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海野久実が掌編小説やら短編小説を書いています。タイトルの後に原稿用紙換算の(枚数)があるのが小説です。


by marinegumi
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秋の教室 (7枚)

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私は気が付くと、小学校の校門の前に立っていた。門柱には木の板に黒々と書かれた文字。
「宮山市立宮山小学校」
土のままの校庭に足を踏み入れた時、足元を秋の風が吹き、わら半紙が1枚運ばれて行った。
それを目で追いかけ、そのまま視線を上げると青空の見えない灰色の空を背景にして、古びた木造校舎が見えた。
校庭の真ん中にぽつんと一人、私だけがいる。
そこには街の騒音とは縁のない、しんと静まりかえった懐かしい空間が広がっていた。
運動場には石灰で書かれた何本もの直線や曲線が、消えかけてはいたが、まだ残っていた。

木造校舎に近づいて行くと、さっきのわら半紙が地面から延びる雲梯(うんてい)の鉄パイプに引っかかっている。
それを拾い上げた。
「秋の運動会のお知らせ」
ガリ版刷りの不鮮明な文字でそう書かれていた。それは、運動会が開かれる日時を父兄に知らせるものだった。もう今は終わってしまった運動会。
私はそれを何となく折りたたみ、ポケットにしまった。

木造校舎に足を踏み入れると、ぷんと油引き(あぶらびき)された木の床のにおいがした。
わずかにきしむ廊下を右に曲がると職員室があり、窓側に掛けられた消火器の赤色が鮮やかだった。
時々風で音を立てるガラス窓からの光が廊下にあふれていた。

誰もいない職員室をガラス越しに見ながら通り過ぎる。
引き戸の横には「火気責任者」の文字の下に懐かしい先生の名前が書かれていた。

間もなく二階へ上る階段がある。
それを上り始めると、ギシギシと大きな音を立てた。
踊り場には生徒たちが書いたポスターが二、三枚張られている。
「階段や廊下は走らない」「元気であいさつ」「あぶないよ、ふざけっこ」
子供らしい絵に、稚拙な文字の組み合わせ。

二階の廊下に足を踏み入れた時、何かが変わったような気がした。
空気なのだろうか?
そう、ここは下よりも確かに少し暖かい、でもそれだけではない何かが変ったように思えた。
窓からは太陽の光が差し込んでいる。ガラス越しに外を見るといつの間にか空は青空で、小さな白い雲が流れるのが見えている。
校舎裏の雑木林はみんな黄色く色づいていた。
陽の光に照らされ、私の顔がガラス窓に映っていた。髪の毛はすっかり白くなり、深いしわの刻まれた顔。
ああそうなんだと私は気が付いた。
もう私はこの小学校の生徒ではなく、それどころかもうずっと昔にこの街から都会へと出て行ってしまっていたんだと思い出した。
ふと、そんな自分が滑稽に思えた。
「やれやれ。私も歳をとったもんだ。時間の感覚がちょっとおかしくなってるのかもしれないな。そうだろ?」
と、ガラスに映った自分に話しかけた。
「それで?私はこんなところに何をしに来たんだ?」

その時、後ろでけらけらと笑う女の子の声が聞こえた。振り向くと、そこには見覚えのある懐かしい顔があった。
「弘志くん、今日も遅刻だよね」
そう笑顔で言うのは学級委員長をしていた加奈子だった。
その加奈子が小学生の姿のままでそこに立っていたのだ。
加奈子は教室の引き戸を開けると、中へ入り手招きをした。
「みんなもうそろっているのよ。先生はいないから安心してね」
教室に首を突っ込むと、あの時のままの級友たちがみんな、思い思いの格好でそこにいた。
机の上に座って、隣の机に足を上げている太郎。
椅子に後ろ向きに座って裕子に話しかけている健太。
教室のカーテンを頭からかぶっていた義男がその布のすき間から顔だけ出して言った。
「遅刻の常習犯、弘志くんの登場です!」
教室のみんながどっと笑った。
加奈子が私の手を引っ張った。
「ほんと、みんな待ちくたびれていたんだからね」
教室の中に入ると、私の視線がゆっくりと低くなって行くのがわかった。気が付くと私もみんなと同じ小学生の頃の姿に戻ったようだった。

黒板の前に誰かがいたが先生ではなかった。
思い出した。
絵がうまかった修だった。
修は木製の椅子を踏み台にして、黒板一杯にチョークで絵を描いていた。描いては消し描いては消しを繰り返していたらしく、古い絵がうっすらと残っている所もあった。
とても小学生の描く絵とは思えないほどに正確に細かく描かれた色んな動物や花々、そしてクラスメイト全員のそっくりな似顔絵。
思い出していた。
修はぼくたちのこのクラスが始まって2カ月ほどで死んでしまったのだ。
ぼくは子供に戻ったすっきりとした頭で、次々と思い出して行った。
修が病院で息を引き取る時に、特に仲の良かったぼくと委員長の加奈子が呼ばれたのだ。
苦しい息の下の修の最後の言葉がはっきりと耳に蘇った。
「まってるよ」
と修は言ったのだ。
「まってるよ。みんなと一緒じゃなきゃいやだ。みんなが来るのをずっと…」

