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僕の天使 (5枚)

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僕は天使の写真を撮った事がある。

それは僕がほんの子供の頃だった。
父親の大事にしていたカメラを庭に持ち出し、色づき始めた柿の葉っぱや、母親が育てている草花へレンズを向けていた。
そう、ただレンズを向けるだけで、決してシャッターを切るなどと言う大胆なことはしなかった。
一眼レフカメラはまだまだ高価な時代で、フィルムもまたしかり。
父親は一枚一枚の写真を慎重に大事に撮っていたものだ。
当時はまだ珍しかったカラーフィルムだった。
ファインダーに被写体を映し、ピントを合わせ、「カシャッ」とシャッター音の口真似をするだけ。
「カシャッ。カシャッ」
そうやって遊びながら、そろそろその遊びにも飽きてきた頃、縁側に座って庭全体の景色をファインダーで切り取り、最後の一枚のつもりシャッターを切りかけたとき、景色が全体に白っぽくなった。
そう、ちょうど逆光のように。
でも太陽は反対側にあり、決して逆光ではなかった。
不思議に思いながらカメラを覗き続けているとファインダーの真ん中にふわりと白いものが降りてきた。
白いゆったりとした服を着て、顔や手足もそれに負けずに白い、それは少女のようだった。
少女は実にゆっくりと庭の雑草の上に降り、その足を着けた。
「天使だ!」
僕はとっさにそう思った。
羽根らしいものは見えなかったものの、その子は天使だと思った。
僕の指は無意識のうちにシャッターボタン押してしまっていた。
そして、カメラから目を離し、自分の目で庭を見た。
するともうそこには天使の姿はなく、ただ雑草の多い見慣れた庭があるだけだった。
カメラを縁側に置き、庭に出て空を見上げた。
ただ、もうすぐ暮れようとしている空があるだけだった。

ある日父親がフィルムを現像に出した。
僕がシャッターを押した続きに近所の祭りや集会の写真を撮り、そこでフィルムは終わったのだ。
机の上に現像から返ってきた写真を並べて選り分けていた父親が「あれ?」と声を上げた。
「なんだこの写真は? 撮った覚えはないんだが……」
僕は後ろから覗き込んだ。
「お庭の写真だね」
そう言いながら写真を手に取った。
僕は精一杯何も知らないお芝居をした。
「誰も写ってないや。どうしてこんなの撮ったの?」
「いやあ、わしは撮った覚えはないんだが……」
そう、その写真には庭の風景以外何も写っていなかった。
あの天使はなぜ写ってないんだろう。
ぼくはちょっとがっかりしながら言った。
「この写真僕にくれる?」
「いいとも。何にするんだ?そんな写真」

その写真は今も僕の机の上にある。
二面が蝶番でつながった小さなフォトフレームに入れ、陽に色褪せないように普段は閉じている。
一面に庭の写真と、もう一面には僕の子供の頃の白黒写真。
見るからに腕白そうなそんな僕ももう大人だ。
子供の自分から見ると信じられないことに、ちゃんと奥さんまでいる。
毎日の様に夜遅くまで働いてくたくたになって帰ってくる。
時々そういう生活が嫌になることもある。
そんな時はこの写真を手に取った。
そっと開くと誰もいない庭の写真と子供の僕。
でもしばらくすると写真の中の庭に、あの日見た天使が舞い降りてくる。
庭の雑草の上にふわりと裸足の足を着けて立ち、僕に向かって微笑むのだ。
すると僕はあの頃の、子供の頃の僕に戻っている。
疲れも何も知らない思い切り元気だったあの頃の僕に。
その天使は僕以外の誰にも見えない。
何度か人にも見せたことがあるけれど、その写真の中に天使を見るのは僕だけなのだ。
ずっとそうして僕は僕だけの天使を見ることで癒やされてきた。
誰にも見えない?
いや、そうではないかも知れない。
僕たちの間にできた女の子がその天使にそっくりなのだ。

いつの間にかこの写真にはもう天使は舞い降りてこなくなっていた。
それともまた違う天使がそのうち舞い降りるのだろうか?


