    
    ○    
  ○
    ○

目を開くといつもの所にわたしはいた。
なにか夢でも見ていたような気分がした。
どこか、ここじゃない遠い場所から急に引き戻されたような気分だ。
コポコポ、ボコボコと水の音が聞こえている。

雨の日の水族館には人が多い。
雨にぬれずに楽しめる場所だからだ。
そんなたくさんの顔の中に見覚えのある男の子を見つけた。
ああ、この子はいつも決まって雨の日にここへ来るあの男の子だ。
男の子は水槽のアクリルガラスに顔を押しつけるようにしてわたしを見ている。
男の子は大きな口を開けてゆっくりと動かしている。
何かの言葉の形に。

どこかで同じ男の子と会ったような記憶が頭をかすめる。
似た様な思い出がよみがえりそうな気がした。
でも思い出せない。
みんなぼんやりしている。
空から落ちてくる激しい雨に遮られているような感じだ。
その記憶はひょっとしてわたしがおさかなになる前のことかもしれない。
そして今わかった。
「す・き・だ・よ・き・み・が」
男の子の口の動きは確かにそう言っていた。



おわり



この作品はツイッターで、#窓枠水槽 のタグを付けて書いたツイッター小説を長くしたものです。
#窓枠水槽 関連の作品はたくさんあります。
まずこの下の作品「夢見る窓枠」がそうですね。
あと「水族館」「雨の中のさかな」などがあります。

この作品には「雨の中のさかな」と同じような場面があります。
ガラスをコンコンと叩く所と、声が聞こえず、口の動きで言葉を伝えようとする場面。
まあ、作者が気に入った場面なんでしょうね(笑)

#窓枠水槽 タグのツイッター小説自体は結構な数を書いていますから、まだまだ長く出来るものがありそうです。

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by marinegumi | 2015-09-17 22:17 | 掌編小説(新作) | Comments(0)

夢見る窓枠 (6枚)

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海の見える丘の上に、つい最近まで一軒の家が建っていた。
すっかり取り壊されてから数年が経とうとしていたけれど、よく見るとまだ庭らしいものが残されていて、わずかに草花が小さな花を咲かせている。
取り壊された家の残骸を何度も往復して運んだトラックのタイヤが踏み倒した草はもうすっかり元通りになり、更に家まで続いていた道さえも覆い尽くそうとしていた。
その草の中に、解体の時に運び忘れられたのか、一枚の窓枠が横たわっていた。
ひび割れたガラスの嵌ったアルミサッシの窓枠だった。

その日は朝から風の強い日だった。
長く伸びた草は、ちぎれてしまいそうに風になぶられていた。
近くには大きな木はないけれどまだ青い葉っぱが飛ばされて行く。
風の中に小さな石さえ混じっていた。
そしてその時、一段と強い突風が吹いたのだ。
草むらの窓枠はふわりと持ち上げられ、窓枠は縦に回転しながら丘の上を走り、次の瞬間、大きく宙に舞った。
そして海の方へと飛ばされたのだ。
窓枠は回転しながら飛び続けていたが、やがて海面に突き刺さると、ゆっくり海の中へ消え、荒れた海面には波紋も残らなかった。

窓枠が平たく海面に叩き付けられていればガラスは砕けていただろう。
しかし少しひび割れが大きくなっただけでほとんどが残っていた。
それは右に左に揺れながら窓枠は海に沈んで行った。
海面からの光をはね返して白く光りながら。

群れを成して泳ぐ魚たちの中から数匹のイワシがその窓枠の周りにやって来た。
そしてそのガラスの向こうを覗き込んだ。
そこには新しい家で寛ぐ若い夫婦が見えた。
二人の間には揺りかごがあり、その中には小さな赤ん坊が眠っている。
温かそうな灯りの下の幸せそうな家族が見えた。
それは窓枠が見ている夢の光景なのだろうか。

