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秋の犬 (8枚)

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ココがうるさく吠えるのでわたしは二階の窓から庭を見下ろした。
紅葉したケヤキの木が一本あり、あとは芝生が張ってあるだけの殺風景な庭。
お母さんが死んでからは誰も花を植えないので、ほったらかしのプランターがあちこちに積み重ねてある。
その庭を動き回るものがいた。
犬だった。
茶色くて、お腹は白くて、中型犬と言うのだろうか?
うちのトイプードルのココと比べると倍以上の大きさだ。
首輪をしていないので野良犬?
いまどき野良犬なんてめったに見かけない。
土で体じゅうが汚れ、ゴミがくっついていた。
ごみと言っても草の葉っぱや木くずみたいなものだった。
そんな体でうちの庭の芝生の上で遊びまわっている。
転がって体を芝生にこすり付けたり、頭から順番にしっぽまでぶるぶる振るわせたり。
もうやりたい放題だ。

下に降りて、コーヒーを飲んでいるお父さんに言った。
「ねえ、お父さん、うちの庭に野良犬が来てるよ」
「野良犬?どこかの飼い犬が逃げて来たんじゃないのか」
「だって首輪、してないもん」
お父さんは立ち上がって庭を見た。
犬は道路に出ていくところだった。
「あれは柴犬とほかの種類の雑種だな」
その後、ココの散歩に行く前に庭をあちこち調べてみた。
うんちやおしっこをされてると嫌だと思ったからだったけれど、そんな様子はなかった。
ココは匂いをかぎまわっていた。

その野良犬はそれからも時々うちの庭にやって来た。
ある日、来ているのを知らずにココを散歩に連れて行こうと庭に出てびっくりしたことがある。
ココがいきなり走り出してその野良犬に跳びかかろうとしたんだ。
わたしはとっさにリードを引っ張って止めた。
ココは狂ったように吠えつづけた。
野良犬は「ウウ~」と、低い声でうなりながら庭を出て行ってしまった。
しばらく心臓がどきどきしていた。

「怖かったんだよ、お父さん」
会社から帰ってきたお父さんにそのことを話した。
「相手は動物だからなあ。大人しいのか狂暴なのか見ただけでは判らんからな。でも狂犬病にでもかかってたりすると怖いしなあ。一応保険所に連絡しておこうか?」
それからも何度かその野良犬を庭で見かけた。
どこかの野原を思い切り駆けたんだろうか?
いつも汚れた体で芝生の上を転がって遊んでいる。
でも、感心なことに、おしっこやウンチをしたことは一度もなかった。

ある日、ふとその野良犬のことを思い出した。
なぜ思い出したのかわからないけれど、すっかり忘れていたんだ。
そういえば長い間見かけてないことに気がついた。
会社へ出かけようとしているお父さんに聞いた。
「ねえ、前によくうちの庭に来ていた野良犬、最近ちっとも見ないね」
「あれ?お前に言ってなかったか?」
お父さんは鞄を持って立ち上がった。
「だいぶ前に保険所から連絡があったよ。捕獲しましたってさ。今頃は殺処分されてるんだろうな」
それを聞いて心がチクリとした。
「まあ、あの犬もそれが幸せだったかもな」
「え?どうして?」
「厳しい冬になる前に楽になったんだからさ」
わたしは庭に目をやった。
自由に転げまわる野良犬の姿を思い出したからだ。
きっと楽しかったんだろうなと思った。
飼い犬みたいに縛られず、首輪もされず、自由なのがうれしかったんだろうなと。

それからわたしは何か後ろめたい気持ちをしばらく持ち続けた。
そしてそれもいつのまにか時とともに薄らいで行った。



野良犬騒動の秋が去り、冬をやり過ごして、我が家の庭も暖かい春を迎えていた。
ケヤキは葉をみんな落として一度裸になり、また新芽を枝じゅうに付けている。
わたしは縁側に座り、ココが庭を走り回ったり転げまわったりしているのを眺めていた。
最近、庭に囲いを作ってもらった。
庭でココを放してもいいようにお父さんにたのんだんだ。
そのココの様子を見ているとあの日の野良犬を思い出した。
ゴロゴロ転げまわる。
体を芝生にこすり付ける。
頭から、体、しっぽと、順番にブルブルとふるわせる。
ココも野良犬も、同じ犬と言う動物だからそんな動作はいちいち一緒だった。

