写真は、フリー写真の「ぱくたそ」さんでお借りしました
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気がつくとぼくは暗い部屋に立っていた。
何となくの雰囲気と匂いで自分の部屋だと分かった。
ひょっとしてぼくは立ったまま眠っていたんだろうか?
でも、眠りから覚めたという感じはしない。
ただ、そう、気がついたとしか言いようがないんだ。

部屋は真っ暗ではない。
どこからともないほのかな光が部屋全体に満ちている感じだった。
ぼくはなんとなく壁に掛けてある大きな鏡の前まで歩いた。
この鏡はぼくのおばあちゃんが残したものだ。
床の上から2メートル近くも高さがある。
ちょうどこの部屋のドアぐらいの大きさだった。
そう、この部屋は前にはおばあちゃんが使っていた。
おばあちゃんが死んでから間もなくぼくの部屋になった。
家具もベッドも、すっかり入れ替えたけれど、この鏡だけはそのまま残っている。
夜中に目が覚めてトイレに行く時なんかは、必ずこの鏡の前を通る。
そしていつも暗い部屋にいる鏡の中のぼくと目が合うのだ。
なんだかその鏡の中のぼくは、ぼくとは違うもう一人のぼくのような気がした。
今にも、ぼくの動作に縛られず勝手に動き出すのではないかと不安混じりの不思議な気持ちになった。
でも、決してそれは怖いと言う感じではなかった。
薄暗い部屋の中にいる鏡の中のぼくが昼間のぼくとは違う存在のような気がしたのだ。

いつもするようにぼくは鏡の前に立ち、横目で鏡の中のぼくを見ようとした。
でもそこには誰も映っていなかったんだ。
ただ薄暗い部屋がぼうと映っているだけだった。
手を伸ばしてみた。
その伸ばした手も鏡に映る事もなく、鏡の表面に触りもしなかった。
勢い余ってぼくの体はするりと鏡の向こうにすり抜けてしまった。
振り返って手を伸ばすと冷たく硬いガラスの感触があった。
閉じ込められた?
一体どうやって鏡は扉を開き、また閉じてしまったんだろう?
鏡の外側の薄暗い僕の部屋が見える。
窓際に置かれたテーブルの上に見なれない物があった。
それは額に入ったぼくの写真らしかった。
その写真の前には、お皿に乗ったぼくの大好物のイチゴのショートケーキが見えた。



おわり



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# by marinegumi | 2016-05-15 18:42 | 掌編小説(新作) | Comments(10)

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偕成社のサイトで連載されている、高井信さんの「小学生のためのショートショート講座 第21回『プロットを作ろう(前編)』」です。
イラストは、僕が描かせていただいています。


『小学生のためのショートショート講座』記事一覧
第21回『プロットを作ろう(前編)』

ロボットだって十分進化すると夢を見たり寝ぼける事もあるんでしょうね~
ないない。
あるとすれば部品の劣化による故障でしょうね。

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# by marinegumi | 2016-04-20 18:08 | 写真や お絵かき | Comments(0)

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咲き始めたばかりの桜並木の下を歩いている。
しとしと春雨の降る通学路。
ビニール傘を通して、過ぎて行く桜の花が見える。
僕は思い出す。
去年ここを由香と並んで歩いたあの日は、桜の花が盛んに散っていた。
僕の傘は透明のビニール傘で、由香の傘は普通の青い傘だった。
「わ。きれい!」
由香がそう言ったので傘を見上げると一面に桜の花びらが積もっていた。
由香は自分の傘をたたみ、僕の持っている傘の中に入って来た。
「きれいだわ。きれいよね」
そう言いながら僕に見たことのない笑顔を見せた。
傘の中の温度が急に上がったような気がした。

僕は立ち止った。
咲き始めたばかりの桜がビニール傘を通して見える。
じっとしていると傘の上に花びらが積もっているみたいだ。
しばらくそうやって見上げていた。
「まだあの子の事考えてるの?」
覚えのある声が後ろから聞こえた。
幼なじみの佳織だった。
「何言ってんだよ。おまえ」
自分でも顔が赤くなって行くのが分かった。
「好きな人が転校しちゃって。残念だったわね」
意地悪そうなその言葉と裏腹に、佳織の笑顔は優しかった。