そう言う事なんだ。
そして修は、ちゃんとみんなを待っていたわけだ。
生きていれば、きっと有名な絵描きになったに違いない修は、この教室で黒板に絵を描きながら何十年も何十年も待っていたんだ。うまいとは言え、まだまだ幼かった絵がこんなに上達するまで描き続けながら待ち続けていたんだ。
そして、その修の強い思いがこうやって、大の仲良しだったクラス全員を集めたんだと。

「それじゃあ、クラスでぼくが一番長生きしたということなんだね、修」
修が笑顔で振り返り、チョークを黒板の下に置いた。




おわり



元は140文字のツイッター小説です。
こちら「扉が開いた その44」
元のままのお話をふくらませて書くだけでは、何か物足りなかったので、一つエピソードを追加しました。

haruさんがこの作品を映像とともに朗読してくださっています。

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by marinegumi | 2012-02-26 16:20 | 掌編小説(新作) | Comments(11)

手紙を書こう (朗読)

例によってむかし、ラジオで放送されたショートショートの朗読です。
朗読してくださっているのは俳優の吉水 慶(よしみず けい)さんです。
吉水 慶さんはテレビドラマから映画の出演、アニメや洋画の吹き替え、そして舞台までと、色んな作品に出演されていますね。
僕が良く知っている所では「スタートレックVI 未知の世界」でMr.スポックの声を演じてらっしゃいます。

さてこの作品は、内容が汚いのでせめて名画や子供の写真を鑑賞しながらお聞きください。



りんさんharuさん雫石さん矢菱さんと、ここのところ「郵便テーマ」で思わぬ競作になっていますので、僕も乗っけていただきました。

ところで、二か所ほど音が飛ぶ所がありますが、これは言葉を少々カットしたところです。
雑な編集しか出来ませんので、お聞き苦しいかもしれません。

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by marinegumi | 2012-02-20 23:56 | 朗読 | Comments(10)
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お母さんブタに、家を出てそれぞれ家を建てなさいと言われた三匹の子ブタは広い草原にやってきました。

一番目の子ブタはちょーめんどくさがり屋でのんびり屋。
もらったワラで家を作りました。
「ちょいちょいちょいと。もうできちゃった!かんたんかんたん。おひるねできるぞー」

二番目の子ブタはせっかちで要領が良い。
もらった木でお家を作り出しました。
「ぎーこ、ぎーこ、とんとんとん。ほらーできちゃった。かんたんかんたん。さ~おやつでも食べよ」

三番目の子ブタはしっかりものでがんばりやさん。
「小さくても良いから丈夫な家が良いな」
古いレンガをもらって来ると、それで家を建て始めました。
とてもながいながい時間がかかりました。
やっとおうちが出来上がった時には子ブタはへとへとに疲れていました。
「さあ、お兄さんたちを招待する準備をしなくちゃ」

その頃、おひるねをしていた一番目の子ブタのところに、オオカミがやって来ました。
「おれさまは腹ペコオオカミだ。昨日から何も食ってない。死にそうだ!おや?このワラの家からうまそうな子ブタの匂いがするぞ」
オオカミは出来るだけやさしい声で言いました。
「子ブタくん。中に入れておくれ」
「え~?いやだよいやだよ!おまえはオオカミじゃないか」
「ふん。それならいいさ。こんな家なんか…」
オオカミがふうーっと息を吹きかけるとワラの家はひとたまりもなく吹き飛びます。
子ブタをつかまえるとオオカミは家だったワラで子ブタを包み、水でぬらして火であぶり、むし焼きにして食べてしまいました。

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まだまだおなかがすいていたオオカミは二番目の子ブタの木の家を見つけました。
「おや?この木の家からうまそうな子ブタの匂いがするぞ」
オオカミは出来るだけやさしい声で言いました。
「子ブタくん。中に入れておくれ」
「え~?いやだよいやだよ!おまえはオオカミじゃないか」
「ふん。それならいいさ、こんな家なんか…」
オオカミがふうーっと息を吹きかけると、三回目で木の家は吹き飛びます。
子ブタをつかまえるとオオカミは家だった木を燃やしたけむりで、ブタ肉の燻製を作って食べてしまいました。

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それでもまだまだハラペコのオオカミは三番目の子ブタのレンガの家を見つけました。
「おや?このレンガの家からうまそうな子ブタの匂いがするぞ」
オオカミは出来るだけやさしい声で言いました。
「子ブタくん。中に入れておくれ」
「え~?いやだよいやだよ!おまえはオオカミじゃないか」
「ふん。それならいいさ、こんな家なんか…」
オオカミがふうーっと息を吹きかけてもびくともしません。
うでで押しても、体当たりをしてもレンガの家はびくともしません。
オオカミが疲れて休んでいると、子ブタが様子を見に出てきました。
そのチャンスを逃さずに捕まえると、ロープでしばっておいて、レンガの家をピザ窯に改造しました。
そして、子ブタをポークピザにして食べてしまいました。

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「ふうー。子ブタとはいえ三匹も食べるとさすがに満腹だ。ちょっと昼寝をしていこう」
オオカミはピザ窯のそばに、ゴロリと横になり、やがて大きないびきをかきはじめました。