何となくぼんやり庭を眺めていると思いがけない色彩を見つけた。
近寄るとそれは黄色い草花だった。
植えた覚えはない。
注意深く見てみると他にも小さな花が咲いていた。
いくつかの違う種類の草花で、赤い花のものやオレンジ色の花もある。
「お父さんかなあ?」
いや、お父さんはそんなことはしないだろう。
それに、花の咲いている場所が気まぐれで、ちゃんと植えた物ではなかった。
そうすると?

心臓が一つ大きく打った。
あの野良犬だ。
あの犬は毎日のように秋の野原を駆け回っていたんだと思う。
その体には、土や葉っぱだけではなくて野の草花の種なんかもたくさんくっついていたんだろう。
その体でこの庭を転げ回り、種が落ちて雨が降り、冬を迎え雪が降り、雪は解け雨が降り、暖かくなり、そして、そして……そして。
わたしは自分が庭に座り込んで泣いているのに気がついた。
ココが私の顔を、涙をペロペロなめていたからだ。
今はもう殺されてしまったあの野良犬がかわいそうだった。
ココとおんなじ小さな命を持ってせっかく生まれて来たと言うのに。
ココはこんなにかわいがられて暮らしていると言うのに。
もしもわたしがあの秋の日に帰れたとして、わたしに何か出来たんだろうか?
あの野良犬を捕まえる?
首輪をつけて鎖でつなぐ?
狂犬病の予防注射を打ってもらって、うちで飼うことにする?
やろうと思えばそれが出来たんだと思うと切なくなった。
いつまでも涙が止まらなかった。



おわり



書きたくなると、書かずにはおられない、と言う感じ。
でも「これはブログに載せずに投稿してみようかな」と言うほどのものは、なかなか出来ませんけどね。


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by marinegumi | 2014-04-27 17:03 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

みゆき (4枚)

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みゆき。
お前は気の弱い女だったな。
俺と暮らした短い年月の間、言いたいことも言わず俺の言いなりになっていた女だった。
でもきっと心の中は決して穏やかではなかっただろう。
陰気な女だったが俺は気に入ってたんだぜ。
お前の顔立ちやその体つきはな。
それだけにお前の性格が余計に嫌になったのかも知れない。
そうさ、あのひどく迷信深かったところもな。
一緒に暮らし始めて間もないころ、俺が夜遅く足の爪を切っているとき、お前は部屋に入って来ると、そこに立ったままで俺をじっと見ていた。
何か言いたそうにして。
「なんだよ?どうかしたのか」
俺が聞いたら、何かぶつぶつ言いながら洗濯物を持って出て行こうとした。
「はっきり言えよ!」
もう一度聞くと、お前は言った。
「夜に爪を切ると親の死に目に会えないって言いますからね」
俺は軽く噴き出してしまった。
「なんだそれ、古臭い迷信を持ち出して来るんじゃないよ」
出て行くみゆきの背中に俺は言った。
「親の死に目になんか会わない方が気が楽かもな」

そうだ、そう言えば俺はよく手鏡を使ってそのまま部屋の絨毯の上や、テーブルの上に表向きのまま置いていたことがあった。
それがふと気がつくといつの間にか裏向きに置いてあるのだ。
必ずそうだった。
これもきっとみゆきがやっていたんだと思う。
鏡を表向きのまま置いておくとよくないことが起きる。
そんな迷信がきっとあるのだろう。