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夜の公園。
満開の桜の下を歩いている。
一人で買い物に出かけての帰り道。
駅から我が家へはこの公園を通り抜けるのが一番早い。
今日は日曜日で、暖かくて天気もいい。
ぼんぼりには灯がともり、見事な桜を浮かび上がらせている。
一面の桜の木の下の芝生の上には場所取りのブルーシートがいくつもいくつも敷かれていて、その上には座布団が並び、たくさんのお酒のビンやごちそうの詰まった弁当が並んでいる。
違うブルーシートの上にはバーベキューの用意がされ、またある場所では鉄板の上で焼き上がったばかりの焼きそばが湯気を上げていた。
電源の入ったカラオケ装置とマイクもあった。
でもそこにいるはずの花見客が一人もいない。
公園には人っ子一人姿が見えない。
静まり返っている。
カラオケのアンプのノイズがかすかに聞こえるばかりだ。
私は足早に通り過ぎようとする。
だんだん足が速くなる。
次第に恐怖を感じ出していた。
どうして誰もいないんだろう?
こんな花見日和の日曜日の公園なのに。
今、後ろから誰かに声をかけられたらきっと悲鳴を上げてしまうだろう。


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桜の散るカフェの外テラスで、飲み物を前にして僕たちは向き合っていた。
初めてのデートだった。
喋るのが苦手な僕は、用意してきた話題が底をついてしまっていた。
「桜がきれいだね」
「そうだね」
ああ、もうそんな事を何度言っただろう。
さっきから気まずい沈黙が二人を隔てている。
こんなんじゃだめだ。
きっと君は退屈してるんだろう。
さっきから僕は、僕のコーヒーカップに桜の花びらが落ちてくれればいいのにと願っていた。
それをきっかけに、君が笑ってくれれば、また話が出来るかも知れない。
でも意地の悪い事に、何百と舞い落ちる花びらは僕のカップを避けている。
そんな時、君が沈黙を破った。
「あのね。わたし。無口な人が好きだよ」
もやもやがサイダーの泡のようにシュワ~っと消えた。
君の笑顔に涙が出そうだった。

その時、僕のコーヒーカップに桜の花びらが落ちた。


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死ぬのなら、桜の木の下がよかったと思う。
それもたくさんの花びらが盛んに散っている大きな桜の下だ。
殆ど風はないけれど、すでに散る時期が来てしまった桜の木。
無数の花びらが枝を離れ。
無数の花びらが降り注ぎ。
無数の花びらが私の死体を美しく覆い隠してくれるだろう。
血だらけの見るに堪えない無残な私の身体をそっと包んでくれるだろう。
こんもりと盛り上がった桜の花びらの下に死体が埋まっているとは誰も思いもしないだろう。

それが、何という事だ。
本当の私はと言うと道路の真ん中に横たわっているのだ。
そして、もう何台もの車に繰り返し繰り返し轢かれ、すでに人間の姿をしていない。


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長い年月、手入れもされず放置され、雑草に覆われた公園の跡。
金網のフェンスもすでに錆びて雑草の間に傾いている。
ブランコの支柱もまた赤く錆び、ちぎれた鎖の下の木の台座はもうなかった。
立ち入り禁止のために張られていたロープも切れて地面に長く伸びている。
私はその中へ足を踏み入れた。
公園跡のほぼ中央に、枯れて久しい桜の木がある。
いまはちょうど桜の満開の季節だ。
なのにその木は、いつかの台風で太い幹が折れ、背が低くなってしまっていた。
折れ残った幹には大きなうろが出来、そこに雑草が生えているのが却って無残だった。
私は、子どもの頃にはこの公園に毎年家族と花見に来たのを思い出していた。
青空を覆い隠してしまうほどの桜の花。
母と父の笑顔。
歓声を上げる兄弟たち。
粗末だったけれどとびきりおいしかった弁当の味。
それを思うと、今の自分が信じられなかった。
家族はすでになく、私は独り取り残されてしまっていた。

