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海野久実が掌編小説やら短編小説を書いています。タイトルの後に原稿用紙換算の(枚数)があるのが小説です。


by marinegumi
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<   2012年 10月 ( 9 )   > この月の画像一覧

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わたしのおうちにはわたしのしゃしんがない。
かぞくのアルバムにも、お兄ちゃんのアルバムにも、わたしのしゃしんは一まいもない。
そんなのおかしいとおもって、まえにいちどお母さんにきいたことがある。
「火事で焼けてしまったのよ」
お母さんはそういってかなしそうなかおをした。
お母さんをかなしませたくないので、わたしはそれからはきかないようにしていた。
わたしはずっと小さなころのことはおぼえていない。
しゃしんをとってもらったこともあるようで、ないようで、よくわからなかった。
でも、このあいだ三さいになってから、かぞくでゆうえんちにあそびにいった。
そのときにみんなといっしょにしゃしんをとったんだ。
そのしゃしんはきっとあるはずだとおもってお母さんにきいた。
「そうね。写真はちゃんとありますよ」
お母さんはそういったけれど、なぜかやっぱりかなしそうだった。
お母さんはひきだしからしゃしんをとりだした。
まだアルバムにはっていないしゃしんだ。
わたしはそれをわくわくしながらみていった。
はじめてみるじぶんのしゃしん。
でも、そこにはわたしがうつっているしゃしんは一まいもなかった。
お兄ちゃんとお父さんお母さん、三にんのしゃしんはある。
たのしそうなわたしのかぞく。
お母さんがいった。
「今日は本当の事を言います」
お母さんはなみだぐんでいた。
「あなたはね、生まれてすぐに病院で死んでしまったのよ」
わたしはせなかがシュン、とさむくなった。
「わたしが家に帰ってから七日目にあなたが幽霊になっておうちに戻って来たの」
お母さんはもうぼろぼろとなみだをながしていた。
「あなたは自分が幽霊だと思わずに、わたしたちと一緒に暮らして、今まで大きくなって来たのよ」
お母さんはわたしをだきながらいつまでもないた。
そうなんだ。
だきしめてしまうとお母さんのうではわたしのからだをとおりぬけちゃうから、そっとやさしくだいてくれるんだ。
まるでわたしのからだがそこにあるように。



おわり



最近の作品は殆どツイッター小説を元にしています。
やっぱりアイデアによって自然にどんどん長くなっていくものとツイッター小説に毛が生えた程度にしか膨らませられないものもありますね。

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by marinegumi | 2012-10-27 07:00 | 掌編小説(新作) | Comments(8)

夢 (5枚)

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  ぼくは夢を見ていた。これは夢に間違いないと思いながら長い夢を見続けていた。

ぼくが眩しい光の中に出た時に、たくさんの逆光の顔が見えた。
その中の一番近くにあった顔がぼくのお母さんだったと言うのは、その時にはまだ知らなかった。
家の床をハイハイ出来るようになった頃、お母さんやお父さんの笑顔がうれしくて、ぼくは一生懸命に家じゅうを這いまわった。
家事をするお母さんの後ろについて回るうちに、ある部屋で額に入れられたた男の子の写真を見つけた。その写真を見上げていると、お母さんが言った。
「これはあなたのお兄ちゃんだった男の子よ」
そう言って少し悲しそうな顔をした。
ぼくは両親にとても可愛がられて大きくなった。
わがままをたくさん言って育った。
なんでも思い通りにしてもらっていたので、保育所にはなかなかなじめなかった。
幼稚園へ行くのもとても嫌だった。
ぼくと同じような子どもたちがたくさんいて、家にいるのと同じように、思い通りには行かなかったのだ。
使いたいおもちゃを友達と取り合いになると、ぼくはとても腹が立った。
他の誰よりも体が大きかったぼくは、やがて無理やりに友達からおもちゃを取り上げる事を覚えた。
運動場のブランコや他の遊具も力づくで、いつでも自分が使いたい時に使うようになった。
でも、先生にそれを見られるとこっぴどく叱られるので、先生の目の届かない時だけにした。
先生に言いつける友達は、一度ひどい目に合わせてやればあとはもうしなくなった。

小学生になってもぼくは相変わらず、家ではわがままの言い放題で過ごした。
小学校でも幼稚園の頃と同じように振舞っていた。
なんでも自分の思い通りにならないと気が済まなかった。
そして、腕力でぼくにかなうやつは一人もいなかったのだ。
自分の使いたいものを使いたくなった時にすぐに使う。
友達と意見が食い違うと言葉で黙らせる。
不満そうにしているやつは先生の目のない所で少し痛めつけた。 
中学校に入ってからは特定の生徒をいじめるのが面白くなっていた。
なんでもぼくの言う事を聞く同級生二人と一緒に、一人の男子生徒をターゲットにした。
ぼくが言った事に嫌な表情をした。
たったそれだけの事がきっかけだった。
机の中に蛇を入れたり、ノートを破ったり、教科書を隠したりした。
ある日、体育館の裏にその生徒を呼び出して、同級生の二人にそいつの腹を何度も蹴らせたり、毎日いろんないじめ方を考えた。
僕の両親は相変わらず甘く、何でも買ってくれた。
お金には不自由していなかったけれど、その生徒に親の通帳を持ち出させ、お金を引き出させたりもした。
そんなある日、その生徒が自殺したのだ。
大きなニュースになり、ある日僕の家に警察がやって来た。
その時初めてやりすぎたと思った。

  これは夢だろ?まさか夢ではなかったなんて言う事はないだろ?

