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ハロウィーンの夜。
僕は坂道を登って行く。
石畳の坂道だ。
両脇の家々はレンガ造りで、とても古い街並み。
それぞれの家の窓には暖かな明かりが灯り、家の前には思い思いのハロウィーンの飾りが置かれている。
カボチャで作ったランタンが多い。
「ジャック・オー・ランタン」
愛すべきハロウィーンの主役のお化けだ。
このカボチャ頭に体を作り黒いコートを着せている家もある。
中にろうそくの灯が入り明々と不気味な笑顔を浮かべている物もあり、まだ黒い虚ろな目をしている物もあり、今まさに家人が火を入れようとしている物もある。

その坂道を登り切った所にはちょっとした広場がある。
誰だかよくわからない男の銅像が、石の台座の上に鎮座しているその周りにベンチが4か所ほど配置された石畳の広場だ。
その銅像の前にコンクリートブロックと木の板で、急ごしらえの3段ほどの棚が作られている。
そして棚の上にはこれでもかと言うほどたくさんのジャック・オー・ランタンが並べられているのだ。
全てに灯が入り、今僕がいる場所、かなり坂の下の方からでもそれはよく目立つ。
坂を上がり、近づくにつれてカボチャ頭の表情まで見えて来る。
そのカボチャたちの後ろには、古びた板に文字が書かれた看板らしいものが見える。
この国の言葉で、おそらく「ジャック・オー・ランタン・コンテスト」とでも書いてあるのだろうか。
その文字は見なれたアルファベットではない。
坂の下から上がって来る人々、両側の家のドアからぱらぱらと姿を見せる人達が、それぞれその広場を目指している。
上の広場では、はしゃいでいる子供たちの声がする。
広場にはたくさんの男の子、女の子があふれていた。
走り回る彼らをたしなめる母親の声も混じっている。
異国の万聖節の雰囲気にどっぷりとつかり、僕は酔ったようになって歩いていた。
その時、一人の男の子がカボチャ頭を並べている棚にぶつかった。
ジャック・オー・ランタンがいっせいに投げ出された。
片側のコンクリートブロックが外れて棚が崩壊したのだ。
男の子はうまく体をかわし、怪我はなかった。、
カボチャ頭たちはその場にとどまるものもあったが、多くが坂道を転がり出した。
中に火を灯したまま、ぶきみな、愛らしい、悲しげな、恐ろしい、それぞれの様々な表情を浮かべたカボチャたちが転がって行く。
坂道の人々はそれぞれに驚きの声を上げ、それを見守っている。
子供たちは喜んでそれを目で追う。
小さな子供の中には泣きだす子もいる。
ゴロンゴロンと音を立てて坂を転げ落ちるカボチャたち。
あるものは家のドアにぶつかって止まり、あるものは街灯の柱にぶつかって壊れる。
またあるものは壊れた拍子に蝋燭の炎が紙くずに燃え移り時ならぬ小さな消火騒ぎが起きる。
ほぼ半数ぐらいが坂の下までたどり着き、漁港の海水の中に落ちた。
そしていくつかは海に落ちても、まだ灯りは消えずその不気味な笑顔を浮かべたまま漂うのだった。
まるで夢を見ているような光景だった。

日本へ帰って来てから5年後のハロウィーンの日。
その思い出の国のその街のホームページを何の気なく見ていて驚いた。
ハロウィーンの夜に行われるこの街の風習として、「『ジャック・オー・ランタン転がし』が有名である」という記事があったのだ。
そしてあの石畳を転がるたくさんのジャック・オー・ランタンの写真もあった。
思わず楽しくなってしまった。
そうなのか。
あれをきっかけに毎年カボチャ頭転がしが行われるようになったと言うわけだ。
そう、あの光景は忘れられない。
幻想的で、エキサイティングで、夢の中にいるようだったのだ。
その街に新しい風習が生まれた瞬間に、僕が現場に立ち合ったんだと思うと笑いがこみあげて来た。

ホームページをもう少し見ていると、一人の少年の写真。
『カボチャ転がしのきっかけを作ったジャック君』
それはあの日、カボチャの棚をひっくり返した幼かった男の子の、5年後の姿だった。
偶然にもジャックと言う名前だったその少年は、いかにもやんちゃそうな笑顔で写真に収まっていた。



おわり



ただ今、ツイッターの僕のアカウントはハロウィーン真っ盛りです。
毎日のようにハロウィーンネタでツイノベを書いていますよ。
その中の一本を掌編小説にしてみました。
架空の外国の街の紀行小説みたいな感じですね。

少し書き足して原稿用紙4枚から5枚にしました。

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by marinegumi | 2013-10-30 13:11 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

鏡台 (1枚)

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お母さんの鏡台が窓からの西日を受けて、畳の上に光を投げている。
ひどく寒いこの部屋の、心まで寒い私にはそこだけが暖かく見えた。
近づいて光の中へ手をやると確かに本当に暖かいのだ。
その暖かさはお母さんの暖かさだった。
お母さんの笑顔がそこにあるような暖かさだった。
夕日は傾き、その光は畳の上を移動しながら薄くなって行った。
それにつれて暖かさも薄らいで行く。

すっかりその光が消え、部屋が暗くなるまで私は畳の上に右手を置いたままだった。
ほんのわずかな暖かさが残っていた。
手を上げるとその暖かさも逃げる。
部屋の寒さにその右手は痛みさえ感じた。

真っ暗な部屋を見渡した。
明日からは一人きりで生きて行くんだと言う事を改めて思い出していた。



おわり



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by marinegumi | 2013-10-23 17:40 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