その時、森で迷ってしまった赤ずきんと猟師がやっと森を抜けて草原に出て来ました。
「あれ?あんなところにオオカミが寝ているぞ。あれがおばあさんを食べてしまったオオカミかい?」
猟師がそう聞くと赤ずきんは自信なさげに答えました。
「そうかもしれないし、そうじやないかもしれないし…」
「よく見てごらん。ほら、いかにも悪そうな面構えをしてるじゃないか?」
「やっぱり、そうだわ!あのオオカミに間違いないわ!!」
猟師はそれを聞くと鋭いナイフを持ち、昼寝をしているオオカミに近づいていきました。

その少しあと、羊飼いの少年がやってきました。
「今日も村のみんなを驚かせてやろう。うへへへ…」
そう言うと、走りながら大きな声をあげはじめました。
「オオカミが来たぞー!大変だ。オオカミが来たぞ!」
その時、少年はピザ窯のそばで寝ているオオカミを見つけます。
本物のオオカミを見た事がなかったので、恐る恐るそばまで寄って見下ろしました。
「うげげげげ~!」
少年はお昼に食べた物をみんなもどしてしまいました。

遠く、森の入口あたりに、赤ずきんと猟師が逃げていく姿が見えています。
「やべやべ。人違いしちゃったね」



おわり




失礼しましたー(笑)
お食事中の方、ごめんなさい。
食事中にネットやってるあなたが悪いんですけどね。

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by marinegumi | 2012-02-18 21:49 | 掌編小説(新作) | Comments(4)
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一寸法師は鬼のお腹の中で暴れまわりました。
針の刀で手当たり次第につつきまわるものですから鬼は痛がり、とうとう泣きながら一寸法師を吐き出しました。
「どうだ参ったか。もう悪さをしないなら許してやるぞ」
「しませんしません、これを差し上げますからどうぞ許して下さい」
そう言いながら鬼が差し出したのは打ち出の小槌と言う宝物でした。
お姫様が言いました。
「これは何でも願い事を聞いてくれると言う不思議な小槌ですよ」
「それでは私の体を大きく出来るでしょうか?」
「大きくなーれ、大きくなーれ」
お姫様がそう言いながら打ち出の小槌を振ると、一寸法師はみるみる大きくなりました。
大きくなるさまが面白く調子に乗って振りすぎて、お姫様の倍ぐらいの背丈になってしまいました。
「あらま、どうしましょう」
「そうだ、姫を少し大きくすればいいんです」
一寸法師が打ち出の小槌を振ると、姫はどんどん大きくなりました。
手加減がわからないので、今度は姫の方が一寸法師より少し大きくなってしまいました。
「何と言う事だ。のみの夫婦なんて言われたくない。私をも少し大きくしてください」
「ま、夫婦だなんて、まだ何の約束もしたわけではないのに」と思いながらお姫様は小槌を振ります。
「大きくなーれ、大きくなーれ」
「あららら、また大きくなりすぎましたね」
「大きくなーれ、大きくなーれ」
そうこうするうちに、二人の背丈は、並ぶとちょうどいいぐらいになりました。
一寸法師よりも少しお姫様が低く、お似合いの二人になったのですが、気が付くと二人とも五重の塔よりも大きくなってしまっていたのです。
見降ろすと、集まって来た都の人々が二人をぐるりと取り囲み、黒々としたかたまりに見えます。
「いかんいかん。今度は小さくしなくては」
今ではもう豆粒のようになってしまった打ち出の小槌を親指と人差し指でつまみ、お姫様が振ります。
「小さくなーれ、小さくなーれ」
でも少しも小さくならないではありませんか。
「どうやればいいんだ?」
一寸法師は慌てます。
「鬼に聞きましょうか?」
あの鬼はどこへ行ったのかと足元を見るとそこに倒れていました。
お姫様は鬼を手のひらに乗せます。
「鬼よ、鬼。どうやれば体が小さくなるのじゃ?」
鬼は閉じていた目を薄く開き、こう言いました。
「願い事は一つだけ…。同じ願い事なら何回でもか…かなう…。もしも…」
鬼はそのまま息絶えてしまいました。
「しまった、針の刀に毒をぬっていたのだった」
「まあ、ひどい人。許すと言っておきながら」
「すまん。つい忘れていたんだ」
「死んでしまいましたよ。わたしたちの体を元に戻す方法を聞けないではありませんか!この粗忽者」
「な、なんだと?お姫様だと思って優しくしておればこのぉ…付け上がりおって!」
「なんですと?一寸法師。あなたこそ…」
すでに一寸法師とは言えなくなった一寸法師と、お姫様の喧嘩が始まりました。
普通の人なら何と言う事のない小突き合いでしたが、二人の体は五重の塔より大きくなってしまっています。
京の都はたまった物ではありません。
人々は踏みつぶされ、建物は破壊され、もう阿鼻叫喚の地獄絵と化します。
ふと気が付くと、二人のそばには二人と同じぐらいの背丈の一本角の赤鬼が忽然と立っていました。
「なんだ!?お前は」
一寸法師が聞いてもその赤鬼は一切無言でした。
そして、奇妙な拳法の構えを取りながら、二人の方へじわじわ近寄って来るのです。
一寸法師は腰の針の刀を探しましたが、そこにはありません。
身に着けていた服や履物は体と一緒に大きくなっていましたが、刀は地面に置いていたらしく、恐らく小さいままなのでしょう、もし見つかったとしても武器にはなりません。
「ま、丸腰で戦うのか…」
一寸法師は歯ぎしりをしました。
その時、赤鬼は奇妙な叫び声をあげて二人の方へジャンプしながら襲いかかって来たのです。

