名作パロディー・西洋編 (7枚)

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☆マッチ売りの少女 その1

「おじさん一つ買ってくださいな」
「おやおや、かわいそうに。最近、こんな寒い夜にひとりマッチを売る少女がいると聞いたんだけど、あなたの事ですね。私がぜんぶ買ってあげましょう」
「ぜんぶですか?そんなにお金があるの?おじさん」
「え?たかがマッチだろ?」
「マッチもあるけど、今は主にライターを売ってるのよ。ジッポーの限定デザインばかり。ほら、このビートルズ来日記念モデルは15万円よ」



☆シンデレラ その1

「ああ、ガラスの靴がピッタリだ。あなたこそ、探し求めていたプリンセス。僕と結婚してください。そしてこれがダイヤの結婚指輪です。12カラットあります」
「まあ素敵!でもこんなに高価な物・・・」
「ほら、こっちの靴はガラスの靴をモデルにしてダイヤモンドを100個ちりばめて作らせたんだぜ。いやあ、お金がかかっちゃったなぁ」

二人は結婚したものの、王子様の王国は間もなく財政破たんに陥ります。



☆白雪姫

「♪ハイホー、ハイホー俺たちは♪みんな仲良し、ハイホー、ハイホー♫」
「あれ?なんだか俺たちの家の前にたくさん人がいるよ」
「でっかいカメラを持ってるやつもいるぜ」
「あいつはマイクを持ってる」
「おかえりなさ~い」
「白雪姫。この人たちは誰なんだい?」
「CM制作会社の人よ。あなたたちはプロバイダーHi-Ho(ハイホー)のCMキャラクターに決まったのよ。私がマネージャーをやるわね」



☆赤ずきん

「赤ずきんちゃ~ん。どこに行ったんだ~」
「赤ずきんや。もうすぐ結婚式が始まるよ~」
「新郎さんはもう用意が出来てますよ~」
「ここにいるわよ!白いウエディングドレスを着ちゃうと存在感ゼロね、わたしって」



☆白雪姫

「赤ずきんや。この毒りんごを持って白雪姫の所へ行ってきてちょうだい」
「お母さん。まだボケる歳でもないでしょ?」



☆おやゆび姫

チューリップの花が開くと、そこには小指ほどの小さな女の子がいました。
「私は小指姫です」
「なんだよ。普通、チューリップには親指姫でしょ?」
「いえ、この花はクルシアナペパーミントスティックと言う名前で、チューリップの原種と言われていて、チューリップより花が小さくて・・・」
「どうでもいいわよそんなこと!」



☆ピノキオ

ピノキオは、クジラのおなかの中でゼペットじいさんと再会しました。
「おじいさん!やっと見つけたよ。こんな所で何か月も何を食べて生きてたの?」
「何って、ほらクジラ肉が有り余るほどあるじゃろ」
「ああ、それでなんだね。このクジラは胃痛で病院に診てもらいに来たんだよ」



☆3匹の子ブタ

「ふう、やっとレンガの家が出来上がった。あれ?お兄さんたちが逃げてきた。オオカミに追われてるぞ。早く早く。ぼくの家に入って」
ガラガラグシャ!
「レンガの家がこわされちゃった~」
「早く早くこっちだよ」
「あ、あれは行方不明だった一番上のお兄さんだ」
「さあ、このコンクリート製の要塞は大丈夫だよ。機関銃も大砲も装備してるしさ」
子ブタたちは4人兄弟だったのです。

やっぱり一番年上のお兄さんが一番賢いね。



☆はだかの王様

「あっ、王様は裸だ~」
「わしのパソコンにウイルスバスターを入れてくれ。子供にハッキングされてウェブカメラで見られとるぞ」



☆美女と野獣

全ての魔法が解けました。
野獣に姿を変えられていた王子は元の姿に。
美女に姿を変えられていためすブタも、ちゃんと元の姿に戻りました。
めでた……



☆マッチ売りの少女 その2

「これが最後のマッチだわ。見えるわ。幸せそうにクリスマスを過ごしている家族が。みんな笑顔で、暖かそうな服を着て、ご馳走を前にして……」
少女の持っているマッチは最後まで燃え尽きようとしていました。
「あち~!!ばかやろ~!火傷しちゃったじゃねーか、くそったれ!」



☆シンデレラ その2

「あー、舞踏会楽しかったわねー」
そう言いながらシンデレラはガラスの靴を揃えて靴箱にしまいました。




おわり




これはりんさんのブログのコメント欄に埋もれていた短いお話です。
りんさんの書くパロディーに刺激されて、読んだ後にその場で書いたものがたくさんたまったのでまとめてみました。
「名作パロディー・日本編」は来年早々アップする予定です。

今年は一年間ありがとうございました。
ちょっと更新のスピードが後半落ちてしまいましたが、来年は頑張ろうと思います。
よろしく~

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# by marinegumi | 2015-12-31 18:47 | 掌編小説(新作) | Comments(0)

七つのクリスマス物語 (10枚)

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1 トナカクロース

サンタクロースはすっかり歳を取ってしまいました。
今ではもう世界中の子供たちにプレゼントを配りに行くことは出来ません。
だからこの時代では子供たちのお父さんお母さんがサンタの代わりにプレゼントを贈るようになっていたのです。
しかし、とサンタクロースは思います。
親のない子供たちもいるではないかと。
そんな子供たちにだけにでも、以前のようにプレゼントを配ると言うのはどうだろうかと。
そうは思っても体が付いて行きそうにありませんでした。

