「ほっ」と。キャンペーン

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そのタイムマシンは卵の形をしていた。

わたしが草原を歩いているときに足元に丸い影が映ったんだ。
目を上げると、風でさらさらと草の穂が揺れている少し上に、ふわりとそれは浮かんでいた。
その大きな真っ白い卵は音もなく横半分にひび割れ、パカンと開き、中からお母さんが出て来た。
わたしにはその卵がタイムマシンだということがなぜかわかった。
おかあさんはにっこりとほほ笑み、わたしにハンカチで包んだものを差し出した。
「はい、お弁当よ。忘れちゃダメじゃない」
そう言ってお母さんは黄色いオシロイバナのようにほほ笑んだ。
すぐにタイムマシンは元通りに閉じると風に吹き消されるようにゆらりと見えなくなってしまった。
わたしはあまりに突然のことに一言も声を出せなかったんだ。

草原にそのまま座って、お弁当を開いた。
いろんなおかずの中の卵焼きを一つ頬(ほう)ばる。
おいしかった。
食べていると卵焼きがしょっぱくなった。
涙が知らないうちにこぼれていたんだ。

あれは亡くなるずっと前の若い頃のお母さんだった。
何もしゃべれなかったのが悔(くや)しくてまた涙が出た。
泣きながらお弁当をただ食べ続けた。
あとにして来たはるか遠い地球のことを思いながら。




おわり



「こえ部」で朗読していただきました。
タイムマシンと卵焼き 深海☆umiさん
「こえ部」と同時投稿です。
というか、「こえ部」に投稿して、ちょっと考えてブログにもという感じです。

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by marinegumi | 2013-03-31 17:50 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

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私は窓から外を眺めている。
今日の空はどんよりと昏(くら)い紫色だ。
その紫色の雲からクロロフォルムの雨が降っている。
雨に煙ってぼんやり見えている物はまるで森のように見える。
でもそれは森ではなく、あまりに大きくてどこが頭なのかも定かではない動物なのだ。
明日にはどこかへ移動していることだろう。

この店の窓ガラスは雲母によく似たもので出来ている。
もちろん雲母ではない。
手触りは水晶を薄くスライスした感じだ。

テーブルの向こうでは暖炉が勢い良く燃えている。
焼(く)べているのは魚だ。
体の90パーセント以上が油だと言う川で幾らでも捕れる細長い魚。
それを私は勝手にオイルサーディンと呼んでいる。
間違っても食用にはならないけれど。
ここではそれが冬の間の主な燃料になる。
本物のオイルサーディンを私は決して好きではなかった。
でも、今ここにオイルサーディンの缶詰があれば喜んで食べるだろう。

私はカウンターに腰掛け、味はビールに近いが見かけはミルクという酒を飲んでいる。
おつまみの手羽先の骨を、ロボットのバーテンの頭に時々ぶつけながら。
金属の頭にそれが当たると「カーン」と気持ちのいい音がする。
バーテンはそのたびに骨をかがんで拾う。
手羽先。
うん、これだけは手羽先に形も味も似ている。
でもこれはこのままの形で海に棲んでいるのだという。

だいぶ酔いの回ってきた私の足元には犬に似た生き物がいる。
丸くなって眠っているとまるで犬のように見える。
そのまま眠っていろよと私は思う。
お前の歩く姿は見たくない。

私のほかにも客はいる。
そう、人間に似ているけれども人間じゃない奴ら。
あちこちから聞こえる会話は英語に聞こえるがよく聞くと一言も意味が解らない。

「おい」と私はバーテンを呼んだ。
「音楽をかけてくれ」
ロボットのバーテンは棚の数十枚のアナログレコードの中の一枚を取り出し、レコードプレーヤーに乗せた。
針の落ちる音、針がレコードをこする音。
そして始まったのはビートルズの「ヘイ・ジュード」だ。
これだけは正真正銘のビートルズだ。

バーテンの後ろにあるモニター画面にはリアルタイムの映像が映っている。
遠い遠い地球を天体望遠鏡でとらえた映像だ。
今はもうだれも住んでいない懐かしい地球がこの星の地平線から顔を出し始めたところだった。
ビートルズをバックに、わが故郷の地球が登ってくる。