「シュワッチ!」




おわり




りんさんの書くおとぎ話のパロディーに感化されて僕も一つと言う感じで書きました。
ツイッター小説で次々に書こうと思ってとりあえず1本書いたのですが、140文字で書くと欲求不満を感じてしまい、こういう形になりました。

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by marinegumi | 2012-02-14 20:30 | 掌編小説(新作) | Comments(8)

ピグ父さん (12枚)

お父さんは毎年、私たち兄妹に、誕生日とクリスマスにはプレゼントを欠かさなかった。
いつからそうなったのかは覚えていないけれど、お母さんからは特にプレゼントはなく、お祝いにごちそうを作ってくれるぐらい。形の残るプレゼントはお父さんからと決まっていた。
今から思うとお父さんの小づかいではプレゼントがちょっと重荷になっていたのかもしれない。たぶん、プレゼントを買う日が近づくと、そのために好きな本を買うのを控えていたんだと思う。


兄が働き出して家を出て行くと、プレゼントをもらうのは私だけになった。
高校を出て専門学校に行き出しても、私は家から通った。
卒業をして美容師として働くようになっても、お父さんのプレゼントは続いていた。働き出したんだからプレゼントはもういいよと、心の中では思ってもやっぱりうれしかった。
お父さんにしてみれば、ひょっとしてプレゼントをやめるタイミングを失ってしまったと言う事かもしれない。


そうやって、何年かが過ぎた頃、私はどうしても東京に出て行きたくなった。こんな田舎町の美容室にずっと勤めているのが嫌だったんだ。もっと大きな、技術のある美容院で働きたくなった。そして勉強をして、タレントやモデルのスタイリストとして派遣される、そんな仕事を夢見るようになっていた。
その事を伝えると、お母さんは反対をした。お父さんは何も言わなかった。
お母さんと私だけの話し合いで、お母さんが折れ、東京へ出て行くことが決まった。

東京では半年を暮らした。そう、半年間、夢見た仕事に就くために色んな募集の面接に出かけて行ったけれど、まったく採用されなかった。「アルバイトはするな」と言うお母さんとの約束だった。「自分のしたい仕事以外の仕事をするな。仕事がみつからなかったら帰ってきなさい」と。

美容院で働き始めてからずっと貯めていたお金を使い果たしてしまい、家に帰る事になった。
前に勤めていた美容院にちょうど欠員があったので、お願いして再び勤め始めると、まったく前のままの暮らしが戻ってきて、東京で暮らした半年が夢のように思えた。

その年の、私の誕生日とクリスマスにはお父さんからのプレゼントはなかった。東京行きがプレゼントをやめるちょうどいいきっかけになったんだと思う。きっとお父さんはほっとしていたのかもしれない。


前と変わった事と言えばお父さんがパソコンを始めた事だ。機械音痴で、本が好きなだけのお父さんが、よくわからないまま始めてしまい、あまり使っていないようだった。
私はずっとパソコンを使っていたので、お父さんは時々私の部屋に使い方を聞きに来る。よくわからないらしく、同じ事を何度も聞きに来るので嫌な顔をすると「あ、そうか、わかったわかった」と言いながら部屋を出て行くのだけど、あれはきっとわかっていないんだと思う。

その頃アメーバピグが友達の間で流行り出したので、私はすぐにピグを作った。そして、友達招待のアメGをもらうためにお父さんにもピグを作らせた。と言っても、殆どの設定は私がして、ログインの方法だけ教えてあげて、後はご勝手にと言う感じだった。

ピグで遊んでいる時に、時々お父さんのピグがオンラインになる事があった。何をしているのかと思って、同じ場所に行くと日本海初級にいた。釣りをしている他のピグをただ見ていた。時々船の上をあちこち歩くけれど、いつまでもただ見ているだけだった。
そして、消えた。
お父さんの部屋に行って、使い方を教えてあげようかと思ったけれど、どうせ続かないだろうと思って「まあ、いいか」と、そのままにした。


ある年のクリスマスイブの日。
たくさんの、ピグ友からプレゼントが届いていたけれど、その中にお父さんからのプレゼントを見つけてびっくりした。それも、500アメGもする豪華なクリスマスケーキだった。
「え?お父さんたら、アメGをどうやって買ったの?」と、思わず声に出してしまった。
お父さんのピグの部屋に行くと、もっとびっくりした。部屋は広くなっていて、しかも3階だて!部屋の中には豪華な家具がそろい、色んなアイテムであふれていた。水槽にはジンベイザメがゆうゆうと泳いでいて、部屋を犬が3匹、そしてペンギンまで歩きまわっていた。
お父さんはログインしていなかった。
お父さんのピグ友を見ると、私を入れて23人もいた。
いつの間にここまで出来るようになったんだろうかと、感心したり、呆れたりしながら、その部屋を私のピグはずうっと歩いて見て回った。


