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その角を曲がると (ツイッター小説) 1~5

その1
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その角を曲がると君が立っていた。
まるで僕が来る事が解っていたように。
君は何も言わずただ悲しげな何か言いたそうな目をして僕を見送った。
僕は走り始めた。
急いでいたんだ。
そして広い道に出たとたん車が迫って来るのを目にした。
ブレーキの音。
衝撃。

君は知っていたんだ。
運命を変えられない事も。




その2
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その角を曲がると坂道が夕陽に赤々と染まっていた。
上り坂の両側に並ぶ小さな家並みは懐かしく遠い昔の風景のようだった。
私のいる側は対照的に陽陰(ひかげ)で、冷たく現実的に見えた。

私が明るい坂道に足を踏み入れた途端、僅かな衝撃があり、世界が変わった。
冷たくもなく懐かしくもない普通の世界があった。




その3
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その角を曲がるとカレーライスの匂いがした。
幼い頃の情景が蘇る。
夕暮れの街。
暖かな我が家の窓の光。
夕食はカレーライスだと喜んで家のドアを開けると、ますます濃いカレーの匂い。
台所では母が泣き伏し、父は立ちつくし、カレーのなべはひっくり返っていた。

いまだにカレーの匂いで気分が悪くなる。




その4
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その角を曲がると見知らぬ廊下が続いていた。
歩くほど複雑に入り組んで来る迷路のような廊下。
出口を求めて歩き続け、時間の感覚もなくなり疲れ果てた。

振り返ると、嘘のように見慣れたマンションの廊下が見えた。
そして彼女の部屋のドア。
引き返すわけにはいかない。
私が殺した彼女の死体があるのだ。




その5
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その角を曲がるといつものカフェが無くなっていた。
麻衣と待ち合わせをしていたはずの店。
ふと急にめまいに襲われた。
一瞬目の前が真っ白になる。

気が付くと前を麻衣と僕が歩いていた。
麻衣は僕に手を差し伸べる。
「さあ帰りましょうねぼうや…」
僕は二人の間で手を繋がれて歩いた。

とても幸せだった。



おわり



「同じ書き出しによるツイッター小説第3弾」かもねー
と言う感じでちょこっと書いてみた物です。
8月10日~9月16日の間に書いて、その後は書いていません。

所で、なんか最近テンションがぐっと下がり気味です。
まあ、仕事が忙しくなってきたというのもあるんですが、小説を書く事も、アイデアを考える事も、こういう風にブログを更新する事も、みんなもうめんどくさくて。
ちょっと前まで絶好調だったんですけどね。
なんででしょうね。
まあ、こういう風に気分に浮き沈みがあるのが僕だと言う事で、ご理解くださいませ。
この作品はそのやる気のなさに鞭打ってなんとかアップしていますが、これを終わればもう布団に寝っ転がってテレビを見て過ごします。

別記事にするのがめんどくさいのでも一つ書きます。
「侵略!ストーリーブログトーナメント」は終了して、僕の作品は3位になりました。
トーナメントなので、3位が2人いるんですけどね。
決勝はサイトーさんとりんさんで争われ、りんさんの優勝でした。
侵略!ストーリーブログトーナメント - 映画ブログ村
侵略!ストーリーブログトーナメント

このトーナメントが「映画ブログ」のカテゴリで行われた関係で、僕の作品「侵略がいっぱい」が映画ブログの「注目記事ランキング」に登場していました。

クリックで拡大
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この時は4位ですね。
ベストスリーに入った瞬間があったのかどうかはわかりません。

そういうわけで、テンション下がり続けのため、しばらく、小説を書いたり、コメントをしたりしなくなるかもしれません。
なるべく気持ちを上向きに持っていこうとは常に思っていますので心配は無用です。

ところで、最初のお話の画像の美少女は、実は28才の中国の漫画家、夏達さんです。
かわいすぎる~!