そこでサンタクロースは相棒のトナカイに行かせてはどうかと気が付きました。
あの頃のトナカイはサンタクロースと同じように年老いてはいましたが、子供や孫たちが大勢生まれ、数に不足はありませんでした。
暇を持て余していたトナカイたちもその話に大乗り気でした。
世界中の親のない子供たちの枕もとにそっとプレゼントをしのばせる。
それはとっても幸せな事でした。
プレゼントをもらう子供以上に幸福な気分になれるのです。
それはトナカイたちも一緒でした。

クリスマスも終わり、数日過ぎた頃から子供たちのお礼の手紙がサンタクロースの元へ届きはじめました。
その手紙をサンタクロースは目を細めながらトナカイたちに読んで聞かせました。
そしてその中にちらほらこういう手紙が混じっていました。
「プレゼントのおもちゃ、とってもうれしかったです。でも部屋の中が少し、けもの臭かったのはどうしてでしょう?」

もちろんそんな手紙はトナカイには読み聞かせはしませんでしたけどね。




2 プレゼント

わたしの彼ってさあ、ちょっと変わってるんだよね。
クリスマスに仕事が入ってさ、プレゼントが間に合わなかったのは、それはそれでしょうがないかも知れない。
その仕事がトラブっちゃって、しばらく会えなくって、渡すチャンスがなかったと言うのもあるかもしれない。
そのプレゼントを次の年のクリスマスのプレゼントに回すと言うのもまあ、百歩譲って許すとしてもさ。
食べ物には賞味期限と言うものがあるんだよね。

このスイートポテト、カビだらけじゃん。




3 サンタを訪ねて

誰だねそこに立っているのは?
ほら、雪が吹き込むからドアを閉めて入ってきなさい。
どうやってここまで来たんだい?
外はずいぶんひどい吹雪だったろ。
ああ、そうだよ。
私がサンタクロースだ。
正真正銘、本物のサンタクロースだよ。
え?なんだって。
君はプレゼントをもらえなかったと言うのかい。
それではるばるこんな所まで来たと言う訳か。
そうか、そうか、ご苦労だったね。
ふふふ、実は君へのプレゼントはここにあるんだよ。
君が来ることはちゃんと判っていたからね。
ほら、これだ。
メリークリスマス!

どうしたんだ?
こんなに大きなプレゼントの箱は見たことがないって?
そりゃそうさ。
これは特別なプレゼントだからな。
本当は君のパパとママがちゃんと用意してくれるはずだったものなんだよ。
君がクリスマス前に死んじゃったものだから渡せなかったのさ。

特別な、最後のクリスマスプレゼントだよ。




4 取扱注意

クリスマスの朝。
目が覚めてびっくりこん。
枕元にプレゼントの箱があった。
それも僕の背ぐらいある大きな箱だった。
持ち上がらないほど重い。
わくわくしながら開けてみると箱の中には半分ほど水が溜まっているだけだった。
包装紙にはさんであったメッセージカードを読んでみた。
「取扱注意。今年のプレゼントは雪だるまです。早めに冷凍庫に入れて下さい」

サンタさんお金がなかったの?
それともなにかの冗談?




5 使命

私がまだほんの子供だった頃。
クリスマスの朝、目覚めると枕もとには大きな靴下が片方だけ置いてあった。
毛糸で編んだ帽子にでもできそうな大きな大きな靴下だった。
その意味も解らず、かと言って捨てるわけにもいかず、なんとなく枕元の壁に掛けておいた。

その靴下はいつもそこにあった。
何度か家族は引っ越しをしたけれど、新しい家の私の部屋のベッドの枕元にはその靴下がずっと掛かっていた。
父を亡くし、母を見送り、子供たちはそれぞれ新しい家庭を作った。

ある日の鏡の中には白いひげを蓄えた私の姿があった。
ずいぶん年老いておかしいほどしわだらけだった。
自分でも驚くほど生気のない目をしていた。
その時、窓の外から鈴の音が聞こえて来たのだ。
今日はクリスマスイブだったのを思い出した。
枕元の大きな靴下がなぜか気になった。
孫が忘れて行った車のおもちゃを無意識のうちにその靴下の中に入れると、靴下は待ちかねたように消えた。

その時私は悟ったのだ。
これまでの人生が終わり、人のために尽くす新しい使命が始まるのだと。
ふわりと赤い防寒着がベッドの上に現れた。




6 いまどきのサンタ

雪深いフィンランドから世界中の子供達にプレゼントを発送する。
昔は世界中にいたサンタたちも今は私一人だ。
便利な世の中になったもので、すべての配達は赤く塗られたドローンが済ませてくれる。
私はプレゼントの発注をするだけだ。
運ばれてきた夥しい数のプレゼントはバーコードシステムで自動仕分けされ、自動でドローンに装着される。

おや?警報が鳴っている。
なに?ドローンが一機行方不明?
こんな時は赤外線カメラ搭載のトナカイドローンの出番だ。




7 クリスマスケーキ

クリスマスに残業だなんてほんとにもう嫌になっちゃう。
まあ、彼氏がいないのが幸いだね。
もしもいたとしたら喧嘩になっちゃうかもね。
寒~い。
早く帰ってテレビでも見て寝ちゃお。

あ、ケーキ屋さんがまだ開いてる。
そうだね。
今日は稼ぎ時だもんね。
この店でアルバイトしてたから知っている。
クリスマスには夜の十時まで開けてるんだよね。
そして、あのショーケースの中のたった一つ売れ残ったクリスマスケーキは、閉店後、つまりあと5分後には廃棄処分になるんだ。

気が付くと店の前にいた。
店員さんは見覚えのない人。
「これください」とクリスマスケーキを指差しているわたし。
どうしよう。
一人暮らしでは食べきれやしないのにさ。

