まほろば (2枚半)

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「まほろば」っていう言葉知ってる?
そうそう、「やまとは国のまほろば」とかなんとか、学校の授業で習ったような、習わないような、でしょ?
まあ、「いいところ」なんていう意味らしいんだけど、この言葉が国語の授業中に出て来たのね。
そうそう、中学校のときだけどね。
先生が「まほろば」って黒板に書いたんだけど、私の後ろにいた吉村っていう男子がね。
「ロボットか?」ってつぶやいたの。
そうそう、「マホロボ」って聞こえたんでしょうね。
それ聞いたとたん、わたしいつものクセで、大げさにずっこけちゃったのね。
「なんだそりゃ!」って声に出しながら。
それを先生に見られて、にらまれちゃってさ。
クラス全体爆笑で、冷や汗かいちゃったよ。
わたし、先生たちの間ではずっとまじめで通ってたのにさ、認識改められちゃうし。
それでね、次の日吉村ったら、その「マホロボ」っていう名前のロボットの絵を描いてきたんだ。
自分のサインまでしてるんだよ。
それで「お前にやるよ」だってさ。
「あんたバカ?」の世界よね。
まあ、むかしそんなことがあったんだけど、最近になって、驚いちゃった。
こないだからテレビで始まった「時空戦士マホロボ」っていうアニメ知ってる?
「マホロボ」?どっかで聞いたような……って思いながら見てると、クレジットに、あの吉村の名前が出てんの。
原作と監督をやってるんだよ。
わたし、目が点になってたと思うわ。
このアニメが始まるかなり前から吉村って、ちまたで人気だったらしいわね。
ロボットアニメのカリスマとか言われてさ。
知らなかったよわたし。
え?
その時もらった絵?
それなのよ!
一応受け取ったけどさ、家帰ってから捨てちゃったの。
今でも持ってればいくらかお金になったのにって思ってさ。
子供にも自慢できたのにな~。
えーい、腹立つ!




おわり



「こえ部」に投稿してたものですが、読み手さんが付かなかったので、早々に取り下げて手直ししてアップしました。
「こえ部」にはしばらくの間、ツイッター小説に少し手を加えただけの物(ツイッター小説プラス)を投稿しようと思います。

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by marinegumi | 2013-02-27 18:39 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

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わたしのおかあさんはわたしが小さなときから、つぎつぎにかわった。
さいしょのおかあさんはとてもやさしかったけれど、体がよわかったのをおぼえている。
わたしをだっこしていてもすぐにつかれてしまい、わたしはひとりでベッドにねていることが多かった。

次のおかあさんはからだが大きくて、おなじように声も大きかった。
ちょっとしたことでも大声を出すのでわたしはおどろいて、泣いてしまうことがよくあった。

三人めのおかあさんはものしずかな人だった。
いつもひとり本をよんでいるのがすきだったし、わたしにもいつもよみきかせてくれた。
それでたくさんのことばをおぼえることができたんだ。

四人めのおかあさんはおとうさんより二十才以上わかい人だった。
わたしをほんとうにかわいがってくれ、まるできょうだいのようにまいにちをすごした。

そして五にんめのおかあさんのかおをまだわたしは見ていない。
「みじゅくじ」だったので、すぐに「ほいくき」というものに入れられたのだ。
そう、わたしはいつも体がよわく、小さなうちに死んでしまう。
いちばんながいきしたのが四才までだ。
こんど生まれかわったらもっともっとながいきして、おかあさんを悲しませないようにしたいといつも思うのだけれど。

かみさまおねがいします。




おわり




保存してある過去のツイッター小説を読み直していると掌編小説になりそうなものがまだまだたくさんありますね。
しかし今やものすごい数です。
ちょっと忘れるとたまってしまい保存するのに時間がかかってしまいます。
こまめにしなくては。


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by marinegumi | 2013-02-26 14:28 | 掌編小説(新作) | Comments(1)

青い傘 (1枚)

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わたしはずっと電話がかかってくるのを待っていた。
雨が降り続く中、雨宿りもせず公園のベンチに座っていたのでもうずぶぬれになっていた。
ポケットに入れた携帯が壊れても知らないからね。
この携帯、防水じゃないんだから。
こっちからかけなくても、傘があるかどうか心配して電話をかけて来ないあんたが悪いんだからね。