目を覚ました。
ぼくはベッドの上だった。
カーテン越しの朝日が部屋を薄明るく照らしていた。
あれが夢だったと言う事がわかって、ほっとしながら体を起こそうとしたけれど自由にならなかった。
ぼくは自分の手を持ち上げ、目の前に持って来た。それはとても小さかった。
ドアが開くと女の人の声がした。
「ぼうや。目が覚めたのね」
そう言いながら彼女はぼくをベッドから軽々と抱き上げた。
ぼくは部屋にある鏡を見た。
女の人に抱かれているのは、ほんの赤ん坊のぼくだ。
そうか、そう言う事だったんだ。
ぼくがまだ生まれて間もない赤ん坊のある夜。
寝ている間に長い長い夢を見たんだ。
その夢はたった一晩の事だったけれど、夢の中では十何年もの時間が経過した。
夢の中で長い年月を送り、生活し、言葉を覚え、わがままを覚え、憎しみを覚え、意識は中学生にまで成長してしまった。
ぼくは今、十三歳の心を持ってはいるけれど、体はまだほんの赤ん坊だと言うわけだ。
これからぼくはどんな子供時代を過ごせばいいんだろう?
ただ、さっきまでの夢に見たような同じ間違いを起こすことはないだろうとは思う。
だけど、この世界が、夢に見たあの世界と同じ世界なのかどうかはまだ分からない。
母親に抱かれたまま、僕は隣の部屋に入った。
その部屋には大きな窓があった。

ぼくは窓の外の景色に目を見張った。



おわり



これは公募ガイドの「小説虎の穴」のテーマが「夢オチ」と言うのを聞いて、思いついたものですが、書き上げた時にはすでに締め切りを過ぎてしまっていたというあほらしい作品です。

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by marinegumi | 2012-10-25 21:35 | 掌編小説(新作) | Comments(2)
ハロウィーンレポート
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「はいこちらはハロウィーンの本場、アメリカはイリノイ州に来ています。わー、町にはいっぱい妖怪たちがあふれていますねー」
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!」
「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」
「みんな妖怪に仮装した子供たちなんですね。近所の家のドアの前に立って、ああやってお菓子をおねだりするんですね。日本でもハロウィーンは盛り上がりはしますけれど、こういう風習まではなかなか行われる事はないようです。さて、今日わたしがはるばるアメリカまでリポートに来たのは日本の妖怪がアメリカのハロウィーンに参加するという情報を聞いたからなんですが、それらしい姿はまだ見つける事は出来ません」
「ねえちゃん、ねえちゃん」
「はい?わー、これはまた可愛い魔女さんですね。お菓子はいっぱいもらえましたか?」
「なに言っとるんじゃ。わしじゃよ」
「は?」
「わしは砂かけばばあじゃ」





ハロウィーンを過ごす
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ハロウィーンは街中お化けだらけで、俺たち本物の出番はない。
今日は大人しく墓の下で過ごす事にした。
昨日借りて来たDVDの映画を見始めたのだが、これがホラー映画で、予想以上に怖いのだ。
見ている間中後ろの方に気配を感じて落ち着かなかった。
棺桶の中には俺以外の誰がいると言うのだろう。
誰もいるはずがないと、自分に言い聞かせながら映画を観終わった。
ホラー映画の余韻なのか、見終わってもまだ背後の気配は続いていた。
続いているどころか、あたりが静かになると余計にそれを感じた。
だんだん強くなるばかりだった。
とうとう堪えきれずに俺は振り返った。
停まった心臓が飛び出すほどに驚いた。
それは俺の頭だった。
バラバラ殺人の被害者の俺の首は時々頭の重さに耐えきれなくなり、それを脱いでくつろぐのだった。
しかしまあ、頭がなくても見る事が出来ると言うのは幽霊の便利な所だ。





恐怖のハロウィーン
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窓から外をのぞくと、家々の前にはくり抜いたカボチャのランタンが飾られ、灯がともされていた。私の家にも、もちろん飾ってある。
子供たちは2,3人が固まって町を歩いては家々のドアの前に立ち、声をかけている。
「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」
そしてお菓子を手に入れるとまた次の家に向かうのだ。
そんな子供たちでハロウィーンの夜の町はあふれていた。次から次へと可愛い幽霊や妖怪たちが夜道をやって来る。しかし私の家だけは素通りする。
他の家と同じように飾り付けをして、門からドアまでちゃんと照明もしてある。カボチャのランタンも特大のを用意した。それなのに子供たちは一人としてやってこないのだ。
「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」遠くから聞こえる。
「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」隣の家から聞こえる。
そうか、今年もやっぱりそう言う事なんだな。私の家には行ってはいけないと、みんな両親に言い含められている。きっとそうなんだ。
それならば私にも考えがある。
「子供が来なけりゃさらいに行くぞ…」
私はそう呟きながら黒い外套に身を包んだ。