ケーキの箱を持ってしばらく歩いて行くと後から覚えのある声が聞こえた。
「相変わらず優しいんだね、なっちゃん」
名前を呼ばれて驚いて振り返った。
あのケーキ屋さんで一緒にアルバイトをしていたケンジだった。
「そのケーキ。一緒に食べてやろうか?」
「あんた、彼女いたでしょ?」
「残念でした。去年のクリスマスに振られてさ」
「部屋に上がっても変なことしないでよ」
「しねーよ」


「あ、雪が降って来たよ」




おわり



おくればせながら、メリークリスマス

このクリスマスストーリーはツイッターで書いたものです。
クリスマスイブ、クリスマス、クリスマス明けと三日間で書きました。
どれも4~5分で考えて書いたものですが、今回長く書きのばしながら結末が違う物になったり、途中のエピソードがあれこれ浮かんで来たりして楽しく書けました。
一気に書き上げてしまいましたね。

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# by marinegumi | 2015-12-29 01:07 | 掌編小説(新作) | Comments(5)

暖炉 (1枚)

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ぼくは今夜もまた ぼくの絶望を暖炉で燃やしている
孤独なやりきれない思いなら いくらでもぼくには持ち合わせがある
その炎は まるで血のような色で燃えるのだ
ともすれば黒ではないかと見間違う赤い炎だ

そんなぼくの前に美しい少女が現れた
ぼくたちはお互いに孤独で 絶望をそれぞれ抱えていた
ぼくたちは愛し合い 二人から絶望は消え去り 夢と希望が暖炉の薪(まき)になった
夢はオレンジ色に燃え 希望は黄色く燃えた

ぼくたちはその炎を見つめながら震えていた
いつか二人に来るはずの 絶望の予感に怯(おび)えていた




おわり




きのう書いたツイッター小説を少し長くしたものです。
何となく表現が気に入ってしまったので。

この作品をはるさんが朗読の動画にしてくださいました。
こちら→ブログ「ゆっくり生きる」



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# by marinegumi | 2015-12-06 17:17 | 掌編小説(新作) | Comments(6)

「雨の演奏会」 (3枚)

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いま、小さな演奏会が始まろうとしている。
ホールに入り座席に座って10分ほどが過ぎた。
まだ薄暗い幕の引かれていない舞台の上に、楽器を持った弦楽四重奏の人たちが静かに現れ、それぞれ自分の椅子に腰を下ろす。
バイオリンが二本と、ビオラとチェロと言う編成だ。
二百席しかない小さなホール。
前の方に集中して座っている観客たち。
後の座席は空席が多かったが、それはそれで小さな街には似つかわしかった。

バイオリンの人が目で合図をして始まったのはブラームスの「雨の歌」
最初の音が響くと同時に舞台の照明が明るくなった。
クラシックにはあまり詳しくはないけれど、この曲は聞いた事が何度かあった。
なんとなくラジオやCDで聞くのとは違い、自然に情景が脳裏に浮かんだ。
オレンジ色の炎が見える暖炉のある暖かい部屋。
その窓からは雨の降る雑木林が見えている。
雨の冷たさもあり、温かさもまた感じる曲だった。

照明が変り、雨を思わせる青い光が舞台に満ちた。
そして、二曲目が始まった時、あれ?と思った。
曲はよく知っている森高千里の「雨」だった。
そう言えば手に持っていたプログラムに、まだ目を通していなかったのに気がついた。
表紙を見る。
タイトルは「雨の演奏会」となっていた。
ページを開くとよく知っている曲ばかりが並んでいた。
太田裕美の「九月の雨」、スピッツの「あじさい通り」、八神純子の「みずいろの雨」、稲垣潤一の「雨のリグレット」小林麻美の「雨音はショパンの調べ」、八代亜紀の「雨の慕情」(え?)ふきのとうの「想い出通り雨あじさい通り」
そして最後にもう一曲クラシックの曲、ドビュッシーの「雨の庭」が用意されていた。

雨にまつわるそれぞれの曲が次々に演奏されて行く。
曲がすべて終わる頃には、もうすっかり雨の気分に浸っていた。
エアコンで乾燥したホールの空気もなぜかしっとりとしている気がするのが不思議だ。
最後の拍手もまた雨の音を連想させた。

座席を立ち、通路を抜けて外へ出る。
バッグから折り畳み傘を取り出して広げると、もうすっかり暗くなっている街へと歩き出した。
少し歩いて、ふと何か違和感を感じた。
雨が降っていない。
誰も傘など差していない。
あわてて傘をたたんだ。
そう言えばそうだった。
演奏会場に入る前に見たのは雲一つない青空だったのを思い出した。
あれだけ雨の曲ばかり聞かされたので、すっかり雨の気分になっていた自分が恥ずかしいような、面白いような妙な気分で歩き続けた。




おわり




いつものように自作のツイッター小説を元にして書きました。
これはタグ「 #秋雨のカノン 」で書いたものの中の1本を長くしたものです。

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# by marinegumi | 2015-11-24 21:40 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

地球見だんご (1枚半)

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ニュースをお伝えします。
5年前に始まり、根強い人気の一般向け月世界旅行ですが、お土産として人気の『地球見だんご』の産地偽装が問題になっています。
パッケージには「MADE IN MOON」と明記されているにもかかわらず、実際は地球の工場で生産されていたと言う事が元従業員の内部告発で明らかになりました。
この『地球見だんご』は月世界旅行参加者が主に宿泊するホテル、『静かの海ロイヤル』の売店でのみ販売されているものです。
製造会社のパンフレットには材料だけは地球から輸送して、製造及びパッケージは月面工場で行われているとうたっていました。
また宣伝のコピー文の「地球を思い、地球を見ながら生まれました。地球に連れて帰ってね」と言うフレーズが有名でした。
この『地球見だんご』を購入した旅行客の声をお聞きください。

