カテゴリ:掌編小説(新作)( 228 )

プレゼントは靴下に(4枚)

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クリスマスの朝。
いつもと違って目覚ましが鳴るよりも早く目が覚めた。
そりゃそうだろ。
サンタさんからのプレゼントがなんなのか、昨日の晩はそれが楽しみで、わくわくして、なかなか眠れなかったぐらいだったんだからさ。

起き上がってベッドから降りて、プレゼントがあるはずの枕元を見た。
でも、そこには何もなかったんだ。
「え? どゆこと?」
一瞬何も考えられなくって、やっと思いついたのはクリスマスの日を間違えてるんじゃないかと言う事だった。
そう、ぼくのかん違いで、今日はまだクリスマスイブだったりしたりして。
いやいや、だって昨日の夜はみんなでごちそうを食べたし、クリスマスケーキは二切れペロリさ。
お母さんやお父さんまで間違えるはずないもんな。

よく見ると、枕元の壁に下げてあったはずの靴下がなくなっていた。
それはぼくが昨日寝る前に自分でぶら下げたので、間違いなくそこにあったはずだ。
大きなプレゼントでも入るように、なるべく大きくてよく伸びる靴下をわざわざ買ってきたやつなんだからさ。
プレゼントがないだけじゃなく、その靴下までなくなってるなんてサイアクっていうやつだ。
誰かに盗られたんだろうか?
まさかドロボー?
サンタさんが来て、ちゃんとプレゼントを入れてくれたのにそれをまたドロボーがやって来て持って行っちゃったのか?
あんまりのショックで、ガックリ来て、ため息をつきながらカーテンを開けた。
何だか窓の外がぼんやり見えている。
いつものぼくの家の庭が、霧がかかったように見えているんだ。
下へ降りて玄関のドアを開けようとしたけれど、なんか変。
ドアを押すと向こうから押し返される感じなんだよな。
何か柔らかい物が外から押さえているみたいだ。
開いたドアのすき間からのぞいてみると何かがそこにあった。
手で押してみるとなんだか目の粗い布のようなものがそこにあるんだ。
わけが分からなかった。
ちょっと考えて、引き出しからハサミを持って来てそれをチョキチョキと切り開いてやった。
外へ出てみてびっくり。
めちゃくちゃ大きく伸び切った靴下が、ぼくの家にすっぽりとかぶさっていたんだ。
その靴下の柄を見ると、ぼくが買ってきたものに間違いなかった。
そしてその靴下の中の家は、ま新しいピカピカの新築の家だったんだ。
あんな小さな靴下がよくもこれだけ伸びたもんだと思ったけれど、いやいやそれよりも新しい家が今年のプレゼントだったと言う事がびっくりだよね。
まあ、プレゼントは靴下の中に入っていたんじゃなくて靴下がかぶせてあったわけだけどさ。
家の中に戻ってみた。
何で気がつかなかったのかと思うぐらい家の中も新しくなっていた。
家具も窓枠も、カーテンも、天井も照明もみんな真新しくて輝いていた。
僕が寝ていたベッドも布団もクッションもみんな新しくなっていた。
「ぼうや。どうしたの?」
お母さんが部屋に入って来た。
「今年のプレゼントは何だったんだ?」
と、お母さんの後ろから入って来たお父さんが言った。
そう言うお父さんもお母さんも、何となく前と違っているのはどうしてだろうか。
着ている服も新しくて立派だし、いやいやそれよりもその顔だった。
お母さんは前より絶対にきれいになっている。
ぼくのお母さんに間違いはないんだけれど、だいぶ若くてきれいで、そう、なんだか上品なんだ。
お父さんも、服もそうだけど、すごいイケメンになっている気がする。
お父さんに間違いはないんだけれどなんだか新しくなったような感じなんだ。
え? 
まさか?
新しい家と一緒に、新しいお父さんとお母さんもクリスマスプレゼントってわけ?
ま、まじでか~?