おわり


ツイッター小説、ハロウインネタを少し書き伸ばした3作品です。

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by marinegumi | 2012-10-17 17:57 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

右手の寒さ (2枚)

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「ねむいよー、おかあさん」
「眠いんだったらねんねしなさい」
「いやだいやだよ。ねたくないもん」
「じゃー寝なきゃいいでしょ?」
「ねちゃったらだめなんだもん!」
「ほらほら、もう目を開けてられないじゃないの。おやすみなさい」
「いやだ!ねたらだめなの!」
「もう、この子は。足をじたばたするのはやめなさい!」
「ねたくない。ねたくない!ねたくない…」
「どうしてそんなにぐずるのかしら。眠ければ寝ちゃえばいいのに。変な子ね」

私はどうしようもない眠気の中で、幼い頃の夢を見ていたようだ。
母親の声がまだ聞こえている。
次第に夢から現実へと覚醒して行くと共に体に寒さを感じ始めた。
私は人通りの多い商店街の、歩道に置かれたベンチに腰掛けていた。
またお酒を飲んでしまったようだった。
お酒を飲むと、必ず眠くなるのがわかっていながら、飲まずにいられなかった。
ふと、右の手のひらが妙に寒いのに気が付いた。
ずっと暖かかったはずの右手……
その時、私ははっきりと目覚め、慌てて立ち上がった。
道行く人がじろじろと見て通る。
あの子がいない!
一緒にベンチに座って、しっかりと手を繋いでいたはずの息子が。
右手の絶望的な喪失感を握りしめ、走り出した。
暖かそうな光に包まれた街角がひどく寒く感じられた。



おわり



例のごとく、元はツイッター小説です。
事の大小はともかく似たような経験はだれでもあるでしょうね。

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by marinegumi | 2012-10-15 20:24 | 掌編小説(新作) | Comments(2)
写真 能登半島UFOの町にある宇宙科学博物館コスモアイル羽咋(はくい)のホームページより
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アユムの住む高層住宅から地下リニアに乗ると「太陽系外惑星移民計画記念館」は30分とかからない。
最初は4歳の頃に両親に連れられて行ったのだが、12歳の今では一人で毎月のように出かけていた。
それは駅から地上に出るとすぐに目に付くほど、とてつもなく大きな建物だった。青い色の建物で、アルファベットの「P」を寝かしたようなデザインをしている。その「P」の文字の丸く膨らんだ部分に本物の恒星間宇宙船が展示されているのだ。
アユムは足を速めた。地下リニアの中は快適だったが、地上は日差しがきつく、すぐに汗が噴き出した。記念館に続く通路の両側の並木は青々とした若葉を茂らせていて道行く人々にわずかに日陰を提供していた。
近づくにつれて大きくなる建物。何度来てもわくわくする光景だった。

入り口で年間パスポートをセンサーにかざしてゲートの中に入ると、彼は奇妙な行動をした。
アユムの年間パスポートには長い紐が付けてあった。彼はそれを無人の出口専用ゲートのセンサーにかざしながら向こうに投げた。そしてひもを引っ張って回収したのだ。
開場して間もない時間だったのでまだアユム以外の入館者はおらず、彼の行動は誰にも見られなかった。もちろん監視カメラの画像は残っているだろうが何事かが起きなければ、それは誰に見られる事もないのだ。
アユムは半ば駆け足で色んな展示部物の前を通り過ぎた。アポロ宇宙船に始まり、スペースシャトル、国際宇宙ステーション。火星シャトルロケットやジュピター貨物船。無人の亜光速実験宇宙船などなど。
そんな展示コーナーに、アユムはチラチラと視線を向けるだけで、ほぼ恒星間宇宙船に直行した。

それは何度来ても見飽きない魅力的な展示物だった。商業施設や住宅が入った大きなビルほどもあったのだ。
恒星間宇宙船は3隻製造された。そのうち2隻が実際に多くの人々を乗せて宇宙に旅立った。
3隻目がこの「太陽系外惑星移民計画記念館」に展示されている物だった。
恒星間宇宙船は限りなく光速に近い亜光速で航行する。すると、宇宙船の中の時間は地球時間よりゆっくり流れる事になる。
宇宙船の乗組員にとっての10年が過ぎると、地球では何百年も過ぎていると言う事が起きるのだ。
乗組員にとっては慣れた地球の生活のすべてを失う事になる。
2隻の恒星間宇宙船を送り出した後、3隻目がほぼ完成する頃にワープ航法の理論が確立し、ワープ宇宙船の実現が可能になった。今は無人のワープ宇宙船の実験機が就航している。
この宇宙船を使えば以前に出発した恒星間宇宙船より早く同じ目的地に到達する事が出来るのだ。
3隻目の恒星間宇宙船はそのまま完成を見たが、建造された場所から動く事はなかった。宇宙船をすっぽりと覆う形で建物が作られ、それが「太陽系外惑星移民計画記念館」になったのだ。

