「ほっ」と。キャンペーン

星占い (2枚)

a0152009_1742239.gif

暖かい朝の光の中を歩いていた。
「今日はあなたの願い事が一つ叶うでしょう」
今朝のテレビの星占いでの僕の星座の運勢だ。
妙に明るい女性アナウンサーの声が耳に残っていた。
「星占いランキング」の2位だそうだ。
占いに順位を付けるのも微妙だし、その結果も微妙だ。
それなら、同じ星座の人はみんな願いがかなってしまうのか?
そう声に出さずにテレビに突っ込んだのをぼんやり思い出していた。
僕には特に願い事はなかった。
満ち足りているわけではなかったけれど、特に願い事と言われても思いつかない。
駅へ向かう歩道をゆっくり歩いていると、青いシャツを着た少年の乗る自転車がすぐ近くを追い越して行った。
少年が付けているオーデコロンが一瞬香った。
その時、ふと思ったのだ。
この香り。
青いシャツの自転車の少年。
前にもこんな瞬間があったような気がした。
突然、大きな衝撃音がして目の前の白い乗用車が宙を舞った。
車線をはみ出したトラックがぶつかったのだ。
乗用車が視界をふさいだ。
体が押しつぶされるのを感じながら、薄れて行く意識の中で僕は願った。
「五分だけでいい、時間よ戻れ」と。

「今日はあなたの願い事が一つ叶うでしょう」
今朝のテレビの星占いでの僕の星座の運勢だ。
妙に明るい女性アナウンサーの声が耳に残っていた。



おわり



例によって、元ツイッター小説です。
まあ、よくあるアイデアと言えばそうなんですけどね。
書いてしまったからにはボツにするのももったいないと言うことで(笑)

下の「星占い」 ロングバージョンも合わせてご覧ください(笑)

ランキング参加してます。
クリックであなたに幸運が(笑)
 
   ↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ

星占い ロングバージョン
[PR]
by marinegumi | 2014-03-31 17:34 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

星の魔法使い (4枚)

a0152009_1235567.jpg

魔法の星からやって来た宇宙船が地球のそばを通りかかりました。
「ほら坊や見てごらん。とってもきれいな星だよ」と、お父さんが言いました。
「ほんとだ。すごく青いね」
男の子は窓に顔をおしつけて目を輝かせました。
「この星の人はどんな魔法を使うんだろう?」
そう男の子がきくと、地球を水晶玉でしらべていたお母さんが言います。
「この星にはまだ、ほんものの魔法はないようね」
「なんだつまんない」
お父さんは魔法のつえをふりながらじゅもんをとなえました。
「魔法のタネをこの星にまいておこう。それ!」
「あ!」
窓の外を何かが飛んで行きました。
「あれは何だろう」
魔法のタネと言うのは目には見えないはずなのです。
「あれ?ぼくの絵本がなくなってる」
「あ~、どうやら魔法のタネといっしょに坊やの絵本を飛ばしちゃったみたいだな」
「お父さんたらもう。うっかりやさんね」とお母さんが言います。
絵本は魔法でも取りもどすことが出来ないほど遠くへ、あっというまに飛んで行ってしまいました。
「あ~あ。あの絵本がいちばん好きだったのにな『星の魔法使い』」

    ★  ★  ★  ★  ★

男の子は自分の星に帰っても、その絵本のことをわすれていませんでした。
同じ絵本を買ってもらいましたが、地球のまわりをまわっているその絵本がずっと気になっていました。

男の子には知らず知らずのうちに魔法の力がめばえていましたが、まだだれもそれに気がついていませんでした。
自分のことなのに男の子さえも気がついてないのです。
なぜならその魔法の力はちょっとかわった現れかたをしていたからです。
男の子が地球のまわりをまわっている絵本のことをおもいだすと、その魔力で絵本が二冊にふえたのです。
男の子は毎日毎日その絵本のことをおもいうかべていました。
魔力が力を持ちはじめてから、男の子が思いうかべるたびに絵本は倍々にふえて行きました。
思いうかべるのは、日に一度だけのこともあれば、多い日は何十回もおもい出すのです。
「『星の魔法使い』の絵本が青い地球のまわりをまわっているのってきれいだろうな」
男の子がそのばめんをそうぞうするたびに、また同じ絵本が倍にふえるのでした。

