「ほっ」と。キャンペーン

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ぼくはどうやって生れて来たんだろう……
ぼくはなぜ生きてるんだろう……
ぼくはこれからどうなるんだろう……
ぼくは……ぼくは……

少年はそんな事を毎日毎日考え続けてすごした。彼には幼い頃の記憶がほとんどなかったのだ。母の記憶も、ふるさとの記憶も。

彼は今目覚めたばかりのベッドにしばらく腰掛け、今日もその事を考え始めていた。そしてゆっくりとした動作で、きしむベッドから立ち上がり、窓辺へ行きそれを静かに開け放つ。
ここは屋根裏部屋だった。
両開きの窓が開いたとたんに、どこまでも続く町の家並が目に入って来た。赤いレンガ塀や、青いとんがり屋根がある家の群れ。
少年はその町へ行った事がなかった。時々遠い昔にそこに行ったような記憶がかすかによみがえる事もあったが、それは母の記憶、ふるさとの記憶と同じく、すぐに霧の向こうに閉ざされてしまうのだ。

彼は自分以外の人間に出会った事がなかった。また彼を訪ねてこの屋根裏部屋へやって来た人間もいなかった。少なくとも彼が覚えている限りでは。

少年は大きく開け放った窓から町を見下ろす。あそこにはきっといろんな人々が住んでいるに違いない。そしてそこにはふるさとがあり、彼の母も住んでいるのだ。そう言う少年の確信は日ごとに強くなって行き、そしてそれと共にあの町へ出て行きたいと言う気持ちも限りなく強まって行くのだった。

彼は再び記憶をたどり始めた。きのうの事からその前の日、またその前の日、そしてさらに過去へとさかのぼって行く。しかし過去へ入って行けば行くほど、それはかすかになり、母の記憶、ふるさとの記憶にたどり着く前にすっかり消え去ってしまうのだった。
しかし、あの町へ行った事があるかもしれないと言う、ただそれだけの、かすかなかすかな思いだけは頼りなげにそこに存在していた。毎日考え続けていると、わずかずつではあるが、過去へと近づいているという確信もあったのだ。

少年は窓のそばを離れて部屋の隅に行った。そこは床の一部が四角い扉になっていて、それを開けると梯子が下にのびていた。彼は降りて行った。
そこは荒れ放題の小さな部屋で、人の住んでいる気配は全くなかった。
この部屋の半分壊れた食器棚の陰にさらに下へ降りる階段が続いており、彼はそれも降りて行った。

彼の住んでいる屋根裏部屋より二階下のその部屋はかなり整理はされてはいるものの、窓ガラスはすっかり汚れ、ベッドやスタンド、肘掛椅子などの全ての家具は分厚く埃をかぶり、人の住んでいる気配がないのはこの上の部屋と同じ事だった。
少年はそこを素通りしてさらに下の部屋へと降りて行く。
その部屋への階段は暖炉の後ろに隠されており、彼はそれを見つけるのに何日もこの部屋を探しまわったものだった。

三階下のその部屋は割合にきれいだった。もしかしたら数か月前までは誰かかすんでいたかもしれなかった。しかしもう人の気配はなく、いつかは上の二つの部屋と同じように荒れ果ててしまうのだろう。
少年が降りて来た事があるのはこの部屋までだった。どの部屋も下へ降りる階段は巧妙に隠されており容易に見つけることは出来なかった。
彼はその部屋もまた何カ月もかけて散々探しまわった。そして、隅から隅まで調べた挙句に階段が隠されているのは部屋の壁の部分しかないと確信していた。今日からは壁を中心に探してみると決めていたのだった。
少年は部屋中の壁を手で、ドンドンと手でたたいて回りながら少しの音の変化も聞き逃すまいと、耳を澄ました。
下へ行く階段さえ見つかれば、下の部屋へ行けば、そこには人が住んでいるかもしれないのだ。