雨が急に止んだ。
同時にあたりが青くなった。
青い傘をさしかける彼の笑顔があった。


おわり


これはツイッター小説「私は電話を待っていた」シリーズのひとつを「こえ部」に投稿するために少し長く書き直したものです。
現在3人の方が朗読してくださっています。
いいですねー!アニメ声。

青い傘

それからもうひとつ、同じくツイッター小説「扉が開いた」シリーズのひとつを朗読していただきました。
こちらはツイッターで投稿した時のままです。

扉が開いた

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by marinegumi | 2013-02-25 20:29 | ツイッター小説プラス | Comments(6)

猫を数える (3枚)

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僕は毎日、なかなか眠れない。
かといって薬なんかに頼るのも嫌だ。
それで羊の数を数えることにした。
最初はそんなのまるで漫画じゃんと思っていたのだけれど、やってみるとこれがなかなかいい感じだ。
眠る前に猫のミミに水と餌を用意して、スリッパをそろえて脱ぎ、ベッドに入り、目を閉じて、周りが一面牧草の、なだらかな丘だと想像する。
そしてたくさんの羊たちも。
その羊が僕のベッドの上を飛び越していく。
羊が一匹。羊が二匹。羊が三匹……
いつも50匹まで数えないうちに僕は眠りに落ちている。

ところが最近、だんだんこの方法も効き目がなくなってきた。
羊の数は増える一方で、羊がベッドを飛び越す間隔がバラバラになったり、ヤギが混ざっていたり、羊を犬が追いかけて来たりで気が散ってしまうのだ。
とても眠れない。
とうとう本格的な不眠症になってしまった。
ベッドに入って目を閉じても、もう一面の牧草地を想像できなかった。
羊は一匹もやってこなかった。
それでも何とか目を閉じて眠ろうと努力をする毎日だった。

ある日、目を閉じているはずなのに僕の寝室が見えていた。
そしてなんと、ベッドの上を猫のミミが飛び越したのだ。
規則正しく何度も何度も。
僕はその数を数えた。
ミミが一匹、ミミが二匹、ミミが三匹……
100匹をいくらか過ぎた頃だろうか。
いつの間にか眠っていた。
翌朝、久しぶりに爽快な朝を迎えられた。
こうやって毎晩、だんだん数える数が減って行けばいいのだけれど。
ベッドから降りると、足元にミミが寝ていた。
危なく踏んでしまいそうになった。
それなのにミミは動かなかった。
ミミは死んでいたのだ。
そうだったのだ。
ミミは昨日の夜、僕の想像ではなく、本当にベッドを飛び越していたんだ。
眠れない僕のために。
100回以上続けて力いっぱいベッドを飛び越し続け、そして疲れ果てて死んでしまったのだ。
ミミの死に顔は安らかだった。
ずっと餌をもらっていたお礼ですよと言っているのかもしれない。



おわり



ちょっと「こえ部」で遊んでみようと思って登録して、ツイッター小説を手直ししたものを投稿するつもりだったのが、書いているうちに長くなっちゃいました。
投稿してすぐに浴衣さんが朗読してくだいました。
「猫を数える」 朗読 浴衣さん

リンク先は「まりん組・落し物係」です。
このエキブロにはこえ部のプレイヤーを貼り付けできないみたいですね。
ちょっと不便。

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by marinegumi | 2013-02-24 12:09 | 掌編小説(新作) | Comments(6)

リカを殺した (4枚)

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リカを殺した。
死体の捨て場所に困って体をバラバラにした。
風呂場で、のこぎりを使って。
その死体を何日もかけて、あちこちいろんな場所に捨てに行った。
胴体は人気のない山の道路から斜面に投げた。
右手は深い湖に重りをつけて沈めた。
右足はビルの建築現場のコンクリートが流し込まれる予定の穴に。
左足は仕事場の24時間燃えている焼却炉に放り込んだ。
左手は夜の海、ボートに乗って沖に出てこれも重りをつけて沈めた。
左手の薬指には僕がプレゼントした指輪が月の光で輝いていて、沈むにつれてゆらゆら輝き、見えなくなった。
ボートで海岸に帰ってきたときにこの海にリカと一緒に遊びに来たことを思い出した。
あの頃は本当に仲が良かったなと、しみじみ思い出した。