「いやあ、人を馬鹿にしてるわね。そりゃあ、原材料は仕方ないとして、作るのも地球だったんでしょ。わざわざ月まで買いに来なくても……。ええ、まあ、お土産が目的じゃないにしてもねえ」

「ダメだねこりゃ。聞くところによると我々が乗って来た月世界旅行用の宇宙船に乗せて運んでたと言うだろ?いや、この『地球見だんご』をだよ。そうだよ。われわれが月に来る同じ宇宙船に『地球見だんご』がわんさか乗ってたって聞いたよ。いい加減にしろって言ってやりたいね」



おわり



これもごく最近書いたツイッター小説を膨らませて書いたものです。

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# by marinegumi | 2015-10-18 12:00 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

ネコジャラシ (6枚)

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マロン…マロン…
わたしが飼っていた、まだ子猫だったマロン。
知り合いのおばさんちで生まれて、お父さんがもらってきたマロン。
栗色と白の混じったきれいな猫で丸くなるとケーキのモンブランみたいだったマロン。

マロンはネコジャラシが好きだった。
ペットショップで買ってきたおもちゃの猫じゃらしはあまり見向きもしない。
庭に生えているネコジャラシを取って来て、それを見せると目の色が変わった。
とてもよくじゃれて遊んだ。
ふわふわチクチクするあの感触はわたしも好きだった。

ネコジャラシで遊んでやっているとマロンはそれに飛びつき、威嚇し、手招きし、両手で挟もうとする。
時々やりすぎて茎が折れてしまうと、またわたしは庭に取りに出た。
庭のネコジャラシがなくなると近くの空き地に取りに出かけた。

部屋にはいつもネコジャラシがあった。
折れてしまったネコジャラシの穂の部分だけが転がっていたりした。
それを手に持ってもぞもぞ動かすと生き物のように上に出てくる。
マロンはそれに猫パンチを繰り出した。
それからヒゲの様に鼻の下に挟んでマロンと同じ目線になるとマロンは片手で落とそうとする。
わたしの顔に当たらないように、そっと優しくだけど。
ネコジャラシのあの青臭さが好きだった。

そのマロンが死んでしまったのはネコジャラシがどこにでも生えていた秋の事だった。

ある日、掃き出しの窓を開けているときにマロンは急に庭へ走り出た。
たぶん庭に生えていたネコジャラシが風に揺れるのを見つけたのかもしれない。
「マロン!」
わたしは悲鳴のような声で名前を呼んでいた。
その声に驚いたのか、マロンは向きを変え道路に飛び出してしまった。
運が悪かった。
マロンは走ってきた子供の乗った自転車に引かれてしまったんだ。
たかが、自転車だと思っていたのでまさか死んでしまうとは考えもしなかった。
自動車に轢かれたのではなかったのでマロンはきれいだった。
口から少しだけ血を流していただけだった。

わたしはお父さんがマロンを庭に埋めるのを泣きながら見ていた。

お父さんはマロンを埋めた上に「マロンの名前を書いた十字架を立てようか?」と言ってくれた。
でもわたしはうんと言わなかった。
そのお墓を見るたびに悲しくなると思ったからだった。

マロンが眠っているすぐそばにネコジャラシが揺れていた。

冬になり、庭が殺風景になった。
部屋のソファーの下から、枯れて茶色くなったネコジャラシが出てくるとまた泣きたくなってしまう自分がいた。

春になると庭に雑草がたくさん生えてきた。
雑草を抜くのはわたしの役目だったけれど、マロンが死んだあとは何となくやる気が起きずほったらかしになった。

夏が来ると更に雑草が増え、マロンの眠っている場所を覆い隠すぐらいになった。

わたしは元気をなくし、庭を眺めることもなくなっていたので、それに気がついたのは夏の終わりだった。
夕立で濡れたビニールのつっかけを履いて庭に出ようとした時だ。
ネコジャラシだった。
庭一杯にネコジャラシの穂が揺れていたんだ。
どうしてこんなにたくさんのネコジャラシが生えたのかわからなかった。

風が吹いて一斉にネコジャラシが揺れた。
どうしてもマロンの事を思い出さずにはいられなかった。
そのたくさんのネコジャラシの穂の下にたくさんのマロンがいるような気がした。

穂の一つ一つにマロンはじゃれていた。

まん丸い目で穂の動きを追うマロン。
手で引掛けようとするマロン。
飛びつこうとするマロン。
両手で挟もうとするマロン。
姿勢を低くして威嚇する様子のマロン。
穂を足で押さえつけるのに成功したマロン。

たくさんのマロンがネコジャラシで遊んでいるのが見える気がした。

「何してるんだ?」
お父さんの声が後ろから聞こえた。
すぐそばに立っているのが判った。
振り向けなかった。
涙が一杯あふれていたからだ。
そのままでわたしは言った。
「マロンに十字架、立ててあげようか?お父さん」




おわり




気がつけばブログを更新しないままそろそろ一か月が過ぎようとしているではありませんか!?
うっかりしていました。
いえいえ決して創作意欲が低下しているわけではありません。
ツイッター小説が好調の裏返しなのですね。

今、ツイッター小説がどんどん書けています。
一日に十本以上書くこともありますからね。
それだけで創作意欲が満足してしまっているのかもしれません。
まあ、ツイッター小説と言うのはアイデアのストックでもありますから、書けるときには書いておこうと言う感じですね。

で、今回の作品は昨日の夜に書いたツイッター小説を書きのばした最新作です。
これからはブログの更新も忘れずに続けて行きたいと思います。

なるべくね(笑)

