物忘れ (2枚)

a0152009_18133336.jpg

最近は物忘れが激しくてしょうがない。
今朝も目が覚めてから半分無意識のうちに着替え、顔を洗って食事を済ませたようだがその記憶がない。
とりあえず玄関を出てはみたもののどこへ行くのだったかが判らないのだ。
会社勤めをしていたような気もするが、そうすると駅まで歩いて電車に乗るのだろうか。
体が覚えているかもしれないと思ってしばらくそのまま歩いた。

そのうちにふと自分はもう定年を迎えて家にずっといたような気もしてきた。
これは毎日の日課の散歩なんだろうか?
またしばらく歩いて行くうちに自分は学生だったような気もしてきた。
歩いて行ける学校と言う事なら中学校?
まさか小学校なんて言う事はないだろう。
そうか、最近は老人大学などと言う物もある。
これは町の公民館にでも行く道のりなのかもしれない。
そうやって足が向くままにまたしばらく歩いた。

しかし全く困ったものだ。
こんなにもなにも思い出せないと言うのは異常なのではないだろうか?
よくテレビなどで耳にするアルツハイマーとか言うやつではないのか。
そうだ、ひょっとして自分は病院へ行く途中なのだろうか。
無意識に運んでいる足は迷わずに何処かを目指しているのだ。

ある店先で足が止まった。
そこは子供相手の駄菓子屋のようだった。
見覚えのあるその店の女の人が声をかけた。
「あら、ケンちゃんどうしたの?今日は幼稚園行かないの?」



おわり



気がつけば小説を書く気がしないまま日が過ぎて行きますね。
ブログを回ってコメントもほとんどしてませんね。
なんかちょっと億劫なのです。
ツイッター小説だけはなんとか続いていますが、その中の一つを長くしてみました。

ランキング参加してます。
クリックであなたに幸運が(笑)
    ↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
[PR]
by marinegumi | 2014-02-26 18:18 | 掌編小説(新作) | Comments(6)

a0152009_1729382.jpg

交通量の多い道路際を一体のロボットが歩いていた。
そのロボットのボディーは一般的な量産型だ。
ただ塗装が少し明るめだった。
大きく違っていたのはその頭部だ。
それは見た目では材質が柔らかいのか堅いのかが定かではない。
つるりとした光沢を持った白い丸い顔。
美しい曲線のいわゆる『卵型』をした頭部だった。
それは剥きたてのゆで卵のようで目鼻はない。
後ろ頭に18桁の英数字が刻印されている。
街でさまざまな仕事に就いているのは厳つい顔のあるロボットだ。
卵型の特異な頭部を持った機体は見ない。
ロボットの名前や識別番号は胸のプレートに書かれる。
そのロボットの胸には、ただ「O.B」の二文字があった。
仮にそのロボットをO・Bと呼ぶことにする。

車の行き交う道路の路側帯にO・Bは立ち止まる。
車の流れがひと時途絶えると道路へ踏み出した。
そしてたった今、車に撥ねられ息絶えた一匹の子犬を抱き上げた。
その子犬の体からはまだポタポタと血が滴っている。
首輪はまだ真新しい。
どこかの飼い犬が逃げ出したのだろうか。
「何をやってるんだ?あのロボット」
通りかかった2,3人の子供達の内の一人が言った。
「死んだ犬を抱いてるぞ」
別の子供が石を投げた。
その石はO・Bの頭部に当たり、カーンと澄んだ音を立てた。

O・Bはリサイクル工場に隣接する廃材置き場にやって来た。
そこには車や建設機械のスクラップの山がある。
また別の場所には作業用ロボットや護衛用ロボットなどの残骸が大雑把に分けて積み上げられていた。
O・Bはその片隅の地面に両手で穴を掘った。
犬の死骸をそこに納めると土をかけた。
鉄板の切れ端を手で簡単に曲げて、十字架を作って立てる。
その時、大粒の雨が降り出した。
乾いた土を濡らし、O・Bの体を叩く。
O・Bは立ち上がり、犬の墓を見下ろしている。
雨が彼の頭部から顔のあたりをいく筋も流れた。