ぼくは恐る恐る、壁にかかっている鏡に映る自分を見た。




おわり




毎年恒例の「もぐらとはるのクリスマスパーティー」用に書いた作品です。
いやいや、招待状が届くとどうしても書いてしまうんですよね。
困ったものです。
いやいや、毎年思いきり楽しんで書いていますよ(ゲホゲホ)
書きたくて書きたくて待ち遠しいほどなんです。
いやほんと。

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by marinegumi | 2018-12-01 23:31 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

愛がほしい (1枚半)

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幼なじみってあんまり言いたくないんだよね、あいつのこと。
小さな頃から近所に住んでいてさ、時々いっしょに遊んだぐらいなんだけどさ。
小学校からずっと同じ学校だったわ。
中学、高校と何の因果かクラスまで同じ。
当然のようになれなれしくするあいつを、適当にあしらって来たのね。
ところが、社会人になってからまで、何と、何と! 同じ会社に入る事になってしまったんだ。
こうなるともう、幼なじみって言うよりも腐れ縁だね。

その彼から告白された。
私には全然その気がなかったので、即、「ごめんなさい」
だって、見るからにダサくて、さえない男の代表って感じに成長しちゃってたんだよね彼。
でもなかなかあきらめないの。

ある日のこと。
「君の愛がほしい」
なーんてあいつが言うので冗談半分……いや冗談全部でやった事なんだ。
何も入っていない可愛い箱を、きれいな包装紙で包み、リボンをかけてさ。
「はい。私の愛よ」と言ってそれを渡したんだ。
あいつは包みを解いて中を確かめたのに、失望するどころか大喜びしたんだ。
「大事にするよ」ってさ、アホかいな。

でもでも、その日から何だかあいつの事が気になって仕方ないんだよね。
だんだんあいつに魅かれて行く自分がいる。
ひょっとして私、間違って本当の愛を入れちゃったとか? 
そ、そんな~。



おわり



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by marinegumi | 2018-09-05 22:43 | 掌編小説(新作) | Comments(8)

再会 (2枚)

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わたしは大学二年の時に病気になってしまった。
治療法のない伝染性の奇病だと言われ、山奥の病院の一室に隔離されてしまった。
数か月過ぎたけれど、親も兄弟も面会に来てくれなかった。
たぶん来てくれてはいても、会うことは出来ないと断られているのかも知れない。
そうとでも思わなければ自分がみじめだった。
それほどわたしの病気は怖い病気なんだろうか。
ただベッドの上で日々を消化していくだけの生活だった。
大学の友だちの顔が次々に思い浮かんだ。
その中にさよならさえ言えなかった恋人の健二の顔もあった。

病院では時間の流れるのがもどかしいほど遅かった。
そう、一日は気の遠くなるほど遅く過ぎ、それなのに十数年があっという間に過ぎていた。
それは色彩の無い希望のかけらもない日々だった。

ある日、病室のカーテンが明るい色に替えられた。
汚れていた窓はきれいに磨かれ、それだけで景色が明るく見えた。
いつも不愛想だった看護師さんが笑顔で入って来て言った。
「今日から新しい先生があなたの担当ですよ」
その後ろからなつかしい声が聞こえた。
「あれから医大に入り直して猛勉強したんだぜ」
それは恋人の健二だった。
「きみの病気を治すためにさ」




おわり




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by marinegumi | 2018-06-04 21:45 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

丸い小さな空~空見の日~

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今日はブログのお友達、もぐらさんの提唱する「空見の日」です。
全国の、全世界の人々が一緒に空を見上げようと言う、ただそれだけの日…なのだと思います(笑)

上の写真は先ほど撮影したわが町の空です。
程よく雲が浮いていて、雲一つない快晴よりはこんな空が好きです。

それでは空に関するお話を一つ。



丸い小さな空 (2枚)


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ボクは毎日空を見上げている。
それは丸く切り取られたちいさな青い空だ。
そう。
その小さな丸い空はいつも青空だった。
たまに小さな雲が通り過ぎる事もあるけれど、だいたいいつも青空で、夕方にはオレンジ色に染まり、夜には星が輝く。
ボクは深い深い穴の底からその小さな空を見上げている。
毎日毎日、数えきれない長い日々。
あきちゃうこともなく、あこがれに似た気持ちで見上げている。

ある日ボクはあの空がある穴の「外」に行ってみたくなった。
そう、たぶんボクはそんな希望を持ってはいけなかったのかもしれない。
穴の外の世界の事を考え始めた頃から空に雲が増え、白い雲が灰色に変わり、やがてたくさんの水が落ちて来はじめた。
それはきっと雨と言う物らしかったけれど、ボクは初めてそれを見たのだ。