あいつと暮らした古い一軒家を後にして今は新しい街で暮らしている。
新しい仕事を見つけ、働き始めて三カ月目に今の女と暮らし始めた。
みゆきと別れる原因になったのも迷信がらみの些細な口論だったような気がする。
俺はたまたま虫の居所が悪く、たぶんみゆきもちょっとイライラしていたのかもしれない。
今でも思い出せないほどのどうでもいい事を二人とも譲ることが出来なかったのだ。
思わぬ激しい口調で喰ってかかるみゆきを見て、俺も必要以上に激高したのだ。
初めてあいつに手を上げてしまった。
そんな事を思い出しながらいつもの会社帰りの道を歩いている。
我が家のある古い二階建てのマンションへ通じている狭い路地へ入り、少し歩いた所で、急に猫が飛び出して来た。
真っ黒い猫が、左側の家の生け垣の間から出て来て俺の前を横切ったのだ。
猫は道の右側で立ち止まって、俺の方を見上げた。
目と目が合った時、俺は訳のわからない寒気を感じた。
その猫の目に見覚えがあるような気がしたのだ。
「ニャア~」とそこだけ赤い口を開いて猫は鳴き、家と家の隙間に消えた。
俺はあの古い貸し家の下、土の下深く眠っているみゆきを思い浮かべた。
そうなのか。
今のはお前なんだな、みゆき。
今のが、気が弱い迷信深いお前の、ささやかな俺に対する仕返しなんだな?
それでお前の気が済むのならこの先の悪運を受け入れてもいいんだぜ、みゆき。

俺はそんなものはこっから先も信じてはいないけどな。




おわり




つい最近書いたツイッター小説を長くしたものです。

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by marinegumi | 2014-04-26 22:44 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

しっぽ (4枚)

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人間にしっぽの生える病気が流行っていました。
これは空気感染らしくて、家族のうち一人でも罹(かか)ると全員に伝染してしまう事が多いと言います。
山岸さんちは小学生と幼稚園児の、男ばかりの七人兄弟でした。
そしてやはり学校や園でもらって来たのでしょう、全員が次々感染してしまったのです。
みんな同じような細い白いしっぽが生えてしまいました。
その「しっぽ伝染病」は、病原菌にもいくつかの型があるらしく、菌によってさまざまな種類のしっぽが生えると言います。
同じ型の病原菌に感染した人は同じしっぽが生えるようなのです。

日曜日の夕飯時。
みんなで食卓を囲んでいると、テレビでアナウンサーがしゃべっていました。
「しっぽの生える伝染病はその感染の勢いを増すばかり。このままでは日本国中に広まりそうな勢いです。ただし、この病気に罹ってもしっぽが生えるだけで、体に悪い影響があるものではないと言うことですので神経質になる必要はありません」
ここ数カ月は、ニュースと言えば、この「しっぽ伝染病」の話題ばかりでした。
「最近はこのしっぽをおしゃれに利用しようとズボンやスカートからしっぽを出して歩く若者も現れています。街にはしっぽにリボンをつけて歩くギャルもちらほら」
それを見ていた母親が言いました。
「わたしもしっぽにリボンでもつけようかしら?」
七人の子供たちがいっせいに母親の方を見ます。
「え~?お母さんもしっぽが生えてるの?」
「そうなのよ。恥ずかしかったから言わなかったんだけどさ」
「見せて、見せて」
子供たちはみんな母親の周りに集まりました。
「わ~!ほんとだ。僕たちと同じ、白い細くてかわいいしっぽだね」
「このしっぽは山羊型しっぽって言うらしいよ」
「学校の友達にはさ、お猿さんみたいな長いしっぽの子もいるし、毛がふさふさ生えたしっぽの子もいるんだよ」
子供たちの目がいっせいにさっきから何も言わない父親の方を向きました。
「お父さん。さっきからずっと黙ってるけど、お父さんはしっぽ生えてないの?」
「う、うん。まあな」
父親は新聞を読みながらもじもじしています。
「いやあ、生えてない事はないんだが……」
「ええ~!!お父さんも生えてるんだ?」
今度、子供たちは父親を取り囲みました。
「ねえ、見せてってば」
「見せて、見せて!」
「見せてよ~」
「ちょっと散歩に行って来る」
父親が新聞を置いて立ちあがります。
「怪しいぞ、お父さん。自分だけ生えてないので恥ずかしいんだろ?」
「そ、そんなことあるもんか!」
「それじゃあ、見せてくれてもいいでしょ?」
父親は家を出て行こうとします。
「みんなで脱がしちゃえ~」
子供とは言え、七人にも押さえ込まれてはたまりません。
たちまち父親はズボンを脱がされてしまいました。
そしてそこから出て来たのは大きなふさふさとした茶色のオオカミのしっぽだったのです。
「きゃああ~!」
子供たちはみんな廊下にある大時計の中に逃げ込んでしまいましたとさ。