アユムは宇宙船のハッチまで上がるエスカレーターに乗った。
解説をしてくれるベム(ビッグアイモニター)が空中をふわふわと近付いて来たが、エスカレーターを駆け上がって振り切った。大きな目玉とプロペラを持ったベムが、後ろの方で「走るのは危険です」と言うのが聞こえた。
恒星間宇宙船はとてつもなく広かった。何度も何度も来ているのに、まだ全部は見ていない。
アユムは下の方から丁寧に見ながら上へ上へと上がって行く。
巨大なロケットの上部にある燃料タンクや冷却機。食料などの倉庫のある層を抜け、野菜などを栽培する工場施設や何百人分もある冷凍冬眠カプセル。
あらゆる場所を見て回り、昼になるとリュックの中からサンドイッチを出して食べた。
更に閉館時間まで過ごすと彼は居住区の一部屋に入り込んだ。そしてリュックから薄いシートを取り出すとそれで体をすっぽりと覆いロッカーの中に身をひそめた。

やがて閉館時間を知らせるアナウンスが流れ、館内の音楽も止まり、空調の唸り音も消え、次第にあたりは静かになって行った。
そしてやがて照明が切られる。
アユムが身にまとっているのは熱を遮断する特殊なシートだった。
「太陽系外惑星移民計画記念館」のコンピューターは閉館時に赤外線センサーでお客が残っているかどうかを確かめる。熱遮断シートをかぶったアユムの体温は感知されず、館内には誰も残っていないと判断されたのだ。
もちろん入口のゲートでの入館者の出入りの数にも矛盾はなかった。

アユムは30分ほどしてからロッカーから出た。
真っ暗だった。
リュックから有機パネルライトを取り出して頭に装着して点灯すると、シートをたたんでリュックにしまう。
館内では閉館中にも色んなセンサーが働いていたが、展示物の中のセンサーは火災などの検知を除いてほとんどが休止しているのをアユムは知っていた。
彼の目的はこの恒星間宇宙船の中の通常開館時には見る事が出来ない場所を見る事だった。
見学のコースはほぼ決まっていて、コースを外れたり、立ち入り禁止のスペースに入ると、案内役のベムから即駄目だしされるのだ。

アユムはライトの明かりで照らし出されるコクピットの巨大な計器群の前のシートに座り、圧倒されながら宇宙船の大きさを思った。エアロック室に並んだ宇宙服を一つ一つ触りながら歩いた。格納庫に固定されている宇宙空間用の小型艇や、新しい星に着いてから活躍するはずの農業機械や地上車や垂直離着陸飛行機や建設機械など全てじっくりと確認して回った。
宇宙船は新しい大地に着陸するとしばらくそれ自体が大きな家になる。台地で農作物が収穫できるようになるまでは、その中にある工場でさまざまな野菜が栽培されるはずだった。そして今はデモンストレーションで実際に一部で栽培されてもいた。

次にアユムは冷温冬眠室までやって来ると冬眠カプセルを手動で開け、その中に恐る恐る横たわった。かつて実際に冬眠したまま宇宙を渡って行った乗組員たちの事を思った。
カプセルの透明カバーが閉じ、カプセルは代謝を下げるガスで満たされる。
体がだんだん冷えて行きながら人々は何を思っていたのだろう。
気の遠くなるような距離を渡り、二度と帰って来ない人は自分は、もう地球にとってはいないも同然なのだと言う事を受け入れる事が出来たんだろうか。
地球の大地、緑の山々、命あふれる海。そしてあまりに大きくなりすぎた世界中の都市に住む人々。そんなものをすべて後に残し、新しいまだ見ぬ異星に住みつく事に大きな希望を持っている人ばかりだったんだろうか。
また、そんな人々を送り届けると地球に帰るはずの数少ない人達もまた、大きな犠牲を払う。
彼らが帰って来た時には地球ではもう数百年が経過しているのだ。
もちろん肉親はみんな土の下に眠り、出迎える人は見知らぬ顔ばかり。
それどころか見知らぬばかりではなく、数百年も文明の進んだ未来人に迎えられる事になる。
その時、その人々は自分を原始人か何かのように思うに違いない。帰って来ても自分の居場所があるのかさえ分からないのだ。
そしてさらにまた一つ大きな疑問が残る。亜光速の宇宙船が異星を目指しているうちに、新しい航法の宇宙船が建造され、それが自分たちより先に目的地に着くと言う事が十分に考えられたからだ。そうなると自分たちの存在理由さえ緩いでしまう事になる。それほど大きな疑問?リスク?を抱えた人々なのだ。
人々はそれぞれにそれぞれの思いを抱きながら遠い異星を目指したのだと思う。
それぞれの人に書き著す事さえ出来ない様々な物語があったのだと思う。
それをアユムは冬眠カプセルの中に横たわる事によって想いやる事が初めて出来た気がした。
「僕はもう冬眠中だ」
アユムは夢のない冬眠を続ける人たちのその眠りを感じようとした。