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# by marinegumi | 2015-10-16 14:01 | 掌編小説(新作) | Comments(0)

眠り姫 (2枚)

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眠り姫はその名のとおり、眠ったままで生まれてきました。
産声を上げるかわりに小さな寝息をたてていたのです。
そしてそのまま眠り続けました。
そして当たり前のように「眠り姫」と名付けられました。

その話を聞いた人々は何とふびんな姫なのだろうとうわさをしました。
でも、彼女の両親も、おじい様おばあ様までが彼女の幸せそうな寝顔を見ると心が癒されました。
見ているものをみんな幸せな気持ちにしてしまう素晴らしい寝顔だったのです。

そうなのです。
眠り姫はその眠りの中で毎日、幸せな日々を夢に見ていたのです。

眠りの中で幸せな何不自由ない幼年期を送りました。
学校に行き、友達も出来、少女時代もまた幸せに送りました。
そして特にお金持ちではないけれど優しい人に巡り合い、特に不満もなく幸せな結婚生活を送っています。
もちろんそれも夢の中。

眠り姫の笑顔は本当に幸せそうでしたけれどそれを見守る家族にはどんな夢を見ているのかはわかりません。
でももし眠り姫がちゃんと目覚めて生まれて来たならもっと豪華な生活を送れたことでしょう。
なにしろ父親は一国の王様でした。
巨大なお城を構え、平和に国を治めていました。
それに見合った贅沢な暮らしをすることが出来たのです。

でもまあ、眠り姫にしてみればどちらにしても幸せだったに違いはないでしょうけどね。




おわり



かなり調子を取り戻してきました。
昨日今日で、ツイッター小説を15本ぐらい書いたかな?
それもみんなちゃんと小説としてまとまっているものですね。
このまま調子が上がって行けばいいのですが、

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# by marinegumi | 2015-09-21 17:05 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

真夜中の図書館 (2枚)

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時々、ぼくの家の庭に図書館がやってくる。
真夜中に何かの気配を感じて目を覚ますと真っ暗な部屋のカーテンの向こうが何となく明るいのだ。
カーテンを開け、窓越しに庭を見下ろす。
紅葉した庭の木々の間にレンガ造りの大きな建物が、息をひそめているかの様に静かに重く佇んでいる。
それは図書館だった。
いくつもある小さな窓には明かりが点いている。
その灯りで真っ暗なはずの真夜中の庭が照らされていたのだ。
窓の中には大きなたくさんの書架に並んだ無数の本が見えた。
その本の前を静かに行き来する司書の姿も時々見えた。
ぼくは魅入られたようにそれを見続ける。
見続けるうちにいつの間にか眠ってしまい、不思議なことにちゃんとベッドで目が覚めた。
カーテンを開けてさらに窓を開く。
でもそこにはもう図書館はない。
庭の木々の向こうにはうっそうと茂った森の中に一本の細い道が続いているだけだ。

朝ごはんの時に、そのことをお母さんに話しても信じてくれない。
「素敵な夢を見たのね」と笑うだけだ。
ぼくは今、文字を覚えている。
どんな難しい文章でも読めるように勉強をしている。
またいつかあの図書館がやってきたら、必ず訪ねるために。
そしてそのまま図書館と一緒に旅をするんだ。

永遠にね。



おわり



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# by marinegumi | 2015-09-20 11:45 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

雨の日の水族館 (3枚)

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雨の日だった。
一人遊びにも飽きて窓から外を見ていた。
庭の木々やいろんな花、低いレンガの塀まで、みんな雨に煙っている。
その雨の中を青いものが近づいてくるのが見えた。
ぼんやりした青いものはだんだん傘の形になって、その下に男の子の顔が見えた。
男の子は傘をたたみ、わたしの部屋の窓に顔を近づけるとにっこりとほほ笑んでガラスをコンコンとたたいた。
そして大きな口をぱくぱく動かす。
なにかを言おうとしているんだ。
でも雨の音でちっとも聞こえやしない。

その口の動きを見ながら考えた。
「す・い・か…」だって?
「スイカがどうしたの?」
と、わたしも大きく口を開いた。
声は出さずに言葉の形に口を動かしたんだ。
男の子は困った顔をした。
そして青い傘を開くと、手を振って庭の向こうに消えて行った。

  ○
  ○
   ○  
○  ○  
   ○    
    ○    
  ○
    ○

目を開くといつもの所にわたしはいた。
なにか夢でも見ていたような気分がした。
どこか、ここじゃない遠い場所から急に引き戻されたような気分だ。
コポコポ、ボコボコと水の音が聞こえている。

雨の日の水族館には人が多い。
雨にぬれずに楽しめる場所だからだ。
そんなたくさんの顔の中に見覚えのある男の子を見つけた。
ああ、この子はいつも決まって雨の日にここへ来るあの男の子だ。
男の子は水槽のアクリルガラスに顔を押しつけるようにしてわたしを見ている。
男の子は大きな口を開けてゆっくりと動かしている。
何かの言葉の形に。

どこかで同じ男の子と会ったような記憶が頭をかすめる。
似た様な思い出がよみがえりそうな気がした。
でも思い出せない。
みんなぼんやりしている。
空から落ちてくる激しい雨に遮られているような感じだ。
その記憶はひょっとしてわたしがおさかなになる前のことかもしれない。
そして今わかった。
「す・き・だ・よ・き・み・が」
男の子の口の動きは確かにそう言っていた。



おわり



この作品はツイッターで、#窓枠水槽 のタグを付けて書いたツイッター小説を長くしたものです。
#窓枠水槽 関連の作品はたくさんあります。
まずこの下の作品「夢見る窓枠」がそうですね。
あと「水族館」「雨の中のさかな」などがあります。