haruさんがこの作品を映像とともに朗読してくださっています。

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by marinegumi | 2011-11-29 22:51 | ツィッター小説 | Comments(4)

侵略がいっぱい (10枚)

この作品は「ブログ村」で開催されている「侵略!ストーリーブログトーナメント 」に参加しています。
「ブログ村」に登録していれば、あなたも「侵略」をテーマにショートストーリーを書いてぜひご参加ください。
投票のみの参加も大歓迎です。
投票は11月23日 00:00 から 始まります。
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侵略!ストーリーブログトーナメント




侵略がいっぱい

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レンガ工場の壁を後ろにして、道路の上に置いた低い折りたたみの椅子に座った男がいた。
男の前には、敷かれたむしろの上に色んなおもちゃが並べられている。その男はひげをたくわえ、サングラスをかけ、なにやら不思議な雰囲気に包まれていた。
小学校4年の広志は本屋からの帰り道だった。手には大事そうに月刊漫画雑誌の「少年画王」を持っていて、家に帰ってそれを読もうとわくわくしながら走って来たところだった。
「おじさん、それはなあに?」
と広志は聞いた。
並べてあるおもちゃの中にひときわ変わった物を見つけたのだ。
「これはな、特別な物だよ。おもちゃではなくて実験セットなんだ」
「何の実験?」
「説明書を見れば詳しく書いてあるが、袋の中に入っている粉末を付属の容器に入れて水を注ぐだけで不思議な生き物が生まれるんだよ」
広志は目を輝かせた。そしてそれは本のお釣りで買えるほどの値段だったのだ。

彼は宝物を二つ手に入れた気分だった。漫画雑誌と不思議な実験セット。実験セットは、単にカブトエビの飼育セットだったのだが、広志にとっては生命を創り出す禁断の実験装置のように思えたのだ。
家に帰ると広志は実験セットを勉強机の上に置き、畳の上に寝転んだ。実験セットが気になりながらも、雑誌を読み始めたのだ。
月刊「少年画王」は「宇宙の不思議」の特集だった。特集記事以外には「宇宙からの侵略者」という新連載の漫画が掲載されていた。そのカラーページから目を通した。



新連載SF漫画「宇宙からの侵略者」

宇宙空間にその物体が発見されてから数カ月は、それは小惑星だと思われていた。軌道は正確に計算され、地球の近くを通過するものの衝突するような事は万が一にもないと判断されていた。
しかし次第にじわじわ進路が変わり、地球にまともに向かうコースに入ったのが確認されたのは1カ月前だった。
科学者の飯島博士は自分が設計した電波望遠鏡で、その天体の映像を捕らえた。
「何という事だ。これは…」
望遠鏡のモニターを見て飯島博士はそれだけ言うと、あとは絶句した。

広志はため息をついて漫画雑誌を畳の上に置くと、「実験セット」に目をやった。やっぱりどうしてもそれが気になってしょうがなかったのだ。
庭へ出て、飼育容器に紙袋の中に入った粉末を入れると、庭でバケツに汲み置きしていた水を容器の中に注いだ。それはただの泥水みたいにしか見えなかった。
「これでほんとに生まれて来るのかなぁ?」
広志はその容器を今は使われていない水の涸れた井戸のふちに置くと、そこに座り込み、井戸にもたれて漫画雑誌を再び読み始めた。

モニター画面に映し出されたそれは筒状で前後が丸くなっている、いわゆるカプセル型をしていた。明らかに人工物であった。
どうやら知的生命体の建造した宇宙船に間違いないと飯島博士の研究所は大騒ぎになった。さらに驚くべき事は、その大きさだった。
長さが約1.2キロメートル、円筒の直径が約200メートルもあったのだ。
飯島博士は総理大臣に電話をかけて、非常事態を知らせる。
日本国中、いや世界中の人々は、かたずをのんでその宇宙船の到来を待ちうける事になった。

