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「雨の演奏会」 (3枚)

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いま、小さな演奏会が始まろうとしている。
ホールに入り座席に座って10分ほどが過ぎた。
まだ薄暗い幕の引かれていない舞台の上に、楽器を持った弦楽四重奏の人たちが静かに現れ、それぞれ自分の椅子に腰を下ろす。
バイオリンが二本と、ビオラとチェロと言う編成だ。
二百席しかない小さなホール。
前の方に集中して座っている観客たち。
後の座席は空席が多かったが、それはそれで小さな街には似つかわしかった。

バイオリンの人が目で合図をして始まったのはブラームスの「雨の歌」
最初の音が響くと同時に舞台の照明が明るくなった。
クラシックにはあまり詳しくはないけれど、この曲は聞いた事が何度かあった。
なんとなくラジオやCDで聞くのとは違い、自然に情景が脳裏に浮かんだ。
オレンジ色の炎が見える暖炉のある暖かい部屋。
その窓からは雨の降る雑木林が見えている。
雨の冷たさもあり、温かさもまた感じる曲だった。

照明が変り、雨を思わせる青い光が舞台に満ちた。
そして、二曲目が始まった時、あれ?と思った。
曲はよく知っている森高千里の「雨」だった。
そう言えば手に持っていたプログラムに、まだ目を通していなかったのに気がついた。
表紙を見る。
タイトルは「雨の演奏会」となっていた。
ページを開くとよく知っている曲ばかりが並んでいた。
太田裕美の「九月の雨」、スピッツの「あじさい通り」、八神純子の「みずいろの雨」、稲垣潤一の「雨のリグレット」小林麻美の「雨音はショパンの調べ」、八代亜紀の「雨の慕情」(え?)ふきのとうの「想い出通り雨あじさい通り」
そして最後にもう一曲クラシックの曲、ドビュッシーの「雨の庭」が用意されていた。

雨にまつわるそれぞれの曲が次々に演奏されて行く。
曲がすべて終わる頃には、もうすっかり雨の気分に浸っていた。
エアコンで乾燥したホールの空気もなぜかしっとりとしている気がするのが不思議だ。
最後の拍手もまた雨の音を連想させた。

座席を立ち、通路を抜けて外へ出る。
バッグから折り畳み傘を取り出して広げると、もうすっかり暗くなっている街へと歩き出した。
少し歩いて、ふと何か違和感を感じた。
雨が降っていない。
誰も傘など差していない。
あわてて傘をたたんだ。
そう言えばそうだった。
演奏会場に入る前に見たのは雲一つない青空だったのを思い出した。
あれだけ雨の曲ばかり聞かされたので、すっかり雨の気分になっていた自分が恥ずかしいような、面白いような妙な気分で歩き続けた。




おわり




いつものように自作のツイッター小説を元にして書きました。
これはタグ「 #秋雨のカノン 」で書いたものの中の1本を長くしたものです。

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by marinegumi | 2015-11-24 21:40 | 掌編小説(新作) | Comments(2)