壁は白く硬く冷たかった。手が次第に痛みだした。そして階段らしいものは見つからなかった。
それでも少年はもう一通り壁を叩いて調べなおしてみたがやはり見つからなかった。
少年は痛む手首をもう片方の手で握り締めながらも、もう一度初めからこの部屋を調べなおしてみる決心をしていた。
しばらくの間その部屋を見渡していた少年はふと気がついた。部屋に作りつけになっていて、動かないと思い込んでいた洋服箪笥の後ろが少し壁から離れて数ミリの隙間が出来ていたのだ。前に来た時はぴったりとくっついていたはずなのに。
少年は洋服箪笥を力いっぱいに押した。するとそれはほんのわずか、さらに隙間が大きくなった。冷たい風がわずかに吹き上がって来た。
そこに階段があったのだ。
体がやっと通るほど洋服箪笥を動かすと、少年は期待に震えながらその階段を降りて行った。

彼の屋根裏部屋から数えて四階下のその部屋は上のどの部屋よりもさらに整理されていて、さらにきれいだった。カーテンは埃をかぶってはいるもののまだ色あせてはいなかった。
少年はしばらくそのまあ立ち尽くした。心臓は大きく鼓動して、静かな部屋に響いているような気がした。
そこは大きな部屋だった。少年の屋根裏部屋の何十倍もあった。感動に震えながらそばにあった椅子に座りこむと、長い時間そのままで部屋を隅々まで眺めまわした。
この部屋のどこかにまたさらに下の部屋への階段が隠されているのだ。

彼は自分の屋根裏部屋へ引き返した。今日は四階下まで降りる事が出来ただけで十分だった。
また明日からも探し続けることになる。下へ向かう階段を。そして、さらに下へ下へと降りて行き、いつかは外へ出られるのだ。そして、その目の前には町が開けている。いつかはたどり着くのだ。母の元へ…ふるさとへ…そしてたくさんの仲間たちの所へ。

少年は窓辺に寄りかかり町を見渡した。
そこはもうたそがれ色にそまり、家々に灯がともり始めていた。青く、赤く、そしてただ白くきらめく灯が。
少年にとってあそこにはすべてがあった。

彼は窓を静かに閉じ、カーテンを引くとベッドに横になった。シーツを胸元まで引き上げ、じっと天井を見上げる。
そこにはまるで奇跡のように青く輝く孤独な地球が、何億と輝く星々を背景にぽっかりと浮かんでいた。
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おわり




これはまた前回アップした「みなしご」の原型になる作品です。
これはこれでなかなか捨てがたい物も有りますので、少々手直ししただけでアップしました。

そもそもこの「みなしご」と言う作品は、ちょっと難解なというか、考えさせる作品を書いてみたいと言う事で思いついたものです。
ところがそんなに奥深い作品を書ける僕ではない、と言う事で考えたのがこの方法です。
つまり、少年は地球人類です。少年の部屋は地球です。少年の部屋の下の荒れ果てた小さな部屋は月なんですね。
つまり地球人類が宇宙に出て行き、月に到達し、火星にたどり着きという人類の進歩と言う隠されたテーマを頭に置いて、少年の住んでいる太陽系に見立てた建物に、いちいち当てはめて描写して行ったものなんですね。
少年の部屋の窓から見える街の灯り、たくさんの建物は他の遠い別の太陽系なんですね。
そこに自分のルーツを探しに行くと言う感じです。

でもまあそう言うテーマが解らなくても十分面白い作品になっていると思って当時はそのままにしました。
そして何十年も後になった今頃、その辺がわかるように書きなおしてみようと言う試みをやってみたわけですね。
少年の部屋は屋根裏部屋ではなく、金星と水星に見立てた(より太陽に近い)部屋が上にある。赤い部屋は火星。大きな部屋は木星。ぐるりとバルコニーのある部屋は環のある土星。
まあ、余計な物を付けくわえただけかもしれませんが、ダイナミックな作品になったとは思います。

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by marinegumi | 2012-04-13 01:44 | 掌編小説(旧作改稿) | Comments(2)

懺悔の時 (6枚)