「つづく。かぁ~」
広志が思わず青空を見上げた時、頭が飼育容器に当たり、それは井戸の中に落ちてしまった。
あわてて中を覗き込んだが真っ暗で何も見えなかった。そして不思議な事に容器が落ちた音さえ聞こえなかったのだった。
広志は飼育容器をあきらめ、家に入って畳に寝転び雑誌の続きを読み始めた。



読み切りSF漫画「静かな侵略」

人類は、爆発的な人口増加、環境破壊、温暖化などの影響を、あらゆる試練をまともに受けた。何一つ回避出来ずに、自分たちの無力さを痛感した50年あまりの期間を経て、何とか以前の繁栄を取り戻しつつあった。
今では全世界の人口は正確なデータとしてリアルタイムで人口調整局のマザーコンピューターの画面に表示されるようになっていた。
地球上のすべての国の出生数、死亡数、生活可能な人口などの情報がここに集約されていた。そしてマザーコンピューターと連動した全世界の病院のコンピューターが人口の調整を行うシステムが完成したばかりだった。
誰もが病院で受精し、病院で出産することを強制され、それ以外の出産は認められなかった。

ある日、人口調整局のエンジニアである速水賢一が不思議な統計を発見した。
5年ほど前から地球上で、一人も出産のない日が出て来ていたのだ。それは最初は8月15日の1日だけだったが、翌年には8月15日と8月16日になり、更に次の年には同じ月の8日と15日16日、次の年には8日と15、日16日、22日と言う風に、1年間のカレンダーを一目で見るように並べると、その数字の並びに穴が空いて、それが毎年大きくなって行くように見えたのだ。
その現象は止まらず、やがて8月に生まれる子供は全くいなくなり、さらに別の月にもその穴は広がって行った。

高度な知能を持った突然変異の白アリは人口調整局のマザーコンピューターを食い荒らし、自分たちの思うように操作出来るまでに、奥深くまで侵入していたのだった。



読み切りファンタジー漫画「俺たちは滅びゆく」

「俺たちはもう滅びるしかないのか?」
「俺たちは一生懸命に命を賭けて、この国を支えてきたではないか!それなのになぜ?」
「あんまりだ。このユートピアを出て行くしかないと言うのか?」
「この国土の為に毎日必死に働き、歳をとったからと言って追い出されると言う。それが運命なのか?」
「あまりにも理不尽だ!」
「もうすでに、若いやつらが一斉に生まれ、俺たちを追いやろうとし始めている」
「だがもうその時は来たようだ。それぞれが最後まで戦って潔く去ってゆくしかないのだろう」
「それではみんな、またあの世とやらで会おうではないか」
「さらばだ」
「さらばだ…」
「……」

常緑樹の落葉は春である。
前年の古い葉は新葉が芽吹くとともに散り始め、古い葉と新しい葉が入れ替わるのだ。
それは古い葉にしてみれば、「新緑」と言う名の「侵略」かもしれない。



特別組み立てふろく「宇宙船画王号」
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連載読み物「未来の映画とマジック」

映画は21世紀に入る頃には、まさにCG(コンピューター・グラフィックス、つまり電子頭脳による映像処理)の時代になる事だろう。
実際にセットを組んでの撮映ではとても不可能な場面でもCGなら簡単に作れてしまう。
さらに進化したCGは絶滅した古代の生物をよみがえらせ、ついにはそれを演じる俳優さえCGのみで作れるようになってしまう。
その技術は完ぺきで、CGの俳優には本物の俳優以上に迫力のある演技をつけられるのだった。しかも文句の一つも言うわけではない。
当然俳優協会は猛反対して、スト騒ぎにまで発展する事になる。しかしそういう騒ぎは一時的な事だ。その俳優たちが老いて行き、新たな俳優が次第に登場しなくなると、映画は当然のように俳優に至るまで全てCGとなってしまうのだ。ちょっとロケに出かければ撮影できる現実の風景でさえCGで作ってしまうのが当たり前になっている事だろう。
CGの侵略は映画だけに留まらない。
それはマジックの世界にも及ぶ事になる。初めはテレビの録画番組でCGを使った視覚的なインパクトのあるマジックだけだったが、やがてその技術は進歩をして、生放送でもCGマジックは可能になり、更に舞台の上、観客の目の前で、リアルタイムのCGマジックがもてはやされることとなる。
そうなると、もうどんな不思議な現象も当たり前になり、かえって飽きられてしまい、人気は下降線をたどる運命だ。
そこでまたテレビ番組で少しづつ増えて来るのが、ごく簡単な手品だろう。
例えば幼い少年が単純な手品を披露する番組が高視聴率を稼ぎ出したりしたりするわけだ。

