夏休みが始まって間もないある日曜日。
「お母さん。私の自転車は?」玄関先から、みゆきが聞いた。
「さっき、ゆかちゃんが乗って行ったわよ」
「えー!?どうしてさ。お姉ちゃん、自分の自転車があるじゃん」
「さあ?何でかしら?」
「私もこれから部活なんだよ。お姉ちゃんの自転車で行くけど、パンクとかしてたらやだなー」
みゆきは、ラケットを抱えて玄関を出た。
間もなく庭からみゆきの声が聞こえる。
「お母さん!お母さんの自転車貸してよね」
「いいわよ」
庭から自転車が出て行く音が聞こえる。

「真由美。ゆかの自転車がどうにかなったのか?」と、それまで黙って女たちのやりとりを聞いていた健二が言った。
「さあ?どうなんでしょうね。あなた見て来てやって下さいな」
「いいよ。パンクだったら自転車屋さんに持ってかなくっちゃな」

「真由美!ちょっと来てみろよ」と庭から声が聞こえた。
「なんですか?」
手を拭きながら出て行くと、健二はゆかの自転車のそばに座りこんでいた。
彼は満面の笑みを浮かべて振り返った。
「ほらこれ」と自転車のタイヤを指差した。
そこにはおそらくクマゼミのものだろう、立派なセミの抜け殻がタイヤにしがみついていた。


a0152009_21123884.jpg


「あー、そういうことだったのね」と、真由美も笑顔になる。
「二人ともわが娘たちは優しい心の持ち主だという事だな」
「俺に似て、と言いたいんですか?」

「でもあなた、これは優しいというのとはちょっと違いませんか?」
「え?どう言う事だ?」
「これってセミの抜け殻でしょ?もう生きてはいないんですからね」
「そういえばそうだな。《朝顔につるべ取られてもらい水》なんて言うのとはちょっと違うかもな」
「どう言うのかしら。セミの抜け殻を飾り物みたく大事にしたいと、そんな感じですかね?」
「自転車のタイヤにセミの抜け殻。おっしゃれ~てな感じかもな」

遠くセミの鳴き声が聞こえた。
うるさいほどにセミが鳴き出すまでにはまだ少し日にちがあった。


a0152009_21131464.jpg


そんな事があってから半月ほどが過ぎた、これもまた日曜日の事。
普段あまり乗らない自家用車で、夫婦で買い物に出かけようとしていた時、庭から健二の声が聞こえた。
「おーい真由美。ちょっと来て見て」
真由美が出ていくと、健二は車のそばに座りこんでいた。
少し前に、似たような場面があったのを思い出していた。
「ほらここ」健二の指差すタイヤに何かがくっついていた。
「何ですかそれ?またセミの抜け殻ですか」
「違うよ。今度はさなぎだ」
「さなぎ?」
「ほらここにゆずの木があるだろ?」
それはもう十年も前にガレージのそばに植えたものだった。
「毎年アゲハ蝶がこの木に卵を産んでいたんだよな。さなぎはこの木に付いているのしか見たことはなかったんだが、タイヤのそばまで枝が伸びていたのでこんな事になっちゃったんだろうな」
「で、どうするんです?お買いもの」
「セミの抜け殻と違って、これは生きているわけだ」と健二は腕組みをする。
「優しい父親としては…」

「もしもし。2丁目の坂口です。タクシーを一台お願いします。」



おわり



この写真は2~3日前に撮ったものです。
はじめは面白写真として、写真に短い説明だけ付けてアップする予定だったんですが、やっぱりなんと言うか、小説書きの性(さが)と言うか、お話が自然に出来上がってしまいました。
めんどくさいなーと思いながら文章にしました。
出来れば出来たで、それなりに満足感はあるんですけどね。
昼寝をたっぷり2時間半した後で作業をしましたよ。


この作品をharuさんが動画&朗読作品にしてくださいました。
こちらです。


そのharuさんがセミの抜け殻ってこんなに大きかったんですか?と言っておられたので、改めて見ると本当に大きく見えますね。
これは抜け殻が付いた自転車のタイヤがすごく細いんですよね。
その比較の写真です。


a0152009_17303551.jpg

右側が普通の自転車のタイヤです。
そして、その普通のタイヤの方にセミの抜け殻を接着剤で(笑)くっつけてみました。
大きさはこんな感じです。
まあ、普通の大きさだと思います。


a0152009_17341832.jpg




ランキング参加してます。
クリックで喜び組↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
[PR]
by marinegumi | 2011-07-27 21:21 | 掌編小説(新作) | Comments(7)