イワシたちは去り、窓枠はさらにゆらりゆらりと沈んで行く。

今度窓枠のそばにやって来たのは数匹のイシダイだった。
彼らが窓を覗き込むと、そこにはまた別の光景が見えた。
ソファーに座った少年とその妹がテレビを見ている。
奥の台所では母親が夕飯の支度をしていた。
やがて玄関のドアが開き、雪の粒を服にくっつけた父親が帰ってきた。
二人の子供は駆け出してゆき、父親にまとわりつく。

イシダイはそこから離れ、窓枠は更にゆっくり次第に暗くなる海を沈んでゆく。

次に窓枠を覗き込んだのは赤い体をした数匹のメバルたちだった。
窓の中の光景はさらに変わり、そこは昼間のようでとても明るかった。
ソファーに座る白髪の混じり始めた父親と隣に座るその妻。
向かいに座っているのはすっかり成長したあの少年とフィアンセの美しい娘だ。
四人が談笑しているところにお茶を運んでくるのは彼女もまた美しく成長した妹だった。彼らの声は聞こえない。
反対側の窓から差し込む光で、春の一日だろうと思われた。

メバルたちがそこから離れると、あたりはさらに暗くなっている。
海上からの光がたよりない。

カマスが数匹、沈んで行く窓枠を覗き込んだ。
暗い海の中でもガラスの向こうは明るかった。
ソファーには老婦人が一人座り、編み物をしていた。
それは小さな靴下のようだ。
玄関のドアが開くと少年の手をつないだ父親と赤ん坊を抱いた母親が入ってきた。
老婦人は編み物の手を止め、立ち上がる。

カマスたちが海の暗さを恐れるように姿を消した。

窓枠はさらに海の中を深く深く沈んで行った。
あたりはもうすっかり真っ暗になっている。
窓枠の中の光景だけがただ一つの明かりだった。
そして、やがて窓枠は海底にまで沈んだ。
少し泥を巻き上げて海底に横たわった。
数匹の異形の深海魚たちが集まって来てその窓枠の周りを泳いだ。
ガラスの向こうには誰もいない部屋が映っている。
その部屋の外は昼間らしかったけれどカーテンが引かれていた。
カーテン越しの光で部屋は薄明るかったけれど人の気配はしなかった。
目の退化した深海魚にはその光景が見えてはいない。
しかし彼らには判った。
また一つ人間たちの思い出が降り積もったのだと。

やがて窓枠は夢見る事をやめた。



おわり



>公募ガイド、TO-BE小説工房でボツだった作品です。
>課題は「夢のまた夢」
(りんさんのブログ「金魚拾い」のあと書きからのコピべです(笑))
僕のこの作品も同じくでした。
ぼちぼち投稿を再開していますがまだ調子は出てきませんね。
ツイッター小説も再開初日はうまくまとめられず、あれ?と思いました。
続けていないとダメですね。

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by marinegumi | 2015-09-11 18:04 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

お弁当 (2枚)

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今朝もお弁当を作った。
とてもおいしそうにできた。
ウインナーに唐揚げ、フライドポテト。
ブロッコリーも食べてほしいけれど、いつも残ってたんだよね。

きょうはおにぎりふたつに海苔で顔を描いた。
いわゆる「キャラ弁」と言うほどではないんだけれど。
おいしいのが一番だから、そっちの方にはあまり凝らないようにしている。
でも、ふたを取った時に笑顔がある。
ただそれだけで気持ちが温かくなるでしょう。

お弁当にふたをして、上にミニマヨネーズをひとつ乗せる。
これはブロッコリー用だ。
かわいいピンクのランチクロスで包んでテーブルの上に置く。
そして椅子に座って、それを少しの間ながめる。

台所はシーンとしている。
さっきまでの温かい気持ちがだんだん醒めて行く。

私はお弁当の包みを両手で持ち、玄関までやってくる。
そしてシューズボックスの上に乗せる。
たくさん積み上がった他のお弁当の包みの一番上に。
これでもう、たぶん76個目のお弁当になったはずだ。
あの子が死んでからそれだけの月日が過ぎたと言う事だよね。