置き手紙 (5枚)

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翔くん、お帰り! お仕事、いつも遅くまでご苦労様。
今日はおいしいお弁当を買ってきたからね。レンジで600Wだと4分30秒だよ。コンビニ弁当でも一緒に食べれたらおいしいのにね。ごめんなさい。

お帰りなさい、翔くん。今日もお仕事ご苦労様。
今日はちゃんとお料理したんだよ。レンジでチンして食べてね。「あたため」キーだけでいいよ。わたし先に一人で食べたけどおいしかった。でもさ、食べてるうちに悲しくなって来ちゃった。いっしょに食べたらもっとおいしいだろうなーなんて考えちゃって。
こんなすれちがいの生活、なんだかいやだね。いつもいっしょにいたいのに。

翔くん、お帰りなさい。
おかずは冷蔵庫に入ってます。いつものようにレンジの「あたため」を押すだけでいいからね。
そんなことよりさ、今日ね、大家さんが部屋に入ってきたんだよ。
鍵かけてるのに合鍵で入ってきちゃって。ううん、何も変なことしないよ。全部の部屋のお掃除をしてくれてさ、何も言わずに出ていっちゃった。あたしのお掃除ぎらいがばれちゃってる?(笑) 「わしのアパートを汚すんじゃない」って感じなのかなぁ?

お仕事ご苦労様です。
今日は翔くんの大好きな肉じゃがを初めて作ったよ。本を読んでさ、一度失敗してさ、でもおいしく出来たと思う。
今日も一人で食べながら泣いてたんだよ。翔くんがこの肉じゃがをさ、おいしそうに食べている顔を思い浮かべてるとね、涙が止まんなくなっちゃったんだよ。

翔。あんた達、何やってるの?
ちゃんとした生活してるのかどうかと思って出てきてみると、女の子が書いた置き手紙があるじゃないの。お母さんに内緒で同棲でも始めたってわけ? いつまでこんな汚いアパートにいるつもり?
もう故郷に帰ってきなさい。お父さんがちゃんとした働き口を見つけてあるから。いい? これを見たらちゃんと連絡するんですよ。
用事でこれから何軒か回って、明日にでも帰る前にもう一度来ます。  静子

翔くんお帰り。
おかずは冷蔵庫にあります。チンしてね。
それより、今日さ、女の人が入ってきたんだよ、部屋に。たぶんあれって翔くんのお母さんでしょ? わたし怖くってさ、ずっとかくれてたんだ。なんだかおっかない顔してたんだもん。

翔。お前はどうにかしちゃったの? また女の子の書いたような置き手紙があったけど冷蔵庫の中には何にも入ってないじゃない。
あの置き手紙、あなたが自分で書いたんでしょ? 違う? よく見るとあなたの字によく似てるわ。
一人暮らしで恋人も出来ないし、寂しいのは解ります。でもね、架空の恋人を想像して自分で書いたあんな置き手紙を仕事帰りに読んで暖かい気持ちになれるの? そんなの空しいだけでしょ?もうやめなさい。そんな生活をいつまでも続けちゃダメ。これを読んだら、ちゃんと連絡をして来なさいね。
部屋に電話はなくても携帯ぐらい持ってるでしょ? 番号も教えること。  静子

受信メール Toかずや
13/10/28
Fromしんご
《タイトル》 怖え~!
今からお前んとこ行くから泊めてくんない?
こないだ俺が契約したアパート、知ってるだろ? そこにさっき荷物を持って引っ越してきたんだけどさ、鍵を開けて中に入ると手紙みたいなのが部屋にいっぱい散らかってるんだよな。そう、シャメも送ったろ? 読めたか? 置き手紙って言うのかな。あれって怖いよな。誰も住んでいないはずの、きれいに掃除されてたはずのアパートの部屋に、一週間後に来て見るとあんな手紙がどっさり散らばってるなんてさ。
大家さんに言うと、「ああ、やっぱり」みたいな言い方するじゃん。
違約金も何も取らずに契約解除してくれたしさ。
俺って霊感あるんだよな。女が二人と若い男の霊が……。いやいや見えないけどさ、いる感じがするんだよな。
これから引っ越し荷物と一緒にお前んちに行くぜ。一晩だけ泊めてくれよな。




おわり



わわわ。
気がつけば10月はまだ一回も更新しないままでしたね。
これではいかん。
しかしやる気が起きない。
なんて思っていると、公募ガイド誌の「小説の虎の穴」に応募していたこの作品「置き手紙」が佳作に入っていました。
第20回小説の虎の穴 佳作発表
応募2回目にして佳作はまずまずですね。
この回のテーマは「書簡体小説」
普通の手紙では面白くないかなと思って置き手紙で考えました。
清水先生の選評がなかったので次回はもらえるように頑張ります。

発表は先にブログの方で見て、その後「公募ガイド」の発表ページで再確認したのですが、上の段の作者名を見ると。
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僕の名前がない!?
一瞬うろたえました。
そして発見。
何と、僕の名前と作品名が入れ替わっていたんです。
置き手紙さんが「海野久実」と言う作品を書いたの?
これはたぶん、となりの「夕焼け雲。」さんと言う作品名だか、ペンネームだか迷ってしまうペンネームの人がいらっしゃったのでその流れで間違っちゃったんだと想像しています。
面白いやら、ちょっと残念やら。

今回、ツイッターで知り合いのくにさきたすくさんの作品も佳作に選ばれています。
もう一歩で最優秀賞と言う事でした。
頑張ってらっしゃいますね。


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by marinegumi | 2013-10-09 15:34 | 掌編小説(新作) | Comments(15)