やがて何十年も何百年も時がすぎました。
魔法の星の人たちはとても長生きです。
大人になった男の子は、まだ今でもあの絵本のことを時々おもい出しています。
そして地球にはいつしかそのたくさんの絵本で、美しくかがやく輪が出来ていました。
土星にあるような地球をぐるっととりまく、大きな大きな緑色の輪でした。
そうです『星の魔法使い』の表紙が緑色だったのです。

    ★  ★  ★  ★  ★

地球の人々は夜になるとその美しい輪を見上げました。
「きっとあの輪はだれかが魔法で作ったのかもしれないね」と人々は話しました。
彼らにはだんだん魔法を使える子供たちがふえて来ていたのです。
子供たちが大きくなると、もっとすてきな魔法がつかえるかもしれません。



おわり



「おやすみなさいの魔法使い」に続いて「魔法使い」シリーズと言うわけでもないのですが。
ふとこれまでのツイッター小説を見直していると、書いたのを忘れていたものが出てきました。
忘れていただけにちょっと新鮮でした。
今回は最後がブラックにならずにちゃんと童話らしく終わることが出来ました(笑)
文章を書きあげて画像を作って……ああ~!もう一時半だ。

ランキング参加してます。
クリックであなたに幸運が(笑)
    ↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
[PR]
by marinegumi | 2014-03-29 01:29 | 掌編小説(新作) | Comments(3)

a0152009_20384649.jpg

     あなたの周りにもきっと獏(ばく)がいるのです
     そう あの夢を食べると言う獏です
     彼らはあなたの夢を食べようと待ち構えています
     あなたの枕もとにうずくまったり
     寝室の天井裏に潜んだり
     ベッドの下に潜り込んだり
     そして神出鬼没の獏たちは時々
     あなたの夢に入り込むこともあります
     彼らとうまく付き合って行きたいものです
     それがより良い睡眠生活を送るコツなんです
     さてそれではそんな獏ちゃん達のお話の始まりです






ある、夏のうだるような夜の事だった。
エアコンのない部屋のベッドの上で、春香はあまりの暑さに眠る事も出来ず、何度も寝がえりを打っていた。
目を閉じて懸命に眠ろうとした。
やがて何かの足音が聞こえたので目を開けると、痩せ衰えた獏が枕元に集まってきていたのだ。
獏はみんなひもじそうに彼女の方を見ている。
「もう!あっちへ行きなさい。眠れないから夢もおあずけだよ。しっしっ、あっち行けってば」

ドアを開けて母親がのぞいた。
「まあ、はっきりした寝言。この子、どんな夢を見てるのかしら?」

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

眠っている時に、僕は眠っているんだと気がついた。
でも夢は見ていない。
ただ真っ暗なだけだ。
眠っていて、あたりが真っ暗だと言う夢を見ているのとは違うのだ。
夢は見ていない。
夢ではない眠りの中をしばらく歩いて行くと明かりが見えて来た。
そこには十頭以上の獏が集まっていた。
テーブルの上のたくさんの大きなお皿の上に、何か色とりどりのふんわりしたものが並んでいる。
「何をしているの?獏ちゃんたち」と、僕は聞いた。
「夢パーティーを開いてるんだよ」と一匹の獏が答えた。
そうするとお皿の上のは、色んな夢だってわけか。
今夜見るはずだった僕の夢も、このお皿に乗っているかもしれないね。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

ある日一頭の獏は気がついた。
「僕たちは人の夢を食べるけれど、僕たちも眠る時には夢を見るよね。だったらその自分の夢を自分で食べることも出来るはずじゃないか。そうすればもうこれから一生、食べ物に困らないぞ! 」
獏は初めて自分の夢を食べました。
「おいしい!人間の夢よりおいしいじゃん!」
それから一週間でその獏は小さくなって消えてしまいましたとさ。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

眠れない夜。
どこからともなく獏がやって来てベッドの上を飛び越した。
獏はだんだん増え続け、何匹も何匹も右から左へ飛び越して行く。
「獏が一匹。獏が二匹。獏が……」
ぼくはその数を数えてみた。
でも眠れない。
ベッドの右側にたくさん集まった獏たちはベッドを飛び越すと、また右側へ戻ってくる。
それを僕は数え続ける。
「獏が二十五匹。獏が二十六匹。獏が……」
獏たちはみんな僕を見てよだれを垂らしている。
お腹をすかせているのだ。
「お腹がすいたんなら他の人の所へ行けば?ぼくは不眠症なんだからさ」
聞いてみると、不眠症の人間の夢はとても珍味らしい。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

