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わたしのロボットたち (10枚)

わたしとダンシリーズ 1

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わたしのボディーガードロボットのダンはその見かけと違ってとても優しい。
ダンはきちんとスーツを着て、いつでもとても紳士的だ。
でも背の高さは190センチもあり、人ごみの中ではとてもよく目立つ。
体型も思い切り肩幅が広く、逆三角形で胸板も分厚い。
悪い奴に威圧感を与えるように作られているんだ。
足が悪くて、車いすを使っていたわたしは今ではダンにお姫様抱っこをしてもらってどこにでも出かけるようになっていた。
ダンが家に来て初めの頃はわたしの車いすを押してくれていたんだけれど、抱っこの方が身軽にどこへでも出かけることが出来るのが分かった。
初めはとても恥ずかしかったけれどね。
今ではお姫様抱っこにふさわしく、お姫様みたいなドレスを着て出かけたりすることもある。
なんだかそういうのを楽しんでいるんだ。

パパがわたしにそんなボディーガードロボットを買ってくれたのはあの事故があってからだった。
わたしが足を悪くしてしまったあの日の船の事故。
わたしはパパのクルーザーで港から10キロほど離れた小さな島にある別荘に行く途中だった。
お友達ロボットのミミと一緒にわたしは甲板で遊んでいた。
どこへ転がるかわからないランダムボールを二人して転がし合い、追いかけて転んだり夢中になっていた。
思わぬ方へ転がったボールを拾い、目を上げると波の向こうに黒いものが見えた。
それはとても大きく、海の中から波しぶきを立ながら出て来たんだ。
まるで海が二つに割れたようだった。
どこかの国の潜水艦だった。
大きな音がしてわたしは訳もわからずに弾き飛ばされ、何かに体を挟まれた。
ロボットのミミはわたしのすぐ目の前で、わたしに手を差し伸べようとしたけれど、横からの波に押し流され、傾いた甲板を滑り落ちて行ってしまった。
気が遠くなりながら私はミミの名前を何度も呼んだ。

わたしはずっと夢を見ていた。
それはミミの夢ばかりだった。
幼い頃からわたしはいつもミミと一緒だった。
ミミは初めの頃はわたしより背が高く、お姉さんのようにわたしに接してくれた。
いろんな遊びに付き合ってくれたし、わたしのしかけるいたずらの犠牲者にもなってくれた。
学校へ行くようになると勉強するときにも一緒に考えてくれた。
ミミはわざと簡単な問題を間違ったりしてわたしに優越感を持たせるようにプログラムされていたのだと思う。
それをいいことにミミが計算を間違うと、罰として顔に落書きをしたりしたこともあった。
いつしかわたしがミミより背が高くなった。
わたしが「ミミ」じゃなくて「ミニ」になっちゃったねと、からかうと悔しそうな表情をする。
その半年後、お父さんがオプションのフットモジュールをミミに取り付けさせて、またわたしより背が高くなったときのミミの得意そうな顔。
ミミには本当に人間と同じような感情があるのだとわたしは疑わなかった。
ミミの製造年月日は保証書に書いてある。
その日はつまりミミの誕生日だ。
だからわたしはその日にミミに贈り物をした。
ゴールドステンレスのブレスレットだ。
右手首にはめてあげると、本当にうれしそうな声で言った。
「ありがとうご……」
「ございますって言っちゃダメ!」

わたしはミミと一緒に泣き笑い、喧嘩もしたり、まるで兄弟のように育って来た。
時間が前後しながら、そんなミミとの思い出を繰り返し夢に見ながらわたしは生死の間をさまよっていた。

やがて病院のベッドの上で目覚め、しばらくしてわたしはもう自分の足では歩けないことを聞かされた。
残った使えない足を切り、今の技術で最高の義足を付けると前と同じように、いやそれよりももっと優れた運動能力が身に着くとお医者さんは言ったけれどパパはそれを認めなかった。
わたしはその義足でもいいと思ったんだけど。

車いすに乗って退院して、しばらくたったある日、パパは新しいロボットを買ってきた。
それが特別仕様のボディーガードロボットだった。
あの時の船の事故でミミが私を助けられなかったというので、それをパパは自分の責任のように思っていたのかもしれない。
何があっても私を守るため、そう思って要人警護用のそのロボットを発注していたんだ。
わたしはそれを見て、あまりの大きさ、ミミとのあまりの違いに、驚いて恐怖さえ感じた。
でもすぐにその振る舞いの優しさに接すると安心して打ち解けた。
ダンという名前はわたしがつけたんだ。

恥ずかしさを乗り越えてお姫様抱っこでどこへでも出かけるようになっていたある日、わたしはダンに海に行きたいと言った。
あの事故があってから、パパもママもわたしをあの島の別荘に連れて行こうとはしなくなった。
それどころか海の近くに行くことさえなくなっていた。
海を遠ざけていたのはわたしも一緒で、テレビなんかで海が映ると、それだけで何となく恐怖を感じた。
でも、ずっと小さな頃から海は好きだった。
ミミとの思い出でも海で遊んだ記憶がいっぱいあった。
だからもう一度自分が海を受け入れることが出来るのかどうか、自分を試してみたかったんだ。
「海へ行きたいの」
そう言うとダンは珍しく10秒ほど考えているふうだった。