私は涙を流していた。
それは涙に似てはいるがしょっぱくはない。
この私も人間のような生き物に変わって行くのだろう。




おわり




言うまでもなくツイッター小説を元に書いたものです。
元のツイッター小説はこれです ↓


外ではアンモニアの雨が降っている。暖炉ではオイルサーディンが勢いよく燃えている。足元には犬に似た生き物がまどろんでいる。古いアナログプレーヤーがビートルズを鳴らし続けているのを聞きながら誰も住んでいない地球を眺め今夜もワインの様なお酒を飲んでいる。

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by marinegumi | 2013-03-29 18:02 | 掌編小説(新作) | Comments(0)

今日という世界

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今日という日が終わると 今日という世界も滅びる
それはとても美しい世界だった
美しく愛に満ちた世界だった
でも世界は その陰に悲しみを隠してもいた
ほんのわずかの憎悪も孕んでいた
その憎悪が広がり 世界を蝕み
今こうして滅んで行こうとしている
それはしかたがないこと
世界は滅びなければ新しい世界は始まらない
そう思いながら眠りにつく
悲しみを一人抱きしめて

目が覚めると見知らぬ新しい世界がある
見知らぬ街 見知らぬ人々
わたしはこの世界の言葉を覚えることから始める


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


さてさて、昨日、小説を2つ投稿しました。
一つは郵送で、一つはメールで。
どちらも5枚のショートショートです。
どこに投稿したかは判る人には判るという感じですね(笑)
良い結果が出ればいいのですが。

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by marinegumi | 2013-03-28 18:40 | | Comments(0)

記憶 (1枚)

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テレビから聞こえたその声を覚えていた。
聞いているうちに涙さえにじんできた。
その声は私の心の中まで入り込み、私の魂を優しく包んだ。
毎日毎日すぐそばで聞いていた懐かしい声。
外が吹雪で、凍えそうな冬でも。
野獣が吠え、真っ暗で恐怖に震える夜にも。
男たちが棲みかを守ろうと、外で戦っている時でも。
私はその声を聞くと安心した。
どんなに空腹でも、どんなに怖くても、その声を聞くと安らいだ。
あの声を忘れるはずがない。

「今お聞きいただいたのが、頭がい骨の化石に肉付けをして復元したネアンデルタール人の声でした」

私の体に太古の昔から流れている血の中の記憶だ。



おわり



ちょっと短めの物を。
今月中に2本ほど小説を投稿しようと進めていますので。
締め切りが近くならないと腰を上げない悪い癖は昔からですね。

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by marinegumi | 2013-03-26 01:37 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

人喰いの森 (3枚)

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悪魔が棲むと言う、人喰いの森と呼ばれる森にキノコを採りに出かける相談がまとまった。
この地に越して来て二年目の秋だった。
私と弟と隣家の主人の三人でだ。
この隣の家族もほぼ同じ頃にこの田舎に越して来て、他に近所もないことから家族同様に付き合っていた。
キノコ採り当日の朝、女たちは心配したが今どき人喰い森だなんてバカバカしいと男たちの意見は一致した。
大の大人が三人もいて尻込みしたとなったら笑い物だ。
私達が森の入口近くまで歩いて行く途中、地元の農家の人々がちらちらとこっちを見るのが目に付いた。

それは道があるようなないような深い森だった。
なるほど、これでは迷子になりやすいのかもしれない。
子供たちだけでは入るのは危険そうだ。
歩くうちに、時々下草に覆われた地面の穴が口を開けているのを見つけた。
まるでうまくカムフラージュされた落とし穴のようだった。
なるほど、こんな所に落ちれば一人では這い上がれないかもしれない。
人喰いと呼ばれるのはこの事かもしれない。
人喰い穴と言うわけだ。
人があまり入らないのも頷(うなず)けた。
しかし、それだけにキノコはたくさん採れた。

一時間も歩かないうちに森の至る所にキノコが生えているのが目に付きだした。
一応私はキノコ図鑑を持参していた。
明らかな毒キノコは避けて採る事が出来たと思う。
3人とも持って行ったカゴが一杯になった。

家に帰って来たその夜、キノコパーティーを開く事にした。
キノコに詳しい友人を呼んで、さらに毒キノコが混ざっていないかちゃんと調べてもらった。
するとわずかに3本が毒キノコで、特に毒性が強いのが1本だけあったらしい。
しかし100本以上の中のわずか3本だった。

みんなわいわい楽しくキノコ料理に舌鼓を打っている。
仲間たちも女や子供たちもみんな楽しそうだった。
私は彼らの様子を見ながら思い出していた。
あの森にはやはり悪魔がいたんだと。
その悪魔は今、私の中にいる。
あの毒性の強いキノコは、1本で20人以上が殺せると言う。