おわり



これは去年書いたツイッター小説です。
改めてちゃんと全部のツイッター小説をワードにコピベした物を見てみると、けっこうたくさん、長く出来るお話が潜んでいるものですね。

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by marinegumi | 2014-04-20 19:32 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

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悪魔との契約をしたのは、ぼくが三歳の時だったね。
「まじかよ?」
契約を申し出た時に悪魔は、ぼくを頭の先からつま先まで、まじまじと見てそう言ったんだ。

ぼくはおやつを毎日腹一杯食べられるという条件で魂を引き渡すことにした。
それから、ぼくがどんな悪い事をしてもお母さんにしかられないと言うのもある。
隣に住んでるかわいい女の子の、みゆきちゃんと仲良くなると言うのもね。
まあ、今ではもっとかわいい女の子と付き合ってるんだけどさ。
そうやってたくさんの条件を毎年一つずつ叶えてもらいながらぼくは今年で二十歳になった。
え?なんだって?
悪魔との取引では願い事はひとつだけだろうって。
そんな事はないさ。
それは悪魔の事をよく知らないからだよ。
いいかい?
悪魔は昔から言い伝えられていることには忠実なんだぜ。
ほら、「三つ子の魂百まで」って言うだろ?
毎年新しい願い事をして、その数が百になった時にぼくの魂は悪魔さんの物と言うわけ。
その時までは死ぬ心配もないしね。
え?
それを考えたのはぼくかって?
いやいやそれは無理でしょ。
たった三歳だったんだぜ。
おやじがそれを思いついてね。
まあその願い事が叶って、おやじが悪魔に魂を持ってかれちゃったのがちょっと心残りだけどさ。



おわり



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by marinegumi | 2014-04-18 20:45 | 掌編小説(新作) | Comments(0)

適当 (2枚)

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適当=① ある状態・目的・要求などにぴったり合っていること。ふさわしいこと。また,そのさま。

「先輩、こんなもんでいいっすか?」
「あ~、まあまあ。そんなもんだろ」
「あーでも、ちょっと縫合が甘くないっすか?」
「え~?何だよ。自分でやっといて自信がねえってか?見せてみろ」
「ほら、ここんとこ」
「大丈夫、大丈夫。それぐらいすぐくっつくさ。なんせこの患者若いからな。つばでも付けとけ、ってホントに付けてんじゃないよ。お前も冗談が好きだね」
「さてそれじゃあ、これで終わりですね。予定より1時間早かったじゃないっすか」
「おうおう、それじゃ今から一杯飲みに行くか」
「いっすね~」
「さあ、早く片付けて……、あ、そう言えばお前、手術の前に手、洗ったか?」
「あ、いけね。忘れてた。あわててトイレ行ってそのままだったすよ。まずいっすかね?」
「まずいっすか?ってな、お前。俺はちゃんと洗ったよ。手術の途中で鼻くそほじったけどな。わははははは。大丈夫だよ、患者若いしな」
「わははははは。先輩。こんな調子じゃ明日の手術もまた二日酔いでやることになっちゃうかも知んないっすね」

適当=② その場を何とかつくろう程度であること。いい加減なこと。また,そのさま。( 大辞林 第三版)




おわり




てきとーに書いてみました。(わはははは)