その年の12月30日にお父さんが倒れた。
救急車で病院へ運ばれたけれど、間もなく息を引き取ってしまった。動脈瘤破裂という、どこかで聞いた事のある病名だった。

お葬式とお正月で、わけのわからないまま年末年始が過ぎ、やっと少し悲しみから解放された気になった頃には1月も終わろうとしていた。
友達からのメールは殆ど携帯に入るけれど、パソコンのメアドに送って来る人もいるので、久しぶりにパソコンを立ち上げた。ついでにずっとやってなかったピグにもログインしてみた。
友達はみんなお父さんが亡くなったのを知っているので、お年玉やお正月のプレゼントは送らなかったり、送ったとしても取り消しをしたんだと思う。一つもなかった。
私のピグがぽつんと一人、寂しそうにまばたきをしていた。
その時「ピピッ」と音がして、「プレゼントが届いています」の文字が出た。
時計を見るとちょうど日付が変わったところだった。私の誕生日になったんだ。
クリックして開いてみると、お父さんからのプレゼントだった。それも3つも。
「花火がはじける大きなバースデーケーキ」「クマのぬいぐるみ」「お祝いパーティー用の壁」
それはお父さんが生きている時に、日にちを予約して送っておいてくれたプレゼントだった。
それを見ているうちに私は悲しくなってしまった。
これがお父さんからの最後のプレゼントだと思うと、もう涙が止まらなくなっていた。
そう、本当に最後の最後のプレゼントなんだから。


ある日、私は友達から聞いたピグの裏わざを試すことにした。
自分のピグでログインした後に、すぐにログアウトする。そしてもう一つ別に新しいタブでログイン画面を立ち上げる。そしてもう一度私のIDとパスワードを入れログインして、画面を切り替えて、今度はお父さんのIDとパスワードでログインする。するとタブの切り替えで、私のピグとお父さんのピグが交互に出るようになる。
そして今度は私のピグ友一覧の中のお父さんの「家」のマークをクリックする。すると私とお父さんのピグが同じ部屋にいると言うわけなんだ。
「ひさしぶり!」
私はお父さんに声をかける。そしてタブを切り替え、お父さんのピグで答える。
父「ほんとだなー、死んじゃって以来だね」
私「ピグになって、ちゃんと生きてるんだよね」
父「え?おれって、生きてるのか?」
私「生きてるじゃない!こうやって私とお話してるんだもの」
父「あまり生きてるう~って気はしないけどなー」
私「何それ?ちゃんと生きてるんだから!」
私はそんな一人芝居をしながら涙を流しているのにしばらく自分で気がつかなかった。
あとからあとから涙があふれ、キーボードを濡らした。

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その時、お父さんの部屋に男の子のピグがやって来て「きたよ」をして、二人に「グッピグ」をした。
そのお父さんのピグ友の名前は『まー坊』だった。プロフィールを見ると「小学校4年」になっていた。
「ひろくん、久しぶり」と、『まー坊』は言った。『ひろくん』はお父さんのピグネームだ。
「ひろくん、長い間ログインしてこないから心配してたんだよ」と『まー坊』は泣くジェスチャーをした。
私はお父さんのピグで答えた。
「ごめんごめん、ちょっと病気になっちゃってね。一度死んでたんだよ。wwwww」
「え?死んでたの?それで、どうして生きかえっちゃったの?」
「この『イチゴ』ちゃんが生きかえらせてくれたんだよ」
『イチゴ』は私のピグネームだ。
「そうだよー。私ってお医者さんだからね。一度死んでもすぐに生きかえらせる腕を持ってるの」
しばらく私たち3人は話を続けた。

それからというもの、私はいつもお父さんのピグと一緒に釣りに行ったり、お庭で羊を飼ったり、渋谷でデートをしたりした。
今、私はお母さんにもピグを進めようかどうしようか迷っている。
お父さんがいなくなって一番沈み込んでいるお母さん。ピグのお父さんと私がパソコンの画面で遊んでいるのをどう思うのだろうか?
余計に悲しくなるのかもしれない。「もうやめなさい!」と一言で終わってしまうかもしれない。でもいつか、悲しみが完全に癒えた頃に勧めてみるのも悪くはないと思っている。







このお話は、ここで終わりにした方がいいのかもしれない。

たぶんその方がいいと思うのだけれど、どうしても書いておきたい事があるんだ。
私が一人でピグをしている時に、「きたよ帳」を開いてみると、『ひろくん』の「きたよ」が残っている事があるんだ。
とても不思議だった。私がお父さんのピグをログインさせている時はお互いに「グッピグ」「きたよ」は必ずするんだけれど、そんな記憶がない日に時々「きたよ」が残っている。
そのうち、私がピグをやっている時に、勝手にお父さんのピグがログインしてきたとしたら、怖いかもしれない。ひょっとして、うれしいのかもしれない。
そしてそんな日が必ず来るような気がしている。