おわり



この作品は、例によってTome館長さんのブログ記事を読んで、それから連想したお話をコメント欄に書いていたんですが、長くなってしまってアップを中止して、ワードで改めて書いたものです。
元記事はこちらのお話になります。

Tome文芸館より 「森の鬼ども」

いやいやTome館長さんの作品にはいつも触発されっぱなしですね。
ありがとうございました。
そう言えばTome館長さんの所で書いてそのまま日の目を見ていないお話もいくつかありますね。

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by marinegumi | 2013-03-20 21:00 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

転校生

「こえ部」で朗読していただきました。
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「転校生」こちらです
音楽、効果音まで入って、完成度の高さにびっくり。



転校生 (再掲載)


うちのクラス、5年3組に転校生が来た。
わたしのとなりの席が空いていたのでそこに座ることになったんだけど。
それが、なんかちょっと変わった男の子なんだよね。
どこが変わっているのかと言われても答えられないんだな。
何となく変わってるんだ。
妙に人なつっこくてさ。
放課後、わたしが教室を出ると一緒に帰ろうって言うんだよ。
いきなり初日からだよ。
まあまあ顔は可愛いかったので、いいかなってことで一緒に帰ったの。
ところがさ、家の前まで来るとさ。
「じゃあね。また明日」って言って、引き返していくじゃん?
なにそれ?あんたの家、こっち方面じゃなかったのかよ!って突っ込む相手ももういなくなってるし。
家の前で、しばし呆然というやつね。

三日後の日曜日に、その子が遊びに来た。
それもアポなしだよ。
しかも朝の6時だよ!
みんな寝てたわよそりゃ。
寝ぼけまなこのわたしの部屋に上がり込んでさ、お母さんが入れたお茶を飲んだり、お菓子を食べたり。
小脇にかかえて何を持ってきてるのかと思ったらアルバムだったのね。
それを見せるからわたしのアルバムも出して見せっこしようって言う事らしいの。
それでさ、見て行くと写真に写ってる風景が何となく日本の雰囲気と違うんだ。
「どっか、外国に住んでたの?」
そうわたしが聞くと。「そうだよ」と言ってにこにこしてるだけ。
そのアルバムの中の一枚に、学校の校門らしいところで撮った写真があったんだ。
「あ、これきみの入学式のときの写真?すごい桜吹雪だね」
「そだよ。入学式」
「でもさー、このあんたの顔、なんかひきつってるね」
「だって、真冬だもん。ぼくたちの星は1月が入学式なんだ。それ雪が降ってるの。大雪だったよ。入学式」
「ぼくたちの星って、あんた……まさか」
「そだよ。お父さんの任務でね」
「に…任務って。それって…」
その時カギをかけていたはずの窓がガラリと開いた。
そしてその窓から体にぴったりした上下つなぎの服を着た男の人が入って来たんだ。
そう、私の部屋って二階にあるのにさ。
男の人は入って来ると、転校生のそばまできてその頭をピシャンと叩いたんだ。
そして私の方に向きながらポケットから小さなペンライトみたいなものを取り出したの。
それが一瞬、私の目の前で、ものすごい光を出したんだ。

男の子が見せてくれたアルバムはどこの家にもあるような変わり映えのしない写真ばかりだった。
どこから転校してきたのか知らないけどさ、ここと同じような街みたいだね。
それから1時間半ほどどうでもいいような話をすると男の子は帰って行った。
「また来るね」と言いながら歩いて行くのは、あいつの家があるのと違う方向だった。
うーん。
何となく変な感じが残ったの。
難しい言葉でそう言うのあったでしょ。
何って言ったかなー
いじょう…、じゃなくて。
そうそう、『違和感』ね。
「イ~、わかんねー」と言う感じかな。
それでさ、何となくあの男の子、またすぐに引っ越して行っちゃうような予感がしたんだ。
今はまだ学校に来てるんだけどね。
また突然にいなくなっちゃうような気がするんだよ。

そうなると、ちょっとさみしいかな。
だってあの子、けっこうかわいい顔してるんだもん。




おわり




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by marinegumi | 2013-03-19 01:10 | 朗読 | Comments(6)

夢図書館 (8枚)