冷温冬眠は、当時の技術では半年が限界だった。
恒星間宇宙船の移民メンバーたちは半年眠り、1週間目覚め、また半年眠ると言う風に繰り返しながら目的地を目指す。一瞬の半年と、長い退屈な一週間だ。
アユムはカプセルの中で一睡もせず、長い長い半年を感じていた。本当に冬眠に入れば一瞬で過ぎ去る半年。
だがやはりそれだけの長い時間が流れているのだし、地球ではさらにその何十倍もの長い時間が過ぎているのだ。
その時間の不思議さをアユムは今、体中で受け止めていた。

長い夜はいくら長くとも必ず明ける。
「太陽系外惑星移民計画記念館」の開館時間と共にアユムは冬眠カプセルを出て、隠れていたロッカーにもう一度入り込み、見学者が増えるのを待った。
そしてゆっくり歩いて外へ出たのだが、ゲートのランプが点灯し、小さくアラームが鳴った。
アユムは次第に足を速め、最後には全力疾走をして地下リニアの駅を目指した。全速で「宇宙開発記念館」の通路と並木道を走ったので、体が熱くなっていて、外の空気の冷たさが判らなかった。
並木道の木々はすっかり葉を落とし、空はどんよりと曇り、やがて雪がチラチラと降りだしていた。

その時になって初めてアユムは気がついた。
自分が夏から冬へと、半年を飛び越してしまった事に。



おわり



例によって書き上げて即アップしています。
基本的にブログに載せるのは下書きの感じです。
いつか本に載る事があるのならその時に清書すればいいよなーと言う乗りなんですね。
でもまあ、ちょこちょこ手直しはして行きます。

これもまたツイッター小説が原作です。
ていうか、最近作はほぼそうなんですよね。
夏のスランプ…
いやいやそれはスランプなどではなく、ただ、夏のハードな仕事で疲れて作品が書けないと言う、いわば「疑似スランプ状態」なんですが、それを克服してから後に書いた新しいツイッター小説を元にしたものばかりなのです。

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by marinegumi | 2012-10-13 21:50 | 掌編小説(新作) | Comments(6)
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ただいま留守にしております。「ピー」と言う発信音の後にご用件をお話しください。
…………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………



「ピー」って言わないじゃん。

ご用件は「ピー」と言う発信音の後でお話しください。
…………………………………………………………………………………………

プー

あ、健二俺だけど…

今のは「プー」です。ご用件は「ピー」と言う発信音の後にお話しください。

………………………………………………

ポー

あ、俺だ…、
くそ、今のは「ポー」だな。

今のは「ポー」です。ご用件は「ピー」と言う発信音の後にお話しください。

わかっとるわい!

ご用件は「ピー」と言う発信音の後でお話しください。

(たくもう…)

ピー

おい、健二俺だけど今朝…

今の「ピー」は880Hzです。よく聞いて670Hzの「ピー」と言う発信音の後にご用件をお話しください。

いい加減にしろ!健二。最初からお前が出てるのは判ってるんだぞ。

あれ?ばれてたのか、兄さん。

まったくお前は下らない事ばっかりやって。ちゃんと仕事やってるんだろうな。そろそろ嫁さんでももらって…

またかよ。その話。そのはなしはなしよ~なんてね。

もういいわ! それじゃ、元気でやれよ。

あ、兄さん。なんか用事だったの?

おおー、そうだそうだ。今朝おやじが倒れてさ、今、危篤状態なんだよ…



おわり



新しいカテゴリ「コント」を作ってみました。
元はツイッター小説。
書くのに10分もかかりませんでした。
お手軽に―(笑)

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by marinegumi | 2012-10-10 12:00 | コント | Comments(15)

鍵束 (7枚)

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友人から個展の案内の葉書が届いた。
大学では僕は商業デザイン科で、彼は油絵を専攻していた。
卒業してからもう7年になるけれど、それぞれ何とか希望の道を歩んでいる。
彼は個展を開いた時には必ず案内葉書を送ってくれた。
そして葉書の片すみに直筆のメッセージを忘れる事はなかった。
「来てくれなくちゃ、すねちゃうから」
いつもそんな彼らしいふざけたメッセージが書き添えてあるのだ。
しかし、彼の住む東京は遠い。
電車を乗り継いで3時間以上かかるのだが、僕は毎回必ず出かけて行く事にしていた。

文庫本を2冊カバンに突っ込み、マンションのドアをロックして、駅前まで自転車で行く。
電車に揺られ始めた時には午前8時になっていた。
東京が近くなった頃、改めて案内葉書を取り出して見た。
彼が描いた絵をあしらったしゃれた案内状だ。
彼の個展は毎回必ず同じテーマの作品をそろえる。
今回のテーマは「鍵」らしい。
ただ風景や人物を描くだけではなく、テーマに沿ったアイデアのある油絵なので退屈する事なく見る事が出来る。
距離が遠い事だけを除けば毎回本当に楽しみにしているのだ。