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by marinegumi | 2014-04-16 20:54 | 掌編小説(新作) | Comments(7)

本を作った (2枚)

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とても面白いお話を書いたのでみんなに読んでもらいたくなった。
プリンターで印刷をして綴じると、表紙を付けてていねいに製本した。
ハードカバーのしっかりした本が出来上がった。
ちゃんと、しおりひもまで付けた。
そしてイラストとタイトルを描いたカバーをかけると立派な一冊の本になった。

ぼくは廊下から大きな鏡を部屋に持って入った。
そして部屋にあった鏡と向い合せに置くと、出来上がった本を持ってその鏡と鏡の間に入る。
すると、ぼくの前にも後ろにも、たくさんの本を持ったぼくが現れる。
手に持った本を差し上げるとたくさんの僕が本を差し上げた。
ぼくは目を閉じ、その鏡に映った本のことを強く念じた。

ぼくが鏡の間から出ると、しばらく「どさどさ、どさ」と言う音がしていた。
鏡をのけるとそこには何百冊と言うぼくが作ったのと同じ本が出来上がっていた。

ぼくはわくわくしていた。
あした、これを街の本屋さんへ持って行こう。
本屋さんはみんな仲良しだからぼくの本も置いてくれるに違いない。

それはとてもうれしかったんだけど一つ困ったことがある。
いったいどうしたらいいんだろう、何百人にも増えてしまったぼくを。



おわり



過去に書いたツイッター小説をワードにコピべしてまとめています。
その中から面白そうなのをごそごそ探し出してきては長くしてショートショートにすると言うのがこの頃のパターンですね。

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by marinegumi | 2014-04-12 18:09 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

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その1

こぼかたさんは無事に記者会見を終えた。
自分の非は素直に認め、深々と頭を下げて謝罪をした上で言いたいことをちゃんと説明した。
その健気さと、時折涙を見せる頼りなげな表情にテレビ中継を見て心打たれた男性ファンが激増したことだろう。

何百人と言う報道陣がすべて撤収したところに再びこぼかたさんが現れた。
ホテルの従業員によって片付けの真っ最中の会場に入って唖然としている。
従業員の一人に声をかけた。
「あの。記者会見は中止になったのですか?」
振り返った従業員はそれがこぼかたさんだったので意外な顔をした。
「あ、いえ、中止だなんて。ちゃんと記者会見は終わったじゃないですか? こぼかたさん、立派でしたよ」と満面の笑顔になった。
「ひょっとしてこぼかたさん、記者会見の記憶がないとか? 相当お疲れのように見えましたけれど」
「ああ、そうなんだ。あの子がやってくれたんだわ」
そう言うとこぼかたさんはその場に崩れるように倒れた。

その後判明したところによると、こぼかたさんは交通事故による道路の渋滞で車が遅々として進まず、大幅に記者会見に遅れてしまったらしい。
そして、彼女の代わりに記者会見をこなしたのはSTAP細胞によって作成されたこぼかたさんの複製だったのだ。
なんとSTAP細胞はそこまで大幅に進歩していたのだった。



その2

iPS細胞やSTAP細胞、ES細胞など、さまざまな万能細胞が実用化され、医療現場ではなくてはならないものになっていた。
しかしある年を境にして万能細胞の暴走と呼んでもいい症例が頻発し出したのだ。
最初の報告例としては、ある男性が万能細胞によって事故で失った右腕を取り戻したが、その再生された部分からもう一本の腕が生えて来たのだ。
腕は完璧なもので、それぞれ思うように動かせた。
便利と言えば便利だったがその見かけのグロテスクさに切除手術をしたと言う。
またある女性は胃がんによって切除した胃を万能細胞で再生したのだが、お腹が張ると言うので検査をすると、いつの間にか胃が二つに増えていたのだった。
こういう症例が日を追うごとに増えて行った。
テレビや新聞雑誌のマスコミは「万能細胞の暴走始まる」「神からの警告」などと言うタイトルで特集を組んだ。