おわり




おおー、「ピグ小説」だー(笑)
ツイッター小説でピグをネタにしたものは書いた事があったんですが、こんな長い物をまさか書くとは思いもしませんでしたよ。
でもまあ、ピグをやってない人にはわからない部分もあるとは思いますが、そういう人にはピグを始める事をお勧めしま~す。
将来、このピグのようなサービスはきっとネット上の超リアルな仮想空間のコミュニケーションに発達して行くと思いますね。そういう時代まで生きていたいものです(笑)

ところで、上の画像の男性の方が僕のピグです。どこかで見かけたらよろしくね。

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by marinegumi | 2012-02-11 08:15 | 掌編小説(新作) | Comments(4)
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我が家の愛犬クッキーの散歩は、わたしが中学生になった頃には、ほぼわたしの仕事になっていた。
平日は学校から帰って来てからの夕方に。お休みの日には朝ごはんのあとに出かけると言うのがわたしの習慣だし、クッキーの習慣というわけで、ちょっとでも時間が遅くなると、犬小屋のあいつは催促の鳴き声を上げるんだ。まあ、中学でも今の高校でも、わたしはずっと帰宅部なので、幸か不幸か毎日そのパターンを続けられるというわけだけど。

わたしが決めた散歩のコースの途中には、この町で一番大きな橋の下をくぐる道がある。
わたしの卒業した中学校の横を通り、図書館のある公園を抜けて歩いて行くと自然に道はその橋の下をくぐり、右へ曲ると国道沿いの「道の駅」の駐車場にたどり着く。ここで家を出てからちょうど15分で「30分以上は歩きたくない!」と、かたく決めた散歩の折り返しの場所になっている。ずっと同じ道を選んで来たのは、距離的にちょうどよかったし、この「道の駅」の自販機で、夏ならコーラ、冬ならコーヒーなんかを飲みながら一休み出来るからだった。

それでも、しばらくコースを変えていた事もある。
それはもう3年ぐらい前の事。その頃は、橋の下にはホームレスの人が2~3人暮らしていたんだけど、そのうちの一人が段ボールで作った小屋の中で練炭で暖をとりながら寝ていて一酸化中毒で死ぬという事件があった。それから、なんとなく気味が悪く、しばらくはその場所を通るのを避けていたんだ。
いつもと違う道を歩くのは、なんだか落ち着かなかった。ちょうど往復で30分ぐらいの所に一休みできる場所がある、そんなコースが見つからず、散歩もなんだか気ぜわしかった。

それから数年が過ぎ、あの事件の記憶も薄れ、またその散歩コースを選ぶようになった頃には橋の下のホームレスは気のよさそうな小柄なおじさんが一人だけになっていた。
気はよさそうだけれど、いつも寂しそうな、ちょっとしかめた目をしたホームレスのおじさん。
そのおじさんは散歩している時に顔を合わせると、挨拶を返してくれたり、クッキーに愛想をしてくれたりで、いつの間にか顔見知りになっていた。
これで散歩の道順も、元のコースに戻ってひと安心と言う感じだったんだけれど…。



高校が冬休みに入ってすぐの頃だった。
その日はいつもの時間より30分以上早く目が覚めてそのまま散歩に行くことにした。
その日は急に気温が下がり、ひどく寒かったのでマフラーにニット帽、フェイクファーのイヤーマフに防寒のポンチョという完全装備で、アイポッドを聞きながら出かけた。
橋の下まで来ると、いつもとちょっと様子が違っていた。
あのホームレスのおじさんは、温かい時期はコンクリートの堤防のそばの椅子に腰かけたりしている事が多かった。夏は蚊取り線香を足元で焚き、うちわでパタパタあおぎながら椅子にぐったり体を預けている姿をよく見た。
寒い時期はと言うと、たき火をしてその近くで手をかざしている姿をたまに見かけるぐらいで、あまりそこには居る事はなかったようだ。たぶん「道の駅」の中のお風呂に入ったり、そのロビーとか、ちょっと離れたショッピングセンターの中なんかで暖をとっていたんだと思う。
その日私が通りかかると、壊れかけた折りたたみ式のベッドが組み立てられて、それに布団が敷かれていた。布団はちょうど人が寝ているような格好に膨らんでいたけれど、人が寝ているにしては顔の部分に青いジャージがすっぽりとかけられていて、ただ布団や衣類を積み上げているだけにも見えた。
そして、そのベッドの下には靴がそろえて置かれていた。
その時私は思い出した。あの青いジャージはホームレスのおじさんがよく着ていた物だと。
そこで私は納得した。夏なら風通しがよく涼しい橋の下も、冬は吹きっさらしでひどく寒いんだろう。だからすっぽり頭まで布団をかむり、更にジャージを置いて、隙間から風が入るのを防いでいるんだなと、そう思ったんだ。
今まで、一度もおじさんが寝ているところを見た事がなかったのだけれど、今日はたまたまいつもより散歩の時間が早いので、まだおじさんの起床時間になっていないと言う事だろう。
そのまま通り過ぎ、自販機であったかいココアを飲んだ後、もう一度寝ているおじさんの横を通って家に帰った。