丸い小さな空はずっと灰色で日増しに雨は強くなっていった。
上を見上げているのも、目を開けているのもつらいほどたくさんの雨が降ってくる。
そしてボクがいる穴の底の水がどんどん増え、ボクの体も上に上にと浮き上がって行くのだ。
丸い小さな灰色の空がどんどん大きくなっていく。
いや、ボクがどんどん穴の上の方、「外」に近づいているのだ。
もう少しで外に出られそうだ。
このまま雨が降り続き、もしもボクが穴の「外」に出られたとして、ボクはそこで生きて行けるのだろうか。
そこは小さなお魚のボクが生きて行ける世界なんだろうか。



おわり


大阪府枚方市津田山手2丁目に空見の丘公園というのがあるそうですね。
いつ出来たんでしょうか。
今まで毎年「空見の日」のブログ記事を探すのに、「空見の日」で検索していたのですが、見なかったような気がするのですが。
そうだ。
来年の空見の日にはこの「空見の丘公園」にみんな集まると言うのはどうでしょう。
きっと誰も来ないでしょうね(笑)

もぐらさんの「空見の日」関連の記事一覧はこちらです。

「ゆっくり生きる」のはるさんの記事はこちら。空見の日です

「りんのショートストーリー」のりんさんの記事はこちら。ケンカのち、青空


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by marinegumi | 2018-03-23 16:21 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

図書館・春の雨 (3枚)

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春の雨の降る道を歩いてきた。
公園の芝生を横切ってレンガ造りの図書館の前。
ドアを開き、廊下を歩き、たくさんの本棚の前に立つと、もう雨の音は聞こえない。
ただでさえ優しく静かに降る春の雨だから。
図書館はしんと静まりかえり、外からの音も何も聞こえない。
壁に架かっている大きな時計さえ、その秒針は音もなく回り続けている。

時々、君が本のページをめくる音だけが聞こえる。
君がいつも読んでいたのは不思議なお話ばかりだったね。

「指輪物語」
「ライオンと魔女」
「霧の向こうのふしぎな町」
「モモ」
「龍のすむ家」
「だれも知らない小さな国」
「飛ぶ教室」

僕は君に読むのを勧められたけれど、とうとう一冊も読まなかったね。
本なんて嫌いだったんだよ。

またページをめくる音がした。
そのページが巻き起こすわずかな風の記憶がよみがえる。
そう、本を読んでいる君のそばで君の横顔をを見ているのが好きだったんだ。

君がいつも本を読んでいたお気に入りの場所まで来るとテーブルの上には一冊の本。
ページが開かれたまま置きっぱなしになっている。
誰もいないのに、ささやかな音を立てながらそのページがめくられる。

そう、不思議な物語ばかり読んでいた君は、不思議な国の住人になってしまったんだね。
恐くはなかった。
その本を手に取って閉じ、背表紙のタイトルを見た。

 「時の旅人」

君はまだこれを読みかけだったんだろうか。

僕は悲しくなった。
僕が本を嫌いだった本当の理由を君は知らない。
本なんて。
本なんて、君を僕から遠ざけるだけのものでしかなかった。
僕は、君の時間を、僕だけのものにしたかったんだ。

僕はその本を元通り、開いていたページを開いてテーブルの上に置いた。

しばらくすると風もないのにまた次のページがめくられた。



おわり



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by marinegumi | 2018-03-19 18:43 | 掌編小説(新作) | Comments(0)

緑色のセミ (3枚)

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それは夏のある日だった。
記憶がひどく曖昧なので、多分私が三歳ぐらいの頃だろうか。
木に留まっている緑色のセミが鳴いていたのを覚えている。
その鳴き声は小さく、まるでラジオの雑音のように聞こえた。
それは多分夢だったのかも知れない。
だって、夏によく見るクマゼミと言うセミは、身体の一部が緑色だけれど、そのセミはうそみたいに体中が緑色なんだから。

その暑い夏の日にもう一つの記憶がある。
笑顔のお母さんから渡された小さな袋。
それには何やら文字が書いてあり、わずかだけれどお金が入っていた。
それをどうしていいのかわからずに、私は宝物のように自分の机の中に大事にしまっておいた。
そう、それが今でも私の手元にある。
あれからたぶん十年は過ぎているだろう。
その袋を私は時々机から出しては眺め、中身を見てはまた大事にしまった。
文字が読めるようになった頃にはその袋が何なのかを理解していた。
「お年玉」とそれには書いていたんだ。
そしてその中には帽子をかぶった男の人の絵が描かれたお札が一枚入っている。
夏なのにお年玉とはどういう事だろう?