しかし、それも束の間。
やがてごく簡単な手品のように見せかけたCGによる手品が侵略を始めるのだった。



読み終わると、広志はもう一度庭へ出た。そして涸れ井戸を覗き込んだ。
中はやはり真っ暗で何も見えなかった。
広志は急に走り出した。彼の父親は小さな建築会社を経営していて、その仕事に使用している倉庫が近くにあった。彼は大人たちがみんな仕事に出かけて、誰もいないはずのその倉庫に入り込み、闇に目が慣れるのを待った。
広志は壁面にかけてある長い梯子を見つけると、高く積み上げられた材木の上に上がり梯子を外そうとした。しかしそれはアルミ製の2段ばしごで、子供にはなかなか持ち上げられなかったのだ。
なんとか梯子の片方を外したが、その重さにバランスを失い足を滑らせた。
梯子もろとも床に落下した広志の上に大量の材木や道具類が襲いかかったのだった。

それから何十年も過ぎた。
広志はベッドの上で寝たきりだった。子供の頃の事故でそのまま植物状態になり、ベッドの上で大人になり、年号も変わり、更に歳を重ねていた。
彼の眠りに夢はあるのかどうかは判らない。しかし、もしあるとすれば恐らく子供の頃の楽しかった時代を繰り返し夢に見ているに違いなかった。
そして今、誰に看取られる事もなく、いつもと変わらない姿勢のままで、静かに息を引き取ろうとしていたのだ。

テレビでは連日宇宙からの訪問者の話題ばかりが放送されていた。病院の医師も看護師も暇な時間はテレビに釘づけだった。
街のど真中に着陸した宇宙船の映像が中継されていたのだ。そのカプセル型の宇宙船は、3日前に着陸したまま何の変化も見受けられなかった。

その時、病院中にどよめきが起こった。テレビのアナウンサーの興奮した声が病室の各部屋から響いていた。
テレビ画面には宇宙船から降り立った異星人の醜悪な姿が写しだされていたのだ。数は何百人もいるようだった。そのカブトエビを連想させる容貌の異星人達は、手にしたごく小さな装置を一斉に構えた。
その武器は大きさからは想像できないほど強力な破壊力で周りを取り囲む機動隊や自衛隊、マスコミ関係者と戦車や自動車、ヘリコプターや航空機、さらに建ち並ぶビルなどの建造物もろとも吹き飛ばし始めた。
広志の瞳には部屋のテレビの画面が写ってはいたが、それを見ているのではなかった。
彼の頭の中では現実に起きているその光景、テレビで中継されている画面と同じ出来事が繰り広げられていたのだ。

あの日、涸れ井戸の暗闇の宇宙に旅立ったカブトエビの飼育容器は何億光年の彼方、広志の夢の中で姿を変え、巨大な宇宙船とその乗組員になった。
それが今、地球上に降り立ち…
いや、それは単に広志の頭の中で空想されているだけの物語で、たまたま現実とシンクロしているだけなのかもしれない。
もし、広志の頭の中の出来事がそのまま現実に起きていると言うのが真実だとすれば、広志が息を引き取る瞬間にその幻は消え去るのだろうか。