そんな中、こぼかたさんの記者会見がテレビで放映されていた。
「これが新しく培養した細胞の写真です」
スクリーンにパワーポイントの画像が映し出されている。
その細胞は赤い色をしていた。
「それは新しい万能細胞ですか? 今、問題になっている暴走が起きないように改良された万能細胞だとか?」
「いえ、そうではありません。これはあらゆる万能細胞と同時に使用して、万能細胞の暴走を食い止めるものです。名前はSTOP細胞と言います」



おわり


「こぼかたさん」で検索して来て下さる皆さん、「小保方(おぼかた)さん」を「こぼかたさん」にしたのはこの作品がフィクションだと言うことをはっきりさせるためです。
「小保方」は「こぼかた」ではなく「おぼかた」ですからね。
ちなみに「ソメイヨシノ」も、おぼかたさん関連の創作です。
合わせて読んでください。


またもや時事ネタになっちゃいますね。
現実のパロディーですね。
世の多くの男性と同じく(?)好意的な目線で書かせていただきました。

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by marinegumi | 2014-04-10 15:44 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

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「いいか、お前ら。人間にはやる気スイッチなんてのは付いてないんだ」
教師は黒板に書いてある『きょうから新学期!!』と言う文字をダン!と叩いてそう言った。
「『そのうちやる気スイッチを入れて勉強を頑張ります』だと?そんな甘い事でどうする!」
彼は生徒一人ひとりから集めた新学期の目標が書いてある作文の束をひらひらさせた。
そしてするどい目で生徒たちをぐるりと見渡した。
「誰がそれを書いたかは言わないが、40人中13人もが同じようなことを書いとる」
教師は頭をぼりぼりと掻いた。
「先生は情けないぞ。いいか?やる気スイッチなんかはない!常に全開で行け!そうでないと……」
教師の言葉が途切れ、彼は教卓に両腕を付いたまま首だけを下に向けて固まってしまった。
「あれ?ロボット先生、止まっちゃったよ」と、一人の女生徒が言う。
教師の後ろにはいつの間にか、意地の悪そうな眼をした男子生徒が立っていた。
「背中の電源スイッチ押してやったぜ」



おわり




そろそろ新学期も始まりましたね。
タイムリーなものをと思いまして。

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by marinegumi | 2014-04-08 18:20 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

ソメイヨシノ (4枚)

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彼女は実に長い時間、何度も何度もプレパラートを替え、顕微鏡で観察していた。
息を止めてじっと数十秒。
そして小さくため息をつき、ふと視線を上げる。
そこには壁に飾られた桜の花の写真があった。
ま正面の写真の木は、まるで雲海のように咲き誇る満開の桜だった。
研究室には他にも写真はある。
可憐な花のクローズアップの写真。
色の濃い蕾(つぼみ)の写真。
木漏れ日が美しい葉桜の写真。
その全てが桜、ソメイヨシノの写真だった。
ぐるりと見回してまた正面の写真を見ると、少しかすんで見えた。
目が疲れているのだと自覚していた。
椅子の背もたれに体重を預け、腕組みをして目を閉じる。
目を閉じて数秒後、彼女の後ろで音にならないほどかすかな音が聞こえた気がした。
ひそやかな、空気をわずかに震わせる、ささやくような音。
彼女はゆっくり後ろを振り返った。
そこには高さ1メートルほどの桜の木が植物育成用のLEDライトに照らされて立っていた。
土を入れた大きなコンテナに桜の木は十数本植えられていたが、あるものは枯れ、あるものは葉をつけただけだったりするが、そのうち一本だけがわずかに数個の蕾を付けていた。
そしてその蕾のうちの一つが奇跡の様に開いていたのだ。
彼女は立ちあがってその花に顔を近づけた。
「さっきの音はあなただったのね」
花に手を伸ばした彼女の手はわずかに震えていた。
その手は花には触れずにしばらく愛おしく花を包んでいた。
「やっと咲いたのね」
80年ほど前からソメイヨシノの伝染病が猛烈な勢いで広まり、食い止めるために多くの木が伐採された。
しかし効果は全くなく、またたく間にソメイヨシノは全滅してしまった。
数年遅れてアメリカや他の国のソメイヨシノも同じ運命をたどった。
その伝染病はまた、突然変異を繰り返し、ジワリジワリと他の木々にも魔手を伸ばし、全国の山々は茶色く変色して行くのに任せた。