街は荒れ果てていた。
殆んどの建物が焼けただれ崩れ落ちた街なかを、きな臭い生暖かい風が止む事もなく、強くなり弱くなりしながら吹き抜けて行った。街路樹も秋でもないのに葉をすべて落としてしまい、その幹は黒くすすけている。
男の乗ったハマーH1は爆音を上げて、瓦礫を避けながら走り抜けたが、しかし、その音によって眠りを妨げられる物とてないのであった。
車から降りて歩き始めた男の足元には街の人々の骸が、それも殆んどが白骨と化した死体がいたるところに横たわっていた。ぼろぼろになった衣服によって辛うじてそれと判る男の白骨、女の白骨、そして子供の。
「これが俺の生まれた町か‥」男はしわがれた声でそうつぶやいた。まるで何年も声を出さずにいて、久しぶりに出た声のようにかすれていた。
男は変わり果てた街を時々記憶と照らし合わせ、立ち止まり、また歩きしながら、やがてその足を止めた。
男が視線を上げるとそこは教会だった。やはりその教会も壁は崩れ十字架が傾きしてはいたものの、何とか教会の体裁は保っていた。男は、汗にまみれ埃や油に汚れ、肩章も片方が引きちぎれた上着を脱ぐと、風の中に脱ぎ捨て、その教会の中へ入って行った。
祭壇の周りには、砕けたステンドグラスや天井材の破片の中にいくつかの白骨が転がっている。祭壇のごく近くにはさらに20体近くの白骨が寄り添い、様々な恐怖の表情で折り重なっていた。
そんな中から僧衣を身にまとい、首にロザリオをかけた神父の白骨を見つけると、男は近づいて行った。そして静かに座らせるように抱き起こし、そのまま注意深く持ち上げた。足や手の小さな骨がパラパラといくつか床の上にこぼれ落ちた。

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白骨を懺悔(ざんげ)部屋まで運ぶと、男は倒れている椅子を足で乱暴に起こし、神父の骸骨を座らせた。彼は神父の反対側、細かく格子に編まれた木製の小さな窓のそばに椅子を持って来て座った。
「神父さん。俺は、神も天国も、死者の魂なんて言う物も信じては来なかった。しかしもし、万が一そんなものがあったとしたら、あんたの魂は聞いてくれるだろう?俺の懺悔を」
そう前置きをすると、男はぶつぶつと口の中で呟き始めた。神父の白骨死体を相手に懺悔を始めたのだ。
男の声は深く淀んだ黒く汚れた川の水のように重々しく続いた。

その時、声を断ち切るように教会の中に大きな音が響いた。何かが崩れ落ちるような音が。その音で我に返った男は懺悔部屋の反対側に回ってドアを開ける。そこには椅子から崩れ落ち、頭蓋骨が粉々に砕け散った神父の白骨があった。男の目はたちまち絶望の色に染められて行く。
男はそのままガクリとひざまづいた。
「俺は子供の頃から教会なんぞ来た事もないし、まして懺悔などしようと思った事さえないさ。だけど、今更と思うかもしれないが聞いて欲しいんだ!」
白骨はあまりに脆くなっていて、殆んどその形をとどめず、僧衣もただのぼろ切れにしか見えなかった。誰も聞く者がいない。その思いが改めて男の胸にのしかかった。
「聞いてくれ!誰でもいい。そうだ、そうなんだ。俺がこの手で押したんだ。あのボタンを。命令が出て、それに従って押さなければいけなかったんだ!それが俺の任務だったんだよ。仕方なかったんだ!」
男の声は残響となって、教会の建物の中にしばらくとどまっていたが、すぐに途絶え、静寂に包まれる。静寂の向こうにかすかに風の音が聞こえた。
男は神父を座らせたその椅子を両手でつかむと上に大きく振りかざし、神父の白骨へ投げた。骨はさらに折れ、四方八方に飛び散った。
「懺悔も出来ないなら、死んだ方がましだ!殺せ。殺せ。殺してくれ!」
男の声はそのまま悲鳴に変わって行った。そして今度は不気味な笑い声。男は自分が気が狂えばいいと思った。この世のものと思えぬ悲鳴、そして笑い声。しかしそれは狂った者の声ではなかった。狂ってしまった方がどんなに楽だったろうか。
男が、抜け出す事さえ困難な地下深くにあるミサイル基地から、大勢の隊員たちを犠牲にして、脱出して来てから、もう二週間になろうとしていた。放射能の渦巻くこの地上に出て歩き続けたが、彼は死ななかった。歩き続けるうちに車を見つけ何台か乗り継ぎ、自分の故郷の街にたどりついた。それでもまだ彼は死んでいなかった。
そう。死ぬ事が出来なかったのだ。
神と言う者があるとすれば、死ぬことさえ許されないとすれば、それこそが神の報いだった。