ダンの運転する車に乗って私たちは海へやってきた。
ダンがいつもいてくれるようになってからパパは他には誰もいなくても外へ出かけることを許してくれた。
海岸に車を止めて、先に降りたダンはわたしを座席から抱き上げ、いつものお姫様抱っこをしてくれる。
急な防波堤をゆっくりと降り、テトラポットやごつごつした岩の上をダンは2本の脚で、バランスよく、なめらかに、危なっかしさを全然感じさせずにわたしを波打ち際まで運んだ。
ダンの肩に手を回し、抱っこされたままわたしは遠くの水平線を見た。
陽はまだ頭の上の方にある。
見下ろすと音を立てて波が打ち寄せてはまた引いて行く。
もうずいぶん嗅いでいなかった海の香りがわたしを包んだ。
ダンはゆっくりと岩の上を歩いた。
堅い足音がサクサクと音を変えたので見下ろすとダンの足元は砂浜になっている。
ゆっくりゆっくりと景色は変わって行く。
ふと目に見えている景色のはじっこの方に何かが見えた。
何かがキラリと光ったんだ。
訳もわからず心臓がコトリと鳴った。
砂浜が終わりかけている場所。
その向こうはまた岩場が始まるというこちら側に何か機械の残骸のようなものがあり、ダンがその足を運ぶにつれて大きく見えて来る。

もう元の形をとどめていなかったけれど、それはロボットのようだった。
ダンみたいな金属のボディーではなく、人間になるべく似せてつくられたフェイクスキン仕様のロボットだった。
スキンは破れ、中の機械がむき出しになってはいたけれど、その手首にはわたしがミミにあげたブレスレットがあった。
ひどく曲って色も変わっていたけれど、見間違いようはなかった。
それは、あの日海に沈んだお友達ロボットのミミだったんだ。
わたしは泣いた。
ダンの胸に顔を押し付けて思いっきり泣いた。

泣き疲れて眠ってしまったらしい。
わたしは砂浜に腰を下ろしたダンの膝の上で頭をなでられながら目を覚ました。
陽はだいぶ西の方に傾いている。
わたしはダンの腕に捉まり、裸足で砂浜に立った。
そしてそこにあるミミの残骸をじっと見た。
「おかえり、ミミ」



おわり



この作品の続編があります。
「猫のカノン」です。

仕事中に半分ほど書いて、後は家に帰ってから仕上げました。
どれだけ仕事が暇なんですか~(笑)
いえいえちゃんと仕事もしていますよ。
書き上げてすぐアップなので、校正はぼちぼちね。

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by marinegumi | 2013-02-19 21:52 | 掌編小説(新作) | Comments(8)

Commented by haru123fu at 2013-02-20 18:40
お~い!海野さん、DMにお願い入れたんですけど、いいですか?
実は、録音だけは既にしてしまいました。(^^;
Commented by 海野久実 at 2013-02-20 18:49 x
あれ?
さっきDMで返したばっかり。
文章おかしなところなかったですか?
もうちょっと見なおしてみようと思っていたんですが、特にへんな所がなかったのならOKですよ。
Commented by KawazuKiyoshi at 2013-02-21 12:39
今日は。
沢山のショートを書いていらっしゃるのですね。
ここはゆったりしていて好いですね。
まほさんのところに行ったら、すごいコメントの山に
ビックリしてしまって、引き込んで帰ってきてしまいました。
ふふふ
haruさんとのコラボ楽しいですね。
また来て読んで見ます。
今日もスマイル
Commented by 雫石鉄也 at 2013-02-21 13:55 x
さすがですね。
読ませられてしまいました。
10枚という長さを感じませんでした。
ダンにひとこともセリフをいわせなかったのが良かったです。
それでいて、しっかりダンのキャラが立ってます。
Commented by りんさん at 2013-02-21 16:50 x
とても人間らしいロボットですね。
そんなに仲良しで人間に近くても、壊れたらスクラップ。
悲しいですね。
素直に悲しむ少女もいいし、そっと見守るダンもいいですね。
Commented by marinegumi at 2013-02-22 01:04
Kawazuさんこんにちは。
コメントありがとうございます。
haruさんは朗読の音楽を見つけやすくなったようですね。
この作品のバックの音楽もぴったり、いい感じです。
SFなのでシンセサイザーっぽいのがいいかなと思っていたんですよ。
スイッチトオンバッハみたいなクラシカルエレクトロニクス?な感じの。
僕は音楽は好きですが、作曲、演奏となると未知の世界ですね。
Kawazuさんの作品の多さもすごいものです。

>ゆったり
というか、時々閑古鳥が鳴きますけど。
でもまあ、書いている時が至福の時ですからね。
今日もスマイル。
いただきました。
Commented by marinegumi at 2013-02-22 01:07
雫石さんこんにちは。
雫石さんにほめられるとほっと一安心、お墨付きってな感じです。
最近ツイッター小説でロボットものを毎日1本書いています。
その中からの1篇です。
Commented by marinegumi at 2013-02-22 01:10
りんさんこんにちは。
人間らしいというか、人間ぽいというか。
無機質、無表情、無言なのになぜかあったかい。
そんな感じが出てればいいなと思って書きました。
パパをもうちょっと出番を多くすると30枚ぐらいの短編になりそうな気が。