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親父指 (4枚)

小説虎の穴投稿中
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ある日、会社でパソコンに向かってキーボードを叩いている時にふと左手の親指に違和感を感じた。
手のひらを裏返して親指の腹を見ると、うっすらと人間の顔の様な模様が浮き出ているのだ。
汚れているだけなのかもしれないと思ってウエットティッシュで拭いたり石けんで洗ったりしたが取れなかった。

あくる日、目が覚めてすぐに親指を見ると、顔の模様はより濃くなり、しかも立体的になっていた。
そして、その日のうちにはっきりと人間の顔になってしまった。
人面瘡と言うやつだ。
しかもそれは俺の親父の顔なのだ。

その日から俺は手袋をして仕事に出かけた。
人面瘡は手袋をすると平面になるのだろうか、触っても普通に指があるだけだった。
しかし手袋を脱ぐとちゃんとした立体的な顔があるのだ。
顔は時々表情を変える。
親父の怒った顔や、笑った顔や、困った顔、果ては酔ってぐだをまく親父の顔まで見事に再現していた。

それからまた数日後、今度は中指に違和感を覚えた。
やはり顔の模様が浮き上がり、2,3日でおふくろの顔になってしまった。
やれやれ、やっと独立して一人暮らしを始めたばかりだと言うのにまるで実家にいる気分だった。
次に薬指に出来たのは当然のように、今、高校生の妹の顔だった。
そして小指には弟の顔が現れるのだろうと思っていたが、やはりその通りになった。
そうすると、この人差し指には俺の顔が出来るはずだ。

しかし、それからいくら待っても俺の顔は出来なかった。
そうなると、5人家族のうち俺の顔だけがそこにないのが何となく寂しく思えて来るのが不思議だった。
ある日俺は人面瘡に話しかけた。
「おい、人面瘡よ。俺の顔はどうした?もう面倒になったのか」
すると俺の左手が勝手に動き出し、人差し指が俺の顔を指差して固まった。
「俺の顔はここにあるってか?」
俺は笑いこけた。

あくる日、目が覚めていつものように左手の俺の家族の顔を見た。
すると、その中の人差し指に俺の顔があった。
「おおー、やっとこれで家族そろったじゃん」
起き上がり、洗面所に行って驚いた。
鏡に映る俺の顔は指紋も鮮やかな人差し指になっていたのだ。
俺はアパートを飛び出した。
暑いのを我慢してジャンバーのフードを頭からすっぽりとかぶり、のっぺらぼうの指の顔にメガネをかけていた。
電車に3時間揺られ、実家に帰って来た。

実家の前に立つと、何となく様子がおかしかった。
窓はぴったりと閉じられ、カーテンがすべて引かれているのだ。
庭は雑草が伸び放題で玄関の周りもゴミだらけだった。
施錠されていたので合鍵で開けて入る。
家の中は電気が灯されていた。
そしてダイニングで人の気配がしている。
ドアを開けて入った。
そこでは家族4人が食事を摂っていた。
くっきりと指紋の模様を描いたのっぺらぼうの顔にぽっかりと開いた口へ、それぞれが食べ物を運んでいた。

のっぺらぼうでも食事は出来る。
それだけはひと安心だった。



おわり




ある日、会社でパソコンに向かってキーボードを叩いている時にふと思いつき、仕事中に書きあげ、仕事中にブログにアップまでしてしまうという。
なんとも理想的な状態でしょう?
ある日、と言うのは今日の事です。
まあ、台風のせいで開店休業状態なのでありますが。

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by marinegumi | 2012-09-30 17:20 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

ジョン (4枚)

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我が家の愛犬ジョンは、僕がもの心ついた頃にはすでに家にいた。
僕は僕が思い出せる限りの昔からジョンと一緒に過ごしてきたわけだ。
かといっていつも一緒に遊んだと言うわけでもない。

ジョンは昼間はいつも犬小屋の中で寝ている事が多かった。
幼い僕はお母さんが作った餌をボウルに入れ、犬小屋の中に入れてやる係だった。
なんだかいつも赤い色をした生臭い餌だった。
僕は時々犬小屋の中に入り込み、ジョンのおなかを枕にして眠った事もある。
そう、ジョンはとっても大きな犬だった。
当然力も強かった。
ジョンは他の犬や猫を見かけると、必ず追いかけて飛びかかろうとする。
一度はうっかりリードが手から離れ、本当に猫を追いかけてかみついた事もあるそうだ。
そんな時に、ジョンを引きとめる力が必要だったのだ。
だから散歩はいつもお父さんが仕事から帰って来て、食事が終わってからだった。
当然いつも夜になっていた。

僕が小学生になるとさすがに犬小屋の中には入れなくなった。
その代わりに時々は散歩に連れて行く事も出来るようになった。
いつもの習慣で、ジョンは夜にしか散歩に行きたがらなかったので、お父さんが帰って来てから一緒に行ったのだけれど、5年生ぐらいからは一人で連れて行けるようになった。
僕が塾から帰って来て、外が暗くなる頃に散歩に出かけた。

中学校から高校にかけては、もうすっかりジョンの散歩は僕の仕事になっていた。
散歩をさせていると近所の人が時々声をかけてくれる。
「ジョン。お前は長生きだなー。うちの犬はこの間死んじゃったよ。もっともっと長生きしろよ」
と優しそうなおじいさんがジョンの頭をなでながら言う。
そういえばそうなのかもしれない。
僕が2~3歳の頃にはもう大人の犬だったのだから。
犬の寿命が何歳ぐらいなのかは正確には知らないけど、ジョンは少なくとも18歳ぐらいにはなっているのかもしれない。

高校を出て東京の大学に行き、その関係で就職も故郷からずっと離れた東京で決まり、正月以外はほとんど故郷に帰る事もなく毎日忙しい日々を過ごした。
僕にも恋人が出来て、同棲を始めていたけれど、彼女は一人暮らしの頃から飼っていたトイプードルを連れて来たのだ。
「ちっこい犬だなー。まだ子供なの?」
「3歳だから立派な大人よ」
その時に、忘れていたわけではないが実家のジョンの事を思い出した。
「うちも犬を飼っているんだよな。でっかい犬だぜ」
「へー、何と言う種類?」
「セントバーナードとかだったかな?年寄りだけどまだ元気だよ」
「まさか。あなたが子供の頃からいたって、あなた今何歳よ」
「28歳だけど」
「めちゃくちゃ長生きじゃない?」
「何年か前に帰った時にいつ頃から家にジョンがいるのか聞いてみたんだけどさ。そしたら兄貴が生まれた頃に、迷い込んで来たとか言ってたな」
「お兄さん何歳よ?」
「38歳だよな、確か」
「そんな長生きの犬、いるわけないでしょ?馬鹿らしい」
「ほんとだってば!」
その時、携帯電話が鳴った。
お母さんからだった。
ひとしきり話をして電話を切った。
「何の電話?」
「ジョンが…うちの犬が死んだって。おやじが殺したそうだ」
「殺した?」
「そう。心臓に木の杭を打ち込んで…」



おわり



ツイッターで「幼いころ」の書き出しで10本のツイッター小説を書いたんですが、その過程で140文字に収まらないアイデアが出てきたのでツイッターとは別にショートショートにしたのがこれです。
伏線をどの程度入れるかいろいろ考えました。
「ニンニクが嫌い」なんて言うのを入れると、勘のいい人は、すぐわかっちゃうでしょうね。

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by marinegumi | 2012-09-26 18:30 | 掌編小説(新作) | Comments(2)