おわり



この作品も昔書いたものを修正しながら打ち直しました。
「どこかで聞いたような話」「ユートピアを作ろう」と同じころですね。

16年前に阪神大震災があった1月17日に、神戸を舞台にした作品をアップしようと思っていました。
最初はその日に間に合うかどうかと思っていたんですが、結構早く出来上がってしまったので、それまでにもう一本アップしようと言う事で、この作品を持ってきました。

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by marinegumi | 2011-01-11 22:33 | 掌編小説(旧作改稿) | Comments(6)

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朝の新聞を広げて、まず4コマ漫画を見るのはただ癖になっているからだ。
最近は似たようなオチばかりで、今日のも少しも面白くない。
いつか見た事のあるよくあるアイデアなのだ。
今度は記事の見出しだけを目で追って行く。
交通事故や火災、強盗殺人など、毎日変わり映えのしない記事ばかりで、とても本文まで目を通す気にはなれない。
政治経済の記事に至っては昨日と同じ事を書いているんじゃないかと思えるほどだ。
ほんの五分ほどで、私は新聞を投げ出した。

今日は休日で、遅くまで寝ていたから間もなく昼だった。
外へ食べに出ようかと思ったが、思い直した。
そこらへんのファミレスで喰わせる物と言えば既製食品の味と言うか、食べる前からどんな味だか解ってしまうのだ。
いや、ファミレスであれ、ちょっと高級なレストランであれ、中華料理店であれ、薄汚れた食堂であれ、どんな所で食べてもそれは変わらない。
見た目通り、想像している通りの味なので、がっかりしてしまうのだ。
冷蔵庫から冷凍食品のピザを出して食べた。
外で食べるのと何の変わりもない。

テレビを点けて見る。
若手の二人組の芸人がコントをやっていた。
少し我慢して聞いていたが、前にどこかの局でやっていたのと同じネタだった。
片方が合い方の頭を殴るこのタイミングが一緒、ギャグも全て同じだった。
何が新作コントだ?
チャンネルをあちこち切り替えてみたが、いつもと同じような内容の変わり映えのしない番組ばかりだ。
新番組と銘打っているドラマも、始まってすぐに前に見た事があるのに気が付いた。
昔のドラマのリメイクなのか?と思いながらテレビのスイッチを切った。
もう当分見る事はないだろうと思って、リモコンでではなく主電源を切ったのだ。
スイッチを切りに立ち上がった時にちょうど電話が鳴った。
友人からだった。
知り合いの医者を紹介してやるからその病院へ午後三時に行けと言う。
少し体がだるいのは慢性的なもので病院へ行くほどの事ではない。
しかし結局承知してしまう。
すでに予約を取っているらしかったし、奴はいつも同じ電話をして来てうるさいのだ。
友人の気休めになればいい、ぐらいの気持ちだった。

三時まではまだ少し時間があったので本棚から一冊の小説を抜き出した。
まだ読んでいない本のはずだが、タイトルからして良くあるタイトルだった。
1ページ目を読み終わって、これは絶対前に読んだ事があると思った。
いやいや、そんなはずはない。
つい最近出たばかりの話題のベストセラーなのだ。
しかしその1ページ目だけで、容易に内容から結末までが想像できた。
2ページ3ページと、読み進めて行けば行くほど思っていた通りの展開になるのだ。
他の本のタイトルにも目をやる。
どれもこれも陳腐なタイトルだった。
タイトルぐらいユニークな物が考えられないのだろうか?
みんな買って来て最初の2~3ページだけ読んだだけで放置してある本だった。
小説家と言うのは、文章を同じように配列するだけで喰っている図々しい存在だと今更ながら思う。