夢の中の川に船を浮かべ火を焚いているのは鵜庄(うしょう)のようだ。
たくさんの紐を器用に操っているが、その紐の先に繋がれているのは鵜ではなく、なんと獏だった。
獏たちは夢の川に潜り、夢を呑みこもうとする。
しかし、首の所で紐をくくられているので呑み込んでしまえない。
鵜庄によって船の上のカゴに吐き出さされてしまう。
カゴには色とりどりの光を放つ夢がいっぱいだった。

「なんて夢を見たんだよ」
そうみんなに話すと爆笑だった。
そうね。
鵜庄ではなく、獏庄だもんね。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

わたしは夢を見ていた。
夢の中にはたくさんの獏ちゃん達が食べに来ているんだ。
それもみんな甘い夢が好物の女の子の獏ちゃんばっかり。
わたしの夢ってそんなにおいしいのかな?
悪い気はしないな。

目が覚めた。
学校へ行く支度をしてテーブルで朝食を食べている。
今日はわたしの卒業式だ。
「学校卒業したら何のお仕事しようかな。アイドルか女優がいいんだけどな~」
「甘い!」
と、新聞を読んでいたパパが言った。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

ひどい悪夢を見た。
こんな恐ろしい悪夢は初めてだ。
何度も同じ悪夢にうなされて心臓をバクバクさせながら目を覚ます。
同じ夢だからって慣れる事はない。
何度見ても初めて見るように恐ろしいんだ。

獏がいつもより遅れてやってきた。
「獏ちゃんてば、何で今日は遅刻しちゃったの?悪夢にうなされて何度も目が覚めちゃったよ」
「ごめん。今日は夢の鑑賞会だったんだよ。たまには夢を食べずに、見て楽しもうと言う獏仲間の集まりなの」
「そんなのがあるんだ?」
「それでさ、君の悪夢が好評でね。何度もアンコール上映さ」
「それのせいかよ!」

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

バレンタインの日。
大好きな人に渡そうとしたけれど、受け取ってもらえなかったチョコレート。
一晩かけて、寝不足になってまで作ったチョコレート。
その箱を抱えて帰り道。
急につらくなっちゃって、思いっきりそのチョコの箱を道路にぶつけてやった。
箱からチョコが飛び出して散らばった。
するとどこからともなく獏が現れ、そのチョコレートを食べ始めた。
夢しか食べない獏がなぜ?
そうか。
そうだよね。
そのチョコにはわたしの夢がいっぱい詰まってたんだものね。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

雪山で吹雪に遭い、身動きがとれなくなった。
だんだん寒さも感じなくなり、どうしようもなく眠くなってきた。
雪山で遭難死ってこんな感じなんだな。
眠ってはいけないと解っているのに、ほんわか気持ち良くなってくる。
ああ、向こうに青空が見えて来た。
その下に色とりどりのお花畑が広がっている。
美しい風景の中を小鳥たちが鳴きながら飛び回っている。
すると突然その美しい景色がはじっこから消えて行き出したんだ。
え?どうしたんだろう。
またたく間にきれいさっぱりなくなってしまった。
あれは獏だ。
獏たちが僕の夢を食べているんだ。
その中の一匹の獏が僕のそばに来て言った。
「われわれは、獏ちゃん冬山レスキュー隊です!」

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

わたしは獏を殺した。
だってわたしは夢を見るのが大好きなんだ。
その夢を食べるなんて許せなかったんだ。
獏はわたしの夢の中に沢山いたので全部殺すまで一週間かかってしまった。

それからは、毎日毎日膨大な量の夢を見た。
まるで現実の様な夢を毎晩、初めから終わりまできっちりと見続けた。

眠っているのに寝不足になってしまった。
いくら眠ってもずっと夢を見続けるので神経が休まらないのだ。
獏を殺してはいけなかったんだね。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

獏が異常発生した。
ありとあらゆる人々の夢は喰い尽くされ、誰も夢を見なくなってしまった。
いや、見てはいるのだが見ているそばから獏に喰われてしまうので記憶に残らないのだ。
ある日、学校の国語の授業があった。
作文の時間だ。
テーマは『私の将来の夢』
全く思いつかない。
さては獏のやつ、眠って見る夢だけでは足りずにこの夢まで?