その木の下に座ってみた。
伸びた雑草に体が埋もれてしまいそうだった。
そっと目を閉じた。
するとその時、不意に目の前に女の子が現れ、無言でピンクの飴をくれた。
戸惑いながらも、包み紙を取り、口に入れた。
すると、一瞬にしてあたりは満開の桜だ。
そして懐かしい家族の顔もそこにあった。
あの女の子は誰だろう。
そう、それはあの日、一緒にお花見をした近所の家の子供だった。
名前は……思い出せなかった。
あの時もこのピンクの飴をくれたんだ。
私だけに。
ふと、私は自分が目をまだ閉じているのに気が付いた。
ずっと目を閉じたままだったのだ。
そっと開いてみる。
いつの間にかの夕焼け空の下に、雑草の公園跡がただ広がっていた。



おわり



ちょっと季節はずれかな?
まあ、まだまだ桜はこれからだよと言う地方もあるでしょうね。
最近書いた、桜の花をテーマにしたツイノべが七つほどあったので、そのうち五つを書きのばしてみました。

写真はフリー写真の『ぱくたそ』さんです。


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# by marinegumi | 2016-04-18 00:57 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

小さな郵便局 (2枚)

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小さな町の郵便局は、かわいい赤いとんがり屋根の建物だ。
それはなぜか町の中心から少し離れた森の入口にある。
自動扉の横には色とりどりの草花に埋もれるようにして三つのポストがあった。
左から青いポスト、赤いポスト、白いポスト。
青いポストにはこう書かれていた。
「淋しい、悲しい気持ちで書いた手紙はこちらへ投函」
赤いポストにはこう書かれていた。
「嬉しい、楽しい気持ちで書いた手紙はこちらに投函」
そして白いポストにはこう書かれていた。
「事務的な御用事の手紙はこちらへ投函」

ある日私は恋をした。
わくわくするような、でも泣きたいような気持だった。
楽しいようでいて、なんだか不安な気持ちだった。
自分でもよく解らないそんな気持ちでラブレターを書いた。
ちいさな郵便局に自転車で向かっている間、この手紙はどのポストに入れたらいいのかと、ずっと迷っていた。
自転車を降りてポストの前。
季節の草花に埋もれるようにしてポストは置かれていて、それは四つあった。
増えているのはピンクのポストだった。
それにはこう書かれていた。
「まだ不安定な恋をしているあなたの手紙はこちらに投函」



おわり




何か小説を書こうかなと思えば、最近のツイッター小説をごそごそ。
物になりそうなのを引っ張り出して気の向くままに肉付けをして出来上がり。

ブログ「ゆっくり生きる」の、はるさんが朗読してくださいました。


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# by marinegumi | 2016-04-15 23:57 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

シナモンの枝 (6枚)