個展会場は、JRを乗り換えた地下鉄の駅を上がって左の商店街のアーケードを20メートルほど歩いた所だ。
表のポスターを確かめて中へ入ると、彼が数人の人と談笑をしているのが見えた。
受付で名前を書いてパンフレットをもらった。
そこで少し待ったが、彼の話がまだ終わりそうにない様子だったので先に絵を見て回る事にした。
最初の絵は少女の絵だった。
森の中にたたずむ少女が彼女の背丈ほどもある大きな鍵を両手で横向きに抱えている。
タイトルは「森の不思議」
そんなふうに、物語を想像させる絵が彼の得意とするところだった。
次の絵は果てしないレンガ塀に黒々と開いた大きな鍵穴の絵だった。
これもまた巨大な鍵穴で、その奥の暗闇を一人の老人がのぞきこんでいる。
僕は次々、興味深く絵を見て回った。
半分ほど見たところで、肩をたたかれた。
彼だった。
「よう!元気そうだな」少年の頃のままの笑顔で彼は言った。
握手をする彼の手には、落ち切れていない油絵具が薄く残っていた。

会場の休憩室に案内されてコーヒーを飲みながらしばらく話をした。
共通の友人の話になり、「そう言えばあいつはどうしてる?」と言う事で、お互いに知らない友人のメアドなどを提供し合ったのだ。
ポケットの中身を全部テーブルの上に出して、携帯を見たり、名刺を探したりするうち、鍵の束の車のキーを目ざとく見つけた彼は言った。
「ほほーBMWに乗ってるのか?相当儲けてるな」
「何言ってるんだ。僕は趣味が車だけで、儲けは全部そっちに行ってしまうからさ」
「いやいや、俺は貧乏絵描きだからな。せいぜい軽四しか買えないし」
「僕は信じてるぞ。お前はそのうち大ブレイクするってね。今のうちに1枚買っとかなくちゃ手が出なくなるかもな」
そう言って二人で大笑いをした。

絵の残り半分は彼と一緒に見て回った。
彼の絵の世界にどっぷりと浸る事が出来た。

帰りの電車で、読みかけだった文庫本を読み終わり、もう1冊を半分ほど読んだ頃に駅に着いた。
時間は午後5時を過ぎていた。
マンションのドアの前に立って、ポケットを探った。
ところが鍵の束がなかったのだ。
落としたのか、と思って一瞬ドキッとする。
そうだ、個展会場でポケットから出したんだと気が付く。
財布や携帯はポケットに戻っていたが、恐らくあそこに忘れて来たに違いないと思った。
あわてて時間を確認しながら彼の携帯にかけてみた。
「ああ、お前か?たった今電話しようと思っていたところだ。鍵を忘れてるぞ」
「よかったー落としてなくて」
「で?どうするんだ?これ。送ってやろうか?」
「マンションに入れないじゃん。大家に開けてもらっても、車のキーもあるしな」
「今から来るとしても3時間以上かかるんだろ?」
取りに行く事にした。
「個展は夜9時までやってるから慌てずに来いよ」
そう言ってくれた。

電車が走るうちにすっかり空は暗くなり、街の明かりだけが車窓を過ぎて行った。
9時を30分以上過ぎて会場に着いた。
彼は受付に座って笑顔で待っていたが、他には人の気配がない。
「ごくろうさん」と彼は言うと後ろの壁を指差した。
「これがお前の鍵だよ」
そこには額に入れられた一枚の青空の絵が架けてあり、その真ん中に僕の鍵束があった。
彼の後ろに回って取ろうとすると、それは精密に描かれた絵だった。
「なんだよ?」
言いながら彼の方を見ると、いたずらっぽい笑みを浮かべてテーブルの下から鍵束を取り出した。
「本物はこちら」
僕はもう一度鍵束の絵を見た。
本物と間違うほどに実によく描けている。
「いつの間にこれを描いたんだ?そうか、僕がとんぼ返りして来る間だよな」
「鍵をテーマにした個展の会場に鍵を忘れると言う素敵なイベントをありがとうな」
そう言うと、油絵具で汚れた手を差し出した。

他の店舗はみんな閉まり、そこだけ明るい個展会場を後にした。
ふと思い付き、電車の中でポケットから、しわだらけになった案内葉書を取り出して見た。
開場時間はAM10時からPM7時になっていた。
「9時じゃなかったんだ」
僕は誰も来ない個展会場の中で一人きり、僕を待つ間に鍵束の絵を描いている彼の姿を思い浮かべていた。


おわり


前日書いたツイッター小説を元にした掌編小説です。
やっぱりこれはショートショートと言うよりも掌編小説と言った方がぴったり来ますね。
元になったツイッター小説はこちらです。

友人の絵の展覧会に行った。
毎回テーマを統一した絵で会を開くので、いつも楽しみだ。
電車を乗り継いで5時間もかけて見に行った。
今回は「鍵」がテーマ。
どの絵にも必ず鍵が描き込まれた絵。
友人と談笑し別れた。
家の前に立った時、鍵を会場に忘れた事に気が付いた。


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by marinegumi | 2012-10-07 17:49 | 掌編小説(新作) | Comments(8)

青い鳥その後 (3枚)

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幸せを呼ぶと言う青い鳥は、最初からチルチルとミチルの家にいたのでした。
二人はその青い鳥をお婆さんに渡しました。
するとお婆さんの孫の、病気だった女の子はみるみる元気になったということです。