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

夜、眠れないでいると獏の親子がやってきた。
一頭の子獏を連れている。
獏が子供のうちは決まった人間の夢だけしか食べられないのだと言う。
「それじゃあ、その子はわたしの夢しかだめなの?こまったわね」
その子獏はわたしが眠れないのでひもじい思いをしているのだそうだ。
男の子に片思いをしていて眠れないのだと言うと、その恋を叶えてあげますと言ってくれた。
獏にはそんな能力があるんだ?

その晩はうれしくて眠れなかった。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「みんな。よく耐えて来た。しかしこれで終りの様だ。我々は多くは望まなかった。我々にとって食料は量ではない。良質であればたった一つでも何万頭もの仲間がそれを分け合えた。しかし今、人類最後の一人が息を引き取った。最後に夢を見る事もなく」
広場に集まっていた獏たちは、みんな嘆きの声を上げた。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

労働者不足の未来。
人類は眠りが不要になる薬によって疲れも知らず、長時間働けるようになった。
そしてまた長時間働きもするが、同じように有意義に24時間の半分をレクリエーションに使えるようにもなったのだ。
街には娯楽があふれていた。
人類はよく働き、よく遊んだ。
全く眠らずに。

夢を食べられなくなって絶滅寸前だった獏は人工に夢を生成する装置の普及によって、だんだんその数を増やしていると言う。




おわり




ツイッターで書いたツイノベのうち「獏(ばく)」が登場する物からピックアップして長めに書き伸ばしたものです。
面白そうなものだけを選んだので、これで半分ぐらいかな?
全部で14本ありますが、まだまだ書けそうなおいしいテーマですね。

ランキング参加してます。
クリックであなたに幸運が(笑)
    ↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
[PR]
by marinegumi | 2014-03-26 20:44 | ツイッター小説プラス | Comments(6)

a0152009_16133499.jpg

わたしが幼い頃から、眠るときには必ずおやすみなさいの魔法使いが来てくれた。
必ず毎日、決まった時間にやって来たんだ。
それでわたしはじゅうぶん睡眠をとることが出来て健康に育ったんだと思う。
おやすみなさいの魔法使いの姿をわたしはまだ見たことがない。
まだ眠くならないままベッドに入っているといつの間にかおやすみなさいの魔法使いは枕元に立っている。
気配でわかるんだ。
そしてなにやら聞こえない声で呪文を唱えているように思う。
間もなくわたしは幸せな眠りに落ちる。
そんな無邪気だった頃を思い出していた。

風の音が聞こえる。
あたりは白い光に満たされている。

そう、でもわたしが大人になるにつれておやすみなさいの魔法使いはだんだん気まぐれになった。
受験勉強に追われ、一晩中起きていたりすることがよくあった。
それからまた、友達の家に泊まりに行ったりした時は眠いのを抑えつけ、一晩じゅう騒いだりしたこともある。
そうだ、好きなアーティストのライブでも幾度も徹夜をした。
そんな事が多くなったのでおやすみなさいの魔法使いにも、呆れられてしまったのかもしれない。
でも時間は不規則にはなったけれど今でも必ずちゃんと来てくれるんだ。

さっきまで寒かった体が暖かくなってきた。
風の音も少し遠ざかったようだ。

仕事を始めてから数年。
最近はちょっと困ったことがある。
時間が不規則な職場なので、おやすみなさいの魔法使いがやって来た時にもわたしがちゃんと眠れない。
学生時代と違って、寝てしまうわけにもいかず、無理やりに起きていたりすることがもっともっと多くなったので、すねてしまったのかと思う。
たぶんそうなんだ。
おやすみなさいの魔法使いのやつ、昼間、仕事の最中に急にやってきたりすることがある。
机に座って書類に目を通しているとき、後ろに立っている気配を感じるんだ。
そして一度、完全に寝てしまったことがあった。
大事な会議中だったんだ。
もうあの時は最悪だった。
どんなにおやすみなさいの魔法使いをうらんだか知れない。
一人、自分の部屋で思い切り大声で悪口を言ってやった。
それからはちょっと大人しくしている様子なので安心してたんだけれど。

お前はやっぱりあれからわたしに腹を立てていたんだね。
まさかこんな時に。
雪山で遭難している時にやって来るなんてさ。

ほら、もう風の音も聞こえない。




おわり



いちいち断らなくても、もとツイッター小説です。


ランキング参加してます。
クリックであなたに幸運が(笑)
    ↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
[PR]
by marinegumi | 2014-03-23 16:16 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