そろそろまた、お弁当箱とランチクロスをまとめて買っておかなくちゃいけない。



おわり



何か作品を書こうと思えば過去のツイッター小説を読み返します。
どんどんショートショートにできそうだと思う時もあれば、つまらないアイデアばかりだなあと思うことももありますね。
その時の気分で違うようです。
まあ、いつのツイッター小説を読むのかによっても違うんでしょうけど。
きょうはけっこうたくさんありました。

この作品をブログ「ゆっくり生きる」のはるさんが朗読してくださいました。


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by marinegumi | 2015-08-29 15:51 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

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真っ暗な部屋にひとりぼっち。
喧嘩をして、今さっきあの子は出て行ってしまった。
部屋は憂鬱に満たされている。
小さなスタンドを点けた。
足元だけがぼんやり明るくなった。
外から雨の音が聞こえる。
あの子は雨の中を出て行ったんだなと思った。
傘はちゃんと持っていたのだろうか?
テーブルの上にはあの子が残して行った小型のプラネタリウムがあった。
これに二人でスイッチを入れないうちに口喧嘩が始まったのだ。
切り替えボタンを適当に合わせて丸い電源スイッチを押してみた。
天井一杯に広がったのは星空ではなく無数の魚の群れだった。
暗い青色の中に無数の魚たちが泳いでいた。
ふといつの間にか雨の音が聞こえないのに気がついた。
プラネタリュウムを消し、カーテンを開いた。
夜のはずなのに薄明るい青色に窓は満たされている。
街の木々はゆらゆらと揺れていた。
風が吹いているのではなく、もっとゆったりと、そう、まるで水の中で波に揺られているようだった。
そしてその木々の間を小さな魚たちが泳いでいるのが見えた。
それはさっきプラネタリュウムで見たあの魚たちだ。
僕の部屋の外はすっかり水に満たされているんだ。
思わずプラネタリュウムのスイッチを入れた。
天井に広がるのは無数の星だけだった。
もう一度窓の外を見たとき、ひときわ大きく木々が揺らめいた。
風が吹いているのだろうかと思った。
水の中を風はどうやって吹き渡るのだろう。
小さな風が生まれるとそれをたくさんの魚たちが伝えるのかもしれない。
誰かの言った言葉を思い出した。

  風はどんな世界でも大切な言葉なんだ

僕は窓を開けた。
水は部屋の中には入って来ず、窓の向こうでプルプルと震えている。
「帰っておいで」
僕はなるべく水に口を近づけてそう言った。
「ぼくが悪かったんだ。好きだよ。帰っておいで」
目の前に集まった小さな魚たちは、その言葉を水の中の風にのせてあの子に伝えてくれるだろう。




おわり



一か月ぶりの小説による更新です。
まあ、投稿用作品はぼちぼち書いてはいましたけどね。
下の記事にも書きましたが、いつもの夏なら忙しい合間に、何かを書かないといけないと焦ってしまうことが多かったのですが、結局書けないのなら、いっそ書かないことにしてみようと思ったんですね。
それでスッキリ焦りから解放されました。
これからはこれまで通りぼちぼち更新していきますよ。

この作品をはるさんに朗読していただきました



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by marinegumi | 2015-08-25 13:12 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

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私の向かいの席の通路側に妻の真奈美、窓側に娘のゆうみが座っている。
あ、これは我が家で食事をする時と同じ位置だなと、さっき気が付いた。
家族三人そろっての食事の時間は私にとってはとても幸福な時間だった。
たとえ話が弾まなくても、みんなテレビに集中していたとしても、幸せな時間に変わりはなかった。
二人のよく似た大きな瞳は、私にとって、そんな幸せな風景の一部だった。
でも今は、妻は目を伏せて文庫本を読んでいるし、ゆうみはさっきから何も言わず窓の外を見ているのだ。
真奈美は時々顔を上げ、駅名を確認したり私に話しかけたりする。
しかしゆうみは長い間、少しも私の方へ顔を向けなかった。