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ゆったりと目が覚めた。
目覚ましの音に起こされるのではなく、自然に目がさめたんだ。
きょうは学校はおやすみ。
とてもいい気分。
さっきまで何だかふんわりした夢を見ていたような気がしたけれど何も思い出せなかった。
起き上がってベッドから床に足を降ろした時、スリッパの横に何かが落ちているのが見えた。
拾い上げるとどうやらパンくずみたいだった。
指先で押さえてみるとまだやわらかだった。
変なにおいもしなかったからそんなに古いものじゃないようだ。
でもわたし、寝室でパンなんか食べたりしたことはなかったはずだよ。
部屋を出ようとしてドアノブに手をかけた時、そこにもパンくずが落ちているのに気がついた。
ドアを開けると廊下にもパンくずが転々と続いている。
パン屑に誘われるようにして階段を降り、外へ出る玄関のドアの前まできた。
ドアには鍵が掛かっている。
パパもママもまだ眠っている時間だからね。
ドアを開くと庭の敷石の上にもパンくずは続いていた。
それをずっとたどって庭を出て、街へ出て、たくさんの自動車の通る道路の歩道を何ブロックも歩いた。
まだ寝起きの目にはお日様がまぶしかった。
歩いて歩いて、歩き続けた。
これまでのパンくずをひとつにまとめると、多分もうコッペパン5個ぐらいにはなったかもしれないぐらい歩き続けた。
建物が少なくなり、パンくずは緑の木々の間の道の上に続いていた。
道はだんだん細くなって行って、とうとう大きな森の中へやって来てしまった。
その森を奥へ奥へと歩くうちにわたしはぼんやりと思い出していた。
昨日見た夢の中の出来事を。
夢の中におばあさんの住む家があったんだよね。
わたしが通りかかった時、おばあさんが急に家の中から飛び出してきたんだ。
「ああ、困った困った。シナモンの枝がなくなってしまった」
そう言いながら頭を抱えているおばあさんとわたしの目が合った。
「だれだい?あんたは」
わたしは正直に自分の名前を言った。
「ふん。そんなへんてこな名前の女の子なんて知らないね」
「何に困ってるんですか?」
と、わたしは聞いてあげた。
「魔法を使うのに絶対必要なシナモンの枝がなくなったのさ。たぶん小鬼の奴が持ってったに違いない。シナモンの木はこの森には生えていないと言うのにさ。ああ、困った困った」
「シナモンの木ならうちの庭に生えてたわよ」
「そ、それはどこなんだい?お前の家はどこだ?」
わたしは家の所番地を言ったけれど全然わからないみたいだ。
だって今わたしは夢を見てるんだから。
おばあさんは夢の中の住人だし、わからなくても仕方がない。
「おお、どうかそのシナモンの枝を一本切って来ておくれ」
わたしは自分が今、夢を見ているんだと言う事を説明した。
「そうか。それならば歩いて帰ればいいさ。このパンを持ってお行き。小さくちぎりながら道に落として行って、帰って来るときの目印にするんだよ」
そう言っておばあさんはわたしの背の半分ぐらいある大きなパンを渡してくれた。
「でも帰り道がわからないわ。まあ、目が覚めれば自然と帰れるとは思うけど」
「だめだめ。目が覚めて帰ったんではここに戻って来られないのさ。歩いて帰らなくちゃね。このまま森のはずれまで行って、そこから先は目をつぶって時々パンくずを落しながら歩くんだよ。必ず帰れるから。そしてちゃんと帰れたらシナモンの枝を持ってパンくずを目印にもう一度来ておくれ。頼んだよ」
そうなんだよね。
そんな夢を確かに見たんだよ。
森の中の道をおばあさんの家の前まで来た時にはすっかりその夢を思い出していたんだ。
そしてシナモンの枝を持って来るのまで忘れていたことを。
その時、おばあさんが足音を聞きつけたのか、家から飛び出してきた。
「シナモンの枝はあったかい?!」
「そ、それが……」
わたしはおばあさんに今までの事をお話しした。
「そうかいそうかい。それはしかたがないね。もう一度、今度は忘れないようにメモを書いて持って行けばいいよ」
そう言うとお婆さんは羊皮紙にインクをたっぷり付けたペンでこう書いたんだ。
『シナモンの枝を一本。森の中の家へ』
わたしはそれを手に持ってもう一度家に歩いて帰る事になった。
今度はパンくずを落としながらではなくてね。
そして森の外れまで歩いて来ると……

ゆったりと目が覚めた。
目覚ましの音に起こされるのではなく、自然に目がさめたんだ。
きょうは学校はおやすみ。
でもなんだかまだ眠い。
さっきまで長い長い夢を見ていたような気がしたけれど何も思い出せなかった。
ふと手を見ると何か紙のようなものをわたしは握っていた。
広げてみる。
『シナモンの枝をありがとう。一生恩に着るよ』
何のことやら訳がわからなかった。
それに、ぐっすり眠ったにしては足が痛くて、なんとなく疲れていたんだよね。

すぐに二度寝しちゃって、昼ご飯に呼ばれるまで目が覚めなかった。



おわり



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# by marinegumi | 2016-04-03 00:49 | 短編小説(新作) | Comments(0)

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偕成社のサイトで連載されている、高井信さんの「小学生のためのショートショート講座 第20回『オチもアイデアの一種』」です。
イラストは、僕が描かせていただいています。


『小学生のためのショートショート講座』記事一覧
第20回『オチもアイデアの一種』


おっと。
3月20日に更新されたのですが、お知らせを忘れていました~
まあ、第21回を描くのに忙しかったんですけどね。

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# by marinegumi | 2016-03-30 19:24 | 写真や お絵かき | Comments(0)