水母の川

今日、散歩中に近所の川を見ると、クラゲの大群でした。
この辺は海が近く、海水と淡水が混じり合う、いわゆる「汽水域」と呼ばれるところです。
なので海の生き物が良く見られます。
点々と白い物が全部、水面より少し下を泳ぐクラゲですね。
そして左側のひときわ白い二つは、死んでひっくり返って浮いているクラゲです。
さらに細長い物は60~70センチはありそうなボラと言う魚です。
a0152009_21434016.jpg

近況
昔買っていた「江戸川乱歩全集」を読み始めましたが、疲れのせいかすぐに眠くなってしまうので、なかなか進みません。
[PR]
by marinegumi | 2011-07-20 21:47 | わたくし事 | Comments(4)

a0152009_1213206.jpg


夕暮れの黒々とした山の向こうに、夕陽に照らされた高峰がそびえている…感じに見えますか?
これはつい先日、仕事帰りに見つけて携帯で撮影したものです。
雲間から漏れる光線が雲を照らしてこんな形になっているんだと思いますが、これはちょっと明るさを操作しています。
実際の写真は下です。


a0152009_12133688.jpg




近況
毎日ひたすら暑さにうんざりしながら仕事をしていますよ。
で、休みの日にはごろごろするばかりで、なーんもする気になりません。
写真のアップぐらいは簡単なので、ちょこちょこっとね。
[PR]
by marinegumi | 2011-07-13 09:00 | わたくし事 | Comments(2)

扉が閉じた

扉が閉じた。
たまたま吹いた風のせいだったが、その空き家に入り込んでいた猫にとっては死活問題だった。
閉じただけで、鍵がかかっているわけでもない扉。
人間ならば簡単に開くことの出来る扉。
猫は何度も何度も、そこから出ようとノブに飛びついたり、窓ガラスを必死で引っかいたりを繰り返した。
何日もにわたって。
次第にやせ衰え、飢え死にするしかないと猫が考えたかどうかは判らない。
空腹のあまり、朦朧とした意識の中で猫は壁をかじってみた。
それはおいしかった。
夢中で猫はそれを食べ続けた。

その家は猫のおとぎ話に出てくる、森の中のキャットフードの家だったのだ。

a0152009_22163379.jpg


おわり




ちょっとこのブログの扉を閉めようと思って、こんなお話を即興で作りました。
閉めると言っても、鍵はかけませんし、またすぐに開きますのでご心配なく。

このブログを始めたのは去年の8月25日なんですね。
その日付を見て、「あー、そうだったな」と思いだしました。
今はほんとに仕事が忙しいんですよね。
毎日ぐたーっとなって家に帰って来ます。
でも、気持ち的には疲れてないと思いたいと言うところがあるんでしょうね。
いくら疲れてても、これまで通り小説を書いたり、皆さんのブログにコメントして回ったりを続けられるはずだという思い込みがあったんでしょう。
でも、やっぱり体が疲れている時は、心も疲れていたんですね。
ちょっとした事をきっかけに何にも出来なくなってしまいました。

このブログを始めたのが8月25日だと言うので気がついたんです。
その頃になると、仕事も一段落して時間も出来て、そろそろ何かを始めようかと言う気持ちになれる。
8月25日というのはそういう時期だったんだなと言う事です。

じゃあ、無理をせずにそのあたりまで更新を休んじゃえば?と思ったんですよね。
扉を閉じても鍵がかかってなければ、人間なら簡単にまた開けられます。
そういう意味を込めて、でっちあげたお話ですが、オチは違う方向でハッピーエンドと言う感じですね。

それではまた近いうちに。


PS.
そうそう、ピグは疲れている時にはしてはいけませんね。
いくら疲れてても、画面上の自分の分身はとても元気にふるまうので、自分が疲れていないと言う錯覚に陥ってしまって、余計に疲れます(笑)
また、現実世界の街を歩いている人が一瞬ピグのように思ったりしますよ。
この人をクリックするとプロフィールが見れるんじゃないかとかね(笑)
いかんいかん。



ランキング参加してます。
クリックで喜び組↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
[PR]
by marinegumi | 2011-07-06 22:32 | 掌編小説(新作) | Comments(6)