O・Bの背中に衝撃があり、彼は少しのけぞった。
振り向くと分解された電子レンジの部品が転がっていた。
かなり重量があるそれがO・Bの背中に当り、小さな傷を付けたのだ。
投げたのはこのスクラップ置き場の作業員の男だった。
「気味の悪いのっぺらぼうめ!どこのロボットだ?」
男はまた別の鉄の塊を投げた。
それはO・Bの頭に当たり、彼は一瞬よろめいた。
「野良犬なら聞いた事はあるがな。野良ロボは初耳だぜ」
O・Bはゆっくりと歩いてそこを立ち去ろうとした。
「おっと、そうはさせないぞ。ひょっとしてこのスクラップに紛れていたのが、たまたま死んでなかったってことかもな?それならお前は会社の所有物じゃないか」
O・Bは走り出した。

間もなく男の運転する作業車が逃げるO・Bの前に立ち塞がった。
作業車のクレーンの先に大きな鉄球がぶら下がっている。
スクラップの山の間を逃げるO・Bめがけて勢いをつけた鉄球が落ちた。
それはO・Bの足に当たり、そのままスクラップの山にへこみを作る。
O・Bは地面に倒れ込んだ。
散らばったスクラップに足を取られながら起き上がり、走り出そうとしたO・Bを、再び鉄球が襲った。
鉄の塊をぶつけられても傷つかなかったO・Bの頭部だったが、巨大な鉄球の重量にはひとたまりもなかった。
白く美しかった頭部の曲線は歪み、真っ白い表面はひび割れた。
そして中から黄色いジェル状の液体があふれ、大量の湯気が上がった。
男は作業車から降りるとO・Bのそばに立つ。
そして無表情でその体を蹴飛ばした。
「何だこいつは。気味の悪いゆで卵野郎め」
流れ出た液体は降り続く雨に薄められて行く。

そのジェル状の黄色い液体こそがO・Bの頭脳だった。
それにはO・Bの記憶が刻まれていた。
車に轢かれた子犬を見た時の悲しみ。
子供に石を投げられた怒り。
男に追いかけられる恐怖。
そしてそれ以前の記憶も確かにあった。
生まれてから今までのすべての記憶が。
O・Bはまだ僅かに考える事が出来た。
『O・B。それはわたしの名前ではない』
有機頭脳。オーガニック・ブレインのO・Bだ。
O・Bは自分の生みの親の技術者の顔を思い出していた。
彼の語る声も記憶の一部にあった。
『電子回路の頭脳のロボットに、人間に近い感情を持たせるには限界がある。新たな発想で、有機物で作った人工知能を開発した』
それがO・Bだった。
『それがわたし。わたしにはまだ名前がなかった。仮にO・Bと呼ばれていた』
ある日、彼は研究所を脱走した。
自身の心の望むままに。
『ただ、自由が欲しか……』
雨と共に地面にしみ込んで行くその記憶は、もう研究室のモニターで再生されることはない。



おわり



公募ガイド「第24回小説の虎の穴」に応募して佳作だった作品です。
テーマは「ハードボイルド文体」
けっこう難しかったようで、応募数も少なく68編だったかな。
選者の清水先生によると全体的に出来が悪かったそうです。
作品はこちらでも読めます。公募ガイド発表ブログ
ここ「まりん組・図書係」に載せているのは応募したものに少々手を加えています。
読み比べるのも一興かと。
縦書きの原稿をそのまま横書きにすると、なんか読みにくいんですよね。
そのへんも手を加えてなるべく読みやすくしてあります。

今回は、いとうりんさんと、くにさきたすくさんも同じく佳作になりました。
皆さんそれぞれ面白い作品ですね。

ランキング参加してます。
クリックであなたに幸運が(笑)
    ↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
[PR]
by marinegumi | 2014-02-09 17:30 | 掌編小説(新作) | Comments(8)

何かがいる (3枚)

a0152009_13462386.jpg

最近、わたしの部屋に何かの気配がする。
そうね。
何かとても小さなものの気配。
ここは新しいワンルームマンションだし、一人暮らしを始めたばかりで家具もみんな新しい。
そろそろ一年が過ぎる頃だけど、まだまだ部屋も汚れずきれいに片付いている。
だから、ネズミとかゴキブリとかそんな汚らしいものじゃないはずだ。
でもでも、何かがいるような気がする。

ある日、勤めから帰ってきて、部屋に入るとなんだかいい匂いがしていることがある。
お隣が料理を作っているのかと思ったりしたけれど、換気扇のあるベランダに出るとその匂いはしなくなるんだ。
またある日、こんなこともあった。
何か小さな物が床の上に落ちていた。
拾い上げると、それは布で出来ているようで、よくよく見ると小さな靴下だった。
そうね、りかちゃん人形が履くにもちょっと小さすぎるぐらいの靴下。
小さいけれどすごく細かく編まれていてよく出来ていた。
それを捨てずに引き出しにしまっておいたんだけど2~3日後に見ると無くなってたんだ。