屋根裏部屋 (2枚)

空見の日(おくればせwww)
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3月21日はもぐらさんの提唱する「空見の日」でした。

年に一度、空を眺める日です。
みんなで空の写真を撮って、ブログにアップします。
空って、世界中につながっていますから。
                 りんさんの受け売り(笑)

もぐらさん 「2016年空見の日
りんさん 「桃色ノ空
はるさん 「空見の日
3月17日に書いたこの掌編小説が偶然空に関する物だったので、急きょ乗っかっています。
上の写真は今日、3月25日のわが町の空です。
青空も大きい代わりに雲も大きなものがたくさん浮かんでいます。
写真は爽やかな感じですが、実際は青空と雲がせめぎ合っているようなダイナミックな空です。




屋根裏部屋

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ぼくの部屋は屋根裏部屋だ。
ベッドの真上に天窓が見える。
ぼくはその天窓のガラスを通して青空を見た記憶がなかった。
そう、昼間はただ白っぽかったり灰色だったりするだけで夜には真っ暗になる。
いつも色彩のない空を見ているだけだ。
そしていつからかずっと雨が降り続いている。
天窓のガラスの上を毎日雨が流れていくのを見ている。
ガラスが分厚いからだろうか、雨の音はかすかにしか聞こえない。
時には弱く、時には激しく雨が降り、降り続ける。
そんなモノクロの窓に一度だけ美しい色彩を見た。
赤く紅葉したカエデの葉っぱがくっついたのだ。
ベッドに寝転がって雨の流れるのを見ていたぼくは、はっとした。
まるで温かい炎ででもあるかのようなオレンジ色の葉だった。
それを見てぼくはその温かさを自分の中に一瞬感じた。
そう、そのカエデの葉はすぐに雨に流されて見えなくなってしまったのだ。
それでぼくは気がついた。
部屋は決して寒くはなかったけれど、心が冷え切ってしまっていたんだと。

雨はそれからもずっと降り続いていた。
あの時から天窓には一度も鮮やかな色を見ることはなかった。

ある日ぼくはガラスの上を雨が流れていないことに気がついた。
天窓の外は何やら薄青く、明るくなったり暗くなったりをくりかえしているのだ。
そしてそこを小さな影が横切った。
鮮やかな青い小さないくつもの影が。
魚だった。
小さな魚の群れだった。
そうなんだ。
雨はそんなにも長い間降り続き、今も降り続いているのだ。



おわり



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# by marinegumi | 2016-03-19 17:54 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

一枚の葉っぱ (3枚)

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気がつくとぼくは一枚の葉っぱでした。
大きな木の枝に頼りなくくっついている葉っぱだったのです。
もう体はだいぶ紅葉して来ているようです。
あちこち虫に食われてもいるのです。
ぼくは、ぼくたちは大きな木の小さなたくさんの葉っぱだったようです。
ぼくの意識が目覚めた時には、ほかにもまだ5~6枚の兄弟が残っていました。
でも、それから数日で、その兄弟たちはみんな旅立ちました。
木から離れ、地面に落ち、車のタイヤや人の足に踏まれ、木枯らしにもてあそばれ、やがて粉々になってしまいました。
そして最後には土に還ってしまうのですね。
今はもうこの木に残っているのはぼくだけになりました。
ぼくもきっと兄弟たちと同じ運命をたどるのでしょう。
短い命でした。
一つもいいことのない一生でした。
一つも意味を見いだせない一生でした。
なにも成しとげられずに終わってしまうなんて。
そ、そんなのいやだ~!

