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緑色のセミ (3枚)

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それは夏のある日だった。
記憶がひどく曖昧なので、多分私が三歳ぐらいの頃だろうか。
木に留まっている緑色のセミが鳴いていたのを覚えている。
その鳴き声は小さく、まるでラジオの雑音のように聞こえた。
それは多分夢だったのかも知れない。
だって、夏によく見るクマゼミと言うセミは、身体の一部が緑色だけれど、そのセミはうそみたいに体中が緑色なんだから。

その暑い夏の日にもう一つの記憶がある。
笑顔のお母さんから渡された小さな袋。
それには何やら文字が書いてあり、わずかだけれどお金が入っていた。
それをどうしていいのかわからずに、私は宝物のように自分の机の中に大事にしまっておいた。
そう、それが今でも私の手元にある。
あれからたぶん十年は過ぎているだろう。
その袋を私は時々机から出しては眺め、中身を見てはまた大事にしまった。
文字が読めるようになった頃にはその袋が何なのかを理解していた。
「お年玉」とそれには書いていたんだ。
そしてその中には帽子をかぶった男の人の絵が描かれたお札が一枚入っている。
夏なのにお年玉とはどういう事だろう?

考えれば考えるほど不思議なので、ある日とうとうお母さんに聞いてみた。
そう、それは私が13歳になる今年のお正月に、お年玉をお母さんから手渡された時だった。
「ああ、それ、まだあのまま持っていたのね?」
お母さんは遠い目をして窓の外へ目をやった。
「それは私たちがオーストラリアにいた頃ね。あなたに上げた初めてのお年玉。そうね。あまりあの頃の話はあなたにしなかったものね」

私のお父さんは私が幼い頃に死んだ。
それは仕事の関係で家族が住んでいたオーストラリアでだったと言う。
お母さんは思い出すと辛くなるので、私と二人で日本へ帰って来てもその頃のお話はほとんどしないようにしていたらしい。

自分の部屋に帰り、初めてもらったお年玉の袋からお札を取り出して裏表をじっくりと眺めた。
オーストラリアドルの10ドル紙幣だ。
雪の積もった窓の外の景色を見ながら、今オーストラリアは夏なんだなと考えていると何だか不思議な感じがした。

殆ど記憶のない、オーストラリアでの家族の暮らしを、いつかお母さんが話してくれる時が来るだろうか?



おわり



明けましておめでとうございます。
ほぼ放置状態のこのブログですが、まあ、ごくゆっくりしたペースでも、何か書いて行ければいいですね。
小説を書くコンペみたいなところで定期的にショートショートを書いているので、なかなかブログまでは手が回らない状態です。
ブログやツイッターを辞めてしまうのはあまりに寂しいので、今年は、なるべくなんやかや書いて行こうと思います。

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by marinegumi | 2018-01-01 23:29 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

Commented by もぐら at 2018-01-09 17:10 x
あけました、おめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

そしてさっそくのんですがお願いです。
こちらの作品を朗読させていただきたいのです。
はるさん推薦!
どうぞよろしくお願いいたします。
Commented by marinegumi at 2018-01-10 00:54
あ、もぐらさんあけましておめでとうございます。
ひさしぶりです。
クリスマス企画に参加できずにごめんなさい。

朗読、ぜひよろしくお願いします。