家に帰るとリカの頭が僕を待っていた。
いや、待っていたのは頭だけではなかった。
その下には捨てたはずの胴体があったのだ。
頭と胴体はきれいにつながっていて、リカは僕を見てにっこりほほ笑んだ。
「おかえりなさい。どこに行ってたの?」
お前の左手を捨てに、あの海まで、なんてとても言えなかった。
「本屋さんによってさ、そのあとちょっと友達と会って……」
コンコンとドアをノックする音がした。
普通なら誰もチャイムを鳴らすはずだけど。
ドアを開けると、リカの右手がゆらゆらと立っていた。
ぴょんぴょんと跳びながらリカの方へ近寄って行き、飛び上がり、胴体にくっついた。
「よかったわ。これでお化粧できるわね」
次の日の夕方。
リカの右足が帰ってきた。
右足はドンドンと大きな音でドアを蹴ったのだ。
これも元通り胴体にくっついた。
「これで何とか動けるわ。けんけんだけどね」
次の日の夕方。
リカの右足が帰ってきた。
帰ってきたときは少し焼け目がついていたが胴体にくっつくと元通りきれいになった。
「これでちゃんと歩けるわ。お買い物にも行けそうね」
買い物に行ってしまった。
次の日の夕方。
リカの左手が帰ってきた。
チャイムが鳴ったので出てみると左手がジャンプしながらボタンを押していた。
少しふやけていたけれど胴体にくっつくと元通りすべすべの肌になった。
「さて、これでお料理だってお掃除だってなんでも不便なく出来るわね」
リカはそう言うと、薬指の指輪をまじまじと見た。
そして楽しそうに鼻歌を歌いながら台所に入って行った。
「あなた、今夜は何がいい?」
台所から声がした。
「そうだなー、煮込みハンバーグとか?」
返事はなく、冷蔵庫を開ける音や、野菜を刻む音が聞こえてきた。
僕はテレビを点けた。

ふと後ろに気配を感じて振り返ろうとした時、背中に激痛がはしった。
そして貫通した出刃包丁の先がTシャツの胸から少し顔を出していた。
「人を殺すなら、もう戻ってこないようにしなくちゃね」
リカの声が聞こえた。




おわり



この作品は、先ほどTome館長さんのブログ「Tome文芸館」の作品「元に戻らない」のコメント欄にコメント代わりにお話を書いていて、思わず長くなってしまったのでこちらにアップすることにしたものです。
昨日に続いて今日もアップ。
まあ、書けるうちは惜しまずにどんどんアップしますからね。

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by marinegumi | 2013-02-23 16:23 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

レモンライム (4枚)

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おしゃれなショットバーの椅子席で彼女は待っていた。
ピンクのお酒を前にして何となく居心地が悪そうにしている。
それは僕も一緒だった。
二人きりでお酒を飲む店に入るのは初めてなのだ。
それも、夕方とは言え外はまだ明るい。
彼女は僕の服がぬれているのに気がついた。
「あ、雨が降って来たの?」
「そうだよ。空が急に薄暗くなってさ、もうすぐ本格的に降りそう」
その時、ウエイトレスがやって来た。
「ご注文はお決まりですか?」
「あ、そうだなー」
そう言いながら僕はメニューを広げた。
その時、雨音が大きくなったと思うと店の窓の外が白く光った。
数秒後にびっくりするような雷の音がした。
彼女もウエイトレスも外を見ている。
歩道に雨の粒が白く跳ねていた。
ウエイトレスが向き直ったので、僕はメニューのチューハイの写真を指差して言った。
「レモンライム」
その時ウエイトレスが「プッ!」と噴き出した。
「ご、ごめんなさい」
そして笑いながら僕の肩をゆるくポン、と叩いて行ってしまった。
彼女の目がマジになった。
「知ってる人?」
と聞いた。
「い、いや。知ってる訳ないだろ?初めての店だし」
「じゃあ、なんであんなに馴れ馴れしいの?」
彼女の顔が見る見る曇って行く。
さっきの夕立の来そうな空のようだ。
本当に訳が解らないので僕はうろたえていた。
その僕の顔を見て彼女は誤解したらしい。
「わたし帰る!」
そう言うといきなり立ち上がり、殆ど飲んでいなかったピンクのお酒を一気に飲み干すと、小走りに出て行ってしまった。
あっけに取られていた僕は気を取り直し、彼女の後を追う事にした。