あれから数か月が過ぎました。
ぼくはまだ生きているではありませんか。
なんと、ぼくは壁に描かれた枯葉の絵だったのです。
大きな木のそばのレンガの壁に、あたかもその木の最後の一葉のように描かれた絵だったのです。
誰が描いてくれたのかは分かりませんが、ぼくの意識は、ぼくが描かれたときに目覚めたのでしょう。
そうなんです。
ぼくが兄弟たちと一緒に芽生え、一緒に成長した記憶が全然なかったのもそのせいだったのです。
ふう。
なんとか命をながらえたようです。
秋がすぎ、今は夏。
大きな木はまたたくさんの緑の葉をつけています。
ぼくの兄弟ではなかったたくさんの葉っぱたちに、今では何となく親近感を覚えます。
お前たちの命はせいぜい半年なんだよと教えてやりたくなります。
今のうちに生きている喜びをかみしめておくんだぞと。

ぼくは今、虫食いの紅葉の姿のままで、毎日強い日差しにさらされています。
ときおり強い雨にたたかれます。
そしてある日、なんだか自分の体の色が薄くなってきているのに気がつきました。
あと数年もすれば太陽の光や風雨にさらされて、だんだん色あせて行くのでしょう。
そしていつかは消えてしまうのですね。
そ、そんなのいやだ~!




おわり




これはUSBメモリに埋もれていた作品です。
書きかけのまま放置していたものです。
書き直しているうちにいろいろ矛盾が出て来て、それをことごとく修正して出来上がりました。

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# by marinegumi | 2016-03-16 00:28 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

Web光文社文庫

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Web光文社文庫「SS(ショートショート)スタジアム」で僕の作品を掲載していただいています。
昨日、3月11日に更新されました。
また覗いてみてください。

こっちの方をがんばっているせいで、ブログの更新が滞ると言う事もないはずです。
ツイッター小説以外の、長いめの小説を書くと言う事が日常になってきた感じですね。

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# by marinegumi | 2016-03-12 10:33 | わたくし事 | Comments(4)

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偕成社のサイトで連載されている、高井信さんの「小学生のためのショートショート講座 第19回『オチなくたってオーケー』」です。
イラストは、僕が描かせていただいています。


『小学生のためのショートショート講座』記事一覧
第19回『オチなくたってオーケー』

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# by marinegumi | 2016-02-24 18:35 | 写真や お絵かき | Comments(2)

はるさんが朗読の動画にしてくださいました。


その1 ブランコ

雨の公園で濡れるのもかまわずにブランコに乗っていた。
誰にも会いたくなくて、ゆらりゆらりとゆられている。
なんどもなんどもくりかえす。
弱く強く、またゆるやかに。
まるでカノンだね。
パッフェルベルの「カノン」だ。
あの優しいメロディーがどこかから聞こえるような気がした。
ただ優しく、同じメロディーをなんどもなんどもくりかえす。
ただくりかえすだけじゃない。
くりかえすたびにそのメロディーは違う表情をみせてくれる。
いつまでも聞いていたい。
いつまでもゆられていたい。
あたたかい雨に包まれて雨のカノンを聞いている。

でもやっぱり気がついてしまう。
わたしはこうやって雨に濡れながら。
ブランコにゆられながら。
カノンのメロディーに浸りながら待っているんだと。
ブランコの後ろから聞こえる誰かの足音を。



その2 ビニール傘

そろそろこの部屋の窓の外を、クラブ帰りの君が通る時間。
泥だらけになったユニフォームが入ったカバンを肩にかけて。
雨だからあの大きなビニール傘をさしているはずだ。
君がもうすぐあの道をやってくる。

わたしはピアノを弾きはじめる。
君のために。
明日には転校してしまう君のために、君の好きだったこの曲を。
パッフェルベルの「カノン」だよ。
同じメロディーが表情を変え、音色を変えしながら繰り返す。
この曲って君とわたしの過ごした短い時間のようだね。
同じメロディーが複雑にからみあい、また単純なメロディーで繰り返す。
君の姿が雨の街角に小さく見える。
そしてだんだん大きくなる。
わたしは涙を流しながらカノンを弾き続ける。
君にこの音色が届くよう。
そして君がこの窓を見上げてくれるよう。
雨のしずくが流れる透明な傘を通して、君と目が合えばどんなにいいだろう。

君はそのまま窓の下を通り過ぎる。
その足取りを緩めることもなく。
わたしはカノンを弾き終わり、電子ピアノのヘッドホンを外す。
アパートの部屋ではピアノの音が出せない。