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夢図書館と名付けられた図書館がある。
夢図書館という名前ではあるが、夢の中にある図書館というわけではない。
それは現実に存在するのだ。
しかし、所番地は定かではない。
草原にポツンと建っていたと言う人もあれば、都会の路地の奥にあると言う人もいる。
海辺の砂浜に建ち、その外壁が波に洗われているのを見た人もいる。
森の奥深く迷い込んだ人が見かけたという話もある。
いずれにせよ、あなたが偶然そこへ行けたなら、自分の夢を手に取る事も出来る。
そう、あなたがいつか見たけれど忘れてしまっている夢も、そこでは書物となり本棚に収蔵されている。
もちろん見知らぬ名も知らぬ人の夢や、歴史上の有名人の夢までもそろっているはずなのだ。

夢図書館が近所の公園の奥に現れた夏のある日。
あなたは一冊の本を借りて来た。
それには悲しい夢ばかりが納められていた。
あなたはひとつひとつの夢を読みふけり、時間を忘れる。
見知らぬ人の夢の物語に入り込み、その悲しさにひたり、心ふるえ、惑わされ、用意したハンカチはいつの間にか涙ですっかり濡れてしまっている。
あなたの心はすっかり冷え切り、窓の外の日差しさえ寒々と感じられ、ショールを羽織る。
その時、掛け時計が5時を打つ。
あんなに分厚かった本なのに、不思議なことにちょうど読み終わっている。
そしてあなたの手から本は消えてしまうのだ。
同時にあなたは悲しみから解放され、また夏の熱気の中にいるのに気が付く。

夢図書館のエレベーターには不思議な階数表示がされている。
1階(ノンレム睡眠)
2階(ノンレム睡眠)
3階(ノンレム睡眠)
4階(ノンレム睡眠)
5階(レム睡眠)
そして本の所蔵数は圧倒的に5階に多い。
その階数表示よりも更に不思議な事は、そのエレベーターの動きだ。
あなたは5階へ行こうと思い、「5階(レム睡眠)」のボタンを押す。
するとエレベーターは、あるはずのない地下へと下降し、気がつくと明らかに横に動いていたりする。
次には上昇するものの、いきなり4階のランプが点いたり3階だったり、どうもまともに階数通りには動かないのだ。
それも毎回動き方がの順番が違う。
でもまあ心配はいらない。
間違いなく押したボタンの階にいつかは到着する。
たまには2~3日後になる事もあるのだけれど。

夢図書館では月に一度、特別展が開催される。
今月の展示はあなたの目の前にあるポスターの通り「眠りのない夢 特別展」だ。
基本的に夢図書館の蔵書は人々が眠りの中で見た夢を書物化したものだ。
それが設立当初の大きな目的だった。
しかしそれだけでは来館者の数が頭打ちだと言う。
月一のペースで特別展なる物が催されるようだ。
今回の「眠りのない夢 特別展」では現実での夢を展示している。
つまり、あなたもいつか抱いた事のある現実世界での夢だ。
アイドルの夢。
ダンサーの夢。
科学者になりたいと願う夢、などなど。
どちらも夢と名づけられてはいるが、それは明らかに違うものだと言うのがこの特別展ではよりよく理解できる事だろう。

夢図書館には、あなたが見てそのまま忘れてしまった夢もちゃんとある。
たとえばこれはあなたが大好きな彼に告白した夢だ。
記憶にないかもしれないが、あなたはそんな夢を見たはずだ。
あなたはその夢を見た次の日に、現実の世界で本当に彼に告白をした。
そしてそれは成功し、今あなたは毎日が幸せでいっぱいなのだ。
夢のことは忘れてしまったけれど、夢の中のその告白がちゃんとリハーサルと自信になったと言う事なのだ。
いつも夢を全く覚えていないあなたのような人ために、夢図書館では夢羅針盤を貸し出している。
これを持って眠れば目覚めた後でも夢が全て記憶に残るのだ。
しかし、その夢の記憶の量は膨大な物なので、すばやく書物の形にしなければ現実の記憶との境があやふやになってしまう危険性がある。
もし借りてみようと思われたのなら、くれぐれも取扱説明書の熟読をお勧めする。

夢図書館は人々が見た夢を収蔵するのがコンセプトなので、その中に漫画作品はないはずだ。
もしあったとすれば誰かが見た夢の中の漫画作品なのでオリジナルではない。
ストーリーはもとより、どことなくキャラクターの顔が違っていたり、性格が変わっていたりするはずだ。
ところが、なぜか「ハチミツとクローバー」は全巻揃っている。
どうやら司書の一人がファンだったらしく、私物を並べて貸し出しているらしい。
厳密にいえば、これはルール違反と言えなくもない。
しかし館長以下誰もが黙認しているのは、みんながその作品のファンだからかもしれない。