考えれば考えるほど不思議なので、ある日とうとうお母さんに聞いてみた。
そう、それは私が13歳になる今年のお正月に、お年玉をお母さんから手渡された時だった。
「ああ、それ、まだあのまま持っていたのね?」
お母さんは遠い目をして窓の外へ目をやった。
「それは私たちがオーストラリアにいた頃ね。あなたに上げた初めてのお年玉。そうね。あまりあの頃の話はあなたにしなかったものね」

私のお父さんは私が幼い頃に死んだ。
それは仕事の関係で家族が住んでいたオーストラリアでだったと言う。
お母さんは思い出すと辛くなるので、私と二人で日本へ帰って来てもその頃のお話はほとんどしないようにしていたらしい。

自分の部屋に帰り、初めてもらったお年玉の袋からお札を取り出して裏表をじっくりと眺めた。
オーストラリアドルの10ドル紙幣だ。
雪の積もった窓の外の景色を見ながら、今オーストラリアは夏なんだなと考えていると何だか不思議な感じがした。

殆ど記憶のない、オーストラリアでの家族の暮らしを、いつかお母さんが話してくれる時が来るだろうか?



おわり



明けましておめでとうございます。
ほぼ放置状態のこのブログですが、まあ、ごくゆっくりしたペースでも、何か書いて行ければいいですね。
小説を書くコンペみたいなところで定期的にショートショートを書いているので、なかなかブログまでは手が回らない状態です。
ブログやツイッターを辞めてしまうのはあまりに寂しいので、今年は、なるべくなんやかや書いて行こうと思います。

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by marinegumi | 2018-01-01 23:29 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

ガラケー (1枚半)

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電話が鳴っている。
それは何度も何度も数限りなく聞いた懐かしい携帯電話の音だった。
それは僕が初めて持ったガラケーの音。
もうすっかり忘れていた単純なメール着信の音色。
少しくぐもったその音は、学生時代によく使っていた机の引き出しから聞こえているのだ。
ごちゃごちゃとガラクタの入った奥の方でそれは声を上げていた。
そしてすっかり埃にまみれていた。
もうあれから何台も買い換えて、今は最新式のスマホを持っている。
それと比べて、傷だらけで、埃だらけで、なんてみじめなんだろう。
画面を開くと薄暗い光に、懐かしい名前が浮かび上がる。
あの日、君に送ったメールの返事だった。
君が車に撥ねられて道路に横たわっていたちょうどその時間に、何も知らずに送ったメール。
「今から遊びに行ってもいい?」
決して返事の来るはずのなかったメール。
今頃なのかい?
携帯はとっくに電池が切れているはずなのに。
今頃返事をくれたの?
「わたしの方からそっちへ行くよ」



おわり




ひさびさの登校。
じゃないや。
ひさびさの投稿ですね。
なんだかまあ、登校拒否してた小学生みたいな気もしますけれど(笑)
二週間に一回、あるところに作品を送っているのですが、毎回それだけで手一杯な感じです。
今回は割と早めに作品が出来たので、少々気持ちに余裕があって、短いのを書いてみました。

新投稿画面で投稿すると、レイアウトが思うようにならないので、一度削除して旧画面で投稿しなおしました。

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by marinegumi | 2017-11-03 17:21 | 掌編小説(新作) | Comments(0)

夢を食べる (9枚)