旅立ち (6枚)

a0152009_22284111.jpg

もう絶対に家には帰って来ない。
あなたはそう決心して、自分の部屋のドアを開けた。
真っ暗な廊下へ出て、音をたてないようにドアを閉じると、それだけでもう旅の一歩を踏み出したような気がした。
もう何にも縛られない。
親にも、学校にも。
門限も校則ももうみんな関係ないんだとあなたは思った。

階段を降りて台所のドアを開けた。
冷蔵庫から水のペットボトルを2本、手に提げていたリュックに入れた。
あなたはそのリュックを背負うとクローゼットのドアを開けて中に入り、コートを取り腕にかける。
靴箱から履きなれたスニーカーを出して部屋履きと履き替える。
玄関のドアを開けた。
常夜灯でうっすらと明るい静かな廊下が伸びていた。
家の中と違い空気が冷たかった。

少し歩くと階段室の鉄の扉がある。
あなたが重い扉のノブを回し、体重をかけて開くと真っ暗な階段にセンサーのライトが点いた。
階段を降り、踊り場で曲り、また階段を降りると再び鉄の扉がある。
その扉を開くと下のフロアーの廊下だ。
階段を降り、踊り場で曲り、階段を降りる。
それを何度となく繰り返すうちにあなたはいったい何階まで降りて来たのか分からなくなっていた。
普通こういう建物には階段の途中の踊り場とかに階数表示があるはずなのに、何もないのだ。
あなたの住んでいたフロアーは12階。
もうとっくに12階分の階段を降りて来たような気もする。
あなたはそんなに遠い距離ではないと思って、いくつ階段を降りたのかは数えていなかったのだ。
だんだん足が痛くなってきていた。
エレベーターは人に会うリスクがあるからと避けた事をあなたは後悔していた。
そして今からでもエレベーターに乗ればいいのだと気がついた。

あなたは次の階の鉄の扉を開けて廊下へ出た。
するとその廊下は他の階の廊下と様子が違っているのだ。
妙に古びている。
壁は苔むしたレンガの壁だった。
ところどころレンガの間から水が滴っている。
明かりはと言えば太い蝋燭が点々と灯っているばかりだった。
あなたは自分の住んでいた階の廊下しか知らなかったという事に気がついた。
この建物はフロアーごとに意匠を凝らしたデザインの廊下になっているのだろうか?
それにしてもこの廊下の様子はあまりにも奇妙だった。
「今どき蝋燭だなんて」とあなたは声に出さずにつぶやいた。

あなたはじめついた廊下を歩いてエレベーターホールがあるはずの場所までやって来た。
エレベーターは確かにあったが、それは映画でしか見たことのない古い時代のデザインだった。
扉は鉄格子で真っ暗な昇降路の闇が見えていた。
数本の錆びた鋼鉄のワイヤーも見えている。
エレベーターの階数表示はデジタルではなく数字を針が指し示すものだった。
あなたは試しに下へ降りるボタンを押してみた。
何の反応もない。
古いだけではなくひどく錆びていて、動くことを期待してボタンを押したのではなかったが、あなたがエレベーターホールを後にして歩き始めた時、重い機械音が聞こえた。
エレベーターの箱が上がって来ているようだ。
不気味な機械音に混じって何か獣のうめき声が聞こえる気がした。
ガシャーンと大きな音を立ててエレベーターが止まった。
そして格子で出来た扉が横に開く音。
あなたはすでにエレベーターが見えない所まで歩いて来ていた。
その恐ろしげな音を立てるエレベーターの箱から何が出て来るのだろうか?
あなたはあらゆる不吉な忌まわしい得体のしれない者の姿を想像した。
廊下を歩く重い足音が聞こえる気がした。
あなたは恐怖のあまり走り出してしまう。
すぐ後ろにありえない怪物の姿を想像しながら必死に全速力で走り続けた。
廊下を走り、木製の扉を開き、階段を降り、走り続け、行き止まりに行き当り、引き返し、別の扉を開け、階段を上がったり、また下ったり何度も繰り返した。
そして、ある一つの扉を開けると奇跡のようにそこは建物の外だった。
あなたは星空を見上げた。
一歩踏み出そうとした時、あなたの襟首を冷たい爪のある手が捕まえた。
後ろにいる何者かの生臭い息が首にかかった。
あなたはそのまま気が遠くなった。