テレビの画面では壊滅的な街の惨状が中継され続けていた。



おわり



お察しの通り、「侵略」テーマで考えている時に、出てきたアイデアをほぼ全部詰め込んで一つの作品に仕上げて見ました。

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by marinegumi | 2011-11-18 22:08 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

ユートピアを作ろう (朗読)

例によって、むかーしラジオ番組として放送された自作のショートショートの朗読です。
今回の出演は大河ドラマからウルトラマンシリーズまで、実に幅広く、そして数多く出演されている三谷昇さんです。
三谷さんと言えば僕が一番印象に残っているのは井上ひさし原作のテレビドラマ「モッキンポット師の後始末」のモッキンポット師の役ですね。



この作品を書きなおしたものがこのブログにあります。
ユートピアを作ろうです。
こちらの方は原稿用紙にして6枚で、枚数は倍になっています。

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by marinegumi | 2011-11-05 21:40 | 朗読 | Comments(0)

窓/少年 (7枚)

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少年の病室の窓から見える景色は、すっかり葉を落としてしまった落葉樹の林だった。
この見ているだけで心が寒くなって来る風景を目にするのは、これで何年目なのか、少年はもう考えない事にしていた。
病室は暖かく、ベッドの上で布団から上半身を出していても平気だった。しかし、外の風景が目に入るたびに、ふと、冷たい風が吹き込むような気がするのだった。
少年はベッドの上から精一杯右手をのばし、手のひらで窓ガラスに触れて見た。それはとても冷たかった。その氷よりも冷たい感触は、終わりのない冬の温度だ。死の暗闇へとつながる冷たさなのだ。
少年は手のひらを目の前に持って来るとじっと見つめた。それは冷たさのため、うっすらと赤くなっていた。
「僕はまだ死なないよね」
少年はかすれた声で呟いた。


窓の外の景色は緑にあふれていた。若い黄緑色の木の葉が一斉に木々を飾り、季節は春を迎えていた。
少年は不自由な体で精一杯右手をのばし、窓ガラスに触る。それは少年が想像していたほどには暖かくなかった。まだまだひんやりと、死の予感のように冷たかった。
春の風景を目にした少年は、死からわずかの間だけ猶予を与えられたと思った。少年にとって死と冬は直結していたのだ。
しかしそれも束の間だ。すぐに次の冬がやって来る。ほんの短い間暖かい季節になったとしても、すぐにまた死の季節が来る事に何の変わりもないのだ。


夏になった。
窓の外の緑は濃くなり、木々は太陽が照り返す暑さの中でぐったりとしているように見えた。
そんなある日、やけに病室が暑く感じた。
「ごめんね坊や、暑くなったでしょ?窓を開けるわね」
と言いながら看護師さんが入って来た。
病院は年中エアコンが効いていて、窓が開かれることはめったにない。
「冷房の機械が故障しちゃって、今直してもらってるからちょっと待ってね」
窓を開くと、風が吹きこんで来たが、それほど涼しい風ではなかった。締め切っているよりはちょっとましと言うぐらいになった。
少年は右手を上にあげて風を感じた。これが夏の風なのかと少年は思った。窓の外からは風だけではなく色んなものが運ばれてきた。
セミの鳴き声だ。少年がずっと幼い頃にお父さんに連れられてセミ捕りに行ったかすかな記憶がよみがえった。
風にそよぐ木々の葉の触れ合う音も聞こえた。
積乱雲の向こうから何の音か定かではない、ごうごうと鳴る遠い音も響いていた。
少年は手を思い切り伸ばし、窓枠に置いて、手のひらを上にする。
手のひらは夏の太陽に照らされ、少年は夏を感じた。
彼は指を閉じたり開いたり、まるで夏を掴もうとでも言うように動かした。
するとその手にポトリと落ちるように飛び込んで来たものがあった。赤い体に黒い斑点のナナホシテントウだった。
少年は手を目の前に持って来るとそれをじっと見つめた。その虫も少年の幼い頃の記憶にちゃんと残っていた。
見ているうちにナナホシテントウは飛び立ち、病室のカーテンにとまり、今度は窓の外へと消えてしまった。虫を目で追っていた少年は手のひらに目を戻した。手のひらにはまだあの虫の動く感触が残っていた。
「夏だ…」
少年は小さくつぶやいた。