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ドアが開いて獏が入って来た。
獏はどんなものでも通り抜けられるので、わざわざドアを開かなくてもよさそうなもんだけど、そこはきちんと礼儀正しくと思ったのかもしれない。
今夜は獏が夢を食べるところを見せてくれることになっている。
獏は人の夢を食べると言うけれど、ぼくは一度も食べているところを見たことがない。
いったいどうやって人の夢を食べるんだろう? 
ある日、それが気になって気になって眠れなくなってさ。
それで知り合いの獏に夢を食べているところを見せてくれるようにたのんでみることにしたんだ。
その獏はけっこう気のいいやつでさ、長い付き合いなんだよね。
「だからさ、そればっか考えて眠れないんだよ。ぼくが眠れないと言うことは夢も見ないわけだからお前も困るだろ?」
そう言って獏を説得した。
だけどなかなか、獏は「うん」と言ってくれない。
「見せてくんなきゃ、もうぼくんちには出入り禁止にしちゃうぞ!」
説得というか、なかば脅迫だね。
それでなんとか見せてくれると言う約束になって、ちゃんと時間どおりにやって来たというわけ。
獏は小学校の同級生の女の子、このみちゃんの夢を食べるという。
男の子の夢と、女の子の夢はそれぞれ味も栄養も違うらしくて、どちらもバランスよく食べないと健康に悪いんだってさ。
だからその日によってぼくんちへ来たり、このみちゃんの所に行ったりするらしいんだ。
獏は言った。
「さあ、僕の背中に乗って」
獏の体はあまり大きくないので大丈夫かなと思いながら乗っかると、軽々と空に飛び立った。
いや、これは飛んでいるんだろうか? 
なんだかもやもやした空間をすごいスピードで移動しているんだけれど、ちっとも風を感じないし、冬なのに寒くもない。
「現実と夢のはざまを移動しているのさ」
振り返りながら、得意げに獏は言った。
そして、ふと悲しそうな表情になって何か言いたそうに僕を見たんだ。
「どうかした?」
ぼくが聞いてもしばらく黙って飛んでいるだけだったけれど、やがてこんな話を始めた。
「あのさ、最近夢を見る子供が多くなったんだよね。それも栄養たっぷりの夢」
「そうなの? それっていい事じゃん」
「ぼくらにとってはね」
「それでさ、世界中で獏がどんどん増えてるんだよね。それもまあ、僕ら獏にとってはいい事なんだろうけどさ。あまりに急にふえるものだから、近い将来、夢不足になるかもしれないんだよね」
「それがどうしたの?」
獏がそれに答える前に、このみちゃんの家に着いた。

二階のこのみちゃんの部屋の窓を開くことなく通り抜け、ぼくと獏はベッドの横に立っていた。
このみちゃんは気持ちよさそうに眠っていた。
とてもかわいい寝顔だ。
ぼくはちょっとドキドキしてしまった。
獏はこのみちゃんの枕元に回ってぺろりと舌なめずりをした。
「え? もう食べ始めるの?」
そう言い終わらないうちに、獏はこのみちゃんの頭にかぶりついていた。
頭の上の方を、びっくりするほど大きな口を開けて、ガシガシと音を立ててかじっている。
見かけはとても可愛い獏だけど、その口は開けるとびっくりするほど大きく、するどくとんがった歯がずらりと並んでいる。
頭をかじられているのに、このみちゃんの様子はぜんぜん変わらない。
ずっとかわいい寝息を立てている。
頭のぐるりをかじり終わるとこのみちゃんの頭はぱっくりと外れ、脳みそがすっかり見えた。
ぼくはお母さんがアボカドをぐるりと半分に切って大きな種を取り出すところを思い出した。
獏は首にかけていたバッグからお皿を取り出し、このみちゃんの脳みそをその上に乗せた。
そしてバッグからもう一つ、何やら怪しげな機械を出して床の上に置くとコードを伸ばし、部屋のコンセントに差し込んだのだ。
その機械の上部の透明な容器の中にこのみちゃんの脳みそが入れられ、スイッチオン。
それはクルクルと高速で回り始めた。
見かけはジューサーかフードプロセッサーみたいだけど、中の脳みそは切り刻まれたりはしない。
遠心分離器に近い物かもしれない。
脳みそからはキラキラした気体とも液体ともつかないものが遠心分離され、機械の横の小さなガラスコップの中に溜まって行く。
獏はスイッチを切った。
中に残った脳みそ(絞りかす?)を獏は手で取り出して、このみちゃんの頭に戻した。
そして手際よく、あっという間に目に見えない糸と針でぬい合わせてしまった。
みるみるうちに、このみちゃんの頭のぬいあとはきれいになってしまった。
手で触っても傷口は全然残っていない。
すべすべのおでこに手を触れたぼくは、またちょっとドキドキした。
なに事もなかったようにこのみちゃんは寝息を立てている。
獏はと言うとさっきのガラスコップに溜まった美しく光る気体のような液体のようなものをおいしそうに飲んでいる所だった。
多分それが夢なんだろう。
このみちゃんの夢ってこんなにきれいなんだと妙に感動していた。
獏がぼくの方にこのみちゃんの夢が少し残ったコップを差し出した。
「ぼ、ぼくが飲んでいいの?」
恐る恐る飲んでみた。
ホンワカ不思議な気分になって行く。
たぶんこのみちゃんが夢に見たシーンなんだと思う。
いろんな場面がものすごいスピードで頭の中をかけめぐった。
その中にちらっとぼくの顔が見えた気がした。
このみちゃんが僕のことを夢の中で見てくれている。
そう思うとまた胸がドキンとした。