時計を見ると病院へ行くのに丁度いい時間になっていたので、暇つぶしにでもなればいいかと出かける事にした。
歩いていると、よく知っている人に出会った。
なぜか最近は本当に不思議なぐらい、顔見知りとよくすれ違う。
私は相手の顔に見覚えがあるので挨拶をするのだが、向うが忘れている事が多い。
私も相手の名前までは分からないが、名前を聞くとやっぱり良く知っている人なのだった。

医者は私になんだかんだとしゃべっている。
いつか聞いたような事ばかりなので私は聞き流している。

あなたは「既視感」が、つまり一度も見た事がない物、行った事がない場所でも、見た事があるような、行った事があるような気がするという精神状態が、なぜか病的に強くなってしまっているようですと言った。
これは新しい精神疾患かもしれないので大学病院を紹介するので行ってほしいとまで言った。
まただ、まただ。
前にも同じことを言われて断ったじゃないか。
医者と言うのはいつも同じ事しか言わない、馬鹿の一つ覚えだ。
大学で教わった事をそのまま信じ込んでいる融通のきかない石頭人間ばかりだ。
私はそのまま席を立って、病院から飛び出した。

家への道を歩きながら考える。
面白くもない新聞は、取るのをやめてテレビはリサイクルショップに持って行こう。
本も全部処分するんだ。
しかし今日はなぜか知っている人によく出会う。
すれ違う人すれ違う人、みんなに挨拶をしながら私は歩き続けた。

その夜、最後の見納めだと思ってテレビのニュース番組を見た。
いつものキャスターが原稿を見ながらしゃべっている。
するとそのキャスターは、途中でニュースを読むのを中断して言った。
「おい、何だこの原稿。昨日読んだのと同じ原稿だぞ」
それがどうした?よくある事じゃないか。

それからと言うもの、世界中でも私と同じようにその事に気が付く人が多くなって行き、政治経済は大混乱に陥ってしまった。
まあ、よくあることだけど。



おわり



「既視感」いわゆる「デジャビュ」というのは誰にでも起きるもので、精神病ではないのですが、それが精神病としてひどくなり、しかも伝染して世界に蔓延するお話です。
蔓延した世界を描くと言う事まではめんどくさいので、この辺にしておきます(笑)

今年も1月17日が近づきましたね。
阪神大震災があった日です。
阪神大震災を背景にした、未完のままほったらかしにしていた短編小説があるのを思い出しました。
思い出したきっかけが春待ちりこさんのブログの記事を読んでだったのですが、気がつくともうすぐ1月17日だったので、これを機会に完成させようと思いました。
当日に間に合えばいいのですが。
いろんなブログにコメントして回る楽しみをちょっと控えて集中しようかと思います。

このままだと、長めの作品が2本続く事になるので、それを避けようと言う事で、短めの旧作を今回アップしました。
旧作と言っても、原稿用紙に書いたもので、ワープロのデータではないので、1から打ち直さなければいけないんですね。
そのついでに結構書き足したりしています。

そうだそれから、この間「ブログ村」の掌編小説の、人気記事ランキングで僕の作品が1~3位を独占していたので、記念写真を撮りました。
これだけで一つの記事にするのも考えものだと思って、ここに書きます。
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by marinegumi | 2011-01-07 22:02 | 掌編小説(旧作改稿) | Comments(9)

僕はいつごろからこの町に住み始めたのだろう。
時々そんな取るに足らない疑問が頭をかすめる事がある。
そう、全く取るに足らない、ほんとにどうでもいいような疑問なのだ。
街の住人、20人足らずの人々はみんな穏やかで優しく教養もある素敵な人ばかりだった。
彼らの間で争い事など、未だかつて起きたためしがない。
まして、知識として知っている殺人などと言う物騒なものとは最も縁のない場所なんだと思っていた。
一年中気候は温暖で、食べ物は有り余るほど自然に採れ、全ての人が広々とした、それぞれ個性的な家をあてがわれている。
ある日、ある時から僕たちがこの町に住む事になり、その時にはすでに必要な物すべてが用意されていた。
僕たちのために。
それだけしか僕は知らないし、また知りたくもない。
毎日毎日が満ち足りて、誰もが幸せで‥‥
ユートピア?
そう、ここが、この町こそがユートピアそのものだと思う。