おわり



ツイッター小説で一番たくさん書いたのは、タグ「#秋雨のカノン」じゃないかと思います。
その中から二編を長くしてみました。

はるさんのブログはこちらゆっくり生きる

はるさんの朗読を聞きながら、しっとり、ウルウルしていました。
雰囲気のあるとても好きな朗読になりました。

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# by marinegumi | 2016-02-20 15:20 | 掌編小説(新作) | Comments(5)

こわいゆめ (1枚)

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こわいゆめからさめたとき、ぼくはあせびっしょりだった。
まだしんぞうがドキドキと、きもちわるいほどにはやくおおきくうっていた。
とけいをみるとまだまよなかだった。
きゅうにこころぼそくなって、ぼくはママをさがした。
あのこわいゆめのことをはなして、なぐさめてほしかったんだ。
ママのしんしつはドアがひらいたままで、ベッドにはだれもいなかった。
かいだんをおりて明かりがついているだいどころに行った。
テーブルの横にママが血だらけで倒れていた。
それはあの恐い夢と一緒の場面だった。
一緒だったのでかえって驚きはしなかった。
やがてすっかり記憶がよみがえった。
俺はもう大人になっている。
口うるさい、文句ばかり言うお袋を殺したのは俺だったのだ。
死んだばかりの様に見えていたお袋は、元の姿に戻った。
ドレスを着た白骨死体。
それが今のお前の本当の姿だ。




おわり



この作品を、ブログ「ゆっくり生きる」のはるさんが朗読してくださいました。
いつもありがとうございます。



イメージとしては、声が子供の物から大人に、徐々に変化した方がいいかなと思っていたのですが、このいきなり変わると言うのも迫力があっていいですね。
ドキッとしました。

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# by marinegumi | 2016-02-08 17:12 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

節分あれこれ (3枚)

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「玄関に何を飾ってるの?」
「節分にはねえ、これの頭を玄関の外に吊るしておくと魔よけになるって」
「そうなんだ?だけどよくそんなのが捕まえられたね」
「そりゃあ大変だったよ。このために猟銃の免許をとったりね」
「ちょっと失礼。それを見せてください」
「あなた誰ですか?」
「日本自然保護協会の者です。イヌワシは希少野生動植物種で天然記念物なんですよ」
「え?それで?」
「節分に玄関に飾るのはイワシの頭!」




「憎しみは新しい憎しみを生み出すだけです。形の上だけは戦うのもいいでしょう。豆の代わりにマシュマロやチョコレートを撒きましょう。キャンディーや甘納豆もいいですね。地面に落ちても、それを拾った鬼たちが食べられるように、ちゃんと個別包装されたお菓子を撒く事にしましょう」
毎年の節分には甘いお菓子が撒かれるようになり、鬼たちはその味を覚え、日常的に甘いものを食べるようになりました。
そして糖尿病や虫歯の鬼が増えて行ったのです。
鬼の国にはお医者さんがいません。

「にた~り。鬼退治はこうやらなくちゃね」 




「あ、いたぞ。あそこに鬼の親子だ」
「こいつらもやっつけてやろうぜ!ほら、豆の用意はいいか?」
「あ、ちょっと待って。見逃してやろうよ」
「なんでだよ?」
「あの鬼の親子、切り株に座って恵方巻を食べてるじゃん」
「かなわねーなあ。最近の鬼は」




鬼の棲む島に今日も爆撃機が向かいます。
爆弾はもちろん大豆です。
島全体に炒った大豆を大量に撒くのです。
何日も、何か月もそれが続きました。
いつしか、島全体が大豆に覆われ、生態系が完全に破壊され、まともに食料が採れなくなり、鬼たちは滅びました。
何年か後。
しっかり炒られてなかったいくつかの大豆が芽を出し、空高く伸びました。
それはどんどん伸びて行って雲の上まで届いたのです。

やがてその豆の木を伝い、天空の大鬼たちが仲間の復讐に大挙して降りてきました。




「玄関に何を飾ってるの?」
「節分にはねえ、これを玄関の外に吊るしておくと魔よけになるってさ」
「何それ」
「石清水(いわしみず)八幡宮のお札」
「それは節分でなくても魔よけになると思うけど。石清水じゃなくて、イワシなの!」
「じゃ~これにしようか?」
「それは岩津(イワツ)ネギ!だんだん無理やりになって来た」