夢図書館には結末のない夢の断片も多く収蔵されている。
これは書物にするにはあまりに断片的で、とるに足らない物ばかりだ。
しかし一応、文書として綴られ保存だけはされているが、貸し出される事はないのが普通なのだ。
夢図書館では最近、こういったものを活用するために音声として録音して夢電波に乗せて発信するザービスを始めた。
夢を見る能力のない人に、よりよい夢を見るきっかけとして利用してもらうためだ。
「続きをどうぞ見てください」と言う事である。

夢図書館はある日忽然と、あなたの街に現れるかもしれない。
あなたが天体望遠鏡で月の表面を観察している時に、夢図書館をそこに発見するかもしれない。
デート中、高速を走る車の窓の外を通り過ぎて行くかもしれない。
寝坊をした朝、駅へと急ぐあなたは夢図書館の前を気がつかずに通過しているかもしれない。
でもいつかきっと夢図書館の自動ドアをくぐる時が来る。
それはたぶんあなたが夢図書館を本当に必要としている時なのだ。
夢図書館はあなたを待っている。

そして、世界中の人々の夢を納めるために夢図書館の建物は毎日毎日大きくなって行っている。




おわり



連作ツイッター小説を元に膨らませて書いたものです。
特にオチのないただただ夢図書館の紹介のような、お話のような、それこそ夢のような作品ですね。

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by marinegumi | 2013-03-14 22:22 | 掌編小説(新作) | Comments(6)

猫のカノン (13枚)

わたしとダンシリーズ 2

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猫のカノンにウイルス感染症予防のワクチンを接種するというので、屋敷に獣医さんがやって来た。
ママが手配したらしい。
でも肝心の時にママはいないし、カノンも獣医さんの気配を察したかどこかへ雲隠れだ。
前に一度、この獣医さんには同じワクチン接種のときに痛い目にあったのを覚えているんだと思う。
わたしはいつものように、ダンにお姫様抱っこされて広い庭を散々探し回った。
「カノン。どこいったの?」
何度も呼びかけた。
「カノン。帰ってらっしゃい。おやつがあるわよ」
何度も呼んでいると、屋敷の方でも声がした。
「カノン。もういいわよ。先生お帰りになったから」と、ママの声だ。
わたしが玄関に着くとママは買い物帰りの様子で、まだ荷物をポーチに置きっぱなしのままだった。
「先生はワクチンの注射を置いてらしたわよ。ダンのプログラムに動物へのワクチン接種も組み込まれているんですって。あとはダンさんにお任せしますって」
そう話しているときにカノンが玄関に入ってきた。
「カノンったら。あんたってホントに現金よね」そうわたしが言うと、ママはしかめっ面をした。
「カノン?あなたってまだ猫ちゃんに自分の名前を付けてるの?」
わたしはペロッと舌を出した。
「てへ。ばれちゃった?」
「『ばれちゃった』じゃないわよ。違う名前にしなさいってあれほど言ってるのに。ねえ、カノン。確実にあなたよりこの猫ちゃんの方が早くに死んじゃうでしょ?その時に私たちはカノンが死んだって悲しむわけ?自分でもそんなのいやだと思わないの」
「はいはい、わかりました」
「あなたの、はいはいは怪しいわね」
「わかったわよ。ちゃんと別の名前を付けると誓います!」
そんなわたし達のやり取りをよそに、ダンはわたしを椅子に座らせるとカノンの方を見た。
ゆっくりかがみ込みながら左手を差し出すとカノンはその掌に飛び乗った。
その上で丸くなろうとしていたカノンは急に飛び上がり、「フギャ~!」と大きく鳴いた。
いつの間にかダンはもう片方の手に注射器を隠し持っていて、素早く接種したんだ。
今の人間用の注射器はまったく痛みがないのだけれど、動物用はまだまだ痛い物らしい。
カノンは猛スピードで部屋の隅の梯子段をかけ上がり、ロフトに作られた自分のおに閉じこもってしまった。
「やれやれ、これで次のワクチン接種の時期にはダンも警戒されるでしょうね」
そう言いながらママは荷物を片付け始めた。