傘を持っていなかった彼女は駅前のフルーツショップのテントの下で暗くなった空を見上げていた。
そっと近付いてまた走り出さないように彼女の服の袖をつかんだ。
一瞬それを振りほどこうとしたけれど、思い直したのか僕に横顔を見せて目を伏せた。
言い訳を「聞くだけなら聞いてやる」そんな感じの横顔だった。
「ちがうんだよ。あのウエイトレスが笑ったのは」
彼女はもじもじしている。
「いい?僕が飲み物を注文するときに雷が鳴ったろ?僕がメニューを指差して『レモンライム』って言ったのをあのウエイトレスってさ、『レモン雷雨』って聞きちがえて、僕がダジャレを言ったと思ったんだって」
彼女の顔が赤くなった。
「あの人に聞いてきたの?」
もう笑顔だ。
「そうだよ。だって何であんな態度するのか、ぜんぜん訳わかんないんだもん」
彼女はフルーツショップに入るとレモンを3個買った。
二人で並んで歩きだすと、間もなく雨は上がり、空には星が見え始めていた。
彼女は濡れた歩道を走って僕との距離を少し開けた。
そして急に立ち止まり振り返ると、袋の中のレモンを掴み、一つを僕にぶつけた。
「レモン雷雨だ!」
それは僕の胸に当たった。
彼女はあのピンクのお酒を一気に飲んで走ったもんだから酔っているらしい。
足もふらついている。
「痛いだろ。やめろよ!」
二つ目を取り出した。
「レモン雷雨を食らえ!」
二つ目は外れ、三つ目は右手で受け止めた。
ひとつふたつと、僕はレモンを拾い、部屋に帰ってから二人でレモンティーを飲もうかと考えていた。



おわり



ひさびさに、もとツイッター小説ではない物を書いてみました。
と言っても、ツイッター小説を犬の散歩中に考えてると、どんどん長くなったと言うだけの事です。
パソコンの前で考えたとしたら140文字以内になっていたわけですね。

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by marinegumi | 2013-02-22 22:50 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

わたしとダンシリーズ 1

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わたしのボディーガードロボットのダンはその見かけと違ってとても優しい。
ダンはきちんとスーツを着て、いつでもとても紳士的だ。
でも背の高さは190センチもあり、人ごみの中ではとてもよく目立つ。
体型も思い切り肩幅が広く、逆三角形で胸板も分厚い。
悪い奴に威圧感を与えるように作られているんだ。
足が悪くて、車いすを使っていたわたしは今ではダンにお姫様抱っこをしてもらってどこにでも出かけるようになっていた。
ダンが家に来て初めの頃はわたしの車いすを押してくれていたんだけれど、抱っこの方が身軽にどこへでも出かけることが出来るのが分かった。
初めはとても恥ずかしかったけれどね。
今ではお姫様抱っこにふさわしく、お姫様みたいなドレスを着て出かけたりすることもある。
なんだかそういうのを楽しんでいるんだ。

パパがわたしにそんなボディーガードロボットを買ってくれたのはあの事故があってからだった。
わたしが足を悪くしてしまったあの日の船の事故。
わたしはパパのクルーザーで港から10キロほど離れた小さな島にある別荘に行く途中だった。
お友達ロボットのミミと一緒にわたしは甲板で遊んでいた。
どこへ転がるかわからないランダムボールを二人して転がし合い、追いかけて転んだり夢中になっていた。
思わぬ方へ転がったボールを拾い、目を上げると波の向こうに黒いものが見えた。
それはとても大きく、海の中から波しぶきを立ながら出て来たんだ。
まるで海が二つに割れたようだった。
どこかの国の潜水艦だった。
大きな音がしてわたしは訳もわからずに弾き飛ばされ、何かに体を挟まれた。
ロボットのミミはわたしのすぐ目の前で、わたしに手を差し伸べようとしたけれど、横からの波に押し流され、傾いた甲板を滑り落ちて行ってしまった。
気が遠くなりながら私はミミの名前を何度も呼んだ。

