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食料専用宇宙貨物船 (2枚)

食料専用宇宙貨物船 (2枚)_a0152009_20523876.jpg

テラフォーミングされた火星は今や農場惑星だった。
農作物はもとより大量の家畜も放牧され、地球の食糧庫と呼ばれるまでになっていた。
栽培、飼育、収穫のほとんどが機械化されていたので、農業に従事する火星村の住民は数が少なく、せいぜい数万人と言うところだ。
統一された地球政府によって管理されたそこに住む人々は、一昔前の地球に似た、のどかな田園生活を送っていた。

火星村はまだまだ娯楽が少なく、生産地であるために食料の価格は安く、多くの人が美食に走った。
そこで問題になったのが住人たちの肥満である。
半数以上の住人が肥満による様々な病気を抱えているのが現状だった。
そこで、自分も病気持ちである火星村の村長は、住民のために地球からダイエット食を取り寄せる事にした。
カロリーが全くなく、脂肪燃焼効果があり、しかも非常においしいと言う高機能のダイエット食は地球の専門工場でないと生産が出来なかったのだ。

発注をしてから3ヶ月後。
ダイエット食だけを乗せた無人宇宙貨物船が到着した。
ところが、係員が荷物を検品していると、その積み荷の中に、乱暴に開封された箱がいくつも見つかったのだ。
係員が不思議に思いながら荷役ロボットが荷物を運び出すのを見ているうちに、一人の男の死体が積み荷の陰から現れた。
それはひどくやせ衰えた、しかし腹部だけは異常に膨らんだ死体だった。

「男の身元がわかりました、村長」
火星警察の刑事が言った。
「地球では何度も前科のある窃盗犯で、最近盗みに入った時に人を殺してしまって指名手配されていたらしいですね」
「それで、火星に密航を企てたのか」
火星と地球を往復する貨物宇宙船は毎日のように運航をしていたが、そのほとんどが無人の、食料運搬用だった。しかしダイエット食だけが載せられた事は今回が初めてだった。
「犯人は食料専用の貨物船だと思っていたので、手持ちの食料は一切持ってなかったんでしょう。栄養失調で死んでいた彼の胃の中はダイエット食品でパンパンでしたね」



おわり



この作品は矢菱虎犇さんのショートショート「スナック三昧」のアイデアを拝借して、違う方向から描いたものです。

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by marinegumi | 2012-06-01 20:59 | 掌編小説(新作) | Comments(6)

Commented by りんさん at 2012-06-02 13:37 x
宇宙船にトクホって書いてあるのが、まず笑えます。
すごい強烈なダイエットフードですね。
脂肪が燃え尽きちゃったみたいです。
やっぱり食事はバランスよく…ね^^
Commented by haru123fu at 2012-06-02 15:55
これは、虎犇秘宝館を見てから読むとよりリアル感が増しますね。
火星村。。。住みやすそうなところですね。
悩みはダイエットだけ。。。きっと平和なんでしょうね。(笑)
Commented by marinegumi at 2012-06-02 23:48
りんさんこんにちは。
宇宙時代のトクホ食品て、すごくよく効くものに進化してるんでしょうね。
きっと注意書きに「食べすぎに注意してください」と書いてあるはずです。

ふと思ったんですが、栄養失調で死ぬ前に窒息死するかなと。
無人ロケットなら宇宙船内は酸素がなくてもいいわけですからね。
Commented by marinegumi at 2012-06-02 23:54
haruさんこんばんは。
火星村はほんと、のどかーな所ですよ。
将来移住するのもいいかもしれませんね。

虎犇秘宝館は、Tome文芸館とともに、アイデアの宝庫ですね。
ちょっともったいない使い方がされている作品もたくさんあります。
そんな時にそのままアイデアをいただいちゃうのは駄目ですからちょっと方向を変えて、ヒントにさせていただいています。
うふふー
Commented by ヴァッキーノ at 2012-06-03 09:21 x
どんなに未来になっても、やはりトクホは健在なんですね。
ダイエットは、永遠の魅力。
食べても食べても痩せる焼肉とかないかなあ。
Commented by marinegumi at 2012-06-04 18:41
ヴァッキーノさんおはようございます。
>食べても食べても痩せる焼肉
どんどんやせては困るので、食べても食べても太らない焼肉ですね。
きっと出来ると思います。
野菜が原料で、完璧に肉の味とかね。
いくら太っても1日あれば元の体系ダイエットなんてのもできるかもしれないし。
そんな時代に生まれたかったですね。