その日の午後、わたしは家庭教師の授業も上の空だった。
今朝、わたしの携帯に、けがをする前、学校に行ってた頃のクラスメートのルカからメールが入っていたんだ。
「秘密のプレゼントがある。5時にミモザ公園へ来てくれない?」
ルカはおとなしい男の子で、学校ではよく遊んだけれど、行かなくなってからは一度も会ったことはない。
家までやってきて話し相手になってくれるほど積極的な子じゃなかった。
普通なら放っておくんだけれど、ルカはけっこうイケメンの原石だったし、「秘密の」というのが気になって出かけてみようと思った。

ダンにお姫様抱っこされてゆらゆら揺られながら公園に続く気持ちのいい道を歩いていた。
青空に浮かぶ白い雲と、あたりの木々の緑色が溶け込んでいるみたいなさわやかな風。
うっとりとしていると勉強の疲れか、すこし眠ってしまった。

ミモザ公園はその名前の通りミモザの木が多い。
ミモザが花開く2月ごろには公園中が黄色に染まるのだけれど、今は鮮やかな緑にあふれていた。
ダンはわたしを抱っこしたままで一本のミモザの大木の下で止まった。
ダンがその木に少しもたれかかると、木が揺れて頭の上で葉擦れの音がざわざわ響いた。
時間はちょうど5時になった。
ルカは来ない。
もう一度メールを見直したけれど、時間に間違いはない。
日にちは指定してないのだからメールを送信した今日だということだと思うし。
その時、なんでルカがわたしのメアドを知ってるのかと思った。
クラスの女子に聞いたんだと思っていたんだけど、内気なあの子がそんなことするのかなと、ふと疑問に思ってしまった。
20分ほど待ったけれどルカは来ない。
ミモザ公園は薄暗くなってきていた。
気温もだいぶ下がって来たけれどダンの体温の(ダンの体の表面に内蔵されたフィルムヒーターだけど)おかげで寒くはなかった。
「ダン、もう帰りましょうか?」
そう私が言った時、公園の奥から一匹の黒い犬が走って来るのが見えた。
そしてまた別の犬がもう一匹遠くからやっぱりこっちへ向かって走って来る。
体中真っ黒の大きな犬だ。
どちらもまるでそっくりで見分けがつかない。
また別の方から三匹目の犬が姿を見せた。
三匹は近くまで走ってくると私たちを取り囲むようにダンの足元で止まった。
すっかり暗くなった公園で、ぼうと目を光らせている犬たちはまるで悪魔の化身のようにも思えた。
ダンはその犬たちを無視して歩き出そうとした。
その瞬間一匹の犬はダンの足にとびかかり噛みついた。
すると、はいていたズボンがブスブスと煙を出した。
ダンはもう片方の足で犬をけ飛ばした。
地面にたたきつけられても、犬は鳴き声ひとつあげることもなく、起き上がった。
ロボット?
そうロボットに違いない。
ダンの足の表面には溶接の痕のように金属が溶けた小さなかたまりが出来ていた。
今度は三匹が同時にダンの足にとびかかった。
噛みつくとバチバチと火花が出て、嫌な金属の焼けるにおいがした。
ダンの特殊合金の足がいつまで耐えてくれるのか、心配になりだした。
ダンはわたしを両手で抱えているので両手が自由にならないので犬たちを十分に攻撃が出来ない。
「ダン!わたしを下して」
そう言うとダンは犬に噛みつかれたままで移動して私をベンチに座らせた。
ロボットなら絶対に人間を襲うことはないはずだ。
ロボット工学三原則が、今どんなところで作られるロボットにも適用されている。
だけど、ロボットがロボットを襲わせる機能は組み込める。
ダンにしてもそうだった。
ダンが足から犬を引きはがし地面や木に何度も叩き付けるうちに犬は一匹、また一匹と動かなくなっていった。
その時私が座っていたベンチの後ろから数人分の腕が伸び、わたしの口をふさぎ、体を抱え上げたんだ。
ダンは後ろ向きでわたしを見ていなかった。
目の前が真っ暗になった。
何か布袋のようなものをかぶせられたらしい。
そして車の座席に押し込められたようで、車はタイヤを軋ませて急発進をした。
しばらく車は走った。
ポケットの中から携帯を取り上げられた。
気配で窓から放り投げられたのが分かった。
何人か人が乗っているはずだけれど誰も一言もしゃべらなかった。
わたしは闇の中で恐怖に震えながらでもダンを信じていたので、どこか安心していた。
きっときっと助けに来てくれると。