わたしはずっと夢を見ていた。
それはミミの夢ばかりだった。
幼い頃からわたしはいつもミミと一緒だった。
ミミは初めの頃はわたしより背が高く、お姉さんのようにわたしに接してくれた。
いろんな遊びに付き合ってくれたし、わたしのしかけるいたずらの犠牲者にもなってくれた。
学校へ行くようになると勉強するときにも一緒に考えてくれた。
ミミはわざと簡単な問題を間違ったりしてわたしに優越感を持たせるようにプログラムされていたのだと思う。
それをいいことにミミが計算を間違うと、罰として顔に落書きをしたりしたこともあった。
いつしかわたしがミミより背が高くなった。
わたしが「ミミ」じゃなくて「ミニ」になっちゃったねと、からかうと悔しそうな表情をする。
その半年後、お父さんがオプションのフットモジュールをミミに取り付けさせて、またわたしより背が高くなったときのミミの得意そうな顔。
ミミには本当に人間と同じような感情があるのだとわたしは疑わなかった。
ミミの製造年月日は保証書に書いてある。
その日はつまりミミの誕生日だ。
だからわたしはその日にミミに贈り物をした。
ゴールドステンレスのブレスレットだ。
右手首にはめてあげると、本当にうれしそうな声で言った。
「ありがとうご……」
「ございますって言っちゃダメ!」

わたしはミミと一緒に泣き笑い、喧嘩もしたり、まるで兄弟のように育って来た。
時間が前後しながら、そんなミミとの思い出を繰り返し夢に見ながらわたしは生死の間をさまよっていた。

やがて病院のベッドの上で目覚め、しばらくしてわたしはもう自分の足では歩けないことを聞かされた。
残った使えない足を切り、今の技術で最高の義足を付けると前と同じように、いやそれよりももっと優れた運動能力が身に着くとお医者さんは言ったけれどパパはそれを認めなかった。
わたしはその義足でもいいと思ったんだけど。

車いすに乗って退院して、しばらくたったある日、パパは新しいロボットを買ってきた。
それが特別仕様のボディーガードロボットだった。
あの時の船の事故でミミが私を助けられなかったというので、それをパパは自分の責任のように思っていたのかもしれない。
何があっても私を守るため、そう思って要人警護用のそのロボットを発注していたんだ。
わたしはそれを見て、あまりの大きさ、ミミとのあまりの違いに、驚いて恐怖さえ感じた。
でもすぐにその振る舞いの優しさに接すると安心して打ち解けた。
ダンという名前はわたしがつけたんだ。

恥ずかしさを乗り越えてお姫様抱っこでどこへでも出かけるようになっていたある日、わたしはダンに海に行きたいと言った。
あの事故があってから、パパもママもわたしをあの島の別荘に連れて行こうとはしなくなった。
それどころか海の近くに行くことさえなくなっていた。
海を遠ざけていたのはわたしも一緒で、テレビなんかで海が映ると、それだけで何となく恐怖を感じた。
でも、ずっと小さな頃から海は好きだった。
ミミとの思い出でも海で遊んだ記憶がいっぱいあった。
だからもう一度自分が海を受け入れることが出来るのかどうか、自分を試してみたかったんだ。
「海へ行きたいの」
そう言うとダンは珍しく10秒ほど考えているふうだった。

ダンの運転する車に乗って私たちは海へやってきた。
ダンがいつもいてくれるようになってからパパは他には誰もいなくても外へ出かけることを許してくれた。
海岸に車を止めて、先に降りたダンはわたしを座席から抱き上げ、いつものお姫様抱っこをしてくれる。
急な防波堤をゆっくりと降り、テトラポットやごつごつした岩の上をダンは2本の脚で、バランスよく、なめらかに、危なっかしさを全然感じさせずにわたしを波打ち際まで運んだ。
ダンの肩に手を回し、抱っこされたままわたしは遠くの水平線を見た。
陽はまだ頭の上の方にある。
見下ろすと音を立てて波が打ち寄せてはまた引いて行く。
もうずいぶん嗅いでいなかった海の香りがわたしを包んだ。
ダンはゆっくりと岩の上を歩いた。
堅い足音がサクサクと音を変えたので見下ろすとダンの足元は砂浜になっている。
ゆっくりゆっくりと景色は変わって行く。
ふと目に見えている景色のはじっこの方に何かが見えた。
何かがキラリと光ったんだ。
訳もわからず心臓がコトリと鳴った。
砂浜が終わりかけている場所。
その向こうはまた岩場が始まるというこちら側に何か機械の残骸のようなものがあり、ダンがその足を運ぶにつれて大きく見えて来る。

もう元の形をとどめていなかったけれど、それはロボットのようだった。
ダンみたいな金属のボディーではなく、人間になるべく似せてつくられたフェイクスキン仕様のロボットだった。
スキンは破れ、中の機械がむき出しになってはいたけれど、その手首にはわたしがミミにあげたブレスレットがあった。
ひどく曲って色も変わっていたけれど、見間違いようはなかった。
それは、あの日海に沈んだお友達ロボットのミミだったんだ。
わたしは泣いた。
ダンの胸に顔を押し付けて思いっきり泣いた。