この作品には「雨の中のさかな」と同じような場面があります。
ガラスをコンコンと叩く所と、声が聞こえず、口の動きで言葉を伝えようとする場面。
まあ、作者が気に入った場面なんでしょうね(笑)

#窓枠水槽 タグのツイッター小説自体は結構な数を書いていますから、まだまだ長く出来るものがありそうです。

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# by marinegumi | 2015-09-17 22:17 | 掌編小説(新作) | Comments(0)

夢見る窓枠 (6枚)

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海の見える丘の上に、つい最近まで一軒の家が建っていた。
すっかり取り壊されてから数年が経とうとしていたけれど、よく見るとまだ庭らしいものが残されていて、わずかに草花が小さな花を咲かせている。
取り壊された家の残骸を何度も往復して運んだトラックのタイヤが踏み倒した草はもうすっかり元通りになり、更に家まで続いていた道さえも覆い尽くそうとしていた。
その草の中に、解体の時に運び忘れられたのか、一枚の窓枠が横たわっていた。
ひび割れたガラスの嵌ったアルミサッシの窓枠だった。

その日は朝から風の強い日だった。
長く伸びた草は、ちぎれてしまいそうに風になぶられていた。
近くには大きな木はないけれどまだ青い葉っぱが飛ばされて行く。
風の中に小さな石さえ混じっていた。
そしてその時、一段と強い突風が吹いたのだ。
草むらの窓枠はふわりと持ち上げられ、窓枠は縦に回転しながら丘の上を走り、次の瞬間、大きく宙に舞った。
そして海の方へと飛ばされたのだ。
窓枠は回転しながら飛び続けていたが、やがて海面に突き刺さると、ゆっくり海の中へ消え、荒れた海面には波紋も残らなかった。

窓枠が平たく海面に叩き付けられていればガラスは砕けていただろう。
しかし少しひび割れが大きくなっただけでほとんどが残っていた。
それは右に左に揺れながら窓枠は海に沈んで行った。
海面からの光をはね返して白く光りながら。

群れを成して泳ぐ魚たちの中から数匹のイワシがその窓枠の周りにやって来た。
そしてそのガラスの向こうを覗き込んだ。
そこには新しい家で寛ぐ若い夫婦が見えた。
二人の間には揺りかごがあり、その中には小さな赤ん坊が眠っている。
温かそうな灯りの下の幸せそうな家族が見えた。
それは窓枠が見ている夢の光景なのだろうか。

イワシたちは去り、窓枠はさらにゆらりゆらりと沈んで行く。

今度窓枠のそばにやって来たのは数匹のイシダイだった。
彼らが窓を覗き込むと、そこにはまた別の光景が見えた。
ソファーに座った少年とその妹がテレビを見ている。
奥の台所では母親が夕飯の支度をしていた。
やがて玄関のドアが開き、雪の粒を服にくっつけた父親が帰ってきた。
二人の子供は駆け出してゆき、父親にまとわりつく。

イシダイはそこから離れ、窓枠は更にゆっくり次第に暗くなる海を沈んでゆく。

次に窓枠を覗き込んだのは赤い体をした数匹のメバルたちだった。
窓の中の光景はさらに変わり、そこは昼間のようでとても明るかった。
ソファーに座る白髪の混じり始めた父親と隣に座るその妻。
向かいに座っているのはすっかり成長したあの少年とフィアンセの美しい娘だ。
四人が談笑しているところにお茶を運んでくるのは彼女もまた美しく成長した妹だった。彼らの声は聞こえない。
反対側の窓から差し込む光で、春の一日だろうと思われた。

メバルたちがそこから離れると、あたりはさらに暗くなっている。
海上からの光がたよりない。

カマスが数匹、沈んで行く窓枠を覗き込んだ。
暗い海の中でもガラスの向こうは明るかった。
ソファーには老婦人が一人座り、編み物をしていた。
それは小さな靴下のようだ。
玄関のドアが開くと少年の手をつないだ父親と赤ん坊を抱いた母親が入ってきた。
老婦人は編み物の手を止め、立ち上がる。

カマスたちが海の暗さを恐れるように姿を消した。

窓枠はさらに海の中を深く深く沈んで行った。
あたりはもうすっかり真っ暗になっている。
窓枠の中の光景だけがただ一つの明かりだった。
そして、やがて窓枠は海底にまで沈んだ。
少し泥を巻き上げて海底に横たわった。
数匹の異形の深海魚たちが集まって来てその窓枠の周りを泳いだ。
ガラスの向こうには誰もいない部屋が映っている。
その部屋の外は昼間らしかったけれどカーテンが引かれていた。
カーテン越しの光で部屋は薄明るかったけれど人の気配はしなかった。
目の退化した深海魚にはその光景が見えてはいない。
しかし彼らには判った。
また一つ人間たちの思い出が降り積もったのだと。

やがて窓枠は夢見る事をやめた。



おわり



>公募ガイド、TO-BE小説工房でボツだった作品です。
>課題は「夢のまた夢」
(りんさんのブログ「金魚拾い」のあと書きからのコピべです(笑))
僕のこの作品も同じくでした。
ぼちぼち投稿を再開していますがまだ調子は出てきませんね。
ツイッター小説も再開初日はうまくまとめられず、あれ?と思いました。
続けていないとダメですね。

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# by marinegumi | 2015-09-11 18:04 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