おわり



これまでに書いたツイッター小説で、二月三日前後に書いたものを見てみると、節分テーマの物が結構ありました。
それを長くしたものです。

写真は「フリー写真・イラスト素材(ロイヤリティフリー)Photo Chips」さんからお借りしました。

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# by marinegumi | 2016-02-02 22:09 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

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「その子、とってもかわいいんだ。顔がね」
と、マモル君は言う。
「でもさー、ことばづかいがねえ……」
「言葉遣いがどうしたの?」
マモル君は夢の話をしている。
毎晩の夢に出てくる女の子の話だ。
「その子さあ、不良かもしれない」
「不良なの?」
「今は家出しててさ、悪いやつらとつき合ってるみたいでさ。すぐに『うぜ~』とか『頭んくるぜ!』なんて言うんだよ」
「まあ、まあ」
私はニコニコして聞いていた。
夢の中の話だから、そんな子と遊ぶのやめなさいなんてことも言えないし。
「このあいだ『お前にこれやるよ』ってさあ、ナイフをくれようとしたんだ。ぼくがいらないって言うと『えんりょすんなって。どうせ万引きしてきたんだからさ』ってさ。ぼくそれでも断ったよ」
「さすが。私の子供!」
「でもね。やっぱりその子、女の子だね。花が好きなんだよ。でも、どこにも花が咲いてなくてさ。盗もうと思っても花屋さんもないんだ。その子が住んでる街は」
私はマモル君の机の上にある花束を見た。
「あ、わかった。それであれを買ってきたの?」

その夜、寝る前にマモル君の部屋をそっと覗いてみた。
かわいい寝息を立てて、あの花束を両手で持って胸の上に置いてマモル君は眠っていた。
夢の中のあの子へのプレゼント。
可愛らしい事を考える。
ドアを閉めようとして、ふと気がついた。
朝になって、あの花束がそのまま有ったらマモル君はどう思うだろうかと。
きっとあの子に渡せなかったと思ってしまうかも知れない。

私はそっとマモル君の手をほどき、花束を持ち上げた。
静かにドアを閉めると花瓶に水を満たし花束を入れ外へ出て、庭の花壇の花の中に紛らせた。

あくる日、いつもよりマモル君は起きて来るのが遅かった。
ドアを開けるとマモル君は眠ってはいなかった。
ベッドに上半身を起して座ったまま、あらぬ方向を見ている。
「どうしたの?」
マモル君はゆっくりと私の方へ目をやった。
「あの子が言ったんだ」
「え?」
一瞬何の話か分からなかった。
「あの子が言ったんだ。『あんたのおふくろは悪いやつだ』って。『自分の子供のプレゼントを取り上げるなんて、泥棒より悪いやつだ』って」
「あ、あの花束の事?」
「『そんなやつ殺してしまえばいい』って」
マモル君がゆっくり両手を持ち上げた。
その小さな手の中に何か黒い影が見えていた。
影はゆらりと揺れると冷たく光るピストルの形になった。
その銃口から、真っ赤に燃えた銃弾が私に向かって飛んでくるのが、スローモーションのように見える。
夢の中からの拳銃の弾丸が、現実に人を殺すなんて事があり得るだろうか?
私は半分恐怖心、半分好奇心でそれを待ち受けていた。



おわり



言わずと知れた、もとツイッター小説です。

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# by marinegumi | 2016-01-24 23:16 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

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偕成社のサイトで連載されている、高井信さんの「小学生のためのショートショート講座 第18回『このふたつには気をつけよう』」です。
イラストは、僕が描かせていただいています。


『小学生のためのショートショート講座』記事一覧
第18回『このふたつには気をつけよう

「夢オチ」「実はロボットでしたオチ」という、ショートショートのタブー?に、さらに「実は人間でしたオチ」を、これでもか~と入れたわけですね。
つまり、こういう物は書かない方がいいのではないかと言う物を徹底的にこれでもかと書くと言うのも、逆に有りかも知れないと言う事ですね。

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# by marinegumi | 2016-01-24 00:19 | 写真や お絵かき | Comments(0)