僕は時々町の果てまで行ってみる。
町の果ては世界の果てだった。
そこから先は何もないのだ。
草木の一本も生えていないのっぺりとした空間が広がっているだけだった。
そこから先へ行ってみようなどと考える事はいらないことだ。
だって、何もない事が解っているのだから。

ある夕方の事だった。
のんびり散歩をしていると町の人が二人で何やらいかにも楽しそうに話をしていた。
挨拶をして通り過ぎようとした時だった。
二人のうちの片方の人がもう一人の首に両手をかけて力を込めて絞め始めたのだ。
僕は立ち止まって二人を見ていた。
多分ふざけてそんな事をしているんだと最初は思っていたが、絞められている方の人の笑顔が苦しみの表情に変わり、やがて真っ青になり、その場にずるずると崩れ落ちてしまった。
何を自分は見たのかが理解出来なかった。
驚くよりもまず信じられなかった。
信じられないのは、なんと首を絞めた本人さえ同じのようだった。
自分の両手を不思議そうに見つめ、すでに息絶えた足元の人に目をやり後ろずさりながら、やがて何やら叫び声を上げて走り去った。
そう、この町に住んでいる限り人を殺さなければならない理由などあるはずもないのだ。
しかし、僕の目の前でそれは起こってしまった。


次の朝、目覚めると家がなかった。
僕が昨晩眠った時には確かに体の下にあったベッドもなくなっていた。
起き上がり、しばらく歩いてみて街そのものがなくなっているのが解った。
あたり一面は濃い霧がかかっている。
そして彼方にかなり高い位置に一つの灯りが見えた。
僕はその灯りを目指すしかなかった。
だって、どっちを向いても白い霧ばかりでその灯りを目標にするしかなかったのだ。

長い時間歩いた気がしたが、すぐに着いてしまった様にも思えた。
たぶん街が消えてしまった様に、時間さえ消えてしまったのかもしれない。

そこには塔が立っていた。
灯りはその塔のてっぺんから出ていたのだ。
特にデザインされた様子もなくただただ高いだけの窓も何もない塔だった。
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目の前にその塔の入り口があった。
中に入ると女の子が一人先に来ていた。
あの町に住んでいた少女で僕と同い年だった。
彼女もまた僕と同じようにこの塔の灯りに導かれてやって来たと言った。
塔の中はがらんどうで、上に行くほど暗くなっていて、天井は見えなかった。

二人の頭上から声が聞こえて来た。
その声は言った。

―私は長い間、人類のユートピアを作る努力をして来た
―しかし人間の数が増えて来るほどに、好もしくない考えを持つ者が現れるのだ
それは人類の数に比例する物なのかどうかと考え、私はそのユートピアの規模を次第に小さくしてみる事にした
お前たちが住んでいた町がその最後の最小のものだったんだよ
しかし、昨日、何の理由もなく人を殺めた者があった
しばらく声は途絶えた。
―おお、私はもう諦めることにしたのだ
お前たち二人だけを残して人間をすべて消してしまおうとな
お前たちはこれから永遠の眠りに就くことになる
声がそこまで言った時、快い眠気が二人を包んだ。
二人は手を握り合い、その場に横になった。
遠のいて行く意識の隅で、声は最後にこう言った。
―私がまたユートピアを作ろうと万が一思い立ったら、お前たちはその新人類の最初の二人になるだろう、アダムよ、そして‥‥
そこから先は聞こえなかった。
たぶん僕がしっかり手を握っている少女の名前、イブを呼んだのだと思う。





 おわり




これまた古い作品を引っ張り出してきました。
壮大な創世記の逆をゆくスケールの小さなお話ですね。

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by marinegumi | 2010-12-30 21:15 | 掌編小説(旧作改稿) | Comments(6)

きずな  (5枚)

 彼がその「症状」に悩まされ始めたのは、それほど前の事ではなく、今の会社に入って間もなくだったようだ。彼は何度も、またいくつもの精神科にかかったが、医者はいつも首をかしげるばかりだった。似たような症例は聞いたこともないと言われ、適当な治療法としては、ただ休暇を取ってしばらく仕事から離れる事を勧められた。