ある農業施設に何十年も冷凍保存されていたソメイヨシノの苗木があると聞いて彼女たちのチームはそれをもらい受けたのだがすでに冷凍庫は故障して久しく苗木は腐蝕してしまっていた。
それでも彼女は諦めなかった。
腐った苗木からわずかに生き残っている細胞を取り出して培養を始めた。
彼女のチームが桜の復活を目指して研究をしていると聞いた人々は誰もが笑い飛ばした。
誰もがそれは無理だと口をそろえた。

それがやっと今、小さな木に成長して十数本のうちのただ一本が育ち、葉をつけ、葉を散らし、蕾をつけ、ついに一輪の花が開いたのだ。
彼女の目はその一輪の桜の花の向こうに満開の桜の木を見ていた。
雲海のようにうねる桜並木を見ていた。
「この木はきっとどんな伝染病にも負けない強い桜になるわ」
彼女は自分が着ているおばあちゃんからもらった割烹着を見た。
研究室では白衣代わりに着ているものだ。
「おばあちゃん。わたし頑張ったわよ。おばあちゃんみたいに」




おわり




昨日書いた三本のツイッター小説のうちの一本を長くしてみました。
珍しく時事ネタだったりして。

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by marinegumi | 2014-04-05 22:44 | 掌編小説(新作) | Comments(6)

機械の心臓 (2枚)

画像は宮永咲メイド服バージョンのフィギュアですa0152009_14282985.jpg

働き始めてまだ一年目のメイドのミミはとても可愛く、しかもよく気の付く娘だった。
そして心底、私のことを心にかけてくれているのがよく解った。
しかし、彼女も解雇することにした。
僅かに心残りではあったけれど、どうしようもなかったのだ。
彼女よりずっと年上の古株のメイドも三人同時にやめてもらうことにした。
そう、私のわがままだった。
「それでは長い間お世話になりました」
メイドたちはこの屋敷を去る時に無表情で深々とお辞儀をして出て行った。
しかしミミだけは違っていた。
言葉もなく、ただ目を潤ませていた。
何度も私を振り返りながら屋敷を後にした。

三日後には新しいメイドがやって来た。
最新型のメイドロボットが二体だ。
一体はスタンダードな作りだが、もう一体はその顔をミミとそっくりに作ってもらった。
そう、私にはまだミミに対する思いがわずかに残っているのかもしれない。
メイドロボットたちはよく気が付き、よく働いた。
無表情で、しゃべる語彙も少なかったけれどそれは今の私には心地が良かった。
交通事故で車両に体が押しつぶされ瀕死の重傷を負った私の体はその殆どが医療用機械体躯に交換されていた。
元のままなのは脳と顔の一部だけだった。
ほぼロボットだなと考える事がある。
でも、別にそれが悲しいとも、嫌だとも思わない。
ただものの考え方が変わってしまったように思う。
人間相手では会話が思うように行かなくなってしまった。
ぎくしゃくして脳がストレスを感じるのだ。
ロボットのメイドたちといるとそんなことはない。
至って快適なのだ。
ただ、たまに、あの可愛かったミミの笑顔を思い出すことがある。
そんな時は決まって機械の心臓が、チクリとわずかに痛むような気がするのだ。



おわり



ここのところ、おおむねツイッター小説が快調です。
書こうと思って考え始めるときは面白いものが書ける気はしないんですけど、すぐにぽっと何らかのアイデアが浮かびます。
それがけっこうおもしろかったりすることが多いと言うことですね。
これは昨日のツイッター小説を長くしたものです。

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by marinegumi | 2014-04-04 14:31 | 掌編小説(新作) | Comments(0)