車が急にスピードを落とした。
タイヤがものすごい音を出している。
車のドアが開いて男たちがバラバラと出ていくのが分かった。
わたしは自分で、頭にかぶせられていた布袋を外してリアウインドウから後ろを見るとダンがいた。
この車のバンパーをつかんで引き留めていたんだ。
後輪が持ち上がって前輪だけが走り続けようと回転していたけれど、音と煙が出るだけで全然進んでいない。
最後まで残っていた運転手も諦めてエンジンを切って逃げ出した。
車をそっと下すとダンはその男へとダッシュした。
そして、傷つけないようにやさしく確保した時に、警察のパトカーが何台もやってくるのが見えた。
降りて来た刑事らしい人はとてもハンサムだった。
「大丈夫ですか?」
というその声もすてきだった。
刑事さんに手を取られ、抱えられながらわたしはドキドキしていた。
きっと顔が赤くなっているだろうと思うともっと恥ずかしくなった。
「奴らは4人組だったみたいですが、一人は私たちが、もう一人はあなたのロボットが捕まえました。残りの奴らも捕まえます。時間の問題ですよ」
わたしはダンを見た。
ズボンはズタズタで足の外装ははがれ、あちこち骨格や配線がむき出しになっていた。
男を警官に引き渡して、近づいてくるダンは少しびっこをひいている。
わたしはダンに抱っこをしてもらいながら反省していた。
さっき一瞬、ダンとあの刑事さんを比べて、『どっちがいいかな』なんて考えていたことを。
わたしのためにこんなみすぼらしくなってしまったダン。
「すぐに直してもらうからね、ダン」
そう言うとわたしの方に顔を向けて、かすかにうなずいた。
小型モーターのかすかな響きが心地よかった。

三日ほど後にあの刑事さんが屋敷にやって来た。
テーブルを囲んで座って、パパとママも一緒に話を聞いている。
あいつらはみんな捕まったらしい。
実行犯以外に3人がいて全員で7人だったそうだ。
新手の、いろんなロボットを使った犯罪集団だということで、初仕事がわたしの誘拐だったらしい。
アジトからは他にも多数の手造りのロボットが押収されたという。
手造りと言っても頭脳になるロボット用AIは市販のものを使うしかない。
それにはすべてロボット工学三原則が組み込まれているので、殺人ロボットまでは作ることは出来ない。

ダンは修理に出されているので今日は久しぶりに車いすだった。
猫のカノンがそんなわたしのひざに飛び乗った。
知らない人がいるので怖がっているんだ。
「大丈夫だよ、カノン。この刑事さんは優しいからね」
そう頭をなでながら言うとママが反応した。
「あなたねえ、違う名前を付けなさいって言ったでしょ。あなたが付けないんなら私が考えてあげましょうか?」
「いいよいいよ、自分で考えるってば」
そう言いながらわたしは心の中で舌を出していた。
カノン、お前はカノンだよ。
猫のカノン。

わたしは人間のカノン。





おわり




「わたしとダン」シリーズの2話目です。
2話目と言うか、ごく短いエピソードはツイッター小説で毎日の様に書いていたんですよね。
1話目の「わたしのロボットたち」はツイッター小説が元になっていますが、この作品はオリジナルです。

ところで「twnovelお題ったー」と言う物があります。
これは自分の名前を検索窓に入れて、「診断する」ボタンを押すと、お題が三つ出て、それに沿ってツイッター小説を書くと言うものです。
診断メーカーの変わり種と言う感じです。
例えば今、僕の名前を入れてやってみますね。

海野久実は『黎明』と『愛』、登場人物が『守る』というお題でツイノベを書いてみて下さい。

となるわけですね。
このお題を踏まえた上で、ツイッター小説を書くわけです。
このお題は日替わりなので、その日のうちは何度やっても同じお題が出ます。
名前を変えてやると、もちろん違うお題。

これを毎日やってらっしゃる純桜さんと言う方がいまして、それに乗っかって、僕も同じお題で毎日書いていました。
ところが先日の体調不良で、出来なかったのをいい機会に三日分のお題を全部突っ込んで書いてやろうじゃないのと思いついた結果がこの作品です。
そのお題と言うのが。

『メール』と『城』 主人公が『痛がる』
『楽観』と『選択』主人公が『誓う』
『化身』と『遠く』 主人公が『耐える』

なわけでして、このお話にはそれが全部入っています。
これだけお題があれば、書き始める時にはストーリーは全く無くて、お題に導かれるままにストーリーが出来て行ったような気がします。