お弁当 (2枚)

a0152009_1684752.jpg

今朝もお弁当を作った。
とてもおいしそうにできた。
ウインナーに唐揚げ、フライドポテト。
ブロッコリーも食べてほしいけれど、いつも残ってたんだよね。

きょうはおにぎりふたつに海苔で顔を描いた。
いわゆる「キャラ弁」と言うほどではないんだけれど。
おいしいのが一番だから、そっちの方にはあまり凝らないようにしている。
でも、ふたを取った時に笑顔がある。
ただそれだけで気持ちが温かくなるでしょう。

お弁当にふたをして、上にミニマヨネーズをひとつ乗せる。
これはブロッコリー用だ。
かわいいピンクのランチクロスで包んでテーブルの上に置く。
そして椅子に座って、それを少しの間ながめる。

台所はシーンとしている。
さっきまでの温かい気持ちがだんだん醒めて行く。

私はお弁当の包みを両手で持ち、玄関までやってくる。
そしてシューズボックスの上に乗せる。
たくさん積み上がった他のお弁当の包みの一番上に。
これでもう、たぶん76個目のお弁当になったはずだ。
あの子が死んでからそれだけの月日が過ぎたと言う事だよね。

そろそろまた、お弁当箱とランチクロスをまとめて買っておかなくちゃいけない。



おわり



何か作品を書こうと思えば過去のツイッター小説を読み返します。
どんどんショートショートにできそうだと思う時もあれば、つまらないアイデアばかりだなあと思うことももありますね。
その時の気分で違うようです。
まあ、いつのツイッター小説を読むのかによっても違うんでしょうけど。
きょうはけっこうたくさんありました。

この作品をブログ「ゆっくり生きる」のはるさんが朗読してくださいました。


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# by marinegumi | 2015-08-29 15:51 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

アクアリュウム (3枚)

a0152009_15305634.jpg

真っ暗な部屋にひとりぼっち。
喧嘩をして、今さっきあの子は出て行ってしまった。
部屋は憂鬱に満たされている。
小さなスタンドを点けた。
足元だけがぼんやり明るくなった。
外から雨の音が聞こえる。
あの子は雨の中を出て行ったんだなと思った。
傘はちゃんと持っていたのだろうか?
テーブルの上にはあの子が残して行った小型のプラネタリウムがあった。
これに二人でスイッチを入れないうちに口喧嘩が始まったのだ。
切り替えボタンを適当に合わせて丸い電源スイッチを押してみた。
天井一杯に広がったのは星空ではなく無数の魚の群れだった。
暗い青色の中に無数の魚たちが泳いでいた。
ふといつの間にか雨の音が聞こえないのに気がついた。
プラネタリュウムを消し、カーテンを開いた。
夜のはずなのに薄明るい青色に窓は満たされている。
街の木々はゆらゆらと揺れていた。
風が吹いているのではなく、もっとゆったりと、そう、まるで水の中で波に揺られているようだった。
そしてその木々の間を小さな魚たちが泳いでいるのが見えた。
それはさっきプラネタリュウムで見たあの魚たちだ。
僕の部屋の外はすっかり水に満たされているんだ。
思わずプラネタリュウムのスイッチを入れた。
天井に広がるのは無数の星だけだった。
もう一度窓の外を見たとき、ひときわ大きく木々が揺らめいた。
風が吹いているのだろうかと思った。
水の中を風はどうやって吹き渡るのだろう。
小さな風が生まれるとそれをたくさんの魚たちが伝えるのかもしれない。
誰かの言った言葉を思い出した。

  風はどんな世界でも大切な言葉なんだ

僕は窓を開けた。
水は部屋の中には入って来ず、窓の向こうでプルプルと震えている。
「帰っておいで」
僕はなるべく水に口を近づけてそう言った。
「ぼくが悪かったんだ。好きだよ。帰っておいで」
目の前に集まった小さな魚たちは、その言葉を水の中の風にのせてあの子に伝えてくれるだろう。




おわり



一か月ぶりの小説による更新です。
まあ、投稿用作品はぼちぼち書いてはいましたけどね。
下の記事にも書きましたが、いつもの夏なら忙しい合間に、何かを書かないといけないと焦ってしまうことが多かったのですが、結局書けないのなら、いっそ書かないことにしてみようと思ったんですね。
それでスッキリ焦りから解放されました。
これからはこれまで通りぼちぼち更新していきますよ。

この作品をはるさんに朗読していただきました



はるさんのブログで聞く こちら→アクアリュウム

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# by marinegumi | 2015-08-25 13:12 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

忘れた夢 (4枚)

a0152009_023274.jpg

目が覚めたその時、大事な人を失ったことに気が付いた。
夢の中で出会い、夢の中で親しくなった人。
そして二人はきっと愛し合った。
でも覚えていない。
その人の顔も、その人の声も、その人の笑顔も。
みんなみんな、夢から覚めたとたんに忘れてしまった。
夢の中で二人はどんな話をしたのだろう。
夢の中で二人はどんな暮らしをしていたのだろう。
夢の中で二人はきっと愛し合って暮らしていたはずなのだ。
そうでなければ今、どうしてこんなに悲しいのだろう。
そうでなければ今、こんなに空しい気持ちであるはずがない。
夢の中で二人はどんな約束を交わしたのだろう。
夢の中で二人はどんな部屋に暮らしていたのだろう。
夢の中で二人はどんな夢を語り合ったのだろう。
何一つ思い出せない。
いくら夢だと言っても、こんなにも空しく消え去っていいものなのか。
いくら夢だとしても二人が交わした愛は本当だったはずなのに。
それは判る。
それは信じている。
現実で人を愛し、結ばれ、やがて年老いて、大事な人を亡くしたとしても、思い出だけは残るはず。
それがいくら夢だったとはいえ全く記憶にないのだ。
何一つ思い出せないのにただ愛した人がいた感覚?予感?雰囲気?
そんなものだけが残っている。
そして耐えられないのは愛した人を失ったという喪失感だった。
もう、自分はもぬけの殻だと思った。
これほど残酷なことはないと思った。
その人の顔も、その人の声も、その人の笑顔も、みんなみんな、夢から覚めたとたんに忘れてしまった。
そして、そして、その人が男だったのか、女だったのかさえ思い出せない。
それさえも思い出せないなんて!