泣き疲れて眠ってしまったらしい。
わたしは砂浜に腰を下ろしたダンの膝の上で頭をなでられながら目を覚ました。
陽はだいぶ西の方に傾いている。
わたしはダンの腕に捉まり、裸足で砂浜に立った。
そしてそこにあるミミの残骸をじっと見た。
「おかえり、ミミ」



おわり



この作品の続編があります。
「猫のカノン」です。

仕事中に半分ほど書いて、後は家に帰ってから仕上げました。
どれだけ仕事が暇なんですか~(笑)
いえいえちゃんと仕事もしていますよ。
書き上げてすぐアップなので、校正はぼちぼちね。

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by marinegumi | 2013-02-19 21:52 | 掌編小説(新作) | Comments(8)

伝言板 (7枚)

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いつも待ち合わせの場所に選ぶ駅のポストの前。
少し遅れたかなと思いながら駆けつけると、実夏(みか)の姿はなかった。
時計を見ると、わずか三分ほど遅れていただけだった。
安心して駅前を行く人の流れを見渡す。
次々に通り過ぎる人々。
時々こちらへ駆け寄るのはポストに手紙を入れる人だ。

それからしばらく待ち続け、時計を見ると三十分が過ぎていた。
実夏は来ない。
携帯をポケットの中で探ってみるが取り出しはしなかった。
いくらなんでも、もうマンションの部屋は出ているだろう。
実夏はいまどき珍しく携帯を持っていないのだ。

ふと、左側を見ると古びた駅舎の壁に伝言板があるのに気が付いた。
「伝言板」という白い文字もほとんど消えかけている。
何気なく見るとそれが伝言板だとはだれも思わないほどに色あせ、雨に打たれ朽ちかけていた。
しかしその伝言板の伝言を書く所に、一行だけ文字が見えたのだ。
近寄って確かめる。
チョークで書かれたその文字もかすれていて、やっとのことで判別できた。
「少し遅れます 実夏 10時15分」
ちょっと大人びた感じはしたが、確かに実夏の筆跡だと思った。
時計を見る。
書かれている時間は僕がここに着いた時間より20分ほど前だった。
実夏はここへ来ていたのか?
でもなぜ、僕の携帯に電話をすれば済むものをわざわざこんな誰も使わなくなった伝言板なんかに。
その時ふと、町の風景が頼りなく揺らいで見えた。
木の枠の汚れた窓ガラスに映る自分の顔を見た。
思い描いていた記憶の中の自分の顔ではなく、年老いた、しかし紛れもない僕の顔がそこにあった。

僕はタクシーを捕まえ、実夏のマンションまで走らせた。
新築間もないはずだったそのマンションは、町の他の建物と比べても特に古びていた。
外壁にひび割れがたくさん走り、各部屋の郵便受けは、歪んだりさびたりしたままだった。
実夏の部屋の前まで三つの階段を上がってきた。
表札には名前はない。
ドアノブを回すと驚いたことに鍵は掛かっていなかった。
恐る恐るドアを開いて覗き込むと、何もないがらんとした部屋。
窓ガラスが割れ、昨日の雨が吹き込んだ跡があった。
このマンションはすでに廃墟になっていたのだ。

僕はいったい何を思って今日、実夏と待ち合わせをしていたと思い込んでしまったんだろう。
それはもう何十年も昔のことだったというのに。
部屋に入ると、洗面所の壁に鏡が残されていて、これもひび割れていた。
それに映る自分の顔を見つめる。
薄暗がりの中で見る自分の顔は、今の不安定な気持ちそのままに、心臓の鼓動に合わせて若くなったり年老いたり若くなったりを繰り返していた。