気がつくとあなたは自分の住む建物の見慣れたエレベーターホールの前に倒れていた。
そこは一階だった。
もう外へ出る気力もなくエレベーターの扉を開き12階のボタンを押そうとした。
その時あなたはエレベーターの箱の中の鏡に映る自分の姿を見た。
服は汚れてよれよれになっている。
ところどころが破れ、ただ汚れているだけではなく、長い年月で古くなっているように見えた。
リュックも同様で、肩ひもはちぎれかかっていた。
そしてあなたの顔。
どう見てもそれは少年の物ではなかった。




おわり



元ツイッター小説です。
ツイッター小説の時には特にオチらしいものがなく、どういう結末にするか書きながら考えました。

ところで本日、公募ガイドさんから賞品と言うか、賞金と言うか、商品券が届きました。
りんさんは公募ガイド発売日の2~3日前に届いたと言ってらっしゃったので、遅いのでちょっとやきもきしました(笑)

ランキング参加してます。
クリックであなたに幸運が(笑)
    ↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
[PR]
by marinegumi | 2014-03-21 22:31 | 掌編小説(新作) | Comments(5)

「あなたと彼と僕」と言う作品です。
課題は『変わった小説』でした。
これは二人称、三人称、一人称の全部を使ってお話を作ってやれと思って考えたお話です。

「小説の虎の穴」では、これまで佳作が数回。
佳作でも清水義範先生の講評をいただける事はあるのですが、僕はこれまで一度もなし。
今回は最優秀賞と言う事で講評をうかがう事が出来ました。
何度も読み返しましたね。

ここに清水先生の講評を…
再録してもいいのかな?
ダメだったら困るのでやめときます。
「公募ガイド4月号」買って読んでね。
a0152009_22391257.jpg

今回りんさんも佳作に入ってらっしゃいます。
いつもいつもいい作品をぶっこんで来られますね~



追記
あ。
本日(3月11日)ブログ村の小説カテゴリの「注目記事ランキング」でこの記事が2位になっていました。
サブカテゴリ「掌編小説」ではなくて、大きなカテゴリでの2位なんて初めてですね。
ひょっとして、1位になってた瞬間があったのでしょうか?
だとしたら見逃したかも。
おしいことしたな~
a0152009_2311969.jpg



さらに追記
おおお~なんと、今朝(3月12日)見てみると1位になっているではないですか。
これからはもうありそうにないので、しっかりキャプチャ。
a0152009_9364798.jpg


ランキング参加してます。
クリックであなたに幸運が(笑)
    ↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
[PR]
by marinegumi | 2014-03-10 22:38 | わたくし事 | Comments(10)

a0152009_0574345.jpg

シンデレラは冷たいベッドの上で目覚めました。
汚れたカーテンの破れ目から差す朝の光に、部屋の埃が舞っているのが見えます。
きしむベッドから足を下ろし、座って目をこすりながら考えました。
「あのお城の舞踏会も、素敵な王子様もみんな夢だったのね」
カボチャの馬車も、ガラスの靴も、魔法使いの魔法が解けたのではなく、魔法使いさえも夢だったのです。
階段で脱げてしまった片方のガラスの靴。
シンデレラの足にはあのガラスの靴の感触がはっきりと残っていました。
お城からのお使いがやって来てシンデレラの足に合わせたあの時の少し冷たいあの肌触りが。
でもそれも全部夢だったのです。

シンデレラは立ち上がりカーテンを開けました。
そして自分の部屋から台所へ行きました。
水差しから水をコップに注ぎ、半分飲むとため息をつきます。
小さな古い家には誰もいませんでした。
そうです。
あの継母も、連れ子の二人の意地悪な姉たちも夢の中の人だったのです。
シンデレラは身寄りがなく、ずっと一人暮らしをしていたのでした。
「あんな意地悪な姉さん達でも、いる方が一人ぼっちよりもましかしら?」
シンデレラはふっと笑いました。
その時、ゴトン、とドアの外で音がしました。
出てみると牛乳屋の青年、ハンスが牛乳ビンを箱に入れた所でした。
「やあ、シンデレラ。おはよう」
ハンスは牛乳ビンの入った袋を肩にかけ直しながら、あいさつをしました。
「おはようございます」
今まで何とも思っていなかったハンスの笑顔が、今朝はなぜかとてもまぶしく見えました。