ところで、この小説の主人公は12歳前後の少女をイメージしていまして、その少女の一人称ですからあまり難解な言葉と言うのは使いにくいわけですね。
そんな時は易しい言葉に直したりはしています。
作中に出て来る九つのお題に対応した部分は色を着けています。

  痛がる⇒痛い
  楽観⇒安心していた
  選択⇒どっちがいいかな

作中ではそんな感じで言い代えていますよ。
「twnovelお題ったー」に、どうぞ皆さんも挑戦してみてください。

画像は三枚の写真を合成して作っています。
ちなみに猫の種類はエジプト原産の「アビシニアン」と言います。

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by marinegumi | 2013-03-11 20:40 | 短編小説(新作) | Comments(2)

黒猫 (2枚)

a0152009_14565540.jpg


古い、レンガ造りのビルとビルの間の路地に入り込み、立小便をした。
用を足し終えて道路に置いた鞄を持ち上げると、その重みがずしっと来た。
思わず頬が緩む。
俺はそのまま狭い路地を歩いて行く。
「まだだぞ。家に帰るまでまだこれは終わっちゃいない」
そう自分に言い聞かせた。
ふと、前を見ると一匹の黒猫が左側のビルから出てきて、俺の方を見ていた。
背筋が少し涼しくなった。
俺は極端に迷信深いのだ。
黒猫なんて、これ以上不吉なものはない。
不吉のチャンピオン。
最もポピュラーな不吉のアイテム。
絵にかいたような不吉。
不吉と言えばまず黒猫というぐらいのものだ。
その黒猫がまさか、このタイミングで俺の前を横切るなんてことが…
黒猫はゆっくりと道路を横切り始めた。
俺はとっさに振り返って奴が横切ってしまうまでに反対側に歩き出した。
どうだ、これで不運が回避できるだろう。
と、前から歩いてくる人影が見えた。
広い道路の街灯の明かりで逆光だったが、シルエットで判った。
そいつは警官だったのだ。
「おいお前。こっちへ来い」
俺の顔をくそ明るいLEDライトで照らしながらその警官は言った。
「こんなところで何をやってる?」

そうかそういうことだったんだ。
俺は黒猫が道路を3分の1ほど横切ったのを見た。
だから立小便の罰金を取られはしたものの、銀行強盗はばれなかったというわけだ。



おわり



同日投稿、2本目。
これもまあ、似たようなアイデアがあるかもしれませんが、黒猫が中途半端に横切るというのがミソですね。

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by marinegumi | 2013-03-10 15:00 | 掌編小説(新作) | Comments(8)

a0152009_14134377.jpg


ガラクタの機械の寄せ集めみたいなものが突然目の前に現れた。
我が家の居間のど真ん中にだ。
その機械は居間の天井よりもわずかに背が高く、天井がメリッと盛り上がっている。
部屋の真ん中ではなかったので買ったばかりのLED照明は何とか無事だった。
扉らしい物が開くと一人の若い男が顔を出した。
「初めまして。お元気ですか?」と、その男は言った。
なんかなれなれしい。
「誰ですか?」
「誰ですかって、やだなー水臭い。顔。似てるでしょ僕たち」
「そういえばそんな気もするが……いや、それよりあんた。いったいなんでこんな物を部屋の中に」
「やだなーあんたって言いぐさ。僕はあなたの玄孫(やしゃご)ですよ。ひいひいお爺ちゃん」
「ひい?なんだそりゃ」
「さっきタイムマシンを発明したので会いに来たんですよ。ずっと徹夜で、やっと完成させてうれしくてさ。初めてのジャンプがお爺ちゃんの所なんです。喜んでくれなくちゃ」
「しかしだなーお爺ちゃんって言われても、子供もまだ小学…」
「ヘークション!あれ?いけね。風邪ひいちゃったかな。なんせ、徹夜徹夜でさ。まあ、元の時代に帰れば風邪なんて、3分で治っちゃいます。それじゃーひいひいお爺ちゃん、また来ますね」
その機械はふっと消えてなくなり、天井の板の破片がぱらぱらと落ちてきた。
あっという間の出来事だった。
「ゆ…、夢だよな」

全く未知の新型インフルエンザウイルスのために、その年、世界中で950万人が死んだ



おわり



このオチって、けっこう書かれているのかどうか、検索してみましたがそれらしいものが見つからなかったのでまあ、いいかと(笑)

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by marinegumi | 2013-03-10 14:18 | 掌編小説(新作) | Comments(0)