ある日の事、お婆さんが青い鳥を返しに来ました。
「ありがとう。もう私たちには青い鳥はいらないよ。今度はあなたたちが幸せになる番だ」
二人は青い鳥の入ったカゴを受け取りました。
それからと言うもの、青い鳥はチルチルとミチルの家で、鳥カゴに入れられる事なく飼われていましたが、窓を開け放していても決して逃げては行かなかったのです。

その後、貧しい木こりだったお父さんは森林組合の理事に抜擢されました。
お母さんは裁縫の技術とセンスで街に洋服屋さんを出しました。
お金が十分入るようになり、森の中の木こり小屋は立派なお屋敷に建て直されました。
そして、チルチルとミチルの兄妹はきれいな洋服を着て、毎日学校に通いました。
学校は毎日が楽しくて、いじめに遭うなどと言う事もなく幸せでした。
青い鳥は十分な幸福を運んで来てくれていたのです。

そんなある日、青い鳥が卵を産みました。
青い鳥は外へ出て行こうと思えばいつでも出て行けます。
みんなの知らないうちに外へ出て行って同じ青い鳥のオスと出会ったのでしょうか?
テーブルの上に置かれた、暖かい木綿製の手作りの巣の中に青い卵がひとつ。
それを毎日青い鳥は温め続け、18日後にはヒナが孵りました。
でも、そのヒナはなぜか黒い色をしていたのです。
「生まれたてで羽根が濡れてるから黒く見えるんだね。乾くと青くなるんじゃない?」
チルチルが言いました。
でもそれはいつまでたっても黒いままなのです。
二人が青い鳥の代わりに餌をあげると本当によく食べて、みるみる成長し、やがて青い鳥よりもずっと大きな体になりました。
そして、なんとお母さんの青い鳥を、その大きなくちばしでこついたり、羽をむしったりしはじめたのです。
やがて青い鳥の羽は傷み、みすぼらしい姿になってしまったのです。

ある日、青い鳥は逃げて行ってしまいました。
黒い鳥は飛べるようになっても、そのまま住みつき、やがてチルチルとミチルの家には不幸が訪れるようになったのです。
どんな不幸が家族を襲ったのかは、ここには書きません。
それはもう、書くのも恐ろしい出来事が起こったと言う事だけをお伝えしておきましょう。



おわり




これもまたツイッター小説で書いたものです。
連日5本ずつ即興で書いてるのですが、けっこうショートショートに出来る物がありますね。
童話のパロディーもいくつか書いていますが、その流れです。

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by marinegumi | 2012-10-04 20:31 | 掌編小説(新作) | Comments(4)
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僕のクローンは笑って僕の腕を掴んだ。
思ってもいなかった機械と機械の間から腕が出て来たのでちょっとびっくりしてしまった。
「もうかくれんぼはやめようか?」
そう言うと狭いすき間から出て来ようとしたけれど、かなり無理をして入り込んだらしく、やっと出て来た時には右腕の肘をすりむいて血がにじんでいた。
「そんなに無理やり隠れなくてもいいのに」
二人は顔を見合わせて苦笑いをする。
「かくれんぼだって本気でやらなくちゃ、すぐに飽いちゃうからね」

宇宙船の居住区は人口重力を作るため、それ自体が回転していて頭の上には回転軸が見える。
その回転軸に、倉庫で探して来た長いロープを2本くくりつけて降ろし、鉄のパイプをくくりつけてブランコを作った。
これに揺られるのはとても気持ちがいい。
時々予測できない動きをするからだ。
床の上にはこれもまた倉庫から探して来た予備の機械類を分解して組み立て直したりして作ったロボットやヘリコプターや色んなおもちゃがあった。
みんな僕と僕のクローンが自分で作ったものだ。
それを備蓄食料の箱で作った地球の街の模型の上を飛ばしたり、歩かせて壊したりして遊ぶのだ。
そうやって僕たちは暇をつぶしながら、宇宙船が目的地に着くのを待っていた。

数ヶ月前、僕たちの乗った宇宙船はどうやら宇宙塵の直撃を受けて船体に穴が空いてしまったらしかった。
らしかったと言うのは僕たちはみんなその時は人工冬眠で眠っていたからだった。
僕が非常を知らせるけたたましい警報を聞きながら目覚めると、多くの大人たちはふたの開いた人工冬眠カプセルの中で死んでいた。
宇宙塵は小さなもので数ミリだったが、船体を貫通する時にコンピューターの一部も破壊していた。
そのため一時的にコンピューターが遮断され、非常覚醒の手順が滞ったのだと、あとで調べてわかった。
そして僕と妹の二人だけが残った。
子供用の冬眠カプセルは非常時でも、すぐには覚醒手順に入らない。
遅れて始まるため、コンピューターが自動で修復され回復してから僕たちは正常に目覚めたのだ。
船体の穴も自動的に塞がれていた。
大きな宇宙船に子供の僕と妹の二人きり。
そして30人以上の大人たちの死体。
最初はどうすればいいのか判らなかった。
数日して、妹は怖がるし、死体が臭い始めて来たのでエアロックから外へ捨てる事を思いついた。
でもどうやって運べばいいのだろう。
コンピューターに尋ねると、いい方法があった。
居住区の回転を止めればそこは無重力になるのだ。
僕は慣れない無重力状態の船内を大人たちの死体を引っ張って移動してエアロックの前まで運んだ。
運び終わると2人ずつエアロックの中に入れ宇宙へと放出した。
最後にお父さんとお母さんを入れる時には僕と妹は抱き合って泣いた。