それであちこち部屋中探してみることにした。
すると今度は洋服ダンスの裏から小さなパンが見つかった。
ほんとに小さな干からびたパン。
そしてお風呂場の浴槽のかげにビンがあった。
それはずっと前に食べて不燃物の日に出したはずのイクラの空きビンだった。
中には水が入っていた。

毎日少しずつあちこち調べて行くと、必ず何かしらそんなものが出てくる。
ちいさなお皿。
ちいさな石鹸。
ちいさなズボン。
そんなものが次々出て来るんだけど、ふと気が付くと、いつかしらその何かの気配自体を感じなくなってしまっていた。

ある日、勤めから帰って来ても前は感じていた何かがいる気配がないんだ。
ブーンと冷蔵庫のコンプレッサーの音だけが響き、真っ暗な部屋だ。
ふと気になって冷蔵庫の裏を覗いてみた。
そこには何と、小さなベッドがあった。
シーツは真っ白でちゃんとベッドメイキングもされ、枕も置かれていた。
やっぱりいるんだ。
何かが。
冷蔵庫の後ろは暖かいからここで眠っていたんだろうか?
うるさくはないんだろうか?

台所のスリッパを履こうとして、ふと何か嫌なにおいを感じた。
スリッパのある床が少しどす黒く汚れている。
恐る恐るスリッパを持ち上げて裏返した。
そこには、ぺちゃんこにつぶれて干からびた小人がへばりついていた。



おわり




ツイッター小説を元にして書いております。

わーい。
りんさんの情報によると僕の作品が「小説虎の穴」で佳作になったようです。
この作品ではありませんよ。
テーマは「ハードボイルド文体」
タイトルは…、えーと何だったっけ(笑)
ロボット物のSF作品でしたが。
これから「公募ガイド」を買いに行って確かめて見ます。
「小説虎の穴発表ブログ」もまだ更新されてないですね。
またここでも紹介します。

でもねえ、入選したいですよね。

あ!
賞品の図書券がもう届いてる。

ランキング参加してます。
クリックであなたに幸運が(笑)
    ↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
[PR]
by marinegumi | 2014-02-08 13:47 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

a0152009_1001016.jpg

関西も雪模様。
昨日の晩から降り続いています。
北海道の親戚の住むニセコは快晴だそうですけどね。
今日は仕事も開店休業状態です。
[PR]
by marinegumi | 2014-02-08 09:50 | ケータイからこんにちは | Comments(0)

雛人形 (7枚)

a0152009_1754399.jpg

京子の雛人形は豪華な七段飾りだ。
三人官女や五人囃子、右大臣と左大臣、三人の仕丁と、ちゃんと揃っている。
お籠や牛車、道具類も細かい細工で小さい頃は見ていて飽きなかった。
金色の屏風の前に並んで座る雄雛と雌雛はその衣装も特に豪華で、表情は限りなく優しかった。
それは祖母が京子が生まれて初節句に買ってくれたものだった。

雛人形は二月に入ると床の間に飾られる。
それを箱から出して飾り付けるのは父親の仕事だ。
父親は初めてその人形が来た日、人形屋さんが飾り付けたのを写真に撮っていた。
そして毎年その写真を見ながら同じように並べて行くのだ。
京子は物心がついた頃から、父親が雛人形を出して行くのを見るのが好きだった。
スチール製の雛段を組み立て、その上に毛せんを掛け、洗濯バサミで仮止めをして人形や道具を並べて行く。
一番初めに金屏風。
その両側に雪洞(ぼんぼり)を置く。
お雛様とお内裏様が仲良く並ぶと、それだけでため息が出た。
なんと神秘的な静かな、そして優しい表情。
一時間近くかけて並べ終わると雪洞に灯をともす。
そのスイッチを入れるのだけは幼い京子の仕事だった。
お雛様は四月が終わる頃まで飾られ、また大事に仕舞われた。
「せっかく時間をかけて飾るんだから三月だけじゃもったいないでしょ」
母親がよくそう言っていた。
京子は三月の雛祭りが終わると急速に興味を失ってしまっていたのだけれど、雛壇のない床の間はがらんと広く見え、少し寂しさを感じるのだった。