僕が……、私が最後に実夏と待ち合わせをしたあの日、いつまで待っても彼女は来なかった。
そうだったのだ。
待ち合わせ場所に着いて、ふと真新しい伝言板を見るとそこに実夏の伝言があった。
「少し遅れます 実夏 10時15分」
それに納得して私は待つことにしたのだ。
それを見ずに待たされたとしたら実夏のマンションに向かったかもしれない。
とうとう会えず、その日の午後、実夏のマンションまでやってくると部屋には表札がなかった。
管理人さんに聞くと、実夏の母親らしい人が引っ越し業者を連れて来て、娘さんを半ば強引に連れて行ってしまった感じだったと聞かされた。
そう言えばと、私は思った。
あの伝言板の文字。
あれは実夏の文字にしては少し大人びて見えた。
たぶん母親が書きに来たのだろう。
なぜ?
おそらく私をあの待ち合わせ場所に少しでも長く留まらせるためだ。
それ以外になぜわざわざあの場所に先に来て伝言を書く必要があったのだ。
私を足止めしておいて、引っ越してしまうまでの時間を稼ぐためだった。
今ならそれがよくわかる。

実夏に無言の、突然の別れを突き付けられ、私はそれから荒れた毎日を送った。
入ったばかりの会社をいつしか辞めてしまい、生活できるぎりぎりのアルバイトしかしなかった。
酒に酔い潰れる毎日だった。
体の調子も悪くなり、まともに物事を考える事も出来なくなって行ったのだ。
日々はもう濃い霧に包まれ、やがて時間さえも定かではなくなって行った。

僕は駅前に来ていた。
そして伝言板に近づいて行った。
その前に立つと、僕はポケットからチョークを取り出した。
それに実夏の字をまねて一行の伝言を書いた。
「少し遅れます 実夏 10時15分」

いつもはひどく気まぐれで曖昧な記憶が、その場面だけは鮮明に脳裏に浮かんだ。
どう言うことなんだ?
あの伝言板の文字を私が書いたと言うのだろうか?
その記憶が確かなら、実夏という私の恋人さえ、本当はいなかったのか。
みんな私の妄想だったということなのか。

そんなことはもうどうでもよくなった。
私は私の夢想の世界と現実の間を、時空を超えて彷徨う旅人なのかもしれない。





おわり




仕事中に書いて、仕事中にアップできるときは本当に幸せです(笑)

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by marinegumi | 2013-02-16 18:32 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

雨の音楽 (3枚)

その日、雨は朝から降り続いていた。
ベッドの上の少年は長い間、高熱に浮かされていた。
彼の目はうつろで、白い天井を見上げるともなく見上げている。
やがてまぶたは閉じられたけれど、少年はその耳で、全身全霊を傾けて雨の音を聞いていた。
周りにいる大人たちは誰もそれに気が付くはずもない。


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少年は雨音を音楽として聞いていた。
耳に入る雨が地面に落ちる音、地面にできた水たまりで撥ねる音。
木々の枝の無数の緑の葉をたたく音や小さな花をなでて行く音。
人々の暮らす町の色とりどりの様々な形の屋根をぬらし、ノックをしてゆく音。
屋根から樋に集まり、流れて行くその音まで、少年の耳には聞こえていた。
病院の窓ガラスを打つ雨は流れて、少年のほほにその影を落としている。
少年は感じていた。
雨の音によって窓の外の世界を。
そこに暮らす人々の息遣いや、その思いまで。
喜びや悲しみや、愛情や憎しみや、思いやりやひがみ、安らぎそして死の予感まで。
全てを感じ、それを音楽として受け止めているのだ。
少年のやせた両手のそれぞれの指はわずかに動き、彼のその最後の夢の中で、慣れ親しんだピアノを弾いていたのだ。


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その曲は少年の作品だった。
少年が自分のその開花する事のなかった才能で作り上げている、壮大なスケールを持った雨のピアノ曲だ。
どんな大作曲家にも書けなかった、人を感動させずにはおかない偉大な音楽だった。
それを今、少年は即興で作り出していたのだ。
しかしそれは、その曲は、その偉大な芸術作品は、少年の頭の中でしか聞こえてはいない。
少年がもしも意識を取り戻し、元気になり、もう一度ピアノの前に座れたなら譜面に書き起こされたはずの音楽。
それが人々の前で演奏される事があれば、必ず誰もが喝さいを送った事だろう。
しかし今、少年は様々な医療機器を体に着けられ、横たわったままだった。
心電図も、脳波計も、彼が懸命に演奏しているその曲を響かせはしなかった。
それどころか波形は次第に弱まり、やがて数人の大人たちが見守る中、1本の横線を描くだけになってしまった。


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少年の死とともに世界に降る雨も上がり、その演奏を終えたようだった。