それから地球時間で何日かしたある日、横に眠っていた妹がいない事に気が付いた。
探し回っているとエアロックの横の格納室にあったはずの子供用の宇宙服がなくなっていた。
そして、エアロックの作動ランプが点滅しているのを見て死ぬほど驚いた。
妹はエアロックからたった今外へ出てしまったのだ。
船外カメラで船の外を探したけれど見つからなかった。
外へ出ただけなら宇宙船と同じ速度で移動しているはずだと思って宇宙船の周りもくまなく探した。
最後には僕自身が外へ出て、安全ロープを引っ掛けてカメラの死角になっている所まで探しに行った。
それでも見つからなかった。
妹は外へ出てから船体に足をかけ、蹴ったのだと思う。
お父さんとお母さんが流れて行った方向へ。
あれから妹はお父さんとお母さんを思って毎日泣いていた。
そんな妹を僕は最後には慰めきれなくなって、昨日きつい言葉をかけてしまった事を思い出した。
妹はお父さんとお母さんを追いかけたんだ。
きっと僕がエアロックを操作するのを何十回も見ていて覚えてしまったんだと思う。
あの場に妹をいさせるんじゃなかったと後悔をした。

それから僕は何十日も孤独な日々を過ごした。
いっそ妹と同じように宇宙に身を投げようかとさえ思った。
食料品は有り余るほどあって生きて行くには困らなかったけれど。
ただ一つの話し相手のコンピューターは人格を持っていなかったので人と話している感じはしなかった。
でも必要な事は教えてくれた。
そして、いろいろ話して行くうちに、ある部屋にクローン製造機がある事がわかった。
どうしてそれにもっと早く気が付かなかったんだろう。
気が付いていればお父さんやお母さん、妹やほかの乗組員のクローンを作る事が出来たのに。
ほんの少しだけ細胞を採取していれば。

クローン製造機は特に取り扱いを覚えるまでもなかった。
まだ一度も使われていない様子の真新しい箱から、使い捨ての細胞採取器を一本取り出して僕の指先に当てがい、わずかな痛みを我慢する。
それをそのままクローン製造機に入れると、すべて自動で始まる。
卵型の上部が透明なクローンマシンは聞こえるか聞こえないかぐらいの低い音を立て、わずかな光を放ちながら10日間ほどで停止した。
透明なフードが開くと、そこから裸の僕が出て来た。
基本的な僕の人格と記憶はコンピューターに保存されていてクローンに刷り込まれている。
生まれてすぐでも僕のクローンは僕と同じようにふるまう事が出来た。

それから僕たちはただただ一緒に毎日遊んだ。
新しい遊びを二人で考えて宇宙船がアルファケンタウリとか言う星に着くまで遊び続けようと思った。
しばらくすると遊びはだんだん危険なものに変わって行った。
回転軸から下げた何本ものロープにぶら下がり、よじ登り軸の近くへ行くと無重力になり、体が浮いた。
ポーンと床にめがけて足を蹴ると、急激に重力が増して床に叩きつけられるぎりぎりでロープにつかまったりしてスリルを楽しんだ。
だんだんそれはエスカレートして行き、ある日僕は手を滑らせ、床から飛び出した制御盤の角に頭をぶつけて死んでしまったのだ。

僕のクローンは僕の体をエアロックから宇宙へ放出した。

残った僕のクローンは自分の指に細胞採取器を当ててクローン製造機に入れた。
そして自分のクローンを作ったんだ。
だから僕は元の僕ではないのかもしれない。
でもそんな事はどうでもよくなっていた。
僕のクローンも元の僕も、僕のクローンのクローンも、みんな僕には変わりがないからだ。
僕たちは毎日遊びながら宇宙船が新しい星に着くのを待っていればいいんだ。

かくれんぼをするうちに今まで入った事のない小さなドアを見つけた。
開いたけれどそこは部屋ではなかった。
ドアの裏側が冷凍の収納になっていて、そこは細胞採取器がずらっと並んでいたんだ。
手に取ってみるとそれは細胞を取った後の採取器の様で、それぞれ名前のラベルが貼ってあった。
その中にお父さんとお母さんの名前と、妹の名前もあった。
僕はその妹の分だけを取り出した。

しばらくは僕たち3人だけで遊ぶとしよう。



おわり



書いてすぐにアップしています。
ちょこちょこ直しが入るはずですので、そのつもりで。
元はクローンネタのツイッター小説です。
4枚ほどのショートショートにするつもりが、みるみる長くなってしまいました。
いやいや、久しぶりに小説を書く面白さを感じる事が出来ました。

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by marinegumi | 2012-10-02 16:28 | 掌編小説(新作) | Comments(4)