林の木々の葉はすっかり紅葉し、落ち葉が盛んに降り続いていた。
エアコンが故障を起こした日以来、少年は看護師さんに頼んで日中は窓を開けてもらうようにしていた。
秋も深まり、次第に気温が下がるにつれ窓は少しづつ狭く開けられるだけになって行った。
少年はそんな少しだけ開かれた窓から季節を感じていた。
枯れ葉の落ちる時のわずかな音。野良犬が落ち葉を踏んで歩く音。冬の予感を思わせる風の音。
その時、窓枠に枯葉が一枚引っ掛かった。それは半分丸まりかけて、ところどころ虫に食われていて、そのシルエットが小鳥のように見えた。それは風で動いて二、三度餌をついばむ様な動きをした。
「小鳥だ。小鳥が来たよ」
少年は病室を振り返った。今いたはずの看護師さんに教えようとしたのだが、もう出て行ってしまっていた。
その落ち葉が風に飛ばされると同時に林の中からたくさんの小鳥が一斉に飛び立った。


季節は移り変わり、窓の外はまた冬の景色になっていた。
窓はぴったりと閉じられ、もう看護師さんも開けてくれなくなっていた。
その日、窓の外には雪が降っていた。小さな粒の粉雪だった。窓ガラスにはうっすらと霜が着き、吹きつけられる雪もへばりついていた。
少年は思い切り手を伸ばして、手のひらを窓ガラスに当てて見た。
冷たかった。冷たかったが、今までの死の予感に満ちた冷たさではなかった。
「季節だ。季節が変わるんだ」
少年の声は小さかったが、かすれてはいなかった。
少年にとって、冬はもう死の代名詞ではなくなっていた。春、夏、秋の次に来る冬と言う季節。ただそれだけの事だった。
そう、いつかは自分は死ぬのだろう。もうすぐかもしれないし、遠い未来かもしれない。でもそれは冬のせいではないのだ。
少年が窓ガラスを手で押すと、窓はわずかに開いた。看護師さんは鍵をかけていなかったのだ。その隙間から一粒の雪が少年の手のひらに落ちた。
手を目の前に持って来ると、冷え切った少年の手の上でそれはしばらく雪のままだった。
「冬だ…」
少年はそれが溶けて水になり、さらに、戻って来た手のぬくもりで蒸発してしまうまでじっと見ていた。



おわり



ふと、なぜか漫画を描きたいような気持ちになったんですね。
それで考えたのが、「窓」と言うお話なんですが、この作品ではないです。
どう言う事かと言うと、漫画にしたいと思って考えたお話をいろいろいじくっている過程でもうひとつ出てきたお話が「窓/少年」で、最初に考えていたのを「窓/少女」というタイトルにして連作にする事にしたんです。
この「窓/少年」はちょっと漫画にはしにくいお話ですし、「窓/少女」の方も漫画にはせずに文章になるはずです。
いまさら漫画を描くにはちょっと体力がないと思いますね。

ところで、この作品の写真ですが、窓の写真と枯葉の写真を合成したものです。
その枯葉ですがもともとはこれです。
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それを漫画を描くソフト「コミックスタジオ」で小鳥の形にトリミングすると。
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こうなります。
それで窓の写真にペタリ、というわけですね。

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by marinegumi | 2011-11-02 18:34 | 掌編小説(新作) | Comments(10)