その次の日だった。
昨日よりさらに寒さは厳しく。完全武装で散歩に出かけた。時間はいつもの時間だ。
橋の下に来ると、折りたたみベッドは組み立てられたまま、布団の状態もそのままだった。
普段なら、これまでなら、いつもその折りたたみベッドは折りたたまれて橋げたのコンクリートの壁に立てかけられ、布団などは橋の下を走るたくさんの配管パイプの上に片付けられていた。
それが昨日と同じように、人が寝ているような恰好のまま靴も昨日と同じ位置にそろえられ、全く変化がなかったんだ。
それを見たとき、私は一瞬ドキリとした。
「まさか…」と私は小さく声に出していた。
おじさんは、ひょっとしてどこかへ出かけてるのかもしれない。あまりに寒いので、知り合いの家にでも泊めてもらっているのかも知れない。その不吉な想像を打ち消すために私は違う可能性をあれこれ考えた。
道の駅まで行き、引き返し、また橋の下まで来るとそのおじさんのベッドの所で立ち止まった。
じっと見ていても布団は全く動いていないように見えた。眠っているだけなら呼吸でわずかに上下しているかと思ったのだ。
でも、それが確認できるほど近くまではどうしても近寄れなかった。
まあ、たまたまおじさんは今朝、朝寝をしているだけかもしれない。明日になったらベッドはいつものように畳まれて立てかけられている事だろう。
そしてもしも、もしも、おじさんが病気のためか、寒さのためか、布団の中で亡くなっていたとしたら。
そう、そんな時は誰かが発見して、警察に知らせるに違いないと思った。橋の下と言っても公園のすぐそばなので、散歩をする人も結構いるんだから、その人がみつければいい。
「わたしが第一発見者になるのだけはごめんだ」そう思いながら急ぎ足で家に帰った。



次の日、目が覚めてすぐにあの事を考えているわたしがいた。
ホームレスのおじさんが寒さのために朝寝を長くするようになったとすれば、きっともう少し時間が遅くなれば、起きているに違いないと思い、いつもより1時間以上散歩に出るのを遅らせた。

入り組んだ港の停船場を「コ」の字型に囲んだ道を歩き、中学校の横を通り、図書館のある公園の中を過ぎ、橋が見えて来ると何となく嫌な気分になった。このまま右に回り、国道を横断すれば橋の下を通らなくても「道の駅」に行ける。
でも、怖いもの見たさと言う事か、足はそのまま橋へと向かった。

ベッドと布団はそのままだった。下に脱いである靴もきちんとそろって同じ位置にある。
わたしの頭の中は不吉な想像でいっぱいになった。
「道の駅」の職員の人や、よく散歩をしていて見覚えのある人とすれ違う時、目が合えば言い出していたかも知れなかった。
「あの橋の下のに住んでいるホームレスのおじさんが、布団の中で死んでいるみたいなんです」と。
交番に行って「ちょっとあの橋の下を調べてもらえます?」と言っている自分を想像してみた。また、公園で訓練をしている消防団員を見かけると、一緒に行って調べてもらっている場面も頭に描いた。
でも実際はそんな勇気もなく、道の駅で一休みもせず、国道の横断歩道を渡って橋の下を通らずに家まで帰ってしまった。
そしてその日からしばらくの間、クッキーの散歩で橋の下を通らないようにした。
もし本当にあのおじさんが布団の中で冷たくなっているとしたら、誰かが見つける事だろう。そうすると新聞の地方版の記事として載るに違いない。段ボールの家の中で一酸化中毒でホームレスが死んだあの事件の時も新聞に載ったんだから。

それから1週間ほど、毎朝、新聞の記事に気をつけていた。
「何だ、最近珍しく新聞を熱心に読んでるんだな?」
お父さんにそう言われるぐらい、何度も地方版の記事をチェックした。でもそんな記事が載ることはなかった。
なんで?なんでみんなあのベッドの上の布団の状態が毎日ぜんぜん変わらないのに気がつかないの?ひょっとして、たぶん、きっと、いや絶対に、あのおじさんが死んでると言うのに!



ある日の朝、とうとう我慢が出来なくなった。もう一度あの橋の下を通ってみようと決心した。あの布団をそっとめくってみるんだと。いや、そこまでは心は決まっていなかった。
そばを通ってみるだけなら…。

ベッドも布団もそのままだった。クッキーがそのベッドの方にわたしを引っ張って歩いた。さらに胸騒ぎが大きくなる。ひょっとして死臭を感じたのかもしれないと。
下に置いた靴もそのままある。
一つ違っていた。人が寝ているとしたら、頭があるあたりに掛けられていた青いジャージの位置が少しずれていたのだ。そして、そこには白髪混じりの頭髪らしいものがのぞいていたんだ。
わたしはゾクッと背筋が寒くなった。その寒気は背中から頭のてっぺんまでかけあがった。
わたしはそのまま引き返した。公園を大回りして家まで帰った。
「あれはどう見ても頭の毛だったような…」
そう思っても、近くに寄って確かめたわけではない。
あれは寒さをしのぐために何重にも重ねられた中の一枚の布団の柄かもしれない。そう思い込もうとしているわたしがいた。
それとはうらはらに、もうあの橋の下には行かないと心に決めていたんだ。