 
 
 おわり
 



病院から更新、2作品目です。
なんとか両手が使えだして、キーボードで打ちました。
なんと打ちやすいこと。

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by marinegumi | 2016-10-30 20:17 | 掌編小説(新作) | Comments(5)

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著作者: avaxhome.ws


ただいまより、鶴女房反省会を行います。


✻男の反省

そうなんだよな。
何と言ってもおいらが悪いのは間違いがねえ。
あんなに何度も、開けちゃいけねえ、覗かないでくれと言われてた約束を破っちまったんだもの。
でもさあ、だんだん痩せてくかかあの事が心配だったつうのもあんだよ。
言い訳かも知んねえけどさ。
愛してたんだよな。
もう一度やり直したいと、そりゃー思ったさ。




✻鶴の反省

ええ、愛していました。
不器用でしたけれどとても優しい人でした。
いまから思えばお金の為に布を織る事などせず、貧しいままでいいから、ずっとあの人と一緒に暮らせばよかったと思います。
でも、約束をあの人が破った以上、もう戻れないのです。




✻もう一羽の鶴の反省

そうなんですよね。
ワナに掛かって怪我をしている所をあの人に助けてもらったんです。
手当てをしてくれて優しく見送ってくれましたっけ。
恩返しをしなくちゃと思いましたよ、そりゃね。
人間の娘に姿を変えてあの人の所へ押しかけ女房。

あの人は貧しかったので、お金になればと思って布を織りました。
自分の羽根を材料にして。
布を織っている所をあの人は決して覗いたりはしませんでした。
ええ、それは二人の間の約束でしたから。

ところが、ある日あの人はたくさんの鳥の羽根を持って帰って来ました。
そして、「これでもっと布が織れるだろ?」と言うのです。
いえ、あの人が部屋を覗いたりしていない事は私が一番よく分かっています。
私の正体を知っているのかいないのか。
もし感づいているとしても、約束を破ったのではないので家を出て行く訳にも行きません。

あの人は案外腹黒い人間だったのかも知れません。
ひょっとしてあの私の掛かったワナはあの人が仕掛けた……
いや、まさか。
そんな事は考えますまい。
今日も明日も、ひたすらあの人が持って帰るたくさんの鳥の羽根で布を織り続けます。
その中に鶴の羽根が混じっていないことを願いながら。

ああ〜、男なんてどうせ、約束破ると思ったのが間違いだったわね。
あら、つい本音が出ちゃったわ。

え?
あの人に、私より前にも鶴の女房がいた可能性?
そ、そんな事はあるはずないでしょ。
変な事言わないでくださいな。




✻男の反省(続き)

そうなんだよな。
やり直せてよかったさあ。
布をどんどん織ってもらえるしさ。
ほら、今日も都から商人がたくさん布を買いに来てるだろ?
もう、そりゃー儲かっちゃて、笑いが止まらないつーやつな。
そろそろでっかいお屋敷でもおっ建てるべか。

まあ、ひとつ言やあ、前のかかあと比べて器量の方がさ。
いやいや、今のかかあも充分きれいさ。
愛してるさあ。
これって反省会だろ。
あえて反省すればって事だかんね。
わはははは。




おわり




え~、病院からの更新になります。
これはりんさんの「浦島太郎反省会」を受けて書いた物です。
まだ左手のマウスでポチポチですから、時間が掛かってしょうがない。
こう言う状態では本格的な小説はちょっと無理かなあ。
キーボードがあるので、早く両手が使えるようになればいいんですけどね。

イラストは「GATAG フリーイラスト素材集」さんでお借りしました。


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by marinegumi | 2016-10-19 21:09 | 掌編小説(新作) | Comments(4)