おわり



はい、三日連続原稿用紙2枚の小説のアップでした。
この三本は同じ日に書いた夢をテーマにしたツイッター小説が元になっています。
一時間足らずの間に書いた三本です。

ランキング参加してます。
クリックであなたに幸運が(笑)
    ↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
[PR]
by marinegumi | 2014-03-05 01:02 | 掌編小説(新作) | Comments(10)

逃げ出した獏 (2枚)

a0152009_22145144.jpg

わが研究所では、獏の遺伝子を組み換え、様々な獏を誕生させている。
哺乳類ウマ目の「バク」ではなく、夢を食べると言われるあの「獏」の方だ。
交配だけでは特徴的な獏はまず誕生しない。
獏の受精卵の遺伝子を操作することによって多種多様な獏が生れて来るのだ。

普通の獏は灰色だが、この真っ白い獏は良夢しか食べない。
人の見る良い夢だけを好んで食べるのだ。
こちらの真っ黒の獏は、そう、お察しの通り悪夢を好んで食べる。
またこの体毛が銀色の獏は悪夢を食べるのだが、その後悪夢を消化し終るとその夢を見ていた人の夢の中に良夢を排泄する。
つまり悪夢を良夢に変えてくれると言うわけだ。
そしてわが研究所の最高傑作は何と言ってもこの金の獏だろう。
この獏は好んで良夢を食べるのだが、その良夢を現実に反映させる。
人々の見る良い夢を現実のものとする能力を持っているわけだ。

そうやって様々な獏を創り出して来たのだが、ある日、偶然に大変な獏が誕生した。
これまでの全ての獏たちは夢しか食べなかった。
しかしこの獏は現実を食べるのだ。
現実を食う獏によって研究所が食い荒らされ、ぼろぼろになってしまい、その隙間から全ての獏達が外へ逃げ出してしまった。
そして彼らは現実を食う獏との間に子供を作り、何百頭にも増えて行った。

いまや全ての獏は現実をものすごい勢いで食い荒らしている。
ほら、この世界の現実感の乏しさはどうだ?
現実の壁がほぼなくなり、人々は昼間から夢の世界に遊んでいる。



おわり



昨日書いた三本のツイッター小説のうち二本目を長くしてみました。
また明日も続けて三本目を書いてみたいと思います。

ランキング参加してます。
クリックであなたに幸運が(笑)
    ↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
[PR]
by marinegumi | 2014-03-03 22:18 | 掌編小説(新作) | Comments(0)

a0152009_0322086.jpg

みどり豊かなふるさとを後にして、この都会へやって来た。
初めはただただ、騒音にあふれた大都会に圧倒されるばかりだった。
とてつもなく大きく冷たい灰色のビルの間を歩く自分がとても小さく取るに足らない生き物の様な気がした。
晴れていても何となくかすんだ空。
街の底にわだかまる排気ガスのにおい。
慢性的な頭痛に悩まされながら身を小さくしながら毎日を過ごした。
そうやって何年も何年も灰色の年月を送った。
そして、十年が過ぎた。

体調不良で仕事を一週間休んでいた。
そんなある日、目覚めて窓を開けると、何となく心地よい音が聞こえて来た。
いつも聞いていた都会のざわめきが、あの不協和音が、今日は調和のとれたメロディーを奏でているような気がした。
甲高い子供たちの叫び声、人々の足音、車のエンジン音、電車の警笛や車輪の音、重低音の工事現場の音。
それは一つに混じり合い、力強い都会のオーケストラを奏でていた。
そして開け放った窓から部屋に流れ込んで来る空気も、とてもいい香りがした。

「聞こえますか?私の言っていることが聞こえますか?」
首を横に振る。
お医者さんの口の動きで何となくわかる。
「あなたはひどい聴覚障害です。どうして今まで放っておいたんですか?」
と、先生は紙に書いて見せた。
「嗅覚障害もあるようですよ」

ずっと聞こえている。
やさしく全てを包んでくれるあのオーケストラが。




おわり



ツイッター小説が好調です。
さっき書いた三本のうちの一つを書き足したものです。
後の二本も続けて原稿用紙二枚ぐらいの掌編にしてみようと思います。

ランキング参加してます。
クリックであなたに幸運が(笑)
    ↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
[PR]
by marinegumi | 2014-03-03 00:39 | 掌編小説(新作) | Comments(5)