ガラスの向こうを流れ過ぎていた色とりどりの光はめっきりと少なくなっていた。
それだけ田舎へやって来たと言う事だ。
夜の列車に揺られているとなぜか過去に戻って行く様な気がした。
故郷が近づくにつれて自分が子供に戻って行くような気分になるので、目の前の座席に妻と娘が座っているのが不思議に思えて来るのだった。
久しぶりの里帰りなので、小さかったゆうみはもう12歳になっていた。
彼女がさっきから無愛想なのは、私たちと一緒に行動するのをうざく感じ始めているのだろうか。
彼女もそろそろそんな年頃に差し掛かっているのかも知れない。
そんな気がして少し淋しくなった。
この先、いつまで里帰りに付いてきてくれるのだろうか。

頬杖をついて外を見ていたゆうみの頭が、がくんと下がった。
居眠りをした拍子に頬杖が外れたのだ。
そして苦笑いをしながら私の方を見た。
焦点の定まらない目だ。
さっきから何もしゃべらなかったのはどうやら眠かっただけかもしれない。
「お父さん。わたし小さかった頃の夢を見てた」
あくびをかみ殺しながら、ゆうみは私にそう言った。
「この前、おばあちゃんちに行った時の夢。ぜんぜん忘れてたと思ってたけど、記憶って残ってるもんだね」
「どんな夢?」
「おばあちゃんと花火大会へ行ったじゃん。私、怖くて泣いちゃったでしょ。その時のこと」
「そういえばそうだったわね」
膝の上に文庫本を置いて妻が言った。
「あの、お腹に響く花火の音は私だって怖かったもん」
三人は声をあげて笑った。
「これは覚えてないか?おばあちゃんちにバス停から歩いて行く時に、一面に咲いていたヒガンバナを見てゆうみが言ったこと」
「覚えてないや」
「『わあ~フラワーパークみたい!』ってさ」
「あ、思い出した。その時の事」
そう言ったのは妻だった。
「するとあなたったら、『ゆうみ、それは違うぞ』って。『これが本家本元の自然の景色だぞ』ってね。『フラワーパークが自然を真似してるんだからな』なんて理屈っぽい事言うもんだから、ゆうみはきょとんとしてたわよね」
いくつかそんな思い出話をしているうちに列車は故郷の駅に着いた。

故郷の町は少しも変っていないように見えた。
駅前からバスに乗って少し走るともうすっかり大自然の真っただ中と言う感じだ。
灯りもあまり見えなかった。
いつもなら明るいうちに帰って来ていたのだけれど、今回は私の仕事の都合で中途半端な時間に家を出る事になってしまった。
二つ目の停留所で三人はバスから降りた。
バスが遠ざかると、急にひどく静かになった。
虫の声と私たちの足音しか聞こえない。

その時、ゆうみが空を見上げて大声を出した。
「わあ。すごーい星。プラネタリウムみたいだよ」
あ、まただ、と私は思った。
列車の中で話したフラワーパークのこと。
「あのなあ、ゆうみ。プラネタリウムは作り物だぞ。本物の星空を『プラネタリウムみたい』と言うのは本物の星空に失礼と言うもんだ」
「だって、お父さん、ほら」
私はそう言われて夜空を見上げた。
そこには思わぬ見事な星空が広がっていた。
無数の星がぐるりと私達を取り巻いているように見えた。
足元にまでその星々が広がっているのが想像できるような星空だった。
「プラネタリウみたいだ」
私も思わずそう言ってしまっていた。
そう言えば、これまでの里帰りでは、改めて夜空を見上げたことがなかったのかもしれない。
実家に着いてしまうと、夜にはあまり家から出なかったように思う。
花火大会のあの日は曇りだった記憶がある。
子どもの頃には何度となく見上げたこともあったはずなのに、こんな素晴らしい星空を忘れていたなんて。
ゆうみをプラネタリウムに連れて行ったのは一年ほど前の事だった。
その時の事を思い出しながら私たちは荷物を持ったまま立ち止まり、首が痛くなるまで星空を見上げていた。
「ゆうみ。これはほんと、あの時のプラネタリウムみたいだよな」