おわり




この作品はツイッターでやっている「31文字の小説」の一つを元にしています。

 熱にうかされ 雨の音 ピアノの音色に聞く君は 人知れず逝く天才作曲家


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by marinegumi | 2013-02-13 18:03 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

ピアノ (5枚)

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部屋にはピアノがあった。
わたしはそのピアノがとても好きだった。
でもわたしにはピアノでまともに弾ける曲は一曲もない。
それはお母さんのピアノだった。
わたしが幼かった頃には毎日のようにお母さんはそれを聞かせてくれた。
ピアノが好きというよりもピアノを聴いているのが好きだった。
またはピアノを弾いてくれるお母さんが好きだったんだ。
それはわたしがお母さんを一日中独り占めできた一番幸せだった頃。
部屋にはピアノの他に暖炉があった。
暖炉の上には写真立てがたくさん飾ってあり、そのどれがも幸せそうな笑顔であふれていた。

暖炉の前にはふかふかのソファーがある。
家族はそのソファーで幸せな時間を過ごした。
わたしは遊び疲れるとそのソファーで眠ってしまう事がよくあった。
だからわたしはベッドで眠る時間よりソファーの上にいる時間の方が長いねとお父さんは笑った。
部屋の隅には木馬があった。
それと並んで木で出来たベビーベッド。
それは私が使っていた物だった。
わたしに弟か妹が出来たらまた使うからねと、お母さんは少し寂しそうに笑って言った。

そう、そのベビーベッドの近くにはいつも飼い犬のココがいた。
ココはスコッチテリアでココアの色をしていた。
そこがお気に入りなのかココはわたしたちが相手になるのをやめると必ずその場所でスタンバイした。
部屋には二つ窓がある。
南側の大きな明り取りの窓と、西側の小さな出窓だ。
大きな窓には蔦が這っていて、夏は日よけになる。
その窓からは気持ちのいい落葉樹の林が見えた。
西側の出窓には……

そこで思い出が途切れる。
西側のあの小さな出窓から見えた物。
何が見えたと言うのだろう。
西側には森があったはずだ。
深い鬱蒼とした森で、西日を完全に遮っていた。
どちらの窓にもお母さんの好きなカナリア色のカーテンが掛けられ、出窓には同じカナリア色のガーベラの鉢植えがあった。
いや、そんなことではない。
ある日、その出窓のガラスのむこうに見えたのは。

わたしはソファーに横になってお母さんの弾くピアノを聞いていた。
わたしが一番好きだったリストの「愛の夢」。
それがいつもと違って悲しそうに聞こえていた。
聞きながらウトウトしていた。
ふと目が覚めると、お母さんがいなかった。
目をこすりながら部屋を見渡す。
ココが外へ出たそうにドアをがりがり引っ掻いている。
わたしはなんとなく出窓に近寄るとそこから外をのぞいた。
お母さんがまるで宇宙遊泳のようにそこに浮かんでいた。
夕暮の風で、右に左に揺れていた。

わたしは今、この部屋で独りぼっちだ。
何もかもわたしの幼い頃と変わらない部屋。
もうこの部屋だけがわたしの全世界なのかもしれない。
この部屋だけがあればいい。
もうひとつ言えば、このピアノさえあれば何もいらない。
ただお母さんにピアノを教わらなかった事が心残りだ。

この部屋に暮らしていながらわたしは西側の小さな出窓が怖かった。
長い間近づけないでいた。
でもいつも窓はわたしを惹きつけるのだった。
そこから外を見る誘惑に襲われる。
そしてとうとうその誘惑に負けてしまった。
わたしは震えながらその窓の前に立つ。
ずっと閉じていたカナリア色のカーテンを両側に開く。
でも、いつも見えていたものはもう見えなかった。
窓ガラスに焼きついてしまっているように、いつも見えてしまうあの場面はもう見えなかった。
ただ漆黒の闇の中に星が輝いていた。
まだ午前中だったはずなのに、窓の向こうは見える限りが星空だった。
その瞬間に気がつく。
もうこの部屋は存在していないのだと。
そしてわたしも同じように存在をやめてしまったのだと。
もう悲しまなくてもよくなったんだと。

宇宙空間に一台のピアノがゆっくりと回転しながら浮かんでいるのが見えるばかりだった。



おわり



ふむふむ。
ツイッター小説を書き伸ばして、5枚ぐらいと言うのが一番書きやすい感じですね。


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by marinegumi | 2013-02-06 17:45 | 掌編小説(新作) | Comments(4)