 今、彼は医者に勧められるままに都会を離れ、辺鄙な田舎の旅館へやって来た。ちょうど、つげ義春の漫画に出てきそうな古びた湯治客のための温泉旅館だった。観光シーズンを過ぎてもいたし、もともと観光地と呼べるほどの土地でもなかったので客は彼一人だけだった。
 主人に案内され、薄汚れた、それでも一番良いらしい部屋へ落ち着いてはみたものの、心から落ち着く事は出来なかった。本当にこんな事であの「症状」から解放されるのだろうか?いや、それは決して望めない事なんだと彼には解っていたのかもしれない。
 その夜、食事を済ませて部屋のカーテンを開けたまま夜空の星を眺めている時にその「症状」が始まった。彼はあわてて肌身離さず持ち歩いているラジオのスイッチを入れた。
 「症状」は特に前触れもなく始まる。彼の周りにある全てのものが次第に薄れて見え始める。机が、蛍光灯が、窓が、そして窓の外の景色までが次第に消えて行くのだ。そして彼は気が付く。実は消えて行くのはそれらのものではなく、彼自身の肉体なのだと。
 初めのころはごくたまにしか起こらなかったが、次第に間隔が狭まり、最近ではほぼ毎日のようにその「症状」は現れた。
 ある医者が「ひねくれた現実からの逃避」だと言った事がある。その時は、何も言わずに席を立って帰ってきた。わかってもらえないのが悔しかった。
 「症状」がさらに進むと、今度は音さえも遠くなっているのに気が付く。現実の世界と切り離されようとしている危機感に彼は襲われる。しかし、さっきつけたラジオの音だけは変わりなく聞こえている。
 そのラジオは彼が学生時代に毎日聞いていたラジオだった。テレビを見るよりも、ラジオのパーソナリティーの声に、さまざまな話題に耳を傾けながら机に向かうのが好きだったのだ。今でも思い出すと懐かしくなるパーソナリティー達。彼の味気ない学生生活にそれは潤いを与えてくれた。
 彼は、もう自分の存在が意識だけになっていると思う。五感で何も感じる事が出来なくなっている。ただラジオの声だけが、耳に聞こえるのではなく、直接彼の意識の中へ入って来るのだ。ラジオの声によって、かろうじて彼は現実世界とつながっている。「症状」が終わるのを彼は感じる。そして、現実世界へと戻ろうとする。ラジオの声だけを頼りにして。ラジオの声がなかったら現実へ戻る事は出来ないと彼は思う。ラジオの声を、まるで一本のヒモをたぐり寄せるように注意深く引き寄せる。その先に現実世界がある。気がつくと肉体も、ちゃんとそこにあり、かれは部屋の中に座っているのだ。
 テーブルの上ではラジオが鳴っている。

 「症状」は次の日も、また次の日も彼を襲った。

 ある日、旅館の主人は、彼が食事の時間になっても起きて来ないのを不審に思い、部屋にもいないのを確認すると外へと探しに出かけた。これまで、彼が外に出かけたのは殆んどなかったのだが。
 主人は結局彼を見つけられずに再び旅館の部屋へ戻って来た。荷物はすべてそのまま残っていた。押し入れの中まで捜したが見つけられなかった。
 主人はテーブルの上にぽつんと置かれたラジオが目につき、それを手に取った。
 それはスイッチが入ったままで電池が切れていた。

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おわり







これも昔の作品を改稿したものです。

今回、原稿用紙に書くときの要領で書いてみました。
文章の始まりを一文字開けるという、普通に小説を書く時にするようにね。
なんだか、ガタガタしてる感じ。
やっぱり横書きには似合わないのかもしれないね。
次回からは元に戻します。

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by marinegumi | 2010-10-26 22:10 | 掌編小説(旧作改稿) | Comments(0)