おわり



なんだか久しぶりに現実的なお話を書いた気がしますね(笑)
ショートショートではなくて、掌編小説、と言う感じのお話も結構好きです。

この作品をはるさんが朗読してくださいました。
いつもありがとうございます。
星空がゆっくり動く動画がすてきですね。



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by marinegumi | 2015-07-12 23:24 | 掌編小説(新作) | Comments(6)

忘れた夢 (4枚)

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目が覚めたその時、大事な人を失ったことに気が付いた。
夢の中で出会い、夢の中で親しくなった人。
そして二人はきっと愛し合った。
でも覚えていない。
その人の顔も、その人の声も、その人の笑顔も。
みんなみんな、夢から覚めたとたんに忘れてしまった。
夢の中で二人はどんな話をしたのだろう。
夢の中で二人はどんな暮らしをしていたのだろう。
夢の中で二人はきっと愛し合って暮らしていたはずなのだ。
そうでなければ今、どうしてこんなに悲しいのだろう。
そうでなければ今、こんなに空しい気持ちであるはずがない。
夢の中で二人はどんな約束を交わしたのだろう。
夢の中で二人はどんな部屋に暮らしていたのだろう。
夢の中で二人はどんな夢を語り合ったのだろう。
何一つ思い出せない。
いくら夢だと言っても、こんなにも空しく消え去っていいものなのか。
いくら夢だとしても二人が交わした愛は本当だったはずなのに。
それは判る。
それは信じている。
現実で人を愛し、結ばれ、やがて年老いて、大事な人を亡くしたとしても、思い出だけは残るはず。
それがいくら夢だったとはいえ全く記憶にないのだ。
何一つ思い出せないのにただ愛した人がいた感覚?予感?雰囲気?
そんなものだけが残っている。
そして耐えられないのは愛した人を失ったという喪失感だった。
もう、自分はもぬけの殻だと思った。
これほど残酷なことはないと思った。
その人の顔も、その人の声も、その人の笑顔も、みんなみんな、夢から覚めたとたんに忘れてしまった。
そして、そして、その人が男だったのか、女だったのかさえ思い出せない。
それさえも思い出せないなんて!

そして、自分が女なのか、男なのかさえ。

ベッドから降りて、少し歩いて鏡の前へ行く。
自分が男なのか女なのかを確かめるために。
鏡に映るのが男なら夢の中の人はきっと女の人だろう。
鏡に映るのが女なら夢の中の人はきっと男の人のはずだ。
自分が普通に、平凡に恋をしたのなら、きっとそのはずだ。
それが判るだけでもきっとうれしいと思う。
何も思い出せない自分にとってそれが判るだけでもいいと思う。
それを手がかりに少しずつでも思い出して行ければいいと。
鏡の前に立つ。
そして顔を上げる。



おわり



公募ガイドの「TO-BE小説工房」テーマ『夢のまた夢』のために考えたお話です。
でも、あまり面白くないなと思ってこれはやめて(笑)別のお話をさっき投稿しました。
さてさて、結果はどうあれ、投稿する気力が戻ってきたことがめっけもん。

この作品をはるさんが朗読してくださいました。
いつもありがとうございます。

はるさんのホームページで見るにはこちら忘れた夢


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by marinegumi | 2015-07-01 00:27 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

最後の試練 (2枚)