ある年の雛祭りを少し過ぎた頃に友達の由香の家に遊びに行ったことがあった。
彼女の家の床の間には雛人形がなかった。
「あれ?由香ちゃんち、お雛様は?」と、思わず聞いた。
「お雛様出してたよ。昨日片付けちゃったけど」
「そうなの?うちは四月まで出してるよ。三月だけじゃもったいないってお母さんが言うから」
「そうだね。うちのはお内裏様とお雛様だけだから簡単に出したり片付けたり出来るからさ」

その由香も二年前に結婚をして、遠い街で暮らしていた。
今年の年賀状には生れたばかりの赤ん坊の写真があった。
そして由香の直筆で気になることが書かれていた。
「京子はまだ結婚はしないのかな?そろそろいい人見つけないとね。お雛様を長いこと出したままだと結婚遅れちゃうってさ(笑)」
え?っと思った。
迷信には違いないだろうけれどなぜか気になった。
ネットで調べたり、近所のおばさんに聞いたりしても昔から結構言われている迷信のようだった。
両親はそんな迷信がある事を知らないのだろうかと、ちょっと不思議に、そして少々不満を感じた。
京子にはつい最近まで恋人がいたのだ。
亮介と言う名前の小さな商事会社の社員だったが、京子はたぶんこの人と結婚をするだろうと感じていたのだが、彼の方から別れ話が出てしまった。
海外の支社に転勤が決まったのだと言う。
「ちょっと政情が不安定な国だからな。お前を連れては行けない。いつ帰れるかもわからないしな」
彼は京子の目も見ずにそう言った。

それから何年も過ぎた。
何人かの恋人は出来たものの結婚までには至らない恋ばかりが通り過ぎた。
その間に高校時代の友人たちは次々に結婚をして、それぞれに家庭を持って行くのだった。

それからも毎年二月に雛人形は飾られ、4月が終わる頃にやっと片付けられると言う事が繰り返されていた。
嬉々としてそれを毎年出し入れする父親には聞けなかった。
どうして雛祭りが終わってすぐに片付けないのかと。
お雛様は雛祭りが終わるとすぐに片づけないとお嫁に行けなくなっちゃうって言うよと教えてやりたかった。

ある年の春。
父親が突然に心不全で亡くなった。
葬式を終わり、涙にくれる日々が過ぎ、やっと悲しみが癒えかけた頃、雛祭りを迎えた。
京子が大人になってからは特に雛祭りを祝うこともなくなったがお雛様だけはずっと飾られていたのだ。
床の間には生前の父親が最後に飾った雛壇があった。
あくる日の三月四日に京子は自分で雛人形を片づけることにした。
押入れから箱を出して雛壇の前に持って来るのを見て、母親は何か言いかけたが声には出さなかった。

片づけ方は父親の手順を見て覚えていたので迷う事はなかった。
殆ど箱に納め終わり、あとはお雛様を入れると終わりだった。
一番上の段からお雛様を持ち上げた時、そのふところに何かが挟まっているのに京子は気がついた。
小さな折りたたんだ紙片のようだ。
取り出して広げてみる。
それには父親の字で何やら書かれていたのだ。
「キョウコガ、イツマデモイッショニイテクレルヨウニ」
ふと、背中が寒くなった。
片仮名の文章が少し不気味だったのだ。
続きがあった。
「ヨメニハ、イカセタクナイ」

あくる日には、昨日はちょっと怖かった父親の気持ちも理解していた。
京子は一人っ子だったから本当に手放したくなかったのだろうと思うと少しいじらしくも思えて来るのだった。
玄関のチャイムが鳴った。
出て行く母親の足音と声が聞こえた。
しばらくして京子の部屋へ母親が声をかけた。
「京子。お客さまよ」
ドアを開けると母親の後ろには亮介が立っていた。
それは京子が38歳の春のことだった。




おわり




実にひさびさに、ツイッター小説を元にしていない作品を書きました。
これはお休みだった今朝、布団の中でうとうとしている時に出来たお話です。
ストーリーがほぼ出来上がってからまた少し寝てしまって、最後の結末は夢の中で考えたんですね。
目が覚めて「なるほど!そう言うことね」と声を出してしまいました。
面白い体験でしたね。

ランキング参加してます。
クリックであなたに幸運が(笑)
    ↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
[PR]
by marinegumi | 2014-02-05 17:55 | 掌編小説(新作) | Comments(7)