「ねえ、これは誰?」
少年がそう言いながら差し出したのは、一冊のアルバムだった。
「ママと一緒に写ってるこの子、誰なの?」
母親は料理をしている手を止めて、少年の小さな指が指している一枚の写真を見た。四角く切り取られた空間には、メリーゴーランドやジェットコースターのレールを背景に、二人の人物。地面にしゃがんでレンズに笑いかけている彼女と、そのそばにぎこちなく、しかめっ面で立っている、まぎれもない少年自身と。
「何言ってるの?あなたでしょ。ほら、去年行った遊園地の写真でしょ?」
「あ、そうか!」という素直な返事を期待していたわけでは決してなかったが、少年の答えはあまりに意外だった。
「うそ。うそばっかり!僕に似ているけど、それは僕じゃないよ」
「何言ってるの?それは絶対あなたですよ。去年行った…」母親は同じ言葉を繰り返していた。
「そりゃ、今よりも少し小さくて、髪も長いけどそれは…」
「ほら、これも僕じゃない。これも違う」
「あなた、ほんとに覚えてないの?」母親は懸命に笑顔を作りながら話し続けた。
「これは、あなたが五つの時のよ。博覧会へ行ったのは覚えてる?これは四つの時に、海へ行った時の。水族館へ行ったのは…」
「覚えてるよ。博覧会も、海も、水族館に行ったのもね。でもそんな気がするだけなんだ。僕が本当に行ったんじゃない」
母親には少年が、単に思いつきで言っているのではない事が解った。長い間、頭の中で考えているうちに陥ってしまった妄想なのだ。母親は、その事を言い聞かせて納得させようと思ったが、食事の支度の真っ最中でもあったので、つい面倒になってしまった。
「さあ、さあ。もうやめなさい。今日はあなたのお誕生日でしょ?変なことばっかり言ってると、プレゼントなしになっちゃうわよ」
それっきり二人とも黙ってしまった。


親子三人そろって食事をして、誕生日のお祝いをした後も、少年は口数少なく過ごし、
早々と自分の部屋に閉じこもった。
部屋には、両親から贈られたきれいな包装紙に包まれ、リボンがかけられた大きな箱がある。少年はそれを開けようともせず、ただ見つめていた。

「この箱の中には僕と同じ顔の子供が入っている。同じ顔だけど、僕より一つだけ年上の子供が…」少年はそう考えていた。
「箱の中の子は出てくると、僕を殺して、僕にとって代わるんだ」
その箱は、大きいとは言っても、とても少年が入ってしまうほどには大きくなかった。せいぜい30センチ立方しかなかった。
「毎年、毎年、誕生日のたびにそんな事が繰り返されてきた。僕は一年前の僕にとって代わった。そうだ、僕は思い出したんだ。僕は一年前、僕を殺したんだ。そしてまた僕も今夜、あの箱の中の新しい僕に殺される」
「ここから逃げ出せば…」少年は考えた。逃げてしまえばいいんだと。しかし、この家を出たとしても、どこにも行く所などなかった。

急に少年は眠気に襲われた。どこかへ引きずり込まれるような異様な眠気。
時計は今まさに12時を指そうとしていた。
少年は睡魔に負け、ベッドに横たわる。さっきの食事に何かが入っていたのか?少年は薄れゆく意識の中で考え続ける。
「箱の中で動く音がする。出てくるんだ。箱を開けて、紙を破って次の僕が。今の僕より少し大きくて、頭がよくて、力も強い…」

バリッ!と箱の上側を勢いよく破って、青白い手が伸びた時、少年はもう完全に眠っていた。
手は、二の腕からひじまで、箱の中から伸びて行き、やがて…


父親が食事をしているところへ少年が現れた。
「おはよう、パパ」
すでにもう洋服に着替えている。いつもなら、いやいや起こされてパジャマのまま不機嫌そうな表情の少年しか父親は見た事がなかった。
「何だ、今日は?えらくちゃんとしてるんだな」
「そりゃそうですよ」母親が言う。
「一つ大きくなったんですものね」
彼女は、少年の顔を見てふと疑問を抱いた。少年の顔の左の目じりにあったはずのホクロ。それがなくなっている?
「いやいや」と思い直す。
「そんなもの始めからなかったんだわ」と。

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               おわり





かなり昔のものを書き直しました。
昔書いていた作品は、今書いているものと、かなり傾向が違っていましたね。
この作品はそんな中で、今書いているものに近いので、載せておこうと思います。

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by marinegumi | 2010-10-25 00:38 | 掌編小説(旧作改稿) | Comments(0)