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七つの森に棲む魔王を倒し、七つの海を統べる海神を虐げ、七つの谷を徘徊する巨獣を退治した。
それには15年もの時間を要した。
身も心も疲れ果ててなお、七つの砂漠に潜む異形の魔物をことごとく打ち破った。
そしてついに世界の王者となるための最後の「試練の扉」の前にたどり着こうとしていた。

そこにどんな試練が待ち受けていようが、これまでの長い闘いを思い起こせば、取るに足りない物だろう。
ボロボロになった血の滲んだ履物。
おぼつかない足取りで、何とか歩けるだけの状態だったが、気持ちは充実していた。

数日後、いよいよその「試練の扉」が見えてきた。
それはどうと言う事のない、木で出来た装飾の施された扉だった。
扉だけが砂漠の真ん中にポツンと立っているのだ。

扉には一枚の張り紙があった。

  王となるものは最後にこの問題を解かなくてはならない

「も、問題だと?」

  これが終われば世界はお前のものになるであろう

そして続けて、その問題が書いてある。

  次の2次方程式を解きなさい
  ① X2+10X = -15 ② X2 + 6X +4 = 0

「し、しまった。中学の数学の授業、ずっとサボってた」




おわり




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by marinegumi | 2015-06-15 18:20 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

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「赤ずきんや、おばあさんの所へお使いに行ってちょうだい」
「だけどママ、雨が降って来たよ」
母親がおばあさんのためにお菓子を作り始めたころにはまだ空は曇っていただけでした。
それがいつの間にか雲はどんどん厚くなり、雨が降り出していました。
間もなく雨は本降りになり、村の家々も見えなくなるほどでした。
「これじゃあお外に出られやしないわね」

雨はどんどん降り続きました。
おばあさんはリュウマチがひどく痛み、ずっとベッドの中です。
小さな冷蔵庫の中に一週間ほど前に孫の赤ずきんが持って来てくれたシチューやスープがまだありました。
それでなんとか自分で料理をしなくてすんでいたのです。
シーツから目だけ出しておばあさんは窓の外を見ています。
森の木々も雨の向こうにかすんでいます。

雨はどんどん降り続きました。
オオカミは腹ペコでしたが巣穴から出る気にもなりません。
雨に濡れるのが嫌だったのです。
雨の中を歩き回ってずぶぬれになり、体じゅうが泥だらけになるのを想像しただけで憂鬱になりました。
そんな目にあうのなら腹ペコのままの方がどんなにかよかったのです。
雨脚が強くなり、さらに風が吹いてオオカミの鼻先に雨がかかりました。
オオカミは巣穴の奥の方へもぐりこみました。

雨はどんどん降り続きました。
猟師の男は家で鉄砲の手入れをしています。
こんなに雨が続くと、うっかりすると銃身が錆びてしまうのです。
布に油をしみこませ、猟師は丁寧に鉄砲を磨き上げていきます。
季節は六月に入ったばかりで決して寒くはないけれど暖炉がよく燃えています。
その前には鉄砲の弾丸の箱が並べてあります。
火薬が湿気てしまうと使い物にならないからです。
雨が屋根に当たる音が大きくなり猟師はふとその手を止めます。

雨はどんどん降り続きました。
その夜、赤ずきんは雨の音を聞きながら夢を見ました。
それは、すっかり水に沈んでしまった森の中を、泳ぎながらおばあさんの家に行く夢でした。



おわり



梅雨時にふさわしい雨のお話。

最近、更新の頻度が著しく落ちていますね。
一か月に一度の「ショートショート講座」更新のお知らせが二回続かないように、つまり一か月も小説を書かない、なんてことのないようにと思って少々無理やり書いてみました。

まあ、5月末には仲間内で出す紙の本の作品二本の締め切りでしたし、TO-BE小説工房にも初投稿出来ましたから、書いてることは書いてるんですけどね。
一時よりは創作意欲が戻ってきている感じはします。


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by marinegumi | 2015-06-09 16:00 | 掌編小説(新作) | Comments(2)