夢を見ていたようだった。
そう、それはこのみちゃんの家に獏が夢を食べるところを見せに連れて行ってくれたあの日の出来事の夢だった。
はっきり目が覚めるとぼくの右隣にこのみちゃんが眠っているのが見えた。
その向こうには同じクラスのりょうたくん。
その向こうにはあやかちゃん。その向こうにも、顔は知らないけれど同じぐらいの年頃の子供たちが、見えなくなるまでずら~っと並んでいた。
みんな同じ黒い台の上で眠っている。
ぼくの左側にはガキ大将の健太君が眠っていた。
健太君の向こうにも眠っている子供たちがどこまでも続いていた。
と言うことは、ぼくも眠っている子供たちの中の一人なわけだ。
でもなぜ、ぼくだけが目を覚ましているんだろう? 
上を見ると天井があるようだけど真っ暗くて、その高ささえわからない。
ちょっと不安になって来た。
ぼくたちの頭側の通路には何匹も獏が行ったり来たりしている。
向こうの方で男の子の頭をかじっている獏がいる。
遠心分離機を操作している獏もいる。
容器に溜まったキラキラ光る夢をワゴンで回収して回っている獏もいた。
その時、あの知り合いの獏が僕の顔を覗き込んだ。
「やあ、君もここに連れてこられちゃったんだね」
と、ちょっと悲しそうに言った。
「できれば逃がしてあげたいけど、そうもいかないんだよ。ごめんね」
「ここはどこなの?」
「夢工場さ。増えすぎた獏たちの食べる夢を大量生産する工場なんだ」
そうだったんだ。
ぼくは思い出した。
今の子供たちは栄養たっぷりの夢をたくさん見る。
それで、その夢を食べる獏たちにはどんどん子供が生まれるようになり、短い時間で大人になって行くので、とうとう夢が足りなくなってしまった。
それで獏たちは人間を支配して、夢工場で強制的に眠らせ、効率よく夢を生産するようになったんだ。
この工場は子供ばかりが連れてこられているらしいけれど、大人ばかりの工場もどこかにあるんだろうか。
ガジガジ音がするので横を見ると、ガキ大将の健太君が獏に頭をかじられている所だった。


目が覚めると少しだけ頭が痛かった。
ものすごい夢を見てしまったなあと苦笑いをした。
「夢工場」だって? 人間が獏に支配されるなんて、変なの。
いやいやそれより、夢を食べている所を見せてほしいなんてぼくが獏に頼むなんてばかばかしい。
そこからが夢だったんだ。
ベッドから降りて部屋を出た。
家の中がやけに静かだった。
もうみんな起きてる時間なのに。
台所にやって来たけれどお母さんがいない。
いつもリビングにいるはずの、お兄ちゃんもお父さんもいなかった。
ふと、部屋にある鏡に目が行った。
ぼくの頭に縫い目が見えた。
それはもう消えていくところだった。
わけのわからないむなさわぎを感じた。
ドアを開けて外に出てみた。
近所の家の向こうに見たことのない大きな黒い建物が建っていた。
その建物には看板があり、「夢工場」の文字が見えた。
後ろで声が聞こえた。
「だからさ、この子だけ特別扱いするわけにはいかないんだよ。わかってるだろ」
「しかたないですね」
夢に出てきた知り合いの獏と、もう一匹別の獏が話をしていた。
その知らない獏はぼくを見ながら言った。
「これからはもう、工場からは出られないんだぞ、ぼうや」



おわり



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by marinegumi | 2017-05-25 23:24 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

見知らぬ鳥 (2枚)

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見知らぬ鳥が窓の外の木の枝に舞い降りた。
体の色は濃い灰色で、大きさはカラスぐらいだ。
でもカラスよりは嘴が長い。
その嘴はぬめっとしたピンク色だ。
灰色の中にそのピンクの嘴だけが嫌に目立つ。
自分の知識の中にはその鳥の名前はなかった。
かと言って鳥類図鑑を調べてみようかという気にもならないのだ。