その数日後、今までとはすっかり別の道を、クッキーの散歩で歩いている時、川にかかった小さな橋の上をあのホームレスのおじさんがおんぼろ自転車で渡っているのを見た。離れていたので目を合わせる事もなく、ただ見送ったのだけれど、間違いなくあのおじさんだった。
わたしはその足で、あの橋の下に向かった。おじさんの死体が眠っているはずだったあのベッドがある橋の下へ。
ベッドは折りたたまれ、コンクリートの橋げたに立てかけられ、布団はみんな橋の下の配管の上に重ねられていた。
ほっと、気が緩んだ。
そう。おじさんは急に寒くなったので、朝、布団から出るのが億劫で、いつまでも寝ていただけなんだと思った。毎日同じように布団をかぶり、まったく同じ位置に靴を揃えて置く、そう言う几帳面なおじさんなんだと納得していた。
人騒がせなおじさんだと、少し腹が立った。
そして、自分の勘違いなのにおじさんに腹を立てている自分が馬鹿みたいだと思ったんだ。

「道の駅」まで行き、久しぶりにそこで飲み物を買い、一休みしている時にふと何か違和感を感じた。
あのおじさんが寝ていたあの場所が、何かおかしかったんだ。
そう思い出すと急に心がそわそわと落ち着かなくなり、コーヒーを少し残したまま缶入れに放り込み、橋の方へ向かった。
橋に近づくにつれてまた前のような胸騒ぎが大きくなって行った。今度は、なぜ胸騒ぎを覚えるのかその原因が分からないだけに、より不安が大きかった。
ベッドがあった場所に来ると、あの匂いがしていた。夏の間、おじさんがいつも足元で焚いていた蚊取り線香の匂い。
ふと、今は真冬で、蚊取り線香なんか、必要がないのに気がついた。
ベッドがおいてあったあたりの枕元の近くにワンカップのお酒の瓶があって、その中に線香の燃えかすが入っていた。渦を巻いた蚊取り線香ではなく、棒線香だった。線香の匂いがすると言う事はつい最近までこれが焚かれていたと言う事だとわたしは気がついた。

さっき橋の上で見かけたおんぼろ自転車のおじさんを思い出していた。
楽しそうだった。いつもの寂しそうなおじさんではなかった。鼻歌でも歌っているかのように浮き浮きとして笑顔を浮かべたおじさんは初めて見たような気がする。

それからわたしはぴったりと新聞を見なくなった。
「橋の下でホームレスの男性が…」
そんな記事を見たくなかったんだ。そんな記事を読んだお父さんやお母さんから、そういうニュースを聞きたくなかった。もし誰かがそれをしゃべり出したらきっと耳をふさいでしまったと思う。

そう言うひどく不安定な精神状態は3日後まで続いた。

おわり




いま、ちょっと長めのミステリーっぽい作品を書いているのですが、なかなか進みませんねー
その代わりにちょこっと書いてみたのがこの作品です。
ちょこっとと言う割に長くなりましたが、3時間ぐらいで結構楽に書けたので、感覚的に「ちょこっと」なんですよね。
実はこれ、最後の部分以外は殆ど実話なんです。
散歩の途中に僕が体験した事を、女子高生を主人公に置き換えてお話しにしてみました。
まあ、僕の精神年齢というか、このお話の中で取る行動自体が、高校生程度かもしれないと言う事ですけどね(笑)

さてさて、雫石鉄也さんの「主人公は大人の男性という感じがしました」という感想を受けて、女子高生と思ってもらえるように精いっぱい書き直してみました。
どんなものでしょうか?
雫石さんは男性を主人公にして書いた方がいいのではという事なのですが、ここは僕の趣味として、女子高生で突っ張りました(笑)
枚数は2枚増えましたよ。

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by marinegumi | 2012-02-08 22:06 | 短編小説(新作) | Comments(10)
So-netブログで「まりん組・落し物係」を始めました。
こちらのブログは主に小説関連だけに絞って、それ以外のこぼれ落ちた記事をアップしていこうと言う事で「まりん組・落し物係」と言うタイトルにしました。
よろしくお願いします。
まあ、もとはと言えばSo-netブログの皆さんにコメントした時に自分のサムネイルが表示されないのがちょっと不満だったので、そのためだけに作ってみたのですが、やっぱり活用したくなっちゃいますよね。
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by marinegumi | 2012-02-05 02:16 | わたくし事 | Comments(0)

駅伝

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おわり




と言うわけで―
またまたかよ湖さんからお題をいただいてしまいました。
こちら→パクパクショート「駅伝・駅伝」
かよ湖さんも、「平渡敏さんの作品を278%パクパクさせて頂きました」と言う事らしいですが、詳しくはかよ湖さんちで確認してください。

今回は文字を一度画像に変換して、手を入れると言うお遊びを、漫画を描くソフト「コミックスタジオ」でやってみました。
「おわり」より上は文字ではなく、画像データなわけですね。

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by marinegumi | 2012-02-01 18:18 | 掌編小説(新作) | Comments(8)