そして、自分が女なのか、男なのかさえ。

ベッドから降りて、少し歩いて鏡の前へ行く。
自分が男なのか女なのかを確かめるために。
鏡に映るのが男なら夢の中の人はきっと女の人だろう。
鏡に映るのが女なら夢の中の人はきっと男の人のはずだ。
自分が普通に、平凡に恋をしたのなら、きっとそのはずだ。
それが判るだけでもきっとうれしいと思う。
何も思い出せない自分にとってそれが判るだけでもいいと思う。
それを手がかりに少しずつでも思い出して行ければいいと。
鏡の前に立つ。
そして顔を上げる。



おわり



公募ガイドの「TO-BE小説工房」テーマ『夢のまた夢』のために考えたお話です。
でも、あまり面白くないなと思ってこれはやめて(笑)別のお話をさっき投稿しました。
さてさて、結果はどうあれ、投稿する気力が戻ってきたことがめっけもん。

この作品をはるさんが朗読してくださいました。
いつもありがとうございます。

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# by marinegumi | 2015-07-01 00:27 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

最後の試練 (2枚)

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七つの森に棲む魔王を倒し、七つの海を統べる海神を虐げ、七つの谷を徘徊する巨獣を退治した。
それには15年もの時間を要した。
身も心も疲れ果ててなお、七つの砂漠に潜む異形の魔物をことごとく打ち破った。
そしてついに世界の王者となるための最後の「試練の扉」の前にたどり着こうとしていた。

そこにどんな試練が待ち受けていようが、これまでの長い闘いを思い起こせば、取るに足りない物だろう。
ボロボロになった血の滲んだ履物。
おぼつかない足取りで、何とか歩けるだけの状態だったが、気持ちは充実していた。

数日後、いよいよその「試練の扉」が見えてきた。
それはどうと言う事のない、木で出来た装飾の施された扉だった。
扉だけが砂漠の真ん中にポツンと立っているのだ。

扉には一枚の張り紙があった。

  王となるものは最後にこの問題を解かなくてはならない

「も、問題だと?」

  これが終われば世界はお前のものになるであろう

そして続けて、その問題が書いてある。

  次の2次方程式を解きなさい
  ① X2+10X = -15 ② X2 + 6X +4 = 0

「し、しまった。中学の数学の授業、ずっとサボってた」




おわり




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# by marinegumi | 2015-06-15 18:20 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

お食事の時間 (3枚)

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獏(ばく)は人の夢を食べると言うけれど、一度も食べているところを見たことがない。
想像すればするほど、どうやって食べるのか想像がつかないんだ。
もうどうしようもなく、気になって眠れなくなってしまった。
それで知り合いの獏に夢を食べているところを見せてくれるように頼んでみた。
「そればっか考えてしまって眠れないんだ。ぼくが眠れないと夢も見ないからお前も困るだろ?」
そうやって獏を説得した。
なかば脅迫だね。
それで夢を食べているところを今夜見せてくれることになった。
友達のこのみちゃんの夢を食べるらしい。
獏に乗っかってこのみちゃんの家に着く。
すると獏はふんわりと浮き上がり二階のこのみちゃんの家の閉まっている窓を抜けて入ってしまった。
このみちゃんは気持ちよさそうにベッドで眠っていた。
かわいい寝顔だ。
獏はこのみちゃんの枕元に回ってぺろりと舌なめずりをした。
すると突然このみちゃんの頭にかぶりついたんだ。
がりがりと頭をかじっている。
頭をかじられているのに、このみちゃんは変わらずにかわいい寝息を立てている。
やがてこのみちゃんの頭からは脳みそがあらわになった。
獏はその脳みそを半分ほど手に取ると、肩にかけていたバッグから出したお皿の上に乗せた。
更に何やら怪しげな機械を床の上に置くとコードを部屋のコンセントに差し込む。
その機械の中にこのみちゃんの脳みそを入れるとスイッチオン。
どうやらそれは遠心分離器のようだ。
脳みそからはキラキラした重い気体のようなものが遠心分離されてゆく。
それは小さなガラスの容器に溜まって行く。
獏はスイッチを切った。
中に残った脳みそ(絞りかす?)を獏は手で取り出してこのみちゃんの頭に戻した。
そして手際よく糸と針で縫ったのだ。
またたく間にこのみちゃんの頭の縫いあとはきれいになった。
傷口は全然残っていない。
なに事もなかったようにこのみちゃんは安らかに眠ったままだった。
獏はと言うとさっきのガラス容器に溜まった美しく光る気体のようなものを飲んでいる所だ。
多分それが夢なんだろう。
このみちゃんの夢ってこんなにきれいなんだと妙に感動していた。
獏がぼくの方にこのみちゃんの夢が少し残ったガラス容器を差し出した。
「え?ぼくにくれるの?」
ぼくは恐る恐るそれを飲んでみた。
ホンワカ不思議な気分になって行く。


目が覚めるとすこし頭が痛かった。
起き上がって洗面所に行って水を飲んで、なんとなく鏡を見た。
ぼくの頭から、覚えのない縫い目が消えて行くところだった。



おわり



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# by marinegumi | 2015-05-18 22:02 | 掌編小説(新作) | Comments(4)