見知らぬ鳥はそれからずっと何をするでもなくそこにいる。
殆ど身動きもせず時々羽毛を繕うだけ。
日に日に私はその鳥の存在が気になって来る。
朝も晩もただそこにいるのだけれど、なぜかその存在が気になってしょうがないのだ。
あの鳥だって生き物だから何か食べなければいけないはずだ。
だとすれば私が眠っている時だけあの木から飛び立って餌を探しているとでもいうんだろうか。
そうでなければおかしい。
私が目を覚ませば必ずそこにいるのだから。

私は夢を見ているようだ。
あの見知らぬ鳥の夢だった。
鳥は大きく羽ばたいて不気味な声を上げて鳴いたのだ。
長いピンクの嘴を大きく開いて、そして飛び立った。
木の葉っぱをまき散らしながら、その中に自分の羽毛を飛ばしながら青空に飛び立った。
今まで見たこともないほど青い青い空に見知らぬ鳥は小さくなって行った。

麻酔から覚めた私は集中治療室にいた。
癌の手術が終わったばかりだった。
病室に帰っても窓の外にはもうあの鳥はいないのだろう。



おわり




気が付けば長い間小説による更新をしていませんね。
ご存知の通りWeb光文社文庫の「ショートショートスタジアム」用の作品を日々頑張ってるからなんですね。
それ以外にも小説の発表の場が2~3あるので、お話を思いついても、これはあそこ用のに取っておこう、これは今度のあの作品にと言う感じで、なかなかこのブログにと言う事にならないんですよね。
作品はこれまで以上にたくさん書いていますので、そういう意味ではご心配なく。

写真はフリー写真素材のぱくたそさんでお借りした写真を加工したものです。

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by marinegumi | 2017-05-09 00:01 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

校庭の桜の木 (2枚) ~空見の日~

3月16日は、もぐらさんの呼びかけで『空見の日』なのでした。
空見の日は、みんなで空を見上げようという日です。
毎回忘れていて他の人のブログを見て、そうだった~と思い出すのですけどね。
そう言う訳で一日遅れの『空見の日』。
でもまあ、空は昨日から今日へと続いているわけで(^_-)

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今日は雲一つない空でした。
写真では結構青く映っていますが、実際は春がすみと言うやつでしょうか、もっと白っぽい空なんですね。

ではさっき作ったお話です。



校庭の桜の木

それはある春の日の事だった。
学校の校庭に一本の桜の木があった。
放課後、傘を持ってなかった君と僕は雨が止むまでその木の下で雨宿りをしたね。
上を見上げると花が満開で、それでもやっぱりいくらか雨は落ちてきて。
濡れた君の頭にハンカチをかけてあげた。
いつもいじめられていた僕たちにはそこしか雨宿りをする場所はなかったんだ。

それは夏休み前のある日だった。
みんな帰ってしまった放課後。
君と二人で鉄棒をしていると急に空が暗くなり夕立がやって来た。
その時も校庭の桜の木の下で雨宿りをした。
上を見上げると濃い緑の葉が揺れるほどの大粒の夕立だった。
二人して木の幹を背にして囲むように両手をつないだね。

今はもう誰もいない学校。
あれから何年が過ぎたのだろう。
閉じられたままの校門を乗り越えて雨の中、校庭に入って来た。
桜の木は花をすっかり落していて、葉桜にはまだ早い。
木の下でずぶぬれになりながら雨が止むまで待つことにした。
見上げると枝の間から青空が少しのぞき始めるのが見えた。

君はもういない。
僕だってもうここに帰って来ることはないだろう。
すっかりぬれてしまったけれど、これは僕の雨宿りなんだ。





おわり



みなさんの「空見の日」の記事です。
もぐらさん「空見の日」
はるさん「今日は空見の日」
りんさん「天国の歓迎会(空見の日)」

他にも「空見の日」に参加してらっしゃる人はいないかと探してみました。
いらっしゃいましたね~

八少女 夕さん「空見の日」
harumimiさん「札幌の空」
雫石鉄也さん「ハクモクレンの木」

みなさん勝手にリンクしてしまってごめんなさい。
もぐらさん、他には参加してらっしゃる方はいないのでしょうか?

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by marinegumi | 2017-03-17 17:05